「医療倫理学の基礎」G・ペルトナー

医療倫理学の基礎

医療倫理学の基礎

ウィーン大学倫理学・美学・哲学教授である著者が、大陸哲学の視点から、医療倫理に切り込んだ著作。英米生命倫理学を相対化する意味でも、読む価値がありそうである。英語圏パーソン論を批判して次のように言う。

大陸的−ヨーロッパ的倫理学にとって、このような人格理解は、人間の尊厳という思想やそこに起源する基本的人権という思想と相容れない。人間が、殺されたり道具として用いられてはならないという禁止の対象となるのは、人間が明確な「道徳的に重要な」特質をもっているからではなくて、単純に人間が人間であるからなのである。」(iii頁)

人格についての議論は次のように始まる。

人格的存在者として、人間は関係的な存在者である。上記の諸関係のうち、とりわけ重要なのが共に生きる他者との関係である。人間とは本質的に〈他者と共に生きる者(Mitmensch)〉である。(55頁)

いかにもドイツ哲学っぽいスタンスである。こういう雰囲気から生命倫理の問題に哲学的に迫る仕事がもっとあっていい。ただし、脳死に関する箇所は、詰めが甘いように思える。

いずれにせよ、今後、ドイツ語圏の生命倫理学は注目しなければならない。日本の生命倫理学と相性がいい面がある。