とれいん工房の汽車旅12ヵ月

鉄道関係の時事ネタを紹介するブログです。趣味の外縁部に転がっている、生活には役に立たない情報を中心に語ります。廃線、未成線、LRT、鉄道史、遊覧鉄道、鉄道マニア、鉄道本書評、海外の鉄道、マンガ、アニメ...etc。 「鉄道未成線を歩くvol.8 東京の新線構想2030」など同人誌を書泉グランデで販売中。

2008-07-17

[][]大健闘つづく土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」と言うJanJanニュースの記事と市民メディア

 2002(平成14)年7月1日に「最後の鉄建公団AB線」(※)として、土佐くろしお鉄道の「ごめん・なはり線」(阿佐西線)が開業した。開業前は、閑古鳥が鳴くのでないかと心配されていたが、開業6周年、予想以上の成果を収め堅調に推移している。

大健闘つづく土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」市民の市民による市民のためのメディア「JanJanニュース」野本靖2008/07/16

 なんか色々気になるんですね。この記事。鉄道好きの1人として、そしてブログの書き手の1人として疑問点がいくつかある。まあ、JanJanニュースだし、スルーしようかと思ったんですが、今朝、早起きしたんで書いてみます。

 ごめん・なはり線とは、高知県南国市後免と安芸郡奈半利町を結ぶ42.7kmの鉄道線で、第三セクターの土佐くろしお鉄道が経営している。着工は1965年。旧鉄建公団の手で建設されたローカル線で、旧国鉄系の工事線としては最後の開業となった。

大健闘つづく土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」という記事に関する素朴な疑問

 まず、気になる点は「大健闘つづく」としたタイトルと「開業6周年、予想以上の成果を収め堅調に推移している」というリードの部分。

 で、その論拠は、エクセルで作ったっぽいグラフ。

通学定期の利用に関しては、平成14(2002)年度には約17万人であったものが、平成18(2006)年度には54万人にまで増加している。

と語り、これで「大健闘」ということなのか。このデータを基本とすると、ごめん・なはり線は平成14年度(2002)から平成18年度(2006)で3.2倍増になったということだ。

 ほほーと読んだ。でも、明らかに変。数字を見たら、いろんな角度から疑問が浮かび上がってくる。以下にその指摘を3つ。

  • 統計の元データはなに?

 記事の冒頭に、「ごめん・なはり線 輸送人員の推移」とある。これって何? 輸送人員って、1日あたりの数なのか、1ヶ月あたりなのか、1年間なのか。乗降客数なのか、乗客数なのか(これで倍ほど数字が異なる)。そもそも元データの出典はどこなのか。なにも書いていない。そもそも輸送人員の単位は「人」なのかどうかの基本も書いていない。ちょっと、それは記事としてどうかと思う。

  • 統計の読み方が杜撰。

 ごめん・なはり線が開業したのは2002年7月1日。営業していたのは02年度12ヶ月のうち9ヶ月のみ。初年度の利用者数、通学定期客数が、次年度以降より極端に少ないのは当たり前。夏休みや春休みが間にはいることを考えると、高校生が定期券を使ったのって実質的には半年ほどじゃないの。それを「平成14(2002)年度には約17万人であったものが、平成18(2006)年度には54万人にまで増加」と他年度と比較すること自体が変。あと、ごめん・なはり線の「輸送人員」と、土佐電鉄安芸線の「年間輸送人員」とを比較しているけど、これは同じ原典をベースにした数字じゃないよね(片方は趣味人向けの本のデータを使っているようだが)。なのに、それで増えた、減ったと単純に語っていいんだろうか。

  • なぜ通学定期利用者が増えたのか考えた形跡がない

 ただ、2003年度と2006年度と比べると、通学定期客数は1.4倍も増えている。これは異常事態だ。ご承知のように、ローカル鉄道の担い手である高校生は、年々、確実に減っている。地域によって異なってくると思うが、毎年2〜3%ぐらいは高校入学者は減っている。なのに、なぜ。高知県の東部だけ激増しているの。この統計数字を見れば、(好奇心がある人なら)誰でも疑問に思うだろう。

 高知新聞の記事は、初年度の状況として、「通勤、通学など定期利用者は24万6360人(同37・9%)と伸びておらず、今後の課題だ。」と伝えている。

 もともと初年度2002年度、続く2003年度のごめん・なはり線の利用者は目標を大幅に下回っていたのだ。それが2004年度くらいから回復してきた。でも、当初見込みほどにまでは増えていない。なのに、「予想以上の成果を収め堅調に推移している」とまで言い切る自信は僕にはない。

  • 1億円近い赤字(経常損益)が出ているのに……

>ただし残念ながら、ごめん・なはり線の経常損益はマイナスである(単位:千円)。

>平成14年度 +012,884

>平成15年度 −102,019

>平成16年度 −086,741

>平成17年度 −075,921

>平成18年度 −100,698

 ここらの分析は皆無。というか、なんで利用者が激増したのに、赤字が出るのか? これも記事を書いていたらかなり気になるはず。償却とかの絡みがあるんだし、それも取材してくれなきゃ

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JanJanニュースの記事と市民メディアはなにを目指すの?

 ごめん・なはり線の利用者が増えた理由は想像できる。端的に言うと、鉄道(ごめん・なはり線)が、バス(土佐電気鉄道)の客を奪ったからだ。

 鉄道開業以前、ここには土佐電気鉄道のバスが1日25往復と頻発運転している上に、高知市内まで乗り入れていて、それなりに利便性が高かった。 

 バス側は新線開業に備えて、バスは値下げに踏み切り、メイン利用者の高校生客の引き留めに努めた。高知新聞によると開業年の秋には定期客の減少を1割減に抑えたとか。それが支えきれなくなって、高校生が鉄道に移行したと言うことか。

 現在、バスの運行本数は12往復/日。鉄道開業前より半減だ。もちろんバスも地元にとって大切な公共交通機関。廃止してもいいとは言いづらい。そこらを踏まえないで、ごめん・なはり線だけ語るのは、やっぱり気になる。鉄道利用者が増えたからと言って、すべてが目出度しと言うわけでもない。

 後の、「土佐電鉄との直通運転も考慮すべき」とか「鍵は通勤客に、いかにマイカー通勤から切り替えてもらうかであろう」とか「定期外の旅客についても同様で、マイカーから転移を促すようにすればよい」とか「地域全体の自動車依存度を大幅に軽減する上で、ごめん・なはり線は重要な使命を背負っている」は若書きで書いちゃったんだろうし、まあそれはそれでいい。できることは、たぶん高知県も各自治体もやっているって。実際、どういう施策がとられているのか。きちんと自治体や会社に聞きに行った上で、それでも足りない部分(しかもカネをかけずに実現可能そうなことを)を自分の言葉で語ればいい。

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 というのが、個人的感想。

 この記事、統計の数字の基本的な扱い方すら危ういし、著者個人の思いつきレベルの見解ばかり。正直、読者としてどう反応すればいいのか分からない。書き手の方、地元出身だけど、今は別の都市に住まわれているみたい。だから、地元民ならではの足で稼いだ情報が少ないのかな。まだ若い学生の方らしいし、次に投稿するときはいい記事を読んでみたいです。


 で、鉄道の話はおしまい。

 本当に気になったのがインターネット新聞というか、市民メディアの在り方。

 大手では見られない分野、語れない分野について、地元に密着した、あるいはその分野に精通した市井の人たちが、何かを語り、それをメディアとして伝えていく。非常に大切なことだと思う。そうしたものが充実して欲しいとは僕も思います。

 たとえば、この高知県の鉄道の話。僕は高知県より鉄道で6時間ほど離れたところに住んでいるので細かい事情は知らない。だからこそ、市民メディアには、この鉄道に関する、地元民だからこそ知っている事情を知らせて欲しいと期待する。プロじゃないんだし、精密な取材や情報はいらない。ただ、あまり拾い上げられていないエピソードを地元民ならではの角度で拾い上げて欲しい。

 ただ、現実には、JanJanニュースには玉石混淆の記事が入り交じっている。そもそもJanJanニュースにツッこむのがヤボなのかもしれない。もう少し、書き手と編集担当の練度が上がらないかな……とは思うが、あまり注目されていない、記事が少ない、利益が出ていないと、それもなかなか難しいのか。そこらは僕の関与できる話ではない。

