とれいん工房の汽車旅12ヵ月

鉄道関係の時事ネタを紹介するブログです。趣味の外縁部に転がっている、生活には役に立たない情報を中心に語ります。廃線、未成線、LRT、鉄道史、遊覧鉄道、鉄道マニア、鉄道本書評、海外の鉄道、マンガ、アニメ...etc。 「鉄道未成線を歩くvol.8 東京の新線構想2030」など同人誌を書泉グランデで販売中。

2010-03-30

katamachi2010-03-30

[][]「新・鉄道廃線跡を歩く」が発売されました。

 本日3月30日、JTBパブリッシングから新刊「新・鉄道廃線跡を歩く」が発売されます。

 廃線ブーム、そして廃墟ブームの火付け役となった同社の旧シリーズ第1巻が刊行されたのは1995年だから15年前。それから10作品が発行されてきました。今回はそのリニューアル版となります。

 発売されたのは「北海道北東北編」「南東北関東編 」「北陸信州東海編」「近畿中国編 」「四国九州編 」の全5巻。各巻の冒頭にあるのは宮脇俊三に代わって編者となった今尾恵介の「地形図でたどる廃線跡」。その後、旧版から選りすぐられた約50線×5巻=約250線が写真新撮りで掲載されています。

 僕は旧版の第3巻から第10巻まで参加させてもらっており、そのご縁で、今回も「近畿中国編」51線のうち14線の執筆に携わりました。

http://www.rurubu.com/book/detail.aspx?isbn=9784533078613

新・鉄道廃線跡を歩く4 近畿・中国編

新・鉄道廃線跡を歩く4 近畿・中国編

 掲載している内容は9割方、旧シリーズと同じなんですが、最初の刊行から6〜15年経っていますからね。廃線跡のゲンバはかなり様変わりしています。当時、フォローできていない物件も多々あります。なんで、取材も写真も文章もゼロからのやり直しでした。

 最初の取材に淀川貨物線跡へ入ったのは10月下旬。以降、断続的に近畿各地を回りましたが、取材日を捻出できず、なかなか順調にはいきませんでした。切羽詰まってきた12月は毎週末取材。大晦日も取材。正月も3日から取材。

姫路モノレール手柄山駅跡で封印されてきたロッキード式モノレールを見る。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

あけましても関西の鉄道廃線跡をあちこち歩く仕事 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

 この間、「オタクが趣味を断念するとき。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書きましたように、引越→入籍結婚式→慰安旅行.....という人生の節目となる出来事が続いたのですが、本書の〆切と見事にバッティングしました。引越翌日に取材。結婚式前日&当日&翌日に原稿執筆。慰安旅行当日午後まで執筆。あらゆる意味での修羅場が続きました。

 先週末、東京で完成本5巻をいただき、今、パラパラとページを捲っています。

 サイズがB5版と大きくなったこともあり、掲載写真はそれなりに大きくなっています。文字や地図も見易くなりました。それでいて定価は1800円に据えられており、お得。あと、地域別にまとめられているので、一冊の本としてはかなり読みやすくなっています。

 惜しむらくは、せっかく姫路モノレールプレス取材に混ぜてもらって手柄山駅でロッキードモノレールを撮ってきたのですが、ページ割りの関係でモノレール写真が白黒ページになったこと。なんで、カラー写真を載せておきます。

 あっ、もう一つ。完売していた「おおさか東線城東貨物線」の再版ができて、先週末から大阪梅田旭屋書店本店でまた置いてもらっているのですが、それはまた別の話。

D

f:id:katamachi:20100330025414j:image

f:id:katamachi:20100330025416j:image

f:id:katamachi:20100330025415j:image

f:id:katamachi:20100330025413j:image

新・鉄道廃線跡を歩く1 北海道・北東北編

新・鉄道廃線跡を歩く1 北海道・北東北編

新・鉄道廃線跡を歩く2 南東北・関東編

新・鉄道廃線跡を歩く2 南東北・関東編

新・鉄道廃線跡を歩く3 北陸・信州・東海編

新・鉄道廃線跡を歩く3 北陸・信州・東海編

新・鉄道廃線跡を歩く5 四国・九州編

新・鉄道廃線跡を歩く5 四国・九州編

2008-07-10

katamachi2008-07-10

[]「宮脇俊三鉄道紀行展」と娘さんの新作紀行本

客観的な視点に立ったすがすがしい紀行文。その原点ともいえる旅のメモ(取材ノート)や、取材時の記録写真、旅先からの書簡等を通じ、宮脇俊三の旅の世界へと皆様をいざないます。

