『ブレラン』以降の近未来描写のごった煮『トータル・リコール』

トータル・リコール』鑑賞。いわずとしれたシュワちゃんの大ヒット作のリメイク。

そもそも原作にあたる『追憶売ります』は平々凡々に暮らしていた普通の男が実は……というありがちなプロットながら、それを「もしかしたら俺は本当の俺ではないのかもしれない」というディック的なアイデンティティの揺らぎ目線から描いた小品であり、アクションも控えめで、ミステリーの要素が強い(しかし、なぜかおっぱいを出して主人公を誘惑するというシーンがある)。当然火星に行って大暴れという展開もない。

その主人公が「もし火星に行っていたらどんな活躍をしていただろうか?」というのを膨らませ、大胆に脚色したのがご存知ポール・ヴァーホーヴェン監督の『トータル・リコール』である。

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ヴァーホーヴェン版の『トータル・リコール』は原作を映画用にうまく脚色している。火星で活躍していた記憶を書きかえられたという部分を活かしつつ、それが果たして本当なのか?本当の記憶はどれなのか?と、あやふやなままもう一度、自ら火星に行って、アイデンティティを確かめるという映画オリジナルのアイデアは巻き込まれ型サスペンスとの相性がいい。

しかも一部の民衆が結託して立ちあがり、それを先導する救世主というのはそのまんま『マトリックス』にも通ずる話であり、予言者の存在や「実はこの世界はウソなのかもしれない」など共通する部分が多く、いかにこの作品が影響を与えたかがよくわかる(というか、監督のウォシャウスキー兄弟がディックの原作に強くインスパイアされてるということなのだろうが)。

そしてヴァーホーヴェンならではの悪趣味テイストが前面に押し出され、「鼻の奥にある発信器を取り出す」、「おばはんの顔が真っ二つに割れ、中からシュワちゃんの顔が出てくる」、「おっぱいが3つある女が出てくる」などといった印象的なシークエンスも多く、ハリウッドの娯楽大作としては、一般の人も、映画を浴びるほど観るようなファンも満足するようなインパクトのある作品に仕上がったのではないだろうか。

さて、そんな偉大なオリジナル作品をコリン・ファレルでリメイクするという噂を聞き、おいおい大丈夫か?と危惧していたのだが、フタをあけてみると、これが実によくできている。いや、よくできていると書くと語弊があるだろうが、少なくても及第点+アルファくらいの魅力はじゅうぶんある。

リメイク版『トータル・リコール』は『ブレードランナー』以降の近未来描写のごった煮だ。富裕層が暮らす場所と労働者が暮らす場所が離れているという設定に変えられているが、この労働者が住む街の描写がとにかく見事。つねに雨が降りつづけ、住人は唐傘をさし、ケバケバしいネオンには漢字とカタカナが並び(今作ではハングル文字も加わっている)、主人公が空を見上げ、「あなたの人生を変えます」というリコール社のCMを見たりと、そのオマージュは顕著。『ブレラン』以降、今ひとつパッとしなかった近未来の街描写の中では決定打になったのではないだろうか(『トゥモロー・ワールド』というまた別な世界観を持つ作品は置いといて)。

この『ブレラン』的な街を使い、パルクールアクションをメインに映画を組み立てたのは大正解。良い意味でも悪い意味でも軽さが目立つが、一度見ただけではすべてを把握できないくらい作り込んだ街の中をぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ね回るだけで楽しく、そこからホバーカーを使ったチェイスなど見せ場はてんこ盛りである。

さらにオリジナルファンへの目配せも忘れてはいない。これみよがしにオリジナルのシークエンスをなぞり、思わずニヤリとしてしまう個所は多数で、出来ればこのリメイク版を観る直前に、ヴァーホーヴェン版を観ておくと、より楽しめること必至だ。

しかし、その街を離れてからの後半が弱く、そこからも描写はどこかで見たような感じになってしまうのが惜しい。それでもターミネーターのごとく主人公を追いかけ回すケイト・ベッキンセイルや、無重力空間で戦うというセンス・オブ・ワンダーなど、補ってあまりある魅力に包まれてはいるが。

というわけで、なんやかんや言いたいことはあるが、アメリカでコケたという前評判以上のおもしろさに興奮した。あの未来都市を是非スクリーンで体感していただきたい。しかし、ぼくが観たスクリーンが悪いのか、やたらと画面が暗く、あまり細部を確認することができなかった。再見するときはブルーレイになるだろう。

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http://d.hatena.ne.jp/globalhead/20120814#p1

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