2014-05-29
■[漫画]漫画の長篇志向のもう一つの弊害 フリとオチの不均衡問題
80年代から始まった漫画の長篇志向の弊害が、現在「物語力の疲弊」という形で具体的に現れているのです。これは本当に深刻な事態だと私は思います。物語は現在、ライトノベル分野で辛うじて生き延びていると言えます。
上の竹熊健太郎氏の発言は、最近私が強く思っている、フリとオチの不均衡問題にも関連する話だなー、と思ったので、そのことについて徒然と。
フリとオチの不均衡問題
長篇志向といっても、100巻を超える「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や 全45巻の「ドラえもん」のような各話完結ならばいいのですが、一つの大きな物語の体裁をとっている「ワンピース」のような作品で問題になるのが、フリとオチの不均衡問題です。
これは、端的にいうと、長篇の中にある小さな物語のオチと比較して、大きな物語のオチが弱くなり、全体としての印象がいまいちになってしまう、という問題です。長編だから、フリが長く強くなってしまうのなら、それ相応のオチが欲しい、という話ですね。
フリとオチの不均衡問題の代表例:「20世紀少年」「ガンツ」

20世紀少年―本格科学冒険漫画 (1) (ビッグコミックス)
- 作者: 浦沢直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2000/01/01
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この問題の説明に一番適しているのが、浦沢直樹さんの作品です。まず初めに断っておきますが、私は浦沢直樹さんの作品が大好きだし、面白いと思っています。でも、やっぱり、フリとオチの不均衡が顕著なんですよね。「20世紀少年」なんかは、物語中で謎を煽りに煽って、複線っぽいものを次から次に出しておいて、ラストは肩透かし。まー、これは、ある意味、作者本人が「そういう風に作っている」と公言していて、「ラスト如何に関わらず、読んでいる最中は楽しかったでしょ?」と狙って作られているのですが、これって、まさに長篇志向というか、起承転結の結(オチ)を重視しない姿勢だと思うんですよね。「MONSTER」の時も、そういう感じがありましたが、「20世紀少年」以降はそれが顕著で。あの手塚先生の原作「PLUTO」ですら、浦沢直樹さんが描くとそういう、思わせぶりに煽りに煽る作りになってしまうなーと。

- 作者: 奥浩哉
- 出版社/メーカー: 集英社
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それと、他にも具体例を出すとすると「ガンツ」ですね。「ガンツ」は、その毎回のミッション(小さな物語)のサバイバルアクションとしては超面白かったのですが、その理屈付けや話の決着(大きな物語)に少々難色があると思うんですよ。設定が、小さな物語の面白さを最大限に生かす為の装置でしか無い為、大きな物語上では破天荒というかめちゃくちゃになってしまいました。こういうのをなんとかするには、古来から二つなんとかする方法がありまして。
一つは、構想段階から、大きな物語のキッチリした着地点を見据えること。これは、「放課後保健室」や葉風が島にいる間の「絶園のテンペスト」なんかで成功しているように、小さな物語と大きな物語でバランスがとれますね。ただ、これだと、無尽蔵に、それこそ数十年のスパンだと無理だと思うんですよね。成功例を見ても分かるように、割と小さくまとまってしまいます。
もう一つは、大きな物語の詳細説明をしない、ということです。これはアニメの「コードギアス」や「エヴァンゲリオン」なんかの手法ですね。衒学的だったり、あいまいだったり、仄めかす程度だったり。最終的に、謎を謎として回収せず、着地点をズラすというやり方です。予断ですが、十数年前、keyのkanonの考察が盛んだった頃、話題になった『世界の穴』だったり、ONE的なものも、こちらに属しますね。恋愛でも、成長でもいいのですが、謎と正面からぶつかることが、必ずしも正解じゃないと言うわけです。
フリとオチが不均衡になりそうな例:「テラフォーマーズ」「進撃の巨人」

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そういう意味で今一番心配している漫画が、「進撃の巨人」です。そもそも、めっちゃ面白い(最近、内ゲバになってちょっと微妙だけれど……)漫画なんですけれど、何か大きな物語、大きな謎に話を寄せすぎな気がするんですよね。この作品って、ウルトラマン+マブラブで、思考バトルな小さな物語のところがすっごい面白いと思うんですよ。それこそ、「ガンツ」の星人と戦うのが面白い、みたいに。それで、小さな物語が、なまじ面白すぎるばかりに、大きな物語の方は、もっと面白い何かがあるんじゃないか、とハードルが上がりすぎている。これが良くない。

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そういう意味で、「テラフォーマーズ」もそうです。第01巻だけなら、面白昆虫いっぱい出る仮面ライダー虐殺バトルとして、あー面白かった、で終わったんですが、なまじ長期連載化してしまって、それで、カイコに指が生えたり、ゴキブリの人間化の話を仄めかしたりしているうちに、なんかやたら煽り、伏線みたいなものを張るようになってしまって。

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第02巻以降の「テラフォーマーズ」って、「ガンツ」(虐殺バトル要素)+「真・異種格闘大戦」(動物バトル豆知識要素)だと思っているのですが、着地点が見据えて読んでいられる「真・異種格闘大戦」の方が、着地点が見えず期待だけ煽られ続ける「テラフォーマーズ」より好きだなーと。
昨今の傾向?

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「銀と金」にしろ、「カイジ」にしろ、福本伸行さんの漫画は、ゲーム的で思考的ですが、その世界観自体に秘密は内在させません。ここがすごい!

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ただ、昨今、このカイジ的なことを、無理やり作った、都合の良い舞台でさせる漫画を散見するんですよ。「今際の国のアリス」とか「神様の言うとおり」とか。これらは、カイジ的な部分、本記事でいうところの小さい物語の部分では、面白いのですが、その設定自体の謎、最大の謎がどうにもこうにも……。そこのテンションが、どう読んでも、カイジ的な部分、の面白さを越えない気がするんですよね。ただ、謎が大きいから嫌でも気になるし、物語としても煽りをするのです。
むすび
ただ、「進撃の巨人」にしろ、「テラフォーマーズ」にしろ、「ワンピース」にしろ、「今際の国のアリス」にしろ、「神様の言うとおり」にしろ、煽るだけ煽って、上がりきったハードルをらくらく飛び越えるオチ(ラスト)を迎え、私の心配が杞憂に終わり、超名作として後世に語り継がれることになったら、ハッピーエンドですよね。あと、期待のさせ方とか、物語の誠実さの話とかもしたかったんだけれど、尺の都合で今日はここまで!
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