 いや、一番、気になったのは、この記事。別のブログで全く同じ記事があるんですね。

高知から持続可能な交通を実現する(53) 「大変健闘しているごめん・なはり線」今日も自転車は走る。

書き出しから本文の言葉・主旨もほぼ同じ。投稿日は「2008年7月12日 (土)」とあるから、「JanJanニュース」の4日前。

 書き手は、たぶん同一人物なんでしょう(JanJanの記事からリンクを辿っていける)。ということは、ご自身のブログの記事を「JanJanニュース」に転載されたんですね。その旨の但し書きはどこにもないですけど。

 「JanJanニュース」のQ&Aを見ると、

Q.他媒体に投稿したものと同じ内容を投稿しても良いですか

A.すでに他の媒体で発表された記事は、投稿時にその旨をお書きください。編集局で掲載を判断します。記事の二重投稿は、原則としてお控え下さい。

とある。JanJanの編集局が掲載OK出したということか。あるいは著者自身のブログからの転載は問題なしとされているのか。

 「自分の書いた文章や意見をもっと多くの人に知ってもらいたい。」という気持ちは彼だけでなく、ブログ・日記・ホームページを更新している多くの人間が思っていることだ。より大きな、よりアクセス数の多いメディアへ露出したいというのも気持ちとしては分かる。でも、この著者。文面はほぼそのままで、どちらにも注釈を付けずにJanJanニュースに投稿してしまっている。ちょっと不誠実だ。

 そこらの決まりがJanJanでどう扱われているのか、ネット界のマナーとしてどうなのか。僕は知らない。ただ、自分の記事をそのままメジャーなサイトへ転載するのっていかがなものか……と1人のブログの書き手として思ったりもしたのですが、それはまた別の話。

2008-02-08

katamachi2008-02-08

[]ぬれ煎餅銚子電鉄に可能性を見出したがった人たち(銚子電鉄シリーズその4)

 今回は、「がんばれ! 銚子電鉄」の書評をきっかけに始めた銚子電鉄シリーズのまとめ。

 以上、三つのエントリーを通して、

  • 前社長の資金不正流用問題を解決するのが公金投入のために先決であること
  • 銚子市も市民も銚子電鉄をどのように活かしていくのかという視点が足りなかったこと
  • 著者が"まちづくり"→"銚子電気鉄道の再生"というスキームを提案していること
  • ただ、鉄道存続を"まちづくり"の"目的"としてしまうのは問題ではないのかということ
  • あくまでも"まちづくり"や鉄道存続の決断をするのは市民であるということ

などの点を述べた。その上で、ぬれ煎餅騒動と観光客やマニアの声援だけでは問題解決には繋がらないと指摘した。

 今回は、ぬれ煎餅銚子電鉄を巡る現象、そしてネットと社会との関係性について言及してみたい。

"ぬれ煎餅騒動で銚子電鉄は復活した"のはネットのお陰なんだろうか

 さて、ぬれ煎餅に始まる2006年末の一連のムーブメントは、興味深い可能性を観客に示してくれた。

 銚子電鉄の一社員がホームページに書いた一言。それをネットの住人が面白がり、銚子電鉄に興味を持ち、ぬれ煎餅を注文し、それがネットの外の世界にも広がり、1ヶ月で1000万円以上の売上が集まったおかげでデハ1001という車両を検査に出すためのカネを捻出できた。

 この過程は紛れもない事実である。「銚子電鉄が直面した最大の危機は、みなさんの温い支援のおかげで、なんとか乗り越えることができました」(p.42)という言葉は銚子電鉄社員として本音の感想であろう。

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 ただ、「ネットの向こう側にあった良心」(第1章サブタイトル)で問題は解決したのかというと、それはまた別の話。問題は今でも山積している。著者の示した"まちづくり"の概念を実現に移すには不十分な点が少なからずある。と、前回、前々回のエントリーで繰り返した。

 ところが、あれから1年経った今、"ぬれ煎餅騒動で銚子電鉄は復活した"……という類の言説が少なからず飛び交っている。しかも、それは"ネットのお陰だ"というのだ。となると、話は異なってくる。

 本の売り方として、「ネットを媒介とした"良心"と"奇跡"の復活劇」、「ネットと現代社会との関係性」という側面を打ち出すというのはありかもしれない。本書の構成もそれに準じた造りになっている。

 版元である日経ビジネスは、販売にあわせて自身のホームページに「「敗北宣言」が呼び込んだ奇跡の復活」という記事を掲載している。「地方景気の後退にあえぐ中小企業や、インターネットによるコミュニケーションで悩む企業にとって、大きなヒントとなるものです」と少々気恥ずかしくなるような紹介文もある。タイトルから何までまるで「プロジェクトX」のノリである。

 編集者の手で本書の中身を再構成したものであり、この長文のテキストを読めば、書籍を購入しなくても要旨をほぼ把握することができる*1。 「外の社会から認められたい」という気分がネットの住人にあることを突いたウマイ戦略とも言える。彼らは、ネットが産み出した"成果"を強調することで、自分たちの"可能性"を過度に語りたがる。社会やマスコミがネットでの騒動を取り上げて増幅させていくことを見聞きすることで、自己の存在を確認したいのかもしれない。

 でも、そうした方向性が強調されることで、銚子電鉄を取り巻く様々な状況が"単純化"され、"ネタ化"されていく。編集者サイドは、ホームページに載った抄録を読んでいる限り、"善意"と"奇跡"と"地域の生き残り"のエピソードとして無難にまとめようとしたと思われる。ネタ的な要素だったのが、「現代のおとぎ話のような復活劇」に仕立て上げられている。ただ、偶発的で"善意"と"奇跡"のエピソードを、他にも応用しようという趣旨にはかなりの無理がある。

 そうした日経BP社のホームページやそれに対する反応を見ていて、僕は違和感を抱き続けた。それが、最初に書評を書いた後、延々と銚子電鉄について語ってきた動機である。


語れない話が多すぎて"まちづくり"を巡る提案が生煮えになった

 正直なところ、本書を出すタイミングがあまりにも早すぎた。

 時が経ってから銚子電鉄ぬれ煎餅騒動の裏話本を出しても、移り気なネット住人やマニアはあまり興味を持ってもらえない。現に、ぬれ煎餅に始まるムーブメントは昨年で一段落付いた印象がある。できれば旬のうちに……という事情は分かる。

 ただ、2008年2月現在、著者も銚子電鉄銚子市も市民も、いまだに再生への道程についてなにも成果を生み出せていない。

 今回、あえて何も触れなかったが、銚子電鉄に対する批判的な意見も一部である。存続を訴えかけるグループに対して露骨に揶揄する言葉も散見している。2002年2006年に相次いで現職市長が市長選で敗れたことによる銚子市政の混乱がその一因なのであろう。

 野平前市長は、銚子電鉄不要論を市会でも公然と発言していた。岡野現市長は、駅舎の改築などを公約に盛り込んでいたが、当選後、積極的に発言しなくなる。市役所は、ぬれ煎餅騒動で批判が集まると、「銚子電鉄問題への市の対応について」という文書を出して、安易な対応はできないと予防線を張った。裁判沙汰になっている一民間企業に公金を投じるには問題が多い。責任ある立場に就いたのだから仕方ないことだと私は思う。

 それに対し、銚子電鉄は、一時期、前市長陣営と現市長、市役所に対する批判をこめた「銚子電鉄を支援して下さる皆様へ」という社長名の文書を自社のホームページに掲載していた。銚子電鉄存続に関する署名がたくさん集まり、それが市民の意志なのに、前市長も現市長もきちんと対応してくれなかった。そうした銚子市政を批判するものであったらしい。現在、その文書は削除されて閲覧することはできず、代わりに「銚子電鉄を支援して下さる皆様へ」を一部修正したお詫びと訂正」というpdfが残っている。

 ただ、銚子電鉄の姿勢を示した文章を見ても、具体的な方向性は何も見えない。やっぱり銚子電鉄は不正経理の問題でなにも動くことができないということを再認識させられただけだった。本書においても横領の件に関してはp.711ページほど簡単に事実が述べられているだけで肝心なところは触れられていない。

