「いのちの思想」を掘り起こす

「いのちの思想」を掘り起こす――生命倫理の再生に向けて

「いのちの思想」を掘り起こす――生命倫理の再生に向けて

日本の生命倫理(と思われる思想)を、現時点から振り返って、その意義を考えるという趣旨の本。この種の本としてははじめてなのではないだろうか。生命倫理というと、米国からの輸入物だと思われているが、それに対応するような豊かな思想はすでに日本に存在していた。私の本『生命学に何ができるか』(2001年)では、70年代のウーマンリブ、とくに田中美津と、青い芝の会を、日本における生命倫理運動の創始として位置づけ、たぶんこれが日本の生命倫理を現時点から(まともに)振り返った最初の試みではなかったかと思うのだが、本書も着実な研究成果を見せているように思われる。

内容としては、上原専禄田中美津、中川米造、岡村昭彦が取り上げられており、生命倫理開拓者のひとりとして私の名前も挙がっている。こういうふうに私自身が位置づけられるような日が来るとは思ってもみなかった。ここで言われる「いのちの思想」というのは、米国流のバイオエシックスとはまったく異なった指向性をはらんでいるのであり、それを今後に向けて明瞭に言語化することが必要だと思われる。私の言う生命学もそのひとつの方向性であり、ほかにも多様な可能性があるだろう。振り返りを経て、将来への可能性を開拓していきたいと思う。

大学生と語る性

大学生と語る性―インタビューから浮かび上がる現代セクシュアリテイ

大学生と語る性―インタビューから浮かび上がる現代セクシュアリテイ

倫理学セクシュアリティというジャンルの研究者である田村公江と細谷実が、大学生にセックスについてインタビューして、いろいろ論じた本。本のほとんどはインタビュー記録に当てられていて、たしかにこのような言説が言語化されるのはめずらしいことだろう。まあ、大学生当事者たちとしては新しいことは書かれてないのだろうが、年代の離れた私たちにとっては、こういう言葉が採録されるのは興味深いことだと思う。このテーマに関心ある人は、目を通しておいてもいいかもしれない。

哲学オデュッセイ

哲学オデュッセイ―挑発する21世紀のソクラテス

哲学オデュッセイ―挑発する21世紀のソクラテス

ドイツの「市井のスター哲学者」プレヒトが、欧米の現代哲学のいろいろなトピックスを、縦横無尽にわかりやすく解説したエンタテイメント本。脳操作などの現代の事象から、哲学的話題へと入っているというようなところが、いまっぽいと思われる。ドイツで100万部のベストセラーということだが、ドイツ人はそんなに哲学が好きなのか? 日本でこれが10万部売れるとはとても思えないが。もし売れたらこの業界にいるものとしてはうれしいのであるが。本書で扱われているテーマは、どれも現代的なものであり、著者はかなり嗅覚がよいと思われる。

来年に新刊が出ます

ながらくごぶさたしておりましたが、来年の2月と3月頃に、私の新刊が出ます。ひとつはエッセイ集で、『33個めの石』と対をなすような本になりますが、「33個め」よりもよい内容に仕上がりました。ご期待ください。もうひとつは宗教学者との対談で、現代における「救い」について語ったものです。対談は震災の前後をはさんで行なわれ、はからずも時代に即応したテーマとなってしまいました。というわけで、来年になったら詳細情報をこのブログでお知らせします。