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名前:中山涙 (ペンネームの由来
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浅草芸人 〜エノケン、ロッパ、欽ちゃん、たけし、浅草演芸150年史〜 (マイナビ新書)
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第25回(2012年)大衆文学研究賞・大衆文化部門を受賞しました!








2011-12-02(Fri)

変幻自在!高峰秀子の女優魂。映画「放浪記」について

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 忙しい日々を送っています。

 12月末に発売予定の「浅草演芸(仮)」改め「浅草芸人」は、いよいよ作業が大詰めです。とはいえ、書店に並ぶまでは油断できないので、あといくつかのハードルを越えれば、正式に発表できると思います。


 それはともかく、最近は時間が空くと、古い映画をよく観ています。

 僕は本当に映画にうとくて、名作・珍作として有名な作品を、ほとんど観てません。同世代の方々と比べても、1/10くらいしか観てないと思います。そんな人間の感想なので、うすっぺらい内容であることはご容赦くださいw


 今回は、成瀬巳喜男監督の「放浪記」(1962)について。林芙美子原作で、森光子の舞台で有名なアレ。

「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」というフレーズも有名。

放浪記 [DVD]

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 林芙美子の原作が書かれたのは1928年から30年にかけて。1930年に出版されて、大ベストセラーになった。

 1954年に東映で映画化されて、その8年後に東宝で再映画化されるくらいだから、当初からよっぽど動員力を期待されてたんだろう。


 初見だったんだけど、やー、感動しました。

 どのくらい感動したかというと、見終わった途端、本屋に原作を買いに行ったほど(結局本屋に置いてなかったのでAmazonで買った)。こんな経験、滅多にない。やはり「名作」って呼ばれてる作品は、ちゃんと観ておかなければならないものだと反省。

 以下、ネタバレありの感想です。


 とにかく、主演の高峰秀子の演技力がハンパない。

 彼女はもちろんすごく美人なんだけど、この作品では、目尻が垂れて見えるメイクと、ぶっきらぼうな喋り方と、近眼で猫背の姿勢をしている演技のせいで、さえない女にしか見えない。


 主役のふみ子は、母親と一緒に町を行商して回る生活を経て、母と仲違いして一人暮らしを始めたり、カフェの女給(今でいうとキャバクラ嬢が一番イメージに近いと思う)にならざるを得なくなったりして、すげえ苦労を重ねる。


 彼女は苦労しつつも、詩の勉強は怠らない。同情できる要素満載なんだけど、唯一の欠点は、イケメンに弱いということw 下宿先の隣人、ブサメンの安岡(演じるのは加東大介)が好意を示しても一切相手にせず、ひたすらイケメンの伊達、そして福地を追いかけ続ける。そのせいで、いろんな苦労も自業自得だと感じてしまう。

 だけど、そこが人間くさくてたまらない。


 魅力的なシーンやセリフは山ほど。

 たとえば、ふみ子が伊達に捨てられて、カフェ「金の星」で住み込みで働き始めたときのエピソード。


 彼女は酔客の相手をしつつ、夜になると一人で机に向かい、詩を書いている。

 同室で寝起きする女給仲間のおときに、

「ねえさん、きっといまにえらくなるわね」

 と、話しかけられると、ふみ子は、ちょっと考えたあと、ぶっきらぼうな口調で、次のように答える。

ふみ子:わたしが詩を書いてるのは、「これだけじゃないんだぞ」「わたしの人生は、これだけで終わるんじゃないんだぞ」って自分に言い聞かせて、せめてもの慰めにしてんのよ。

 えらくなれるなんて思ってやしないわ。

 それにね、わたしは学問がないから、難しいことは書けないのよ。詩は学問がなくても書けるからね。あればもっと書けるけど、なくっても書けんのよ。

 しびれるセリフ……。原作はまだ確認してないんだけど、

わたしの人生は、これだけで終わるんじゃないんだぞ。

 っていうセリフが、当時の映画館にいた観客に、男女関係なく、どれほど勇気と共感を与えたかわからない。

 半世紀を経た現代の観客の心にも届く、普遍的な心の叫びだと思う。


 やがて「金の星」に、かつて下宿で隣室に住んでいた安岡が訪ねてくる。

 ふみ子は安岡の姿をみとめるが、最初に顔をちらっと見るだけ。ホントにブサメンには容赦なしw あいさつのあと、短い会話。

ふみ子:たいへんなとこでしょ。すぐそこが遊郭

安岡:ここに住み込んでんですか。

ふみ子:うん。

安岡:ここじゃ勉強もできないでしょう。

ふみ子:チップを稼いで、食べてゆくのがやっと。

安岡:(唐突に)伊達さんってひどい人ですね。

ふみ子:(覗き込むように安岡をちらっと見る)……。

 ふみ子の言いたいことは想像できる。人の失恋につけ込もうとしてんじゃねーよ。

 安岡も、ただの「いい人」じゃなく、さまざまな打算で動いている。ふみ子が伊達に捨てられたことも知っていて、なんとかそれを利用して歓心を買おうとしている。個人的には、そこがまた哀れでならないw