 現実はなにも進んでいないし、最大の問題が解決していない。そんな中途半端な段階なのに、当事者が語られることは限られてくる。騒動の裏話や「ネットの向こう側にあった良心」など表面的なことしか触れることができない。"コンパクトシティ"や"まちづくり"への意気込みを語ろうにも、机上の空論にしか見えてこない。市民から「ところで不正借入の問題はどうなったの?」と聞かれたらそこで議論はストップしてしまう。肝心の第5章以降の"まちづくり"を巡る話が生煮えなのはそこが原因である。

 会社としても、少しでも市民や市の要求に応えようと、2007年7月に配布した市民向けの文書で経営内容の一部を公開したらしい。平成18年度決算の銚子電鉄鉄道部門収入が1.3億円、副業部門収入(ぬれ煎餅など)が3.1億円(70%)とのこと。裁判が決着ついていない中でさらなる公表は難しいのかもしれないが、正味の不正借入のための弁済額はいくらなのか。施設や車両の整備に中期的にどれぐらい必要なのか。そして、どのようにして安定的かつ持続可能な経営へと導いていくのか。それは彼と社員さんたちの腕の見せ所だ。

 筆者は自著の最後を次のような言葉で締め括っている(p.178)。

自分たちにはなにができるのか、みなさんといっしょに考えながら、地方鉄道と鉄道が走る町のために、これからもがんばっていきたいと思っています。

 ただの読者への謝辞かとふと読み飛ばしてしまうような一言である。

 でも、指示語の部分に固有名詞を入れて、「自分たち=銚子電鉄」、「みなさん=銚子市民」、「地方鉄道と鉄道が走る町=銚子市」と読み替えれば、これが著者の決意表明、そして銚子市民へ喚起を促す願いだと言うことが理解できる。急がす、でも悠長に構えず、銚子市民の間で、ひとりでも多く、銚子電鉄のファンと味方を増やすことが最優先の課題だろう。

 著者と電鉄と市民の取り組みが、近い将来、成果を生み出すことを期待してやまない。


鉄道マニアができるささやかな試み

 さて、われわれ読者は単なる"美談"として銚子電鉄ぬれ煎餅の騒動を捉えてはいけないとは先にも述べた。

 では、自分のようなヨソ者や鉄道マニアどうすればいいのか。なにかできるのか。そのヒントはp.173の

銚子電鉄の危機を知ったみなさんは、それをきっかけに、地方鉄道の問題について関心をもってくださるようになったのではないのでしょうか。(中略)みなさんの応援が、どれだけ地方鉄道の社員を勇気づけていることか、ということです。

との言葉にある。

 ぬれ煎餅という"ネタ"がある銚子電鉄に対して親しみを持ったネット住人は少なくないだろうし、ブームが収束した今でもまめに現地へ足を運んでいる人もいらっしゃると思う。継続は力だと思う。

 でも、何も困っている鉄道は銚子市にしかないというわけでもない。ぬれ煎餅をきっかけとした興味や好奇心。それを他の鉄道にも広げていくこと。それが、観客であった人たちに求められていることなんだろう。

 鉄道マニアでもできるささやかな試みはいくつもあると思う。

  • とにかく「がんばれ!銚子電鉄」を一冊購入。新書本より文字数は少ないし、1時間もあれば読める。アマゾンでもどこでもいいから買うこと
  • 読んだら、半年以内に銚子を訪問。銚子電鉄に乗って、2、3ヶ所の駅を訪ねてみる。そして、ぬれ煎餅を駅のベンチで食べながら、どうすればこの会社はうまくやっていけるのだろうかと考えてみる。
  • 帰ってきたら、自分の家の近所にある大変そうな鉄道を訪問する。そして、銚子電鉄を参考にして"可能性"について考えてみる。"〜すべき"とか自分の主張を練り上げるのではなく、自分がこの鉄道の利用者だったら、沿線の市民だったら、株主だったら、従業員だったら、どのようにアプローチできるのかという多面的な視点を持つことが重要。
  • 最後に実践。とにかく当該鉄道と地元にカネを落とす。消費は最大の美徳。ちょっとでも売上に貢献しよう。口先だけ「がんばれ!」とネットで語っていてはダメだ。クルマで撮影に行っても、せめて1000円分ぐらいは切符を買ってホンモノの電車に乗ろう
  • そして、ヒマなときは、心の中で銚子電鉄や多くの鉄道にエールを送る

 ……と、書いていてちょっと空しくもなったが、まあ、実際、鉄道マニアができることってこんなものだろう。自分たちが鉄道を、社会を変革できるなんて気負わない方がいい。

 でも、一つの現象を実際に見聞きし、あり得るべき姿を考え、何ができるかを想像し、それを具体的に実践していくこと。そうした過程を踏むことは知的な刺激になりうると思う。

 私もこうした活動が、鉄道再生に繋がることだとは本気で思っていない。あくまでも鉄道再生の道程を造っていくのは地元住民であると、ここ3回のエントリーで7度は語ってきたと思う。観光客やマニアは側方支援に留まるべきだと。でも、鉄道という存在を通して楽しみを享受している自分たちは、鉄道会社や現場の職員たちの活動に無関心ではいられない。

 ちょっとした私たちの関心や消費活動が彼らの励みになっている。そんな当たり前のことを銚子電鉄ぬれ煎餅は教えてくれた。その輪を全国の鉄道へ広げていくことが、いま自分たちに求められていることなのかもしれない。そうした思索や実践を行う"きっかけ"造りのために本書を参考にするというのも一つの手なのだろう。


 最後に自分の話。

 先日、仕事のついでに某鉄道某駅を訪れてみた。3ヶ月ぶりの訪問。相も変わらず電車にお客さんは乗っていない。

 窓口に行くと、記念乗車券を売っていた。580円。往復タイプの硬券には「が○にゃん」とかいうオリジナルキャラクターが印刷されている。昨年も、例のキャラに便乗して何種も出していた。でも、「マニア的にはこういうのをやって欲しくないんだけどな……」というのが本音のところ。正直、買うかどうか3分ほど迷ったが、とりあえず一枚購入することにした。後ろを通った女子高生に「いまどき、□△にゃん?(しかもおっさんが?)」と冷笑されたような気もしたが、それはまた別の話。

*1:本を買った人間とすれば複雑な心境なのであるが、まあそれはそれ。

2008-02-07

katamachi2008-02-07

[]ヨソ者が勝手に銚子電鉄の再建策を考えてみたけど(銚子電鉄シリーズその3)

 さて、「がんばれ! 銚子電鉄」をベースとした銚子電鉄シリーズの第3弾。

 1回目「【9】がんばれ!銚子電鉄 ローカル鉄道とまちづくり - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」は「「がんばれ! 銚子電鉄」」の書評。著者が示した"まちづくり"→"銚子電鉄の再生"という再建のためのイメージに関して、

ここに当然出てくる疑問。すなわち、

という2つの問いかけに対する答が必要となる。そこらの理屈をこしらえ、市民から市長まで納得せねば公金投入→銚子電鉄復活というシナリオは書けない。

と、私は問題点を指摘した。

 2回目「銚子市の「銚子電鉄問題への市の対応について」という文書を読んでみる(銚子電鉄その2) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」は、銚子電気鉄道の破綻に関して、過去にどのような点が争点となってきたのか、銚子市銚子市民がどのように対応してきたのかを調べてみた。ここでカギとなるのは、

の2点。その上で、国や県、そして市財政から公金を投じるには、

  • 前社長による不正流用事件の解決
  • 市役所や市民が銚子電鉄をどうしていくのか自分たちの頭で考えていくこと

が最重要課題であるとした。

 さて、3回目である今回は、銚子電鉄はどうしたら再生できるのか。前2回で積み残した"なぜ"の部分について言及してみたい。

鉄道存続を"まちづくり"の"目的"としてしまうのは問題ではないのか

 著者は、本書で「銚子電鉄はネット発の"善意"によって救われた」とのエピソードを当事者なりの視点で展開した上で、第5章において、"コンパクトシティ"と銚子電鉄を軸とした"まちづくり"の輪を市民の間で広めていきたいと締め括っている。富山市役所や国土交通省、学者あたりが、JR富山港線新幹線建設にあわせて富山ライトレールとして再生させたときに展開した主張を援用しようとしたのであろう。

 ただ、"ぬれ煎餅で救われた銚子電鉄"という興味深い2006年末の現象から、"まちづくりに必要な銚子電鉄を残していこう"という言葉に至る過程には、説明不足な箇所がいくつか残る。

