フレッシュデリ


THE GREEN BUTCHERS / DE GRONNE SLAGTERE
★キャスト&スタッフ
監督・脚本: アナス・トーマス・イェンセン
音楽: イエッペ・コース
出演: マッツ・ミケルセン (スヴェン)、 ニコライ・リー・カース(ビャン/アイギル)ボディル・ヨルゲンセン (ティナ)、 リーネ・クルーセ (アストレッド)オーレ・テストラップ(ホルガー)

2003年 デンマーク
★ストーリー****************
ホルガーの肉屋で働いていた スヴェンは人嫌いでいつも周りの人にイヤミを言い続けるので友人もいない。一緒に働くビャンが唯一の話し相手。そのビャンを誘い独立して二人で新しく肉屋を開店するがお客が来ない。そんなある日、冷凍庫で作業中の電気屋がいることを知らずにスヴェンが鍵をかけて帰ってしまった。翌日、冷凍庫で死体となっていた電気屋を見つけたスヴェンはやむ終えぬ事情でそれを食肉加工してしまう…一方ビャンは若い頃に弟の運転する車に乗って家族を交通事故で失い、その事がトラウマとなりマリファナを常用している…
デンマーク映画の特徴はシリアスな話題を扱いつつも観客がシリアスに受け止めなくていいように作られている事。良い意味でのあいまいさが魅力になる事が多い。この「フレッシュ・デリ」に於いても登場人物それぞれが悩みを抱えていながら生活しているのだけれど、それが最後に一気に解決していく。ストーリーには無理が多すぎるのだけれど、サスペンスものとするにはコミカルすぎてそのバランスが面白い。デンマーク作品を観つづけているとそのストーリーの無理さ加減にも慣れてくる。

007でクールな「ル・シッフル」を演じたマッツ・ミケルセンのあの、不自然なカツラ頭がすごい見もので、彼は役柄ごとに大変身する。何度観てもおなかを抱えるほど可笑しくて、それでいてホロリとしてしまう。

スヴェンが人肉マリネを作り出した言い訳は、言い訳には当たらない。けれど、その事件によって出口のない不幸だと思い込んでいたスヴェンとビャンの心の中のトラウマが実は、掘り下げられて知らない間に治療されていく、というのがこの作品の面白さ。最後のやはり愚直なぐらいのシーンも心に安堵感をもたらす。結局、この作品は殺人事件には実はスポットを当ててない、というのが観客にもわかるから、そのトピックスについては無視してしまう、という流れが出来上がっているのが不思議、と言えば不思議な作品である。(潔癖な日本人の感覚ではあり得ないが)
ビャンの双子の弟アイギルは脳に障害のある役で登場するのだけれど、他の人が彼に障害者として接するのに対し、スヴェンだけが彼に手加減せず、まったく健常者のように接して彼を保護せず、彼にイヤミをいったりいじわるをする。これが非常にナチュラルで、スヴェンだけが本当に彼を愛してるのではないか、と感じさせる。デンマークでは障害者や高齢者に対する感覚が日本とは大きく違い、本当にナチュラルで日常なのだというのもこれに限らずデンマーク作品を観ていると強く感じることでもある。

日本輸出用のパッケージはグロテスク、だが内容は非常に心温まるヒューマンドラマでありコミカルなサスペンスでもある。上記のパッケージは国内か、英国輸出用パッケージ。下の画像が日本用パッケージ。
ハリウッド映画とも、ヨーロッパ映画とも大きく違う、この北欧映画の感性。ぜひお楽しみください。
フレッシュ・デリ