感じない男ブログ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2012-02-23

[]311を前に死者について思うこと

魂にふれる 大震災と、生きている死者

魂にふれる 大震災と、生きている死者

生者と死者をつなぐ: 鎮魂と再生のための哲学

生者と死者をつなぐ: 鎮魂と再生のための哲学

トランスビューから、若松英輔さんの新著『魂にふれる:大震災と、生きている死者』を送っていただいた。さっそく一気に読んだ。この時期に出るべき、良書である。私は若松さんのことを存じ上げないし、書かれたものも拝見したことはないが、この本のメッセージは、死者はいなくなったのではなくて、いまここにありありといるというものであり、私が『生者と死者をつなぐ』で書いたことと同じである。大震災から1年のあいだ、私はその思いを強くしていたが、若松さんもそうだったのだろう。若松さんはパートナーの死がさらにその底にあって、それと震災が重ね合わされる。そして、田辺元、上原専祿へと続く死者の哲学への見通しが語られる。同時期に刊行されるこの二冊を見て、「死者は死んでも生きている」という生命観こそが、この地で起きた震災を触媒としていま立ち上がってきているという感を強くした。

もっとも、私は若松さんの記述に違和感を持つ箇所もある。ひとつは池田晶子への賛辞の部分であり、ひとつは文学的感傷へと流れやすいところである。しかし私の本も感傷に満ちているし、哲学的掘り下げはこれからという感じだから、偉そうなことは言えない。

文体はまったく異なるけれども、中心メッセージは同じ2冊が、書店で並んで置かれるところを想像してみる。

[]『日本人の死生観を読む』島薗進

日本人の死生観を読む 明治武士道から「おくりびと」へ (朝日選書)

日本人の死生観を読む 明治武士道から「おくりびと」へ (朝日選書)

島薗さんの新著。「おくりびと」から始まり、志賀直哉、折口信夫、岸本英夫らの死生観へと進んでいく。なかでも、太平洋戦争において死に直面せざるを得なかった者たちの死生観の分析は重要なものだと思った。散華、特攻、虚無、これらに向かい合う精神というのは、どのようなものだったのだろうか。本書は東大の死生学プロジェクトからの成果物であるが、論文集とは違って、とても読みやすい本となっている。

[]『宇宙に外側はあるか』松原隆彦

宇宙に外側はあるか (光文社新書)

宇宙に外側はあるか (光文社新書)

宇宙論の専門家によるコンパクトな現代宇宙論の全体像の解説。インフレーション、ダークマター、ダークエネルギー、人間原理など、話題の概念が上手に整理されている。こういうふうに見取り図を与えられると、宇宙論のあとに残されたものが、いにしえよりの哲学の問いであることが明瞭に分かる。本書最後にある「宇宙論の十大疑問」を読むと読者もまたきっとそう感じるだろう。

[]『魚は痛みを感じるか?』ブレイスウェイト

魚は痛みを感じるか?

魚は痛みを感じるか?

ペンシルベニア州立大学教授・生物学魚類専攻ヴィクトリア・ブレイスウェイトによる衝撃の本。魚は痛みを感じているのではないかというのは、誰しもいちどは考えるだろうが、魚食文化日本においてはそれを脳裏から消すことで食文化が成立しているようにも見える。本書によれば、魚が痛みを感じるのは、様々な証拠により明らかである。「これまでに得られた証拠の重みは、魚が痛みを感じることを明らかにしていると、私は考えている」(203ページ)。だとしたら、水揚げ、魚の首はね、まるごと冷凍など、魚はどんな痛みに耐えていることになるのだろうか。著者は魚を殺すときの福祉的配慮が必要とする。またキャッチアンドリリースは、同一個体に対する拷問じゃないかとも思えてくる。倫理学はどう答えるべきなのだろうか???

[]『いのちのかなしみ』河原ノリエ

いのちのかなしみ―私のカラダの情報は誰のものか

いのちのかなしみ―私のカラダの情報は誰のものか

人間の体のDNA個人情報をこれから社会でどうしていくのかについて、ひとりの主婦が市民コンセンサス会議への参加をきっかけに、生命倫理政策へと参画していくプロセスを自伝的につづった本。だが、この本の残り半分は、父親の南京での体験を探っていく父親の伝記になっており、先日どこかの市長かだれかが言った「南京に虐殺はなかった」的意識へと食い込んでいくものとなっている。著者自身、父親の過去をさぐるべく南京を訪れ、市民と出会うことになる・・。このエピソードは引き込まれる。この二つの話が交互に進んでいくという異色の本。個人的には、これに731の史実を絡ませることでもっと良い本になったのではと思う。731こそ、戦時中の満州での日本と中国をむすぶ大事件であり、日本の戦後の医療はその正負の遺産で成立し、それが今日のゲノム研究まで流れ込んでいる。著者は歴史家ではないからそこまで望むのは場違いだが、そういう展開の可能性はあった(関東軍についての言及はあるが)。いろんな意味で興味深い本である。