船、山にのぼる


以前所属していたPHスタジオのアートプロジェクト「船をつくる話」の映画ができた。その名も「船、山にのぼる」の完成試写会のために、Bankart1929に出かけた。

プロジェクトは1994年にはじまる。広島県の山中、灰塚地区にダムが計画され、その一帯のアースワークプロジェクトの一環でPHスタジオが提案したのが、水没する森を引っ越しさせるというもの。およそ1500本の木材を全長60mの船に組み上げ、ダムに湛水する水の力を利用して山の上に着地させる構想だ。

その後、プロジェクトを地元に理解してもらうことから始め、ダムを建設する国土交通省との折衝や、船に使う材木の収集などを経て、2001年から船をつくりだし、ダムの完成の遅れなどもあって2006年にようやく当初の構想どおり船は山のてっぺんにのぼった。

足掛け12年にわたる長いプロジェクトとなったが、映画はその後半を中心に展開する。船をつくる話を追うのと平行して、あまりに大きすぎて移植は難しいと思われたエノキの古木を住民の方々自身が引っ越しさせるプロジェクトも追いかけていく。エノキを載せたトレーラーにロープを掛けてお祭りのように住民総出で引っ張るシーンが印象的だ。

一方、完成した船は数年間ダムサイトの底で待ったあと、PHスタジオのメンバーはじめ数人の人々を載せて、タグボートに牽引されてゆっくりと目的地まで曳航されていく。筏状の構造のためにほぼ甲板部分しか見えず、まるで水面を人がゆっくりと移動しているように見える。このシーンの静けさと、さきほどのエノキの引っ越しのシーンの賑やかさが、一本の映画のなかで強いコントラストを見せている。

試写会のあと、そのままBankart1929でパーティがあり、その後BankartNYKに移り、久々に集まったPHスタジオの人たちと飲む。結局、家には帰れず、そのまま横浜に泊まることになった。

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映画は来春に渋谷のユーロスペースで上映されるそうです。ご興味のある方はぜひどうぞ。