名前:中山涙 (由来=ペンネームが決まりました!)
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近著「浅草芸人 〜エノケン、ロッパ、欽ちゃん、たけし、浅草演芸150年史〜」(マイナビ新書)
2009-09-21(Mon)
芸人になったサムライたち
笑芸史 |
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- 作者: 塩見鮮一郎
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/07/15
- メディア: 単行本
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塩見鮮一郎の「乞胸 江戸の辻芸人」を読んだ。「乞胸(ごうむね)」という、特殊な身分の人々について記した好著。
江戸時代初期、幕府が多くの外様大名を廃絶に追いやったために、職を失ったサムライが大量発生した。
その中の一部は、由井正雪のように幕府転覆を企てて自滅してゆくわけだが、ごく少数、道ばたで物真似や大道芸などを通行人に見せることによって生活の手段とする者も出てきた。
その代表格が、長嶋礒右衛門(ながしま いそえもん)という人物である。生没年および出身地不詳。どんな芸をしていたのかも不明。
わかってるのは、もとはれっきとした武士だったということくらいである。
浪人だった彼は、生活のために街角で何か芸をしてみせ、通行人からいくばくかの銭を貰って暮らしていたらしい。
人望のある人物であったようで、彼を慕って芸人志望の浪人たちがたくさん集まってきた。
芝居をしたり、三味線を弾いたり、浄瑠璃を謡ったり、軍記物語を読んでみたり、万歳のまねごとをしてみたり、という具合である。
彼らはのちに「乞胸」と呼ばれる存在となる。
余談ながら、都筑道夫の「なめくじ長屋」シリーズに出てくるセンセーとかマメゾーとかアラクマなどの面々は、この乞胸の一員なのだと思う。
慶安4年(1651)、乞胸に対してクレームをつけてきた人物がいる。江戸の乞食を統括する車善七だ。自分たちの手下と同じ稼業をされては迷惑である、というのである。
北町奉行・石谷貞清は、長嶋礒右衛門と車善七を奉行所に呼び出し、裁定を下した。
その結果、礒右衛門たち乞胸は町人身分となり、芸人の仕事をしている間だけ車善七の配下になる、ということになった。
不思議な裁定である。
仕事をしている間だけ車善七の配下になる、というのは、具体的に言えば、金銭を渡す、ということだ。乞胸たちは売上げの一部を礒右衛門に上納し、礒右衛門はその一部を車善七に渡す。
甘いと言えば甘い。そのまま完全に車善七の配下となってもおかしくなかったと思うが、幕府は浪人たちの反発を恐れたのだろう。
ふだん暮らしているときは、住居などの点で差別を受けることはない。身分としては町人になるが、仕事をしているとき以外は、ふつうに刀を差している者も多かったようだ。
なお浪人だけでなく、町人出身で芸人をしていた人々も乞胸に加えられた。
礒右衛門自身は彼らを束ねる「乞胸頭(ごうむねがしら)」に任じられ、配下に鑑札を与えて管理し、身元不明の者がいれば取り締まるよう命じられた。
このシステムは約150年間機能し続けたが、やがて時代が下り、寄席というものが出現すると、事情が変わってきた。
寄席を経営する席亭や、講釈師や落語家といった芸人たちは、そもそも乞胸の存在自体念頭になく、勝手に興行をおこなっていた。
文化10年(1813)、時の乞胸頭、山本仁太夫は、町奉行に苦情を申し立てた。要するに、かつて自分たちが車善七にされたのと同じことをしたのである。
寄席の関係者は驚き、仁太夫に金銭を渡して訴えを取り下げてもらい、以後も売上げの一部を渡し続けた。寄席に出演する芸人は乞胸に組み込まれることなく、身分についても不問に処された。
これを読んで思ったのは、いつの時代も「芸人になりたがる人々」は現れるんだな、ということだ。芸人になる動機としては、貧困というのもあるけど、やはり純粋に表現欲とか、自己顕示欲に由来する場合も多かったんじゃなかろうか。
江戸時代はきっちりと身分制が固まっていたという印象があるけれど、実は、こういうゆるい側面もあって、上記のように、武士や町人が芸人に転職してもペナルティのようなものがあまりなかったりする。その点では、意外と健康的な世の中だったと言える。
江戸時代の多様性を示す一冊。おもしろかったっす。
参考:
田中優子の書評
http://lian.webup08.jp/yuu/okiniiri/shohyo/2009/003.htm
野口武彦の書評
http://book.asahi.com/review/TKY200609050265.html
- 作者: 都筑道夫
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/06/25
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- 作者: 塩見鮮一郎
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