感じない男ブログ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-11-16

[]「草食系男子」の現象学的考察

「「草食系男子」の現象学的考察」というエッセイ・論文を書きました。そもそもはソウル大学の『日本批評』から依頼があり、日本語で書いて寄稿し、それが韓国語(ハングル)に翻訳されて刊行されました。その日本語元原稿にさらに手を入れて日本語で改めて発表しました。

草食系男子の話題はもう過去のものとなったような気もしますが、ある意味、市民権を得たとも言えるわけで、そろそろこのような振り返り記事・研究が必要とされるころでしょう。先日も、ニューヨークで現地の方と話していたら、日本の草食系男子に興味をもっているらしいし、先日はドイツの雑誌から寄稿依頼を受けました。

ここに述べたのは、あくまで当事者の一員だった私の目から見た「草食系男子」現象に過ぎませんが、きっと何かの資料として役立つことでしょう。

「草食系男子」の現象学的考察

森岡正博

1 「草食系男子」という言葉の誕生

「草食系男子(草食男子)」という言葉は、2008年から2009年にかけて流行語となった。新聞、テレビ、雑誌、インターネットなどでさかんに取り上げられ、人々の日常会話にもたびたび登場した。流行語になるにつれ、当初の意味合いは多様化していき、人々は様々に異なった意味を付与しはじめた。2009年12月に、「新語流行語大賞」(ユーキャン主催)のトップ10のひとつとして「草食男子」が選ばれた。2010年になるとこの言葉は普通名詞化し、2011年現在、人々はこの言葉にさほど興味を示していない。流行語の生命は短いから、そのうちに廃れていく可能性も高い。しかし、この言葉の登場によって、若い男性を見る人々の目が一変したことは事実である。日本の男性史におけるエポックメイキングな出来事であったと言えるだろう。

「草食系男子」という言葉が流行語になったのは、その言葉に対応する現実の「男性」たちが日本社会に存在していたからである。人々は、「女性化」し「男らしさ」を失ったように見える若い男性たちが増えていることを以前から感じ取っていた。その兆候は、20世紀の終わり頃に、髪を茶色にカラリングし、指にファッションリングをはめ、耳にピアスをするおしゃれな若い男性たちが登場した頃から存在した。当時、私は大阪府立大学に移ってきたばかりであったが、新入生を講義室の壇上から見下ろしたときに、男性も女性もそのほとんどが茶髪だったときの驚きを覚えている。よく観察してみると、ピアスをしている男子学生もいた。しかしいまからすれば懐かしい話である。現在のキャンパスには、髪を金色に染めてロングスカートを履いてくる男子学生がいる。先日、授業のあとで質問に来た男子学生のひとりは、サラサラの黒い前髪を女子高生のように赤い大きなヘアピンで止めていた。このように、まるで女性のようにファッションに敏感であり、筋肉があまり目立たず、どことなく暴力性の薄いタイプの若い男性たちが多くなったという感触を、人々は21世紀に入って抱きはじめていたのである。

このような時代の雰囲気を敏感に察知したマンガ作品に、菅野文の『オトメン(乙男)』がある。これは、外見は運動万能で男らしいのであるが、その内面はかわいいものが好きで少女的な感性を持つ男性を主人公としたもので、2006年から雑誌連載(『別冊 花とゆめ』)が開始された。「オトメン」とは、「オトメ(乙女)」と「メン(男)」の合成語である。男性に現われたジェンダーの揺らぎをテーマにしたマンガであり、評判を呼んだ。そしてこの2006年に、「草食男子」という言葉も登場したのである。ライターの深澤真紀は『U35男子マーケティング図鑑』というウェブマガジンに、「草食男子」というタイトルのエッセイを発表した。深澤はそのエッセイで、「恋愛やセックスに「縁がない」わけではないのに「積極的」ではない、「肉」欲に淡々とした「草食男子」」が若い世代に増えてきていると指摘した[1]。彼らは若い女性と夜に同じ部屋に泊まったとしても、とくに何もせずに一緒に雑魚寝をして帰ってくると深澤は述べる。年上の世代からすれば、このような男性たちの存在は理解を超えている。男ならばチャンスがあれば女を襲うはずだ、という年長者の「常識」からすれば、まったく「男性」のカテゴリに入るはずのない若者が増えてきたというのである。深澤はまた「「草食男子」はそこそこもてるので、恋愛経験もセックス経験もあります」とも述べている。それにもかかわらず、恋愛やセックスに積極的でないのが草食系男子の特徴なのだというのである。この点については、あとでコメントすることにしたい。いずれにせよ、「草食男子」という言葉の誕生は2006年である。「草食」というのは「草食動物」から取られたものであり、肉食動物のように(女性を)襲うことがない、女性にとって安全な男性というニュアンスがあったと考えられる。

深澤の提唱した「草食男子」という新語は、しかしながら2006年の時点ではまったく人々の意識を捉えなかった。この言葉に対する社会的反響はほとんどなかったのである。草食男子に一躍注目が集まったのは、2008年のことだ。その年の女性誌『non-no』5月号が、「出会い「4月革命」に勝利せよ! 男子の「草食化」でモテ基準が変わった!」という大特集を組んだ。この有名雑誌の特集によって、「草食男子」という言葉は世間に知れ渡るようになった。日本の草食男子・草食系男子について研究しようと思うものは、まずはこの雑誌の特集を詳しく調査しなくてはならない。その後の草食系男子についての言説の基本形の多くが、ここに述べられているからである。・・・・(続く)

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→ http://www.lifestudies.org/jp/soshokukei01.htm