又吉よりも笑える?『スクラップ・アンド・ビルド』

又吉直樹じゃない方の芥川賞『スクラップ・アンド・ビルド』を読んだ。

大変失礼な書き出しではあるが、そういう意味でも話題になっているので説明は不要だろう。しかし、又吉*1のライブに来たお客さんのなかでわずか3人しか『火花』を読んでなかったように、この作品も作者の受賞時のパフォーマンスだけがひとり歩きしてるきらいがあり、ぼくの周りでも読んでる人はひとりもいないのが現状である(親父くらいかな)。

痴呆症でもなければ、どこかが麻痺して動けないというわけでもない祖父を介護している孫が主人公。そこそこ元気にもかかわらず毎日寝たきりの生活で「死にたい」とばかり言ってる。そんな祖父をなんとかして「死なせてあげよう」と奮闘する姿を描く。

又吉の『花火』はお笑い芸人の話でありながら、とても文学的な作品だったが『スクラップ・アンド・ビルド』は真逆で「介護」という一見重めのテーマでかなり笑えるのが特徴。

例えば「どうやったら祖父を合法的に殺せるか?」というのを介護職についてる友人に尋ねにいくシーンがあるのだが、これも書き方や表現によっては重くなるし、下手に軽く書くと不快な気分になりかねないが、文章のリズムが素晴らしく、ほどよく本筋から脱線していくため、笑いながらもじっくりと考えさせられる感じに仕上がっている。このバランスが絶妙であり、全体的にはそういう雰囲気で進んでいくのであっという間に読めるし、まったく飽きがこない。

尊厳死といえば『ミリオンダラー・ベイビー』が思いつくがちゃんとそのことについて触れてるのもエラいし、現在の日本が抱えてる問題みたいなものをすべりこませているのにひとつもイヤミがない。はっきり言ってこの人の他の作品も読みたいなと思わせた。それくらいの力があった。

純文学らしからぬストレートな下ネタもあって(なんと芥川賞作品に加藤鷹の名前が登場する!)、固有名詞の種類など、どっちかというと若者向けの小説かもしれない。それこそ芥川賞をとったが、直木賞でとってもいいかなと思ったくらいフィクションとしておもしろかった。

実際介護してる方が読んだら怒りだすかもしれないし、同じ介護をテーマにした『ロスト・ケア』の葉真中顕なんかも「介護なめんな」と言いそうだが、それを差し引いてもかなりおすすめ。又吉がノミネートされた時点で注目を集めることはわかっていただろうが、この対照的な二作品が受賞したというのはすごく意味のあることだったんだなと思った。とてもわかりやすいし、客観的な視点や映像的な表現も多いため、恐らく映像化もされるはず。

スクラップ・アンド・ビルド

スクラップ・アンド・ビルド

*1:いつもテレビ観てて又吉又吉言ってるのでこのほうがしっくりくるなぁ