「宮脇俊三と鉄道紀行展」世田谷文学館

 宮脇俊三が亡くなって今年で5年になる。

 彼の住んでいた世田谷区立の世田谷文学館(京王線芦花公園駅から徒歩5分)で「宮脇俊三鉄道紀行展」が週末の7月12日から開催されるらしい。

  • ご長女の宮脇灯子氏による監修のもと、初公開となる資料を数多く含む、宮脇俊三関連資料を一挙公開します
  • 宮脇俊三の、「時の旅人」としての側面をご紹介します

というのが主な内容。『時刻表2万キロ』全線完乗地図、「宮脇俊三作・国鉄非監修」の手描き時刻表、『最長片道切符の旅』乗車ルート手描き図なども展示されるらしい。

 また、その監修を担当している宮脇灯子氏(俊三の長女)の新刊「父・宮脇俊三が愛したレールの響きを追って」も今日発売されたとか。30年前に宮脇が「時刻表2万キロ」を刊行した日(1978年7月10日)にあわせたんだね。

 まだ文学館の展示を見ていないし、宮脇灯子氏の新作も読んでいないので、なかなかコメントができない。宮脇俊三好きの1人として、

とは思う。"鉄道への愛"とか"汽車旅の楽しさ"とかいう要素は誰にでも語ることはできる。彼は、その先を追求していたからこそ、多くの人に愛され、評価されてきたんだと僕は思うから。とりあえず、いい展示と本であることを期待しているのだけど、それはまた別の話。

 ちなみに、招待券をいただいたのですが、そのデザインマルス券っぽいデザインでした。中の人に好きな人が1人いるんだね。

f:id:katamachi:20080229221647j:image

2008-03-12

katamachi2008-03-12

[][]【12】有川浩「阪急電車」と車内での人間ウオッチング

 発売直後、大阪梅田のブックファースト(阪急系)で買い求めた有川浩の「阪急電車」。

 うーん、この人、ラノベの人だよなあ(『図書館戦争』は未読)。書名だけで鉄オタが買っても仕方ないんだよなあ……と勝手に思いこみ、ずーっと積ん読にしていました。

 今朝、布団の周りを掃除していて1ヶ月半ぶりに発掘。ようやく読んだのですが、なかなか面白かった。

 物語が進行するのは阪急電車。その中でも筆者が指摘するように「全国的知名度が低い」であろう今津線がその舞台となる。

阪急電車

阪急電車

 電車に一人で乗っている人は、大抵無表情でぼんやりしている。視線は外の景色か吊り広告、あるいは車内だとしても何とはなしに他人と目の合うのを避けて視線をさまよわせているものだ。そうでなければ車内の暇つぶし定番の読書か音楽か携帯か。

 だから、

 一人で、

 特に暇つぶしもせず、

 表情豊かな人はとても目立つ。

有川浩「阪急電車」p.8

 冒頭、宝塚駅発西宮北口方面行きの今津線電車に乗り込んだ青年、征志が登場する。隣に座るのは、宝塚中央図書館で因縁のあった見知らぬ女性。

 そこから行きずりの出会いと恋愛が始まり、それが次の宝塚南口駅、逆瀬川駅、小林駅、仁川駅、甲東園駅、門戸厄神駅、西宮北口駅、そこで折り返して再び門戸厄神駅……と16本の短編小説が並べられている。

 そこに登場する互いを見知らぬ人物たちが次の物語へ、さらに次の物語へ……と数珠繋ぎに関連し合い、再び、宝塚駅に戻ってくるまでに大きなストーリーが紡ぎ上げられていく。

