くりごはんが嫌い このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

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2017-01-30

[]関根彰子はあのとき何をしていたのか?/葉真中顕『絶叫』 12:19 関根彰子はあのとき何をしていたのか?/葉真中顕『絶叫』を含むブックマーク

葉真中顕という作家の登場は衝撃的だった。正確にいうならば、その登場の“仕方”が衝撃的だったというべきだろう。

まず彼はブロガーとしてぼくの前に現われた。彼のブログは立ち上げてから半年もしない内にブレイクし、その名を轟かせていったが、そんな彼のブログにぼくのブログリンクが張られたことがきっかけで、それまで三ケタだったぼくのブログアクセス数は飛躍的に伸びていった。その意味で彼はブログ界の恩人のひとりである*1

二回、直接お会いする機会があり、いろんなお話をさせていただいたり、そのあとも互いのブログにコメントしたりしていたが、2011年頃に彼のブログの更新が少なくなり、そのまま停止した。過激な内容の記事もあって、あまりのブレイクぶりにコメントが荒れたりもしていたから、疲弊していたのは明らかだった。Twitterのつぶやきもなくなった。少しだけ心配しつつも、まぁ気が向いたらまた再開するのではないか程度に思っていた。

その二年後、彼のブログは再開された。「新人賞をとって、ミステリー作家になりました。」というタイトルで。

これに驚いたのはぼくだけではないだろうが、そういった特殊な状況でぼくは葉真中顕という作家の登場を見ていたのであった。

そんな彼の処女作『ロスト・ケア』を読んだのだが、新人賞を満場一致でとったのも頷ける傑作であった。

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43人を殺したという戦後最大の殺人事件の犯人に死刑判決が下る。しかし被害者は彼を憎むどころか感謝すらしているという、一体この事件はなんなのか…………というのが主なあらすじ。

読んだのはだいぶ前になるが、この小説の感想をブログに書かなかったのは、作者が書こうとしているテーマをばらすと、上記の作品を引きつける部分が台なしになってしまうからだ。ぼくがこの『ロスト・ケア』でいちばんおもしろかったのはその部分であって、これから読む人もそこに感動してほしかったので、あえて書かなかったというのが本音である。

それこそこの作品の先見の明はすばらしく、相模原で起きた障害者施設での殺傷事件ニュースで見たときにすぐに『ロスト・ケア』を思い出した。もしかしたらこういう事件は起こりえるかもしれないと思ういっぽうで、ここまで規模の大きなものは小説のなかの世