 第一に、鉄道存続を"まちづくり"の"目的"としてしまうのは、銚子市民へ支援を呼びかけるにはマズいんじゃないのという点。著者は、第5章の冒頭(p.132)で

銚子電鉄やほかのローカル鉄道をこれからも残していくために、私たちひとりひとりができることはなんでしょう

と問いかけ、銚子市を"コンパクトシティ"と位置づけ、その"まちづくり"の必要性と銚子電鉄の役割を訴えかける。

 鉄道会社の社員としてその発想は当然のことだし、それゆえに大学へ社会人入学して"まちづくり"の在り方について思索を続けていたのだろう。だからぬれ煎餅騒動が始まってもブログで情報発信するなど柔軟に対応できたし、ご自身で銚子市まちづくりを考えるブログを立ち上げられていった。いつまでも煎餅に頼ってもいられないと分かっているからこそ、銚子市民が存続問題に関心を持ってもらえるよう住民運動に参画するよう努めている。地元住民に必要とされて初めて自分たちの存在意義があるんだということに気がついているからだろう。

 ただ、彼は"銚子電気鉄道鉄道部次長"という肩書きを持っている。その立場の人間が鉄道存続を訴えても、「銚子電鉄の関係者だから鉄道を残そうとしているだけじゃないのか」という冷ややかな視線を拭うことはできない。

 以前から銚子電鉄に対して、銚子市民からも醒めた視線が投げかけられているのは前回も述べた。前市長は「本来の目的である公共交通機関としての寄与度は、実は非常に低いというふうに思っております。つまり銚子市民は、ほとんど乗らない」と発言しているし、市議会や市民でも少なからずの人間が存続に消極的な発言を繰り返している。

 銚子市民も、ぬれ煎餅でネットや全国の注目を浴びたことは知っているのだろう。でも、ヨソ者が騒げば騒ぐほど、地元の人間から当事者意識は失われる。それ(ぬれ煎餅騒動)とこれ(銚子電鉄の存続問題)とは別である。

 観光輸送を中心とした鉄道として再生させるという手もあるが、それではなかなか市民の共感を得ることができない。昨日の「高千穂鉄道の橋脚の撤去が始まった - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で紹介したように、高千穂鉄道では、地元企業の一部が観光に特化した鉄道として残そうと動いたが、市民の了解を得ることができず、再生計画は瓦解してしまった。「銚子電鉄も観光資源のひとつです。」(p.158)かもしれないが、それを強調すればするほど地元の人たちには遠い存在にしか見えてこない*1

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 第二に、本当に銚子電鉄は"コンパクトシティ"の基軸となる交通機関に相応しいのかという点。

 銚子市公共施設や人が集まるスポットは、銚子駅や観音駅から1km圏内に集中している。かつて醤油で栄えた産業都市としての面影は随所に残っているが、全国他の都市と同様、どこか寂しい雰囲気が漂っているのも事実。銚子市も、中心市街地の衰退に危機感を抱いているらしく、2007年春に整備計画プランを発表している*2

 そんな街を貫く銚子電鉄をライトレールとして再生させ、これを軸として理想的な"まちづくり"を目指していく。次世代型路面電車LRVが銚子市内を行き交うのを夢見るのは楽しいし、そちらの方が都市開発のインパクトはある。昨年、銚子市内をぶらぶら歩いてみたとき、そんな夢物語も現実性があるかな……と私も思った。

 ただ、電鉄の駅から少し離れた場所を歩いてみると別な印象も抱いた。銚子電鉄を整備してもあまり効果はないかもしれない……と。銚子市東部の地形は起伏に富んでいる。銚子電鉄線付近ではほぼ開発可能なところはし尽くされており、さらなる発展は期待できないようにも見える。それに、スプロール状に宅地化が進んでおり、市街地は鉄道線沿いだけではなく面的に広がりつつある。この鉄道を再整備しても、その便益を享受する市民は決して多くはなさそう。便利になるのは駅から500m圏内にあるごく一部の市民、人口7万人の街の1割程度なんだろうか。銚子市と市民全体のことを考えると、"コンパクトシティ"の基軸に置く交通機関は、鉄道よりバスの方が理想的かつ現実的なのかもしれない。

 観光鉄道として市税を投じてまで残すべきかどうか。銚子電鉄は"コンパクトシティ"の基軸となりうるかどうか。共に、かなり深く幅広い議論を要する。簡単に答えは出ない。

ヨソ者が勝手に銚子電鉄の再建策を考えてみた

 まあ、問題点だけを並べていても解決には繋がらない。

 そこで、ヨソ者でもヨソ者なりに、銚子電鉄の再建策について考えみた。

 まず、前社長が銚子電鉄の財布から不正流用した金額は1億円ともそれ以上とも言われている。このうち電鉄側が弁済しなければならないのを"1億円"と仮定する。これを市税などで穴埋めするのは法律的にも道義的にも許されないと思う。

 でも、今回のぬれ煎餅騒動で、銚子電鉄という存在に注目している企業も少なくないと思う。そんな彼らにネーミングライツを売るというのも一つのアイデアだ。「ライブ●ア銚子電鉄」とか「インボ●ス銚子電鉄」とか「フルキ●スト銚子電鉄」とかいう社名にすると言うことになるのだろうか。最近、新潟県有料道路の命名権を年間800万円ぐらいで売り出しているらしいが、箱根にある民間の有料道路は命名権でもっと数千万円のカネをもらっているとも新聞で読んだことがある。それぐらいは期待したい。これで何とかなるだろう。

 あるいは、会社の株式をどこか大きな企業に買ってもらうというのもいい。「鉄道会社」という名前は、プロ野球球団なんかと同様、あらゆる意味でブランドになるというので、全く無関係の会社が買収に乗りだすというケースは過去にもあった。和歌山県紀州鉄道もその一つ。それで不正借入1億円の穴埋めと設備改良費の自己負担分の確保ぐらいはできるだろう。

 次に、補助金。国も地方も財政難で大変なところだが、国土交通省地域公共交通の活性化及び再生に関する法律と連動して様々な助成処置を用意している。経営危機のローカル鉄道として全国に注目を浴びたところだし、そのモデルケースとしてなんとか奮発してもらおう。

 銚子電鉄の安全運行維持のためには、ここ5年で総額約4〜5億円が必要だと言われている。車両更新や近代化設備整備(ホーム、軌道改修、車両更新等)の費用ということらしい。

 車両の更新費は1.6億円(3年以内に置き換え)と2005年に市議会で報告されている。これは中古車の費用なんだろう。最近、ヨソでも第三セクター鉄道の廃止が相次いでいる。そこで浮いた気動車を中古で3〜4両買い取って投入すればいい。輸送費込みで1両あたり5000万円もしないだろう。架線を外してしまえば経費節減にも繋がる。

 そして、数年経ち、経営が落ち着いてきたときこそ、銚子電鉄をライトレールとして変身させるタイミングだと思う。大阪堺市で実験しているトランスロールがいい。あれは架線なしでも道路上を走ることができる。路線も延ばそう。現在の銚子〜観音〜外川間のみならず、市立病院のある前宿町公園〜観音駅〜銚子市役所と併用軌道を設けてみると、住宅地と公共施設を有機的に連絡することも可能だ。将来的には外川駅から千葉科学大まで……

自分のような外野の人間が銚子電鉄にいてとやかく言っても仕方がない

 ……と、ヨソ者の、そして鉄道マニアの無い物ねだりの世迷い言を書いてみた。自分でも分かって書いているのだが、かなり無理のあるプランである。

 鉄道会社名にネーミングライツという考え方もあろう。ぬれ煎餅と"銚子電鉄"ブランドをアテにして、銚子電鉄を丸ごと買収するという企業や慈善家がエンジェル投資家)として現れるかもしれない。そんな"奇跡"はあり得る話だと思う。ただ、ぬれ煎餅騒動に着目して銚子電鉄の"名前"をほしがる連中に持続可能な経営を期待するのも変な話である。そもそも内野屋工務店が1990年銚子電鉄の経営権を引き受けたのも、バブル期不動産リゾート事業を展開するのに鉄道会社というブランドが欲しかったから。で、その破綻で、彼らだけでなく鉄道会社まで痛い目に遭ってしまったのは記憶に新しい。ネーミングライツで話題となった野球場だって、親会社の都合で、宮城や所沢の場合、短期間で名前が変わってしまった。ヨソ者とはそういうものだ。きちんと経営計画が立てられていない企業に補助金をばらまくほど役所も甘くはない。

