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浅草芸人 〜エノケン、ロッパ、欽ちゃん、たけし、浅草演芸150年史〜 (マイナビ新書)
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第25回(2012年)大衆文学研究賞・大衆文化部門を受賞しました!








2010-01-28(Thu)

「さらば雑司ヶ谷」で語られるオザケン論

| 「さらば雑司ヶ谷」で語られるオザケン論を含むブックマーク 「さらば雑司ヶ谷」で語られるオザケン論のブックマークコメント

さらば雑司ヶ谷

さらば雑司ヶ谷

 樋口毅宏「さらば雑司ヶ谷」をようやく読んだ。直木賞大薮春彦賞を同時に受賞してほしいくらいの傑作。


 以下、新潮社のサイトより。

醜い奴らは、ゲリラ豪雨で皆殺し。ひねりとバカ笑いに満ちた新世紀のH(ハードボイルド)&V(バイオレンス)小説。


俺はここで生まれ、育ち、歪んだ。東京の田舎、雑司ヶ谷。友人が殺され、女が消えた。この町に別れを告げる前に〈大掃除〉をしておく。町を支配する宗教団体、中国人と耳のない男、俺の危機……豪雨を降らせ、霊園からあの世へ送りだしてやる。原りょう馳星周ら偉大なる先達の傑作に肩を並べる暗黒小説が、ここに降臨!


 とにかく隅から隅まで面白い。人の命をクソみたいに粗末に扱う登場人物の行動にシビれまくる。


 ストーリーの本筋と関係ない会話もカッコよすぎる。

 雑司ヶ谷の甘味処「よしの」で、常連客が「人類史上最高の音楽家は誰か」という死ぬほどくだらない議論に花を咲かせる場面。ジョン・レノンマイルス・デイヴィスといった名前が飛び交う中、店主の香代は「オザケンだよ。小沢健二」と断言する。

 その場に居合わせた五人ほどの男たちは、腹を抱えて笑い転げた。角井なんぞは目に涙さえ浮かべている。

「東大を出たことが取り柄の、あのお坊ちゃんか。おい。俺たちはな、『あの人は今』の話をしてるんじゃねえんだ。人類史上最高の音楽家は誰かって話をしてるんだ」

 香代の笑顔は勝ち誇ったものに変わった。(中略)

「あんたら、『さよならなんて云えないよ』の歌詞をよく読んでみな」

「知らん、そんな曲」

 そう言われた香代は、「さよならなんて云えないよ」を、その場で朗々と歌い上げる。まる1ページにわたる歌詞の引用がうれしい。

(動画:http://www.youtube.com/watch?v=zKHOuvdiuPg

 そして、タモリの話を引き合いに出して、長々とオザケンの素晴らしさを語り始める。

「むかし、いいともにオザケンが出たとき、タモリがこう言ったの。『俺、長年歌番組やってるけど、いいと思う歌詞は小沢くんだけなんだよね。あれ凄いよね、“左へカーブを曲がると光る海が見えてくる。僕は思う、この瞬間は続くと、いつまでも”って。俺、人生をあそこまで肯定できないもん』って。あのタモリが言ったんだよ。四半世紀、お昼の生放送の司会を務めて気が狂わないでいる人間が! まともな人ならとっくにノイローゼになっているよ。タモリが狂わないのは、自分にも他人にも何ひとつ期待をしていないから。そんな絶望大王に、『自分はあそこまで人生を肯定できない』って言わしめたアーティストが他にいる? マイルスに憧れてトランペッターを目指すも、先輩から『おまえのラッパは笑っている』と言われて断念して、オフコースが大嫌いで、サザンやミスチルや、時には海外の大物アーティストが目の前で歌い終えても、お仕事お仕事って顔をしているあの男が、そこまで絶賛したアーティストが他にいて? いるんなら教えてちょうだい。さあさあさあ」

 ウメ吉が舌打ちをする。タモリが言うんならしょうがねえかといった表情だ。

 このくだり、すげえ笑った。無闇やたらに熱い。「タモリが言うんならしょうがねえか」という表現もまた絶妙で可笑しい。


「あれはどういう意味だ。“嫌になるほど続く教会通りの坂降りて行く”ってのは」

 豆腐屋の謙吾が訊ねた。こいつは「豆腐の角に頭をぶつけて死ぬことは可能か」を確かめるため、豆腐屋になったという変わり者だ。

「“教会通りの坂”は神に定められた私たちの人生のこと。それが“嫌になるほど続く”と思っていた歌の中の主人公が、“左へカーブを曲がると、光る海”、つまり、産み。生を肯定して、“この瞬間は続くと、いつまでも”って自己回復していくの」