 今津線の利用者なんて毎日10万人はいるのだろうけど、そんな乗客一人一人にそれぞれ物語は隠されている。自分の隣に座っている人。楽しそうに、嬉しそうに、不機嫌そうに、悲しそうにしているけど、はたしてどんなことを考えているんだろうか。あまり直接にジロジロ顔を覗き込むことはできないにしても、いろいろ想像してみるだけでも興味深い。そんな人間ウオッチングの楽しみなんかを再確認させてくれる本だったと思う。

 小学生かおばあさんまで幅広い登場人物が織りなす人間模様、ほのかな恋愛感情、微妙な人間関係なんていうのがが物語の主軸となっている。文章も手慣れたモノだし、かといって会話文で手抜きしているわけでもなく、かなり読みやすい。萌えとかネコ耳とかオタク属性は全く出てこないし、もちろん鉄道趣味知識、そして阪急について全く知らなくても大丈夫。今でも書店では平積みになっていることが多いと思うし、手に取ってみることをオススメする(鉄道マニアでもいけるでしょう、たぶん)。

 最後に、鉄道趣味的に興味深かったのは、

  • 僕らが「阪急マルーン」と呼ぶあの色は「えんじ色」と表現されている。ちょっと色合いが違うような。あえて言うなら、こげ茶色やチョコレート色というところか。
  • 「レトロな内容が個性的な車両」で、「若い女性からも『かわいい』と好評を博して」いて、「女性観光客などは、『オシャレ!』とびっくりするほどだ」ということらしい。そう言われると、阪急と全く関係ない僕でも、なんだかちょっと嬉しい。
  • 西宮北口駅が大阪と神戸の中間点で、そこから分岐する今津線は様々な物語が潜んでいそうな落ち着いたところ……というのは関西の人間なら納得できる物語設定
  • 宝塚南口駅は宝塚ホテルが近くにあるだけの寂れた駅。一方、小林(おばやし)駅は、年配の女性によると「あそこはいい駅だから」ということらしく、そこに住む若い女性も「住みやすい町」と評価している。ここ、不動産選びのポイント。
  • 宝塚駅を出て武庫川を渡る鉄橋の下にある中州が印象的
  • 西宮北口〜今津間は物語から割愛。「西北から向こうは悪いの?」と問いかける女の子のセリフが邪悪……(一応、阪神国道駅と今津駅もフォローされている)

f:id:katamachi:20080312221719j:image

というところか。

 いやあ、これを読んで僕も今津線に乗りたくなった。舞台となったシーンを捜している読者なんかも多いんだろうな。そーいや、「涼宮ハルヒの憂鬱」もモデルは西宮市の阪急沿線だったなあ。手塚治虫なんかもそうだけど、小林一三が作り上げたあの都市空間は確かに物語を紡ぎ上げたいと思わせる独特の雰囲気がある。週末、おおさか東線に乗りに行くついでに遠征してこようかな……とも思ったのですが、それはまた別の話。 

2008-02-20

katamachi2008-02-20

[]【11】「満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う」を一応は読んでみた。

 他人と体を押し付け合い、へとへとになりながら通勤電車に揺られる毎日にうんざりしながらも、いつしか諦めてしまっている人は少なくないだろう。しかし、著者の提案する3つのイノベーションを実現すれば、満員電車はなくなり、日本のサラリーマンは本当に豊かな生活を手に入れることができる。鉄道大国ニッポンが抱える最大の問題「満員電車」をあらゆる角度から検証し、旧態依然とした日本の鉄道業界に一石を投じる、渾身の一冊!

