この実験にインシテミル?『エクスペリメント』

『エクスペリメント』鑑賞。スタンフォード監獄実験という実際に行われた心理学の実験を元にドイツで映画化された『es』のアメリカ版リメイク作品。

老人ホームの職をクビになってしまった男が新聞に書いてあった高額の報酬が得られる実験に参加。それは看守役と囚人役に別れて二週間生活するというもの。暴力を振るった瞬間に報酬は無くなり実験は終了するというルールの元、一日目がスタートするのだが……というのがあらすじ。

ルドヴィコ療法のような生理的に受け付けない映像集を延々観客にも見せるとか、暴力を使えないかわりに屈辱を与える行為を行うとか、とにかくこちらの神経を逆なでさせるような映像が続くのは見事。正直、エイドリアン・ブロディはどうでもよいのだが、人間が持つ二面性を両方うまく演じ切ったフォレスト・ウィテカーはピカイチの演技。というか、この人こういう役最近多くないか?

オリジナルの『es』はあくまで「実験」がメインであり、この実験を見守る監視員がいて、一日、一日が終わるごとにカウンセリングをしたり、やりすぎた者には注意を与えたり、さらには外部の人間と接触させたりして、実験であることをかなり強調した設定になっている。故にその安心感みたいのが徐々に崩壊していき、実験を監視していた監視員や責任者までもが狂気にみちた看守役の人間にとっつかまったりしてハラハラドキドキが加速していくのだが、リメイク版ではこの監視員の存在が皆無で、「暴力を振るったらゲームオーバー」というルールがかなりあいまいに設定されている。あくまで画面に映し出されるのは「実験している人のみ」であり、どんどん暴走していく実験者を見ながら観客は「おい、いったい外部の人間は何を見てるんだよ」という疑問をずっと頭の片隅に置いて見なくてはいけないのだ。

であればそれこそ邦画の『インシテミル』のようにもっと不条理かつ理不尽なゲームとして描くべきだったのではないだろうか?というよりもこの『エクスペリメント』という作品、ハッキリ言って出だしからゲームが始まるまでの流れが『インシテミル』とかなり酷似している。海外配給も決まったなんてニュースがあったが、まさか影響されているのか?

まぁ、そのルールを取っ払ったおかげで、看守と囚人に別れたら人間はどうなってしまうのか?という部分がよりむき出しになったことは否めない。オリジナルに沿った部分も多いが、リメイク版のみ登場する拷問シーンは、さすがアメリカの刑務所は違うねーと言いたくなるほど強烈だ。当然囚人もより凶暴に設定されており、シンプルになった分、暴力拷問映画としては鋭く仕上がった。

ということで『es』のリメイクというよりも『インシテミル』の金がかかった版として観たほうがしっくり来るかもしれない。まぁハッキリ言っておすすめはしないが、『es』を観ていて、それがすごく楽しかった人のみ観るといいかも、あういぇ。

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