 銚子電鉄の車両を入れ換える……というのは3年前の段階では既定の方針であった。でも、中古でも新車でも入れるとなると、今の丸ノ内線のお古など魅力的な車両たちは引退せざるを得ない。数少ない資産である駅や車庫のある土地はどうなるんだろう。再建中の会社にあまり余裕はない。ましてやLRTやらLRVやらなんやらってのは夢物語の話。銚子の人口が十数万人あって、線路状態が良好で、沿線地域が平坦かつ都市化されていたら話は別であろう。この鉄道を象徴し続けたノスタルジックな雰囲気を一掃してしまうと、はたしてマニアや観光客の期待しているような形になるのだろうか。

 こうした文書を読んで、銚子電鉄銚子市民の方はどう思うんだろう。もちろん、"まちづくり"の手法をヨソ者が語るのは勝手であるが、僕が当事者だったとしたら……あまり愉快な気分にはなれない。こんな他力本願の話ばかり打ち上げても、銚子電鉄が再生できるはずもない。

 それは、ぬれ煎餅銚子電鉄は再建できるという発想も同様である。

 現実社会は、"興味"や"魅力"や"意欲"だけで何とかなるというものではない。銚子以外の資本家がやってきても決して長続きしないというのは内野屋工務店の一連の動きからも想像することはできる。そして、基本的には、自分のような外野の人間、そして千葉県庁や国交省が鉄道の存続についてとやかく言っても仕方がない。あくまでも、第三者は"温かい目で見守る"というスタンスを崩すべきではない。

 そんなことより市民の間で同意を得ることの方が先決である。残すのか諦めるのか。それは銚子市と市民と地元利用者の判断に任されている領域だと思う。これは前回や前々回で述べたことの繰り返しである。……と自分で書いてしまうと、このエントリ無意味だったということにもなるのですが、それはまた別の話。

 次回「ぬれ煎餅と銚子電鉄に可能性を見出したがった人たち(銚子電鉄シリーズその4) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」は、ちょっと話を飛躍させて、ぬれ煎餅に可能性を見出したがった人たちと現実とのギャップ、そして第三者ができることについて話すと思います。

*1:"まちづくり"の成功例としてp.145以降で滋賀県長浜市の「黒壁」が取り上げられている。大手マスコミや多くの研究者に成功例として評価されている事例だが、地元あるいは一部研究者の間では懐疑的な意見もある。かつて"まちづくり"の調査のため現地でヒアリングし、現在、近隣の街で事情をある程度見聞きしている私は、後者の立場である。目を奪われるような施設を運営しているのは市外からの業者ばかりで、もともと地元で商売をしていた人たちはみんな域外に出てしまった。古い建物は残っているし、街は活性化したが、今の街並で元々の住民たちの生活を見ることはできない。京都の場合でも、同じ批判がある。町屋のブームで京都市内に進出してきたのは東京の業者ばかり。賃料が不相応に上がってもともとの業者や住民がやりにくくなったというのだ。銚子電鉄にとっても、銚子以外の不動産屋に買われたという苦い経験がある。"まちづくり"の目的と主体がなんなのか。単に観光客が来てカネを落とせばいいのか。そこらのバランスも考えねばならないのだろう

*2:ただ、前回も述べたが、この文書では銚子電鉄について全く言及されていない

2008-02-05

katamachi2008-02-05

[][]橋下徹大阪府知事大阪高速鉄道と大阪外環状鉄道の廃止・売却を検討する

 もと大阪府民として、ABC「ムーブ!」の視聴者として、橋下新知事の施策には非常に興味があります。で、

大阪府知事に就任する橋下徹氏(38)は4日、府幹部との協議の中で、83の府立施設のうち、中之島図書館大阪市北区)と中央図書館東大阪市)の2施設以外は「不要」との考えを明らかにした。

「図書館以外は不要」橋下氏、大阪府施設の廃止・売却検討読売新聞、2008.02.05

と発言したんですね。今晩、寝ようとしたら図書館と博物館と大阪高速鉄道 - 一本足の蛸で知りました。朝日だと朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?

  • 見直し 81施設
  • 出資法人民営化 46団体のうち42団体

 どれが対象となるのか完全に明示されていませんが、大阪府ホームページ大阪府の指定出資法人を見ると、「府が25%以上かつ最大出資(出捐)の法人又は「府の事務事業と密接な関係のある法人」は全部で46法人。

 以下、「21世紀の大阪のシンドラー(いや、逆にヒトラー?)」こと橋下府知事の粛清に遭う「ハシモトのリスト」。

財団法人大阪国際平和センター

財団法人アジア太平洋人権情報センター

財団法人千里ライフサイエンス振興財団

財団法人大阪府文化振興財団

財団法人大阪府男女共同参画推進財団

財団法人大阪府青少年活動財団

財団法人大阪21世紀協会

財団法人大阪府マリーナ協会

財団法人大阪府育英会 →セーフ

財団法人大阪府国際交流財団

株式会社大阪国際会議場

社団法人大阪国際ビジネス振興協会

財団法人大阪府地域福祉推進財団

財団法人大阪府保健医療財団

財団法人大阪がん予防検診センター

社会福祉法人大阪府総合福祉協会

社会福祉法人大阪府障害者福祉事業団 →セーフ

財団法人大阪産業振興機構

財団法人大阪府産業基盤整備協会

株式会社大阪繊維リソースセンター

大阪府中小企業信用保証協会 →セーフ

財団法人大阪労働協会

財団法人西成労働福祉センター →セーフ

大阪府職業能力開発協会

財団法人大阪生涯職業教育振興協会

財団法人大阪府みどり公社

株式会社大阪府食品流通センター

財団法人大阪府漁業振興基金

株式会社大阪鶴見フラワーセンター

大阪高速鉄道株式会社

大阪府道路公社

財団法人大阪府公園協会

大阪府土地開発公社

堺泉北埠頭株式会社

大阪府都市開発株式会社

大阪外環状鉄道株式会社

財団法人大阪府下水道技術センター

泉大津港湾都市株式会社

大阪府住宅供給公社

財団法人大阪府都市整備推進センター

財団法人大阪府タウン管理財団

財団法人大阪府水道サービス公社

財団法人大阪国際児童文学

財団法人大阪府スポーツ・教育振興財団

財団法人大阪府文化財センター

財団法人大阪体育協会

 あと、

なんかもいっぱいありそう。毎事業年度、法人の経営状況を説明する書類(「経営状況報告」)を作成し、議会に提出することが"義務付けられていない"のです。たとえば、JR東西線を造った関西高速鉄道は、大阪府大阪市の出資比率は共に22.5%(現、23.9%)ですし、尼崎市、兵庫県の出資比率を足しても創設時には50%未満となるよう調整されていました(後で削除)。赤字や借入が悲惨な状況でも情報公開の義務がないんですね。そこらもオープンにしてくれるのなら、もう僕は府民じゃないけど、橋下さんを褒めやりたいと思います。

半分も廃止・売却できないというのに1000万ジンバブエドルを賭けてもいい

 選挙前からそれに近いことを言っていたので、その点では驚きはないのです。一方、大阪府2007年8月に出資法人のあり方総点検の結果について(案)を出しています。その両者を比べると、今後の展開がなんとなく見えてきます。

 正直、株式会社大阪国際会議場のように、経済団体や自民党府議が大反対しそうなところもたくさんある。彼らの支援を受けている新知事がそれらを切り捨てられるはずもない。そもそも、「不要』との考えを明らかにし」て、「廃止・売却の検討を行うよう指示」しただけです。夏頃には、「検討はしたけれど、やっぱり」と前言を翻すのは間違いない。図書館とか、自民党府議団が猛反対しそうな大阪府中小企業信用保証協会を事前に外すなど、そこらは巧妙に予防線を張っていますね。

 僕はもと府民で地方財政好きと言うことでニュース全体に興味はあるのですが、やっぱり気になるのは鉄道関連会社

があります。これに準じた出資をしているのは、前述の関西高速鉄道株式会社(23%)と北大阪急行電鉄(25%)。この五社かなあ。大阪府がそれなりの割合を出資している鉄道は。