株式会社ライトレールの紹介記事

 角川書店の新しい新書レーベル"角川SCC新書"から出た「小池百合子衆議院議員推薦!」の一冊。

 2週間前に購入。東海道本線の電車の中で15分ほど斜め読みしてカバンの中にしまっていたのを読み返してみた。

 いやあ、いろんな意味で興味深い鉄道本を読みました。定価760円の新書だから、騙されて買っても文句はないでしょう。

山手線のラッシュ時輸送力を5倍に増やすのは可能だ

 著者は「満員電車の歴史は運賃抑制の歴史」というスタンスをとり、社会的要請で運賃を低く抑えてきたことが通勤混雑の原因だと指摘。その上で、

  • 創意工夫をすれば、供給(輸送力)を増やして満員電車をなくす方法はある
  • 価値とコストに応じた値付けをすれば資金調達も可能
  • 制度のイノベーションをすればコストは下がり、短期間で効果的に満員状態を解消できる

とする。

 その"イノベーション"というのは、

  • 「新たな信号システム」による機能向上(「列車位置検出」と「データ通信」と「運転指示」ができれば実現可能)
  • 「総2階建て車両」を導入すれば床面積が二倍に増える(従来の二階建て車のように扉二つ、階段で1・2階連絡とするのではなく、それぞれが完全に別々な空間とする。駅も二階建てに改良)
  • 「3線運行」で十分。複々線にするのではなく、複線を一線増設にする(半分以下の投資で可能。ラッシュと逆方向の列車は15両編成だと2本繋げて30両編成で)
  • 「鉄輪式リニア」で急勾配も安心(架線は不要だし「総2階建て車両」の導入も容易)

と"具体的な提案"を行っている。

 あと、ホームドアの性能を上げれば人身事故も防げるし高頻度運行も可能。「開かずの踏切」を解消するために自動車も乗せられるエレベーターを道路に設置。

 そして、「新たな信号システム」と「総2階建て車両」、「3線運行」、「鉄輪式リニア」により、現在、山手線で朝ラッシュ1時間あたり24本(2分30秒間隔)走っているのが、50本まで増やせるという。「総2階建て車両」も入れているから、都合、輸送力は4倍に増えるとの計算になる。さらに高加減速運行、短時間停車が実現すれば、現行の5倍となる。著者も書いているが「夢のような光景」だ。

 第3章は「運行方法のイノベーション」。「首都圏250万人×片道200円の追加料金×600回(/年)」を負担すれば、年間3000億円の資金調達ができると大雑把ながらも試算している。商品(通勤電車)の品質(着席か立席か)とコスト(通勤輸送の費用)にみあった運賃にすればなんとなかなる、らしい。

 第4章は「制度のイノベーション」。運転士の免許制度の簡略化を実施し、道路特定財源の一部を外部不経済(環境問題などに対する損失)の対策費に回し、自動車が適正に費用負担し……とかなんとか。

鉄道マニアと鉄道関係者の"ネタ"としていろいろ楽しめる本です

 さて、そろそろツッこんでも宜しいでしょうか。

 信号の話はそれらしいことを書いているけど私には実現可能性があるかどうかはを判断する知識がない。自分で調べようにも引用文献も参考文献もない。なんか、ここで書かれているようなことは以前も聞いたことがあるような記憶があるから、根拠がない議論でもないのだろう。たぶん。

 「総2階建て車両」はなんともはや。車両だけでなくホームも二層にすれば輸送力が二倍になる。法律や建築限界や、そうしたモノさえ気にならなければ、確かにそうだ。ただ、彼が例に挙げている山手線。これを毎日、現状のままで運行させながらそんな工事ができるのだろうか。あるいは脱線やら何やら事故が起きたとき。二階にいる人はどうやって脱出できるんだろう。

 「3線運行」もそうだ。増設した1線を時間帯によって上りと下りで分けて使う。そういう考え方もあってイイ。でも、複々線の「半額以下の投資で」とあるけど、複々線って、用地買収や高架線の敷設に多大なカネと手間と苦労が必要になる。3線でもそこは同じと思うけど、そんな簡単にいくのか? 15両編成の電車を2本繋げて30両編成……ってホームはみ出し運転を想定しているらしいけど、非常時は踏切はどうなる? で、踏切に自動車搭載可能なエレベーターというのも……

 「総2階建て車両」は東大の須田義大教授が1990年に論文を出しているらしい。でも、その後、20年近く、そこから先の研究が進んでいないと言うことは、まあそういうことなんだろう。また、東京大学名誉教授の曽根悟の原稿チェックを受けたらしい。「鉄道ジャーナル」誌やその他の雑誌などで鉄道マニアにもお馴染みの鉄道工学の専門家だが、かといって、彼のお墨付きを受けたのかどうかは不明。

