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TRUE COLORS

2018-01-21

DVDで 『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

ネタバレ有りの感想です。

D

 

〈 主人公エンツォは、犯罪だらけのローマ郊外の街で孤独に暮らす、腹の出始めた中年チンピラ男。盗みや、ギャングの下請け仕事で食いつなぐ日々。

 そんな情けないエンツォは、ある時、アヤシイ放射性廃棄物にまみれてしまったせいで、なんと鋼鉄のボディーと怪力を手に入れてしまう。けれど、パワーの使い道は、せいぜいATMをぶち壊してカネを盗むことぐらいしか思いつかない。

 Youtube配信された盗みの様子は、世間の度肝を抜き、正体不明の怪力男として有名になるが、そんなこともエンツォにとってはどうでもいいこと。手に入れた金でアダルトDVDと大好物のヨーグルトをたっぷり買い込んで、一人、薄暗い部屋で過ごすだけ。

 

 しかし、アリッシアとの出会いが、エンツォの人生を変えていく。

 

 アリッシアは、やはりチンピラの父親を持ち、虐待されてきたせいか、少し頭のヘンな女。日本のアニメ鋼鉄ジーグ』(永井豪原作で、イタリアでもかつて放映されて大人気だった実際のアニメ)のDVDを片時も放さず、ジーグの世界と現実が入り混じった妄想の世界の中で生きている。

 父親と一緒に仕事をしていたエンツォのスーパーパワーを目撃したアリッシアは、彼を、行方知れずの自分の父親を救うためにアニメの世界から現れたヒーロー「鋼鉄ジーグ」だと信じこむのだった。

 一方、エンツォは、アリッシアにヒーロー扱いされても戸惑うだけ。彼女の父親が仕事の最中に殺されたことを言い出せないまま、彼女との奇妙な同居生活をはじめる。

 

薄暗い部屋で過ごすことは変わらなくても、今のエンツォは一人ではなく、アリッシアとソファーに並んで腰かけ、いつものヨーグルトも一緒に食べながら、アダルトではなくて『鋼鉄ジーグ』を見ている。アリッシアは、エンツォに、世界を救うためにそのパワーを使うべきだと繰り返すが、エンツォは、ただアリッシアとの暮らしが続けばよいと思うばかりだった。彼はアリッシアを愛し始めていた。

 

 しかし、極悪非道のチンピラリーダー、ジンガロの魔の手が二人に迫っていた。ジンガロの狙いは、もはやアリッシアの父親が持ち逃げしたのかもと疑っていたヤクだけでなく、エンツォの持つパワーの秘密だった。 彼もまた、ナポリの女ボスから命を狙われる絶体絶命の危機だったのだ・・・ 〉

 

 ・・・と、ここからが本番。

 エンツォとアリッシアの関係の接近、ジンガロに人質に取られたアリッシアの運命、女ボスとジンガロの攻防、パワーを得てテロリストに変貌したジンガロと正義に目覚めたエンツォの戦い、などなどがアップテンポでハゲシク描かれていきます。

 

 これが何のジャンルに属するか?と言えば・・・「純愛活劇」ってところでしょうか。血しぶきドバドバの活劇部分にはちょっと引いてしまうところもありますが、純愛の部分の方は、私はかなり好きですね〜。

 エンツォは強力なパワーを手に入れますが、見た目は少しも変身するわけではなく、ただのオッサンのまま。(ちなみに演ずるクラウディオ・サンタマリアは42,3歳くらいです。)中身(ココロ)も大して変わらず、やっぱりショボくて孤独。でも、そんなエンツォのココロが、ちょっと頭のヘン(=純粋)なアリッシアによって癒されていく様子が、いいですね〜。「世界を救って」と言われても戸惑ってのらりくらりとするばかりでアリッシアに嫌われ、逃げ出すアリッシアを引き留めるために彼女の乗った市電を体で止めて脱線させたりして、パワーの無駄遣いをしちゃうところなんか、カワイイ(笑)。

 しかし、本当に彼女を失ってしまったとき・・・ようやく、自分のパワーを何に使うべきかに目覚め始めるのです。 

 

 彼女の存在は無くなっても、彼女を大切だと思えた時間があったことが、エンツォの中身を変えていくのですね。「出会いは奇跡、愛は生きる力。」なのであります。そういうテーマの作品はいくらでもあるものの、こんな風に、あり得ないアニメチックで不自然な設定の中で、主人公たちの心情を嘘臭くなくナチュラルに描き出しているところが、なかなかにエライ。

 

 アリッシアを演じる女優さんが上手いですね〜。妄想の世界に漂って現実逃避をしているようにみえながら、実は現実(=生きていくこと)にとって何が一番大事なことかをわかっている。そんな不思議なアリッシアを、独特の浮遊感で演じています。

 

 もちろん極悪ジンガロのほうの極悪ぶりも、引いてしまうとはいえ、見ものです。( 演ずるはルネ・マリネッリ。『ニーナ ローマの休日』でニーナが恋する相手役。 http://d.hatena.ne.jp/kataomoimama/20150516/p1   『グレイト・ビューティー 追憶ローマ』にも出ています。)こいつの頭のイカレ方と残虐ぶりは半端が無さ過ぎて、実はイケメンだということにも気が付かないほどです。イタリアンポップスを流しながら血みどろのコロシを楽し気に動画にとって、Youtubeにアップしちゃうのです。そういうイカレぶりや破滅を徹底的にグロく描くからこそ、アリッシアとエンツォの純愛や素朴な正義感も、より引き立つのでしょうね。エンツォの、あくまで普通のオッサンぶりが、むしろカッコよく見えてくる。

 

 そしてなんといっても大好きなのは、ジンガロとの戦いを終えて一人静かに街を見下ろすエンツォが被る、「ジーグのマスク」。これ、アリッシアがずっと編んでいた毛糸の手編みのマスクなんです。ラストのエンツォは、ようやくアリッシアが信じた『鋼鉄ジーグ』になるのだと心を決めたかのように、そのカラフルでキュートなマスクをかぶるのです。

 もちろん、アニメの鋼鉄ジークは超合金ロボットなので、エンツォは鋼鉄の体を持つとはいえ、本当にジーグになったわけではありません。ただ、アリッシアの望んだ「何者か」になりたい、と思ったのでしょう。この先、人類を救えるかどうかは別としても、きっとその思いは、少なくとも彼自身のことは救うことができるはず。

 エンツォ、頑張ったね、と、言ってあげたい。そんなラストなのでありました・・・。