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TRUE COLORS

2018-07-21

DVDで『スリー・ビルボード』

 正直、それほどDVD化を心待ちにしていた作品ではありませんでした。「娘を殺された母親の、犯人捜しへの執念を描く」というテーマは、ちょっと気が滅入りそうだし、やたら不機嫌なオバサンとか凶暴そうな警官とか、あんまり気持ちの良いとはいえない人々がたくさん出てきそうだったから(笑)。

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 でも、この予告編の、ミステリーなんだかコメディーなんだか正体不明なところは気になる。

 主演のフランシス・マクドーマンドからは、どうしたってあの『ファーゴ』(1996)を連想するし、あの作品と似たような、殺人事件の絡んだちょっとブラックな笑いを含んだミステリーなら、まあすごく好みのタイプの作品ではないかもしれないけど、暑気払いにはいいかな〜? くらいの気持ちで見始めたのです。

 ところがどっこい、見終わってみたら、これが・・・

 も〜、スンバラシイではあ〜りませんか!!(意外な素晴らしさで、ヘンな訛り方しちゃう・笑)

 ブラックな笑いもあるけれど、それだけではありません。じっくりと、心の深いところに訴えかけてくる内容です。そして、

  思いもかけず、様々な「許し」が散りばめられた、とてつもない優しさを湛えた物語であったのです。あんなにも、暴力と、差別と、不機嫌さに満ち満ちていながら。

 

 今年観た新作DVDの中では、私の心のツボにハマったという点では、今のところダントツ1!であります。


 以下、感想交じりで、ストーリーをおさらいしました。ネタバレバレです。

 

 主人公は、3人いる、と言って良いと思います。

 まず、ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド.。私と同い年。・・・え〜!?・笑)。

 彼女は娘をレイプして焼き殺した犯人を挙げられない警察に対し、道端のでっかい3枚の広告看板にその思いをぶちまけるというエキセントリックな方法で再捜査をしぶとく要求します。

 地元で敬愛される警察署長ウィロビーを名指しで糾弾したために多くの者を敵に回すことになりますが、決してメゲないどころか、あくまで徹底抗戦の構え。

 気が強い、というのを通り越して、ちょっと頭のネジが飛んでしまっている感もある口の悪〜いオバサンです。

 白人ですが、人種差別主義者ではありません。

  

 次に、暴力的なクソ警官、ディクソン(サム・ロックウェル)。

 このお話の舞台であるミズーリ州は特に人種差別の激しい地域で、黒人に対する警官の暴力がしばしば問題になっています。そんな目茶苦茶な警官の実情の体現者であるようなディクソン。

 単細胞ゆえか、ボスである署長への敬愛の念はことさら深く、署長を追い詰めるミルドレッドや彼女を助ける者たちに対して、激しく怒りをむき出しにしてキレまくります。

 アカデミー賞では「助演賞」となっていたけれど、この人も主人公の一人だと言えます。

 

 この二人は、共に、他者へ怒りを隠さず、容赦のない凶暴な牙をむきだし、かえって物事をややこしくさせてしまうタイプです。

 同時に、潜在意識の中で、他者に対してだけでなく、自分自身への失望や憤りを抱え込んでいるようでもあります。

 この二人の、ダメダメな部分や隠されたヤワい部分に寄り添えるか寄り添えないかで、作品の評価は大きく変わってくるのかもしれません。

 

 ミルドレッドの方は、生前の娘に最後に投げかけてしまった酷い言葉を、後悔しています。

 車を貸す、貸さないでもめた挙句、「それなら、歩いていくわよ!レイプされたって知らないからね!」という娘に、「勝手にすれば!レイプされればいい!」と、応戦。それが最後の会話になり、娘は本当にレイプされて殺されてしまったのです。これは確かに後悔しないわけがない状況です。