 運行方法や制度のイノベーションも各論をただ並べているだけ。経済的根拠や数字、具体性のない提案は夢物語以外の何物でもない。

 疑問は膨らむ。でも、肝心の説明は全てスルーされている。

 ただ、著者は、最初の「はじめに」で

 満員電車をなくすことはできないのか。なくすためには具体的にどうしたら良いのか。本書では、そうした問題を考える材料を提示していく。

と予防線を張っている。

 「材料を提示」か。批判的にツッこんでも、「そうです。これは議論を巻き起こすための『材料』なんです」と言われればそれで話は終わってしまう。書評にも議論にもならない。まあ、「本気で取組めば必ずや実現できると信じ、思いをこの本にしたためた」とおっしゃっている。そうした感性に興味があれば読んでみるといい。あるいは、僕みたいにツッこみのネタとして読んでみるのも可能だ。

 そもそも本書の目的は、通勤鉄道に関する議論が起きること。それによって著者の本職である鉄道コンサルタントとしての仕事へ繋がっていく。

  たぶん、ご本人もリアルなセカイでは実現不可能ということを十二分に理解しながら書いているはず。なんせJR東日本に17年間務めた方なんだから……

交通や鉄道に関するコンサルティングって何をするんだろう

 そうなんです。個人的に興味があったのは、筆者の経歴。

  • 東京大学工学部修士過程修了
  • 東大博士課程途中退学して1988年にJR東日本に第1期生として入社
  • 1999年に「大前研一のアタッカーズビジネススクール」で大前賞を受賞
  • JRに17年間勤務した後、2005年に退社
  • 2005年株式会社ライトレールを設立し代表取締役社長に就任

ということらしい。ああ、池袋でLRTを導入しようと運動されている方か。以前、その動きを調べたことがあるのでここのホームページを見たこともあった。

 これまであまり具体的な実績も成果もはないようだが、銚子市議会議事録を見ていると、2006年1月に銚子市役所と「銚子電鉄再生問題に関する調査業務の委託契約」を結んでいる模様。ただ、同社の前社長が逮捕されたり、現職の市長が選挙で落選したり、銚子電気鉄道がぬれ煎餅でいろいろあったりしてその後の経緯は不明(「銚子市の「銚子電鉄問題への市の対応について」という文書を読んでみる(銚子電鉄その2) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」参照)。まあ、一応、ホンモノの鉄道にも関係していたということになるのだけど、コンサルタント業者の手に負える案件ではない。あれは。

 ホームページの別なところを見ると、小学校3〜4年の頃に

  • 排ガスを撒き散らし交通事故で多数の人を殺すクルマが、世の中で使われ過ぎている
  • 鉄道をもっと合理的に運行すれば、はるかに便利にできる

ということを考えていたと言うからかなり早熟な方なんだろう。で、その気持ちは今でも変わらないと。ふむふむ、純粋だなあ。いろいろ理屈っぽく書いているようにも見えるけど、やっぱり、ただのマニア?

 コンサルティングという仕事のジャンルがある。特定ジャンルに関する専門知識を活かしながら、企業や組織の問題点の分析、対策を担当するグループが行う業務のことである。企業や自治体なんかでは、独自で戦略を打ち立てるだけの人材や技量に欠けている組織が多く、バブルが終わった後も、コンサルタント業の人たちが活躍する場はたくさん残っている。著者と関係のある大前研一とそのグループなんかもその一つである。

 今まで仕事や趣味、プライベートで、「コンサルタント会社社長」という方たちに何度か会ったことがある。企業経営関係の分野と都市計画の分野。この手の人たちは、

  • なんか自信たっぷりなんだけど、どこか胡散臭さを漂わせている人
  • 専門分野に対して純粋に思い入れているけど、役に立たなさそうな人

の2種類に分かれるんだな……というのが正直な感想。ドライさとウエットさがない交ぜになった微妙な感じがした。

 で、一番大切なのは、初心者に対する「はったり」。根拠があるのかないのかなんてどうでもいい。学者みたいな論理だった批判も、僕みたいな外野からの揶揄も不要。ただ、施策に迷っている人間に対し、「お前はこの道に進めばいい」と決めつけてくれるだけでイイ。ある種、占い師みたいな存在だよな……と思ったりもしたのだけど、それはまた別の話。

2008-02-13

katamachi2008-02-13

[]【10】「国鉄最後のダイヤ改正−JRスタートのドキュメント」はとりあえず鉄道マニアなら問答無用で読め!