 記事で明示されているのは、

大阪高速鉄道などを対象に、民営化などの検討を進める

の一件のみ。

 このうち、本業である鉄道部門がかなりヤバい状況にあるのは、大阪高速鉄道と大阪外環状鉄道、関西高速鉄道の三社でしょう。

 ちなみに、東京都副知事に転身した猪瀬直樹『週刊文春』07年3月1日号に書いた記事によると、

<主な「公社」・「三セク」借金ランキング

第三セクター■(借金額ワースト20)

1位 東京都地下鉄建設       4879億円

2位 首都圏新都市鉄道茨城県)  3207億円

3位 関西国際空港用地造成(大阪府)2669億円

4位 横浜市建築助成公社      2594億円

5位 関西高速鉄道(大阪府)    1836億円

6位 茨城県開発公社        1455億円

7位 東京臨海副都心建設      1345億円

8位 横浜市道路建設事業団     1303億円

9位 竹芝地域開発(東京都)    1129億円

10位 東京テレポートセンター    1000億円

11位 多摩都市モノレール東京都)  969億円

12位 神戸港埠頭公社         946億円

13位 北総鉄道千葉県)       935億円

14位 埼玉高速鉄道          784億円

15位 おかやまの森整備公社(岡山県) 694億円

16位 北海道農業開発公社       669億円

17位 横浜高速鉄道          660億円

18位 びわ湖造林公社(滋賀県)    638億円

19位 東京港埠頭公社         634億円

20位 石川県林業公社         623億円

第三セクター(全6466社)合計 7.1兆円】

ということになつているらしい。借金額は金融機関からの借入金、社債、自治体からの融資の合計額で、その算出方法については議論が分かれるのでしょう。漏れている団体も多いように見える。

 でも、東京都地下鉄建設(都営地下鉄大江戸線)、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、多摩都市モノレール北総鉄道埼玉高速鉄道横浜高速鉄道……と、ワーストランキング上位に関東の第三セクター鉄道会社が名を連ねている。

大阪府系の第三セクター鉄道会社3社を考えてみる

 さて、この<主な「公社」・「三セク」借金ランキング>で、大阪の関西高速鉄道は全国ワースト五位の借金額1836億円です。もともとJR東西線の地下線建設のために造られた会社です。建設費約4000億円から過去10年間にJR西日本から受け取った線路使用料を差し引けば、それぐらいの借金がまだあるというのは推測できる。

 この鉄道も、1988年に設立されたとき、一日の利用者数は50万人とか60万人、1997年の開業直前に下方修正したときも20万人とか言っていたのに、現実には開業から10年経っても13万人とかそこらに留まっている。また先に言ったように、大阪府大阪市も「法人の経営状況報告の義務」がないんで、経営の詳細がいまだにオープンになっていない。市議や府議ですらアプローチできないというのは大問題だと思います。

 大阪高速鉄道の場合、借入金残高は07年3月末で104億円。それと、大正時代なら"箕面の山猿でも乗せる気ですか"(元ネタ山田線とは - はてなキーワード参照)と大阪府議会で質問されかねない彩都線という"超お荷物路線"がここ数年で開業している。

 大阪府ホームページ大阪高速鉄道株式会社の財務状況を見ると、01年度から6期連続単年度黒字を出していて、06年度も当期利益4億円を計上していることが分かる。ただし、見直しをした06年度でも、大阪府財政から"委託料"として9億円が計上されている(府の負担は、05年度は13億円、04年度は66億円)。委託料ってどういう性質のものか不明である。この他、過去に負担金・分担金・出資金……と言う名目でどれぐらい金額が投じられたのだろう。ここは、神戸高速鉄道と同様、今でも大株主である阪急や京阪(阪神や近鉄、南海も同比率出資)に売却という手もありそう。でも、彩都線は両社ともいらないんだろうな。

 そして、一番気になるのは、大阪外環状鉄道株式会社(JRおおさか東線)。コスト削減をしてきた旨をさかんにアピールしていますが、これほど"政治的な路線"というのを私は大阪で見たことはない。

 正直、これは東大阪市(旧布施市域)の政治家さんたちの"政治路線"です。

 ここで旅客列車の運転を請願し始めたのは布施市の時代だから50年以上前。そこで市長をやっていたのが、塩川正十郎の父親なんですね。で、1981年、国鉄に無理矢理、外環状線の建設を指示するのですが(ただ翌年の閣議決定で凍結)、その時の運輸大臣は塩川ご本人。第三セクター会社として90年代半ばに再出発しようとしたときも、JRは嫌がっていたし、大阪市も消極的だったけど、何だかよく分からない経緯で建設が決定してしまいます。

 この線の開業は来月15日。不思議なことに、開業するのは計画区間の半分。なぜか、その多くが東大阪市域なんですね。これについてはいろいろ語りたいこともあるのですが、それはまた別の話。

<参考>大阪外環状線→おおさか東線ネタ

大阪外環状線は「おおさか東線」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

6年前に書いた"大阪外環状線"未成線ルポ - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

橋下徹大阪府知事、大阪高速鉄道と大阪外環状鉄道の廃止・売却を検討する - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

 さて、こんな時、私の"天敵"で民青の親玉である大阪府議会の共産党議員団あたりに、鉄道建設反対ぐらいやって欲しいのですが、あの人たち、空港とかの大規模開発には反対するけど、鉄道建設には諸手を挙げて大賛成しているんですね。いまだに"市民のため"、"選挙の票"に繋がると錯覚しているらしい。大阪市長選でも、今里筋線の今里以南への延伸をずーっと主張し続けているのは彼らです。ああ、大阪府議会はドロ船。いち早く府外に脱出して良かった……と強がりを言うのも寂しい限りなのですが、それもまた別の話。

追記 第三セクター鉄道「神戸高速鉄道」の株式

 上で大阪高速鉄道の案件の参考で示した神戸高速鉄道の件。資産査定は順調に行っているようです。

 神戸市が阪急阪神ホールディングス(HD)に経営を委ねることを決めている第三セクター「神戸高速鉄道」の株式譲渡をめぐり、市と阪急阪神HDの双方が二月中にも、神戸高速の資産査定を終える見込みであることが二十一日分かった。今年夏にも神戸高速社員の雇用や譲渡する株数などの大枠を固め、交渉を本格化させる。二〇〇九年春までに、市は阪急阪神に株式を売却する方針(中略) 神戸市は同社株の40%を持つ筆頭株主、阪急阪神はグループで19・9%を持つ。市が保有株の30%強を譲渡し、阪急阪神が経営権を握る案などが検討されているもよう。市にとっては初の“民営化”案件となる。神戸高速は阪急阪神の傘下入り後も子会社として存続するか、分割して阪急、阪神などに資産を引き継ぐのか-なども注目される。

資産査定2月に終了 阪急阪神と交渉へ 神戸高速鉄道神戸新聞

 本文にもありますが、阪急阪神と給与体系や雇用ルールが異なる神戸高速鉄道社員(約百五十人)の雇用確保が焦点となるのでしょう。技術部門も間接部門も、阪急阪神HDが社員として引き受けられるだけの余力があるのか……ということですよね。ここらの調整は大変そう。

2008-02-03

katamachi2008-02-03

[]銚子市の「銚子電鉄問題への市の対応について」という文書を読んでみる(銚子電鉄その2)

 さて、

ただ、一つ物足りない点がある。一通り読み通しても、説明されていない事柄があまりにも多すぎるのだ。

と終わった前回の「【9】がんばれ!銚子電鉄 ローカル鉄道とまちづくり - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の続き。

第3弾はヨソ者が勝手に銚子電鉄の再建策を考えてみたけど(銚子電鉄シリーズその3) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

 「がんばれ! 銚子電鉄」の中で、銚子電気鉄道鉄道部次長である著者は、"奇跡の復活"に関する当事者ならではのエピソードを紹介した上、最後の第5章で"コンパクトシティ"という概念を持ちだしている。そして

銚子電鉄を存続させるためには、銚子という町そのものの問題に取り組む必要があるのではないか(p.139)

とし、銚子の"まちづくり"の一環として銚子電鉄の存続問題を捉えていくべきではないかという考えを提案している。

 著者としては、銚子電鉄社員である自分たちの将来像を思い描く中で、"まちづくり"が大切だという結論に至ったのだろう。近年、都市計画の視点からLRTなど次世代型交通機関について言及する論考ではおなじみの考え方であり特に違和感はない。