 が、それだけではなく、別れた元夫とのやり取りをはじめとして、彼女自身の激しい性格故の日頃からのトラブルが、次々と浮かび上がってきます。

 彼女は、人種差別がまかり通っているこのミズーリという土地柄にも、DVヤローのうえに自分の娘と同じような年ごろの女と同棲中の元夫にも、いつも腹を立てていたのでしょう。そこへもってきての娘のレイプ殺人事件と、犯人が捕まらないことへのイラ立ち。

 なおいっそう他者へ攻撃的にふるまい、落ち込むよりも行動し続けることで、自分がガラガラと崩れてしまうのをやっとこさ堪えているようにも思えます。

 でも、だからって物事解決するわけでもなく、もっとフクザツになってしまうこともあるわけです。

 

 ディクソンの方は、おそらくゲイなのだけれど、そのことに自分でも気が付かないフリをしているのかもしれません。ABBAが好きなことも、軟弱そうに思われるから、ナイショです。おまけにマザコンで、精神的な母親からの支配から逃れられず、いい年をしてその母親としょぼくれた二人暮らしという有様です。

 そんな自分が、実は世の中から差別される側にあるのだという隠れた自己否定感が、彼を凶暴なレイシストに仕立て上げているのかもしれません。

 自己を絶対否定されたくないから否定される前に他者を否定する、という、世の中を悪くしていく根源の一つのパターンを、見事に体現しているようなディクソンです。

 

 そんな二人の欠点や潜在意識に気が付いているのが、警察署長のウィロビー(ウディー・ハレルソン)。3人目の、大事な主役です。

 ミルドレッドに無能を追及されても、ディクソンが切れまくることで迷惑をこうむっても、署長は決して怒らず、穏やかに話し合おうとする、人格者です。

 彼のモットーは、「愛」であります。仕事を愛し、仲間を愛し、地域を愛し、家族を愛しています。

 他人の欠点も大らかに受け入れ、クソみたいな世の中とのバランスをとりながら、自分ができる最善の努力をしようと心がけます。

 実はすい臓がんという病を抱え、余命いくばくもない彼は、だからこそ他者への愛と寛大さを持ち得ているのかもしれません。

 

 ディクソンはウィロビーのことを父親のように慕っています。あるいはそれ以上に、ゲイゆえの特別な感情を抱いていたのかもしれません。

 ミルドレッドもまた、名指しでウィロビーの無能さを糾弾しているかのようにみえながら、実は、彼の誠実さと死を目前にしているからこその底力に、一縷の望みを託してみたかったのかもしれません。

 

 広告看板のせいで周囲からのバッシングはあったものの、娘の事件は再び脚光を浴びることとなり、署長は再び捜査に全力を尽くすことを約束してくれました。

 ディクソンは、ミルドレッドの仕事仲間に嫌がらせをするなど、コスいやり方でじわじわミルドレッドに攻撃を仕掛けてきます。

 でもある意味、娘の事件を風化させないということでは、効果が出てきた感も見えてきます。

 

 ところが、そんな最中、ウィロビー署長が思いもよらぬ形の人生の幕引きをしてしまいます。自殺です。

 それは、いよいよ病状が重篤になってきたことで、愛する家族に介護の負担をかけたくないという思いからの自死でした。

 家族との最後の一日の過ごし方からは、たとえ死を選んでも、それは絶望からではなく、愛ゆえの選択だったことがわかります。

 それでも町中から慕われていた彼の自死は、周りに大変なショックを与えます。

 

 

 特にディクソンは、ウィロビーの死を知り、人目もはばからず泣きわめいて嘆き悲しみます。

 また、署長の死の原因はあの広告看板のプレッシャーのせいだと感じる人は多く、ミルドレッドの立場はいよいよ厳しいものになります。

 そして、ある夜、3枚の広告看板は、何者かによって焼き討ちにあってしまいます。

 

 これまでか、と、落ち込むミルドレッド。さすがに気弱な表情もみせます。

 しかし、看板は、思いがけない味方(ヒミツだけど、ここもポイント。)がミルドレッドに現れたことで、再び再生することになり、ミルドレッドの攻撃性も再び盛り返します。

 