 正月の名鉄モノレール行きの際、JR名古屋駅構内の本屋で買ったのが進士友貞「国鉄最後のダイヤ改正 -JRスタートのドキュメント-」。これが面白かった。読書中は発見と驚きの連続だった。

国鉄最後のダイヤ改正―JRスタートへのドキュメント

国鉄最後のダイヤ改正―JRスタートへのドキュメント

分割民営化論議のすぐ側で実務的に関わってきた著者

 著者の名前は今まで聞いたこともない。そりゃあそうだろう。略歴を見ると、東工大卒で日本国有鉄道に入社し、47歳の時に国鉄分割民営化でJR東海へ移り、鉄道事業本部運輸部長としてダイヤ作成に参加し、後に専務取締役技術本部長を歴任。現在はジェイアール東海エージェンシーの監査役に就いているという。東海の重役さんだったんだけど、同社の社員ならともあれそれ以外の人間がその名前を知る機会があるはずもない。

 進士は、1983年から国鉄本社の経営計画室に勤務。葛西敬之(後にJR東海社長)や松田昌士(同JR東日本社長)、井手正敬(同JR西日本社長)らと国鉄改革の基本政策をまとめていく過程で、主にダイヤや経営の面を担当することになる。

 その過程のあれこれについての回顧録が本作となるんだけど、それがまためちゃくちゃ興味深い。

  • 分割民営化後の新会社をイメージすべく、ヨーロッパに渡って国際列車や国境駅の状況を調査
  • 国鉄線の路線分割案を担当。一時期、本州内を5分割する案が有力であったというのが面白い。現在の東日本のエリアのうち、東北新幹線と東北地方、そして上越新幹線と甲信越地区を2つに分けると共に、東京圏でも路線を分割する検討もさせられたとか。その際、上野〜大宮間は新幹線も在来線も共に他社へ相互乗り入れをする想定となる。「国鉄改革に熱心なM議員の意向を受けているのだろうか」とあるが、これは宮城県の運輸族三塚博のことなんだろう。
  • 3分割が基本的になっても、当初の有力案では北陸本線・大糸線の境界駅が糸魚川だったりと細部が異なった。最後の最後の段階で、関西本線の気動車の車庫の関係で、同線の境界駅は柘植でなく亀山に変更されている。

 引用していたらきりがない。鉄道マニア特にダイヤに関心がある層には宝物となるようなエピソードが満載されている。そして、そうした1つ1つのエピソードが読者に対し、当時、混乱の極みにあった国鉄について現場のトップたちはどのように動いたのか、それまで知らなかったセカイを見せてくれる。

 僕たちは、国鉄の分割民営化論議、そして分割され、民営化された後のJRについては先行する様々な文献からその事情を把握することができた。国鉄本社や政府を批判する労働組合側の本、あるいは"国鉄改革"の必要性を強調する本だとかいろいろ読んできたが、あまり面白くなかった。国鉄改革を批判するのも褒め称えるのも結構なんだが、それぞれの視点からの過度なバイアスがかかりすぎているので読者は辟易してしまう。JR化後、経営首脳が出した回顧録やJRの成功体験なんて本もまた同様である。

 本書の場合、国鉄本社でダイヤ改正の担当をしていた著者が自分の職域から見てきたことを回顧している。己の立場を正当化することもなく、ただ分割民営化のために必要な調査研究を行い、最後のダイヤ改正のデッサン造りを行っていく。論議と実際との過程では、国鉄本社内で様々な葛藤があった。"国体護持派"(分割反対派)と"改革派"とのパワーゲームと、突然の仁杉巌国鉄総裁の更迭による潮目の変化。どちらかに思い入れすることもなく淡々と事実だけを語ることでその背後にあった複雑さも読者は了解することができる。そうした計画の積み重ねをしていた地味な事務方たちがいたからこそ新会社への移行がなされたと言うことに気付く。