 そこへ着飾った女が三人通りすぎる。安岡、その後ろ姿を見送る。

安岡:廓のひとですね。

ふみ子:そうね。

安岡:やですねぇ。

ふみ子:(わずかにイラッとした表情になり、安岡の顔をちらっと見て)安岡さん、借りたお金、そのうちなんとかしますから。

 この場面、視線の演技がスゴい。ふみ子は安岡の顔を合計三回しか見ていない。

 まずはファーストコンタクト。次に、昔の恋人の悪口を言われた時。そして遊郭の女性に嫌悪感を示した時、の三回である。

 あとは視線をそらしっぱなし。高峰秀子がスゴいのか、成瀬巳喜男がスゴいのかわかんないけど、こんな風に視線だけの表現っていうのも存在するんだな……と、感動した。

 ふみ子は、自分が遊郭で働くことになっても全然おかしくないと考えている。そして、カフェで働く自分に媚びるように遊女の悪口を言い出す安岡の想像力の無さに辟易したのだろう。

 安岡は、ここで決定的にふみ子にフラれたのだ。


 その夜、ふみ子は度数の濃い酒を十杯立て続けに飲み干し、客からチップを勝ち取る。さすがに酔いが回ってグッタリ。

 そこに土建屋の親分と、その手下が来る。親分は、女給仲間のおときにセクハラ三昧したあげく、ほかの女給を見渡して「掃きだめに鶴だな」と軽口を叩く。

手下:「金の星」には50銭で言うことをきく女給がたくさんいるって評判だぜ。

 女給たちはさすがに怒り出すが、二人はまったく意に介さない。

親分:(別の女給の顔を覗き込んで)これには50銭は払えないなぁ。せいぜい35銭ってとこだ。

手下:35銭の淫売かぁ。ヘッヘッヘッ! こりゃあいいや!

二人:(爆笑)


 その時、酔って別のテーブルに突っ伏していたふみ子が立ち上がる。

ふみ子:バカヤロー! なぁに言ってやがんでえ!

 驚く一同。

ふみ子:人間はねぇ、(二人を睨んで)人間はねぇ、食わなきゃ死んじまうんだよ。二日も三日も食わずに腹が減って死にそうになったら、50銭だろうが10銭だろうが淫売でもするよぉ!

 ここも、視線の演技が凄すぎる。メイクと演技力で、高峰秀子安藤サクラにしか見えなくなってくるw

 でも美人はトクだなー。安藤サクラ安藤サクラにしかなれないのに……(超失礼)。


 それはともかく、このふみ子のセリフは、本来なら安岡に言いたかった言葉だろう。土建屋のオヤジにとっては、とばっちりもいいとこだけど、観客にとっては胸がすく場面。


 観客は、主人公がやがて成功をつかんで、ベストセラー作家の林芙美子になっていくことをあらかじめ知ってるわけで、そういう意味じゃエミネム主演の映画「8 Mile」に似ている。母親がDQNなところも共通してる(「放浪記」の母親、田中絹代は、「8 Mile」ほど強烈じゃないけど)。

8Mile [DVD]

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 もっとも「8 Mile」は、デトロイトの貧乏白人の少年が、黒人文化のヒップホップで成功する、という話だけど、「放浪記」はそこまでひねくれてなくて、お金も学問もない主人公が、自分の実力と根性と運とで成り上がってゆく物語。素直に感動しました。


 ちなみに、こちらが原作。

放浪記 (新潮文庫)

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林芙美子 放浪記 (大人の本棚)

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 青空文庫にも収録されてます。

 バージョンが違ってて、どっちもおすすめ。

 くわしくは、こちらのブログ↓をお読みになってください。

林芙美子の「放浪記カイザン事件」 - 密偵おまさの市中視廻り日録


 あと、ビックリしたのは森光子の舞台がDVD化されていること。観るべきかどうか悩んでますw

放浪記DVD-BOX

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