 看板の再生にいよいよブチ切れたディクソンは、看板を管理している広告会社の代表レッド(ミルドレッドの味方側)を生贄にして、半殺しの目に合わせたことで、警察はクビになってしまいます。

 ミルドレッドの方もブチ切れます。報復に、警察署を焼き討ちしてしまうのです。看板を焼いたのもディクソンに違いないと思い込んでいたからでしょう。

 この二人のブチ切れ方の半端なさが、二人の心の闇の深さを象徴しているようです。

 

 ところが、誰もいないと思っていた真夜中の警察署には、ディクソンが居たのです。ウィロビーが彼に遺したという遺書が、署内に遺されていたので、コッソリそれを読みに来ていたのです。ミルドレッドにも、それは全く予想外のことでした。

 そして、このウィロビー遺書の内容が、重要ポイント!です。

 それは、自己否定とキレやすさの泥沼であえぐディクソンを救いあげ、抱きしめてくれるような文面でした。

 それを読みながら、またしても号泣のディクソン。

 しかし、狂犬ディクソンの心が、死者からの言霊で癒されたか、と思われたその瞬間・・・ミルドレッドの放った炎が、彼を火だるまにしてしまうのです!

 

 でも、すでに一瞬前に、ディクソンの心は、以前とは違うものになっていたのです。

 彼が火だるまになりながらやったことは、ミルドレッドの娘の事件の調書を、炎から守ることでした。

 それはウィロビーの遺志を守ることであり、自分の生きる意味をつなぐことだったからです。

 

 ディクソンは何とか一命をとりとめ、ミイラのように包帯でぐるぐる巻かれて病室に運ばれました。

 そこには、ディクソンが半殺しにしたレッドが、やはり全身を包帯にまかれて、隣のベッドに横たわっていました。

 新入りの重症患者を誰ともわからず、レッドは親切に語り掛けます。そして、実はそれが自分をボコボコにしたディクソンだと知ったレッドの行動は・・・ヒミツです。観てのお楽しみ(笑)。ただ、『レッド、お前はナンテイイヤツなんだ〜〜〜』と、叫びたくなるようなワン・シーンであったとだけ、言っておきましょう。(笑)

 

 さて、ウィロビーの言葉で心に変化の兆しが見えたものの、酷い火傷を負い、職も失ったままのディクソン。

 ある日、バーで一人飲んでいると、後ろの席の男の話し声が耳に入ってきます。それは、「過去のレイプ自慢」でした。しかも、状況がミルドレッドの娘の事件とそっくり

 ディクソンは、男にわざと喧嘩を吹っかけて、相手の皮膚片を採取する、という荒業にでます。

 もしこの男が真犯人なら、男の逮捕はウィロビーへの供養になるだけでなく、自分自身をも救うきっかけになるはずでした。

 

 一方ミルドレッドは、警察署焼き討ちのときに、その場に居合わせながら彼女をかばってくれた小人症のジェームスと、デートをすることになりました。

 ジェームスは、ミルドレッドに素直な好意を抱いていますが、ミルドレッドの方は、「小男」のジェームスをどこか見下しているようなところがあります。

 デートを承諾しておきながらムッツリと不機嫌で、人からの優しさも受け入れず、また、与えることも拒むような彼女に、ジェームスは失望して席を立っていきます。

 その時、ミルドレッドは、自分の中に欠けている「何か」に、気づいたようでした。

 自分もまた、誰かをゆえなく差別する側の人間だったのだ、と気が付いたのかもしれません。

 

 そしてまた、偶然そのレストランに居合わせた元夫から、彼女は思いがけない事実を知らされます。

 広告看板の焼き討ち犯は、ディクソンではなく、この元夫だったのです。

 自分が怒りにとらわれて、間違った思い込みをしていたことに、彼女は気が付きます。

 では、あらためて元夫に対して報復するのか・・・? いいえ、彼女はそうはしませんでした。

 