がんばれ! 銚子電鉄

がんばれ! 銚子電鉄

 となると、ここに当然出てくる疑問。すなわち、

という2つの問いかけに対する答が必要となる。そこらの理屈をこしらえ、市民から市長まで納得せねば公金投入→銚子電鉄復活というシナリオは書けない。

 ところが、実際はどうだろう。当事者である銚子市役所、銚子市議会、そして銚子市民はどう考えているのだろうか。一生懸命支援組織を作って活動している人がいる一方、消極的、無関心の層が少なくないとも思える。銚子市の市域は広いし、銚子電鉄と無縁な銚子市民もたくさんいるだろう。

 さて、関係者が、銚子電鉄の存続運動を進める上で、どうしてもクリアーしておかねばならないハードルが一つある。銚子市が、2006年12月27日付に市長名で出した「銚子電鉄問題への市の対応について」という文書である。今回は、銚子市や市民と銚子電気鉄道との間にある方向性の違いについて指摘しながら、鉄道会社と"まちづくり"の関係について考えていきたい。

2006年夏まであまりにも危機感が薄かった市役所と市議会と市民

 前市長が銚子電鉄の欠損補助をやらないと発言してから4年、そして国交省の検査で危機的な状態に追い込まれてから1年以上経つが、銚子市役所の動きを見ている限り、会社支援へ積極的に動き出そうという気配はいまだに見られない。

 一つには、今回の経営危機の原因となった銚子電気鉄道前社長による不正経理問題はまだ解決していないからである。前社長が1億円を越えるお金を私的に流用してしまい、銚子電鉄がそれを弁済せねばならなくなった。それがいくらになるのかも不明。このおおもとの問題に道筋が付かない限り、存廃について議論を進めるのは難しい。補助金が債権者救済に転用される危険性が拭えないからだ。とはいえ、銚子電鉄側もまだ前社長側との交渉が未解決なので、使途不明金の額を公表することは難しいのかもしれない。

 もう一つには、著者である鉄道部次長が夢描くような"まちづくり"→"銚子電鉄の存続"というイメージ造りがまだ市民や市役所の中では共有し切れていないという点がある。銚子電鉄は観光客の利用するものであり、市民の交通機関としては終わってしまったと素直な感想を吐露する市民や市議すらも少なくない。

 そこで、今回の騒動の原因となった出来事について、銚子市議会議事録を参考に整理してみよう。

  • 1990年 銚子とは無縁の不動産屋、内野屋工務店が銚子電鉄を買収→大規模開発に対する一抹の不安
  • 1995年 ぬれ煎餅の販売を開始
  • 1997年 同年度で国の欠損補助が打ち切り
  • 1998年 内野屋工務店の破産→資金借入に難渋し始める
  • 2002年4月 同年度で県の欠損補助が打ち切り銚子市単独に。同年度の銚子電鉄の欠損損失額は1,600万円。
  • 2002年8月 銚子市長選。現職市長を破って野平匡邦(旧自治官僚)が初当選
  • 2003年12月 野平市長(当時)が、「本来の目的である公共交通機関としての寄与度は、実は非常に低いというふうに思っております。つまり銚子市民は、ほとんど乗らないと」と*1。近代化補助については10億円ぐらい最終的にかかるとした上で、欠損補助金に対しては銚子市としては今後出さない旨の発言をする。

 ※地元紙報道として、バス転換すれば"2億円の得"という試算があったらしい

  • 2004年1月 内山健治郎銚子電鉄社長(当時)が銚子電鉄名義の借入金を借金返済に回していたことが発覚し、銚子電鉄取締役会で社長解任と報道。
  • 2004年3月 銚子電鉄運行対策協議会が「銚子電鉄の今後のあり方について」と答申を発表。銚子市は、貸し付けを含め応分の支援をすべきとしたが、市長は黙殺
  • 2004年4月 市などの補助金を中止(近代化設備整備費補助。前年度は1112万円)。1969年度からの35年間で欠損補助と近代化補助は国・県・市あわせて16億円

 ※市議会議事録によると、補助金が打ち切られた2004年度でも単年度では黒字だった

f:id:katamachi:20080203121628j:image

 ※05年度の乗客数1792人/日。ピーク時の3割弱。銚子市観光協会や旅館組合、町内連協などが電車存続を願って約8万名の署名。銚子市議会も全会一致で採択。再生問題協議会において運行維持が必要と判断された場合、銚子市銚子電鉄、市民等による「銚子電鉄再生支援協議会」を正式に発足させ、運行維持のため行政、市民、地元企業等が一体となって行う具体的支援策を盛り込んだ再生計画(おおむね5年間程度)をつくる予定だった

 ※野平前市長は2006年3月定例会で「19年度の補助金も無理だということになりますと、その間にどういう事態が発生して運行がどうなっちゃうのかという非常に危険な事態も発生されます」と発言。他の市会での発言を見ている限り、野平としては銚子電鉄廃止やむなしの方向へ持っていきたかったというのが推測できる

ということになる。

 正直、2006年夏まで市役所も市議会も市民も、旧態依然とした署名やPR活動以外、何も動きらしい動きをしてこなかった。それが、7月以降、市長選で岡野新市長の誕生、内山前社長逮捕、国交省の検査で極めて厳しい意見……と市政と会社を巡る状況が一変する。

 このわずか5年の間で、市長が二度も変わって政争や対立が相次いでいたり、銚子電鉄の前社長の不正流用問題が浮上したり、国交省から設備改善を求める声が出てきたり……と、銚子ならではの事情があったことは致し方ない面もある。

 でも、県の補助が打ち切られた2002年、いやもっと前から、選挙戦でも市議会でも市民の間でもきちんと銚子電鉄の将来像について語っていれば、もう少し違った展開を見せることができたかもしれない。銚子の市長や市議の名前で検索すると過去の政争についてネガティブキャンペーンを張ったサイトをいくつか見つけることができたが、その情熱の一部でも銚子電鉄について向けて欲しかった。と、ヨソ者が後からぼやいても仕方はないんだけどなあ。


銚子市長名による「銚子電鉄問題への市の対応について」という文書

 さて、本論に戻そう。

 基本的に上の年譜を使ってここ5年ほどの出来事を追うと、

  • 不正発覚→補助金中止→運転資金の枯渇→経営危機

という流れであったことを把握することができる。

 となると、

  • 前社長の不正の解決→市などの補助金再開→運転資金の確保→将来を見据えた事業計画の策定→設備近代化への投資

というのが、銚子電鉄復活のための解決の糸口となるのだろう。

 ここで気になるのは、当の地元の銚子市の動き。ぬれ煎餅騒動以降、「なぜ銚子市銚子電鉄の支援に一生懸命やらんのや」*3というご意見やご批判が山ほどきたのだろう。今でも市のホームページのトップに、冒頭で紹介した銚子電鉄問題への市の対応についてという文書がリンクされている。

 ここで「近代化補助を行うための条件」として、

  • 1.事業計画の提出→実現性のある事業計画が未提出
  • 2.前社長不正借入問題の解決→債権者及び債権額が未確定
  • 3.経営状況等の公表→経理状況等を市民に公表すべき
  • 4.自己負担分の確保→近代化補助に係る自己負担分を現段階で確保できていない

の4点が指摘されている。その上で「事業改善命令を受けての市の見解」として、

  • 鉄道の安全確保へ向けた会社側の最大限の努力を望んでいます。
  • 『財政的支援』については、『近代化補助を行うための条件』が満たされた段階で国、県と相談しながら早急に検討します。

の2つの要望を述べている。これは並大抵の施策でクリアーできる問題ではない。

 銚子市議会での2007年6月の市長の答弁を見てみると、

その後、市は銚子電鉄に対し実現性のある事業計画の提示を要求しておりますが、現時点で銚子電鉄側から実現性のある事業計画は提出されておりませんので、正式な協議は行っておりません。そのため、実施する設備整備の具体的な経費についても市に示されておりません。(中略)してくれない、してくれない、補助してくれないといいますが、市民の大事な税金を底の見えない、いわば底なし沼に銭を投げるようなことはできないということです。やっぱり貴重なお金は慎重に扱っていきたいと、そのように考えております。

としている。「市長や市役所は本気で救済する気がないのでは」「再建へのハードルが高すぎるのでは」といぶかる向きもあるようだが、国なり県なり市なりの税金を投じるならば当然必要なことだろう。前社長の不正借入問題には、千葉地裁が2007年7月に執行猶予付きの判決を出している。でも、不正借入の金額や被害者が確定しない段階で、銚子市が税金を投じるというわけにもいけない。

