過去に学ぶ防災─日本文化財科学会


                         (松本秀明氏の発表)
仙台市東北大学川内萩ホールで行われた「過去に学ぶ防災─文化遺産と科学」(日本文化財科学会)は、参加者はあまり多くなかったのは残念であったが、各発表は東日本大震災後の防災に役立つ学問を示した有意義な大会であった。
個人的には松本秀明氏(地形学)の新たな研究が衝撃的であった。なぜなら平野の集落跡の大部分が「自然堤防」に立地するのが常識であるが、その自然堤防(河川の流路の両側に自然にできた堤防上の高まり『広辞苑』)の形成が、約2500年前と約1500年前に集中しており、成因は「巨大洪水」に起因するというものである。氏の津波痕跡研究は、地形の成因そのものが(人類むしろ「文明」にとって)巨大災害ではないかと恐るべき結論に向いているのではないか。
考古学的には、前者は縄文時代晩期から弥生時代への転換期頃であり、広域現象であることが知られ始めており(相原淳一2012ほか)、その原因となった可能性がある。。後者は、古墳時代中期であればけっこう遺跡は多いが、6世紀であれば、極端に遺跡が減少する時期である。考古学との共同研究が期待される。
さらに氏の研究は「ミレニアムハザード」の歴史を明らかにするものであるということであり、千年規模の「巨大災害履歴地図」が作成されていけば、防災に大いに役立つ。
時代の画期の背景に巨大な自然災害があったとすれば、そして仙台平野だけでないとすれば(そんな予感がします)...さらにわれわれの生活基盤たる地形形成というものの主因の一つとすれば..「ノアの洪水」は、ミレニアム的にみれば各地にありうるということか。
‘人類は、各国は戦争するより巨大災害に対する連携を’と考えてしまう。


「海岸平野の地表に作られる自然堤防は、多量の土砂を含んだ巨大洪水が海岸の低地に到達したときに形成される地形です。自然堤防形成時の低地は、陸と海との区別がつかないほど広範囲に洪水による氾濫が広がったと考えられます。堆積物の分析により、それらは今から1500〜1600年前(古墳時代)、2400〜2500年前(縄文時代晩期)に集中的に発生していたことが分かってきました。いずれも私たちが歴史として認識できる時間を遙かに超えた過去ですが、数千年という時間を遡って地表を精査することで、ミレニアムハザードの存在が見えてきます。
【今後の展望】
1000年以上の時を遡る過去の巨大災害は、一般の方々にとって「むかし話」であり、「巨大災害が現代の社会を襲う」という理解には至らないのが現状のようです。しかし巨大災害に対する意識を駆り立て今後の防災に役立たせるためにも、数千年の過去に遡る災害履歴を解き明かし、「災害履歴地図」を作成し、提示することが今後重要な仕事となるでしょう。」(松本秀明 下記HPより)
巨大洪水や巨大津波の痕跡を検出する研究,そして災害履歴地図へ|事業の成果|日本学術振興会
過去に学ぶ防災─文化遺産と科学─ プレリリース