 謙吾がなるほどと顎を擦った。こうなると香代の独擅場だ。


 香代のオザケン論は、この後もまだまだ続く(ところで独壇場じゃなくて「独擅場」と正しく表記してるのも好感持てる)。

 繰り返すようだけど、このくだり、ストーリーと全然関係ないのである。

 しいて深読みすれば、主人公は故郷の雑司ヶ谷にも東京にも日本にも絶望して中国に渡り、そこでも絶望的な体験をして、居場所を求めて故郷に帰ってくるのだが、アメリカに移住したくせにアメリカが大嫌いで、世界中をさまよっているオザケンと、なんとなく一脈通じるところがあるような気もする。まさか作者はこれを書き上げた時点で、2010年にオザケンが活動再開するとは思ってなかったろうけど。


 しかしまあ、いい小説だった。馳星周の「不夜城」とかが好きな人は必読。あとビートたけしのファンも。


参考:

 町山智浩さんの書評が新潮社のサイトに載ってました。

http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/316931.html

 それと、町山さんのブログでも紹介されてます。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20090829

不夜城 (角川文庫)

不夜城 (角川文庫)

刹那

刹那

uvlvycw46uvlvycw46 2010/01/29 17:09 空中ブランコ
アニメ『空中ブランコ』が独特で面白かったので読んでみた。やっぱり面白い!伊良部のものの考え方は人とはズレてるけど妙に納得できた
http://animeinfo.goto-ex.com/tag/%8B%F3%92%86%83u%83%89%83%93%83R/

karatedoukaratedou 2010/01/30 11:20 ??? 誤爆でしょうか? 「空中ブランコ」は読んでないので何とも言えません。

ライティング斉藤ライティング斉藤 2010/02/08 00:38 はじめまして! ブログを拝見して気になっていて、やっと『さらば雑司ヶ谷』を読了しました。オザケンのくだり以外にも「あんた、それは菊池成孔の受け売りかい」なんてセリフが散りばめられていて楽しかったです! また面白い本紹介してください!

karatedoukaratedou 2010/02/09 01:48 コメントありがとうございます。
固有名詞の出し方にセンスがありますよね。たけし軍団のガンバルマンとか。

reirei 2010/03/05 17:49 初めまして。この文章を読んで思い出したのが、昔宇多田ヒカルがいいともに出た時も、タモリさんが歌詞の話をしていて、Fast Loveの最初の「始めてのキスはたばばこのFlavorがした」という一説だし、この歌詞を聞いたときすごいと思った。このフレーズは出ないよ(言葉が少し違っていたかもしれませんが・・)と大絶賛をしていました。私は正直そこまで絶賛をする意味がよく分からなかったのですが、タモリさんが言うんだからきっとすごいんだろうと思ったことを覚えています。
一度、タモリさんに曲の解説とかしてもらいたいですね。

ayaccoayacco 2010/03/24 12:44 poco pomというブログを書いているものです。
ブックマーク拝見したのですが、
責任を感じるなんておっしゃらないでください!
読んだ本が合わなかった、なんていくらでもあることで、
何かを無駄にしたなんてことはまったくないですから。
今まで知らなかった本に出会えたというのはそれだけでうれしいですし、
karatedouさんの楽しい書評を読めて楽しかったですよ。

karatedoukaratedou 2010/03/24 15:22 コメントありがとうございます。
>reiさま
ホントに、タモリの言葉が持つ、異様な説得力って何なんだろうと思いますね(笑)。

>ayaccoさま
ああ、すみませんすみません!
あのー、なんというか、あまり健康的な内容の小説ではなくて、僕はそこに惹かれたんですが、この文章では伝えきれなかったと思います。
気をつかっていただいて申し訳ないです。ありがとうございました。

ataraxiaataraxia 2010/04/06 09:24 小説の舞台雑司が谷に住んでいるものです。
面白い小説でしたね!