 『怒りは怒りを来たす。』

 ようやくそのことの不毛さに気づいたミルドレッド。

 しかもそれは、ミルドレッドがこバカにしていた、元夫の同棲相手の小娘が語った言葉なのでした。

 そして、ウィロビーがミルドレッドに託した遺書の中にも、同じようなことが書かれてあったのです。

 ミルドレッドは、元夫に、「この子を大事にしてあげなさい。」と告げて、去っていくのでした。

 

 一方、ディクソンが命がけで採取した例の男のDNAは、結局ミルドレッドの娘の事件の犯人の者とは一致しませんでした。

 真犯人の手掛かりが消えた今、ディクソンには新たな生きる意味探しが必要になっていました。

 そこでディクソンは、娘の事件の犯人ではないものの、他のレイプ事件の犯人には間違いないであろうその男を探し出す手がかかりはある、ということをミルドレッドに告げます。娘の事件の犯人ではなくとも、レイプ犯には制裁を加えるべきではないか、と。

 ディクソンはミルドレッドに、ある意味似た者同士の匂いを感じたのかもしれません。

 ミルドレッドは、それに乗ることにします。

 ミルドレッドは、これまでいろいろ迷惑をかけてもずっとそばにいてくれた息子に・・・そしてディクソンも、ずっと一緒だった母親に・・・それぞれにそっと別れを告げて、銃を携え、共に車に乗り込むのでした。

 

 ミルドレッドとディクソン。

 はじめは相いれない磁石の同極のようだった二人は、ウィロビーの介在や、その他の周囲の者から受け取る思わぬ啓示によって、最後は全く新しい関係性を持つところに行きついていきます。

 今やこの二人は、同じように「怒りの時代」を経て、自分の欠点に向き合い、死者の言霊に癒され、許し許されることの必要性を学んで、これからこの先の道を探っていく、「同志」ともいえる間柄になっていたのでした。

 そして、暴力と愛に満ちたこのお話は、ようやく終わりを迎えます。

 

 二人は本当に、これからレイプ犯を捕らえに、あるいは殺しに行くのでしょうか?

 それは・・・わかりません。

 観客にわからないだけでなく、ミルドレッドにもディクソンにも、先のことはまだ、わからないのです。

 何しろ二人は、怒りと自己否定にとらわれていた過去と同じ二人ではないはずなのです。

 もしかしたらその旅は、新しい自分を探しに行くスタートになるのかもしれません。

 ただ、彼らが走り出した車の中で交わす短くそっけない会話から、この先の二人の生き方への想像が、ただただ広がっていく・・・そんな素晴らしいラストでありました・・・。

 

 あ、そうそう、この時ミルドレッドは、「警察署に火を放ったのは自分だ。」と告白するのですが、その時のディクソンの受け答えが、これまた・・・思わずディクソンの肩をパシッとはたいて、彼に一杯奢ってやりたくなっちゃうようなセリフでありました。

 人って、どんなヤツでも、いくつになっても、きっと成長できるんだね!ヨカッタ!(笑)

  

 

 

SPYBOYSPYBOY 2018/07/23 19:24 役者さんの演技も凝った脚本も素晴らしい映画でしたね。舞台はアメリカですけど、ひねりに捻ってあるところはイギリスっぽいと思いました。3人ともかっこよかったし。
ただ、個人的には暴力描写がきつかった。ほんとに痛そうだし(笑)、見ているのがつらいところもありました。暴力がなければ成り立たない話だから仕方がないですが、見るのに根性が必要な映画でもありました。

kataomoimamakataomoimama 2018/07/24 19:01 SPYBOYさん、コメントありがとうございます。
暴力シーン、私も苦手です。バイオレンス・アクションは最近『鋼鉄ジーグ』とか『キングスメン』とか『キックアス』とかでだいぶ慣れてきたとは思うのですが(笑)、この作品のようなリアル暴力のほうが、キツイですよね。おもわず「ウゥッ!」と声が出ちゃいます。