貨物会社や隣接他社のダイヤも尊重せねば……という熱い思い

 そして白眉は1985年から始まった1986年11月1日白紙ダイヤ改正の策定過程。新幹線スピードアップと地方都市での運転本数増を核にダイヤ編成が組み立てられていく。その現場の熱気が、担当の国鉄本社課長をしていた著者の視点で描かれる。

 現場を知らない人間として興味深いのは、よいスジを造るための関係者間の利害対立が事細かに紹介されている点だろう。各鉄道管理局間の境界駅での連絡を巡る調整。国鉄改革の国会審議に支障を与えないように展開された関係者への説明。独自色を強める管理局の新型車両争奪戦。優等列車と地方列車の調整。温泉会議をしていることがテレビニュースでバレないようにやっていた細かいマスコミ対策。話には聞いていたが、実際の現場ではこんな議論をしていたんだと驚かされる。また、宮城県古川のバレーボール部の女子高校生たちがダイヤ改正の陳情に水上温泉までやってきたとか、本社の課長が知らない地方の現場の機微も細かく拾い上げられている。与野党とも地元への利益優先ばかりで終始した1986年秋の国会論議。国鉄総裁による昭和天皇へのご説明の裏側。人々が去った後のがらんどうとした1987年3月の国鉄本社。そして……

 貨物輸送を守ろうとするスジ屋さんたちの奮闘も興味深い。ヤード系貨物輸送が完全に解体されることで意気消沈している現場。全国一律の貨物会社に移行しても、どう考えても勝算が見込めない。そんな彼らのためにも「少しでも良いダイヤを造って置きみやげを残していかねば……」と各自が取り組み、東海道本線など各地で高速貨物列車が誕生する。

 国鉄が全国1つで動くこともこれが最後だ……という諦観が本社でも漂っている。分割民営化後は、ダイヤ編成のスジ屋さんが1つの場に集まることはなくなるに違いない。将来像も不透明。彼らの職場も人間関係もバラバラに分散させられていくことは分かっている。それでもなんとか新しい鉄道会社を造りたい。良いダイヤを造って新会社への礎にしたい。そんな筆者やスタッフたちの誇りと責任感、そして一抹の将来への不安が人々の言葉の端々から漏れてくる。ああ、あの混乱の時期を実務で支えていた人たちはこんなことを考えていたのか……と20年後の今、改めて思い知らされる。

 著者はJR東海の重役を経験したんだし、名古屋を中心とした旅客の話に絞ればいい。なのに、あえて鬼っ子的存在だった貨物会社に多くの頁を割いて、旅客と貨物との調整の大切さについて何度も言及する。境界駅で接する他社との関係もそうだ。直通列車云々のことについては今の現場ではあまり触れられたくないのだろうが、それでもあえて国鉄分割民営化が始まる前のエピソードが紹介し、それぞれの連携の必要性を訴えかける。

 著者のように国鉄改革を近くで見ていた世代が60歳代半ばを過ぎ、彼らが経営の一線から退こうとしている。JR各社は独立独歩の道程を今以上に強めていくのでは……という漠然とした危機感もあるのかもしれない。いま経営の中枢にいるスタッフへ、そして駅や車両の現場で働く人たちにも、かつて日本には日本国有鉄道という組織があったと言うことを伝えたい。なんとか一本の線路で鉄道が繋がっていたときの機微も思い出して欲しい。親方日の丸的な色彩の強い組織だった国鉄の良い面を次世代に伝えたい。そんな良い意味での責任感と義務感を本書に感じた。それが国鉄回顧録として出色の出来になった一因なんだろう。

 とりあえず、国鉄・JRのダイヤ改正なんかに興味がある人、国鉄改革について知りたい人なんかは是非読んでほしい。分割民営化から20年経った年にこのような本と巡り会えたことに感謝したい。とにかく読め! と、いつもと書き方を変えてみたのですが、それはまた別の話。