 で、銚子市は、ぬれ煎餅騒動からこの1年、具体的に何をしているのかというと……どうもカネのかからない宣伝程度のことしかしていないらしい。銚子市企画部長が2007年6月定例会で「銚子電気鉄道につきましては、銚子電鉄対策プロジェクトチームをさらに強化し、観光振興と一体となった銚子電鉄のPRなどを行って支援していく予定でございます」と言及しているけど、今さらPRというのもズレた話である。

 銚子電鉄問題への市の対応についての「プロジェクトチームの実績」という項目に市側の取り組みが記載されているが、「PRに努めます」とか「呼びかけました」とかそういうのばかり。「銚子電鉄の存続に向け最大限の努力をしています。」の割には役所の自己満足程度のことしかできていない。フイルムコミッションやPR活動で鉄道を取り上げられてなんとかなるほど生やさしい問題ではない。

 市議会の答弁を見ると「市側からアドバイスをしては」とか「自主再建案のほかにも第三セクター民事再生法等の方法も視野に入れた再建案を考えるべきでは」との意見もあったようだが、事態の解決はまず会社次第……と傍観を決め込めているらしい。でも、前社長の不正流用にこだわって思考停止に陥っている現状では、市民に問題提起をすることすらできない。

 ここで市長や市役所、そして市民たちがやらねばいけないのは、銚子という自治体の"まちづくり"をしていく中で、銚子電鉄をどのように位置づけていくのか、自分たちの手で考え抜くことなのだろう。これは銚子電鉄鉄道部次長が本書で訴えかけていた理想とも合致する。その結果、廃止という決断が出たとしても致し方ない。存廃を判断するのは、市税を負担している銚子市民の責務でもあるからだ。


中心市街地地区の都市計画銚子電鉄を位置づけてこなかった銚子市

 ただ、銚子市役所は、都市計画や将来計画の中で銚子電鉄をどのように考えていくのか。近年、その課題にはあえて触れてこなかった。

 ぬれ煎餅騒動から半年後の2007年3月、銚子市銚子市中心市街地地区の都市再生整備計画を発表している。ただ、その計画書を見ても、

市街地の道路を整備改善することにより、良好な都市環境、都市景観を形成し、自動車交通及び歩行者の利便性、快適性の向上を図る。

とあるだけ。銚子電鉄に関する記述は一箇所もない。交通問題に関しては、鉄道やバスよりも、むしろ手狭な市道の整備拡充の方が注目されているようだ。まちづくりの基本プランの中で鉄道をどうするのか。市役所も市長も市議会議員イメージできていないのだろう。

 もちろん、市民も市役所も、ある程度、銚子電鉄に対する思い入れはあるのだろう。町のシンボルととしての雑然たるイメージも持っていると思う。

 ただ、正直なところ、人口7万人の銚子市民にとって、鉄道存続のプライオリティーはさほど高くないのかもしれない。一民間企業である銚子電鉄に財政支援を行うことに批判的な意見も当然ながらある。銚子市銚子市議会でも醒めた意見があるのは否定できない。平成18年6月定例会*4平成18年9月定例会*5を参照のこと。

 前項では、銚子市の姿勢を批判してみたが、銚子市が電鉄の支援に積極的になれないという気持ちもある程度は理解できる。実際、今の銚子電鉄に資金を投じて何とかなるのか。市会も市役所も踏み込んで発言できないのは、銚子電鉄支援問題と市財政問題とが直結していることを自覚しているからだろう。

 銚子電鉄を取り巻く課題は上の「近代化補助を行うための条件」として挙げられている4点以外にもいくつかある。

  • 銚子市の財政事情が深刻になりつつあって、億単位の支援をする余裕がない。04年に公営国民宿舎を閉鎖し、08年には2校ある市立高校の一つを閉校する。
  • 2007年段階、銚子市民にとって、銚子電鉄よりむしろ銚子市立総合病院の問題の方がより切実だった。病院財政もかなり大変になっているらしいし、医師不足で2ヶ月ほど入院患者受け入れを止めていた
  • 銚子市は、千葉交通(銚子電鉄のもと親会社)の路線バスにも支援を行っている。07年度は長崎線千葉科学大学線など銚子電鉄の並行路線も含む3路線合計で1,162万円。並行する鉄道とバス。両方に財政支援続けるというのは難しいだろう(下の写真は電車を追い抜いていく千葉交バス)。

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……などなどそれぞれ解決しづらい事情があるということもなんとなく推察できる。

 ただ、市民と市役所がやる気にならないと、物事は何も進まない。国交省は「次年度の国土交通省鉄道局の目玉は「がんばる地域・事業者を支援」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」でも紹介したように、やる気のある自治体とそうでないところの選別を始めている。昔のように全国の赤字ローカル鉄道へ同じような補助金を出していた……という時代はとっくの昔に終わってしまった。昨年10月1日に施行された地域公共交通の活性化及び再生に関する法律と連動して打ち出された施策を見ていると、その線引きはかなり高くなっている。

 それは千葉県も同様だ。いすみ鉄道の存廃問題がクローズアップされ、千葉都市モノレール北総鉄道、成田新高速線……とやややこしい三セク系鉄道をたくさん抱えている中で、銚子電鉄にだけ特別に支援の手をさしのべることはできない。市民以外の県民を納得させるだけの意欲と根拠が必要である。

 そうした国や県を納得させるための下地を造っていくこと。それこそが、いま市役所と市民に求められていることなんだろう。でも……実際はどうなんだろう。銚子電鉄マスコミやネットで大々的に取り上げられる一方、それ以外の関係者から前向きな言葉はなかなか発信されてこない。そこが一番悩ましいところなんだろう。

 もちろん、そうした私の指摘については、「がんばれ!銚子電鉄」の著者である鉄道部次長が一番よく分かっているはず。次回はヨソ者が勝手に銚子電鉄の再建策を考えてみたけど(銚子電鉄シリーズその3) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月は、その著者が提案したプランについて考えていきたいと思う。

<参考>

銚子電鉄と国立公文書館に行ってきました。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

「週刊こどもニュース」を見て、ローカル線問題について考えた。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

ぬれ煎餅と銚子電鉄に可能性を見出したがった人たち(銚子電鉄シリーズその4) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月


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*1市議会で言及

*2:「国の考え方としては、銚子電鉄の前社長の不正借り入れなどによりまして、鉄道事業の運営に大きな支障が発生をするというふうに心配をしてきていると。特にある企業がと言っておりますが、銚子電鉄に対して払うべき売掛金債権、すなわちぬれせんべいを大量に売っていただいている東京の某巨大企業に対して、いわゆる街金業者が差し押さえの手続を裁判手続として正式にやってきたと。したがって、銚子電鉄が当てにしていたこの再建の回収はその場でフリーズされてしまうということで、これが数千万円のオーダーのお金でございますので、資金繰りがここでそれだけ見込みが食い違ったということで、相当長期にわたるトラブルになるであろうということを鉄道部長から知らされました。そういう状況を見て、資金繰りに相当心配が近い将来起こるのではないかという判断をされたのが今回の訪問の背景のようでございます。さらに、お国としては、大勢の市民から存続要望の出ている銚子電鉄に対し、銚子市が何らかの判断を示すべきではないかということを、市に言ってきたと、こういうことでございます。

*3大阪弁なのは他意ありません

*4:「銚子電鉄の残すか残さないという物の見方、考え方というのは、観光資源として残すのかあるいはお客様を運ぶために残すのか、論点が別れると思うんです。自分は観光資源として残すのがいいのか悪いのか、この議論をやっぱり最重要課題にしてほしいな。人を運ぶためであれば、簡単に言えばもう役目は終わったのかなと思うんですけれども、今でも存続し、レトロな部分で皆さんから親しまれ、フィルムコミッションでも大いに活用されているこの銚子電気鉄道は、銚子の観光の資源として生かすのか、残すのか」

*5:「例えば、このままでいったら銚子電鉄への補助金だって、正直言って私は地元ですので全面的に支援をしたい。市立病院だって本当に存続をさせたい。思っていますが、今の財政状況と個別企業の状態、事業状態だとか、例えば銚子電鉄を見れば、かなり想像以上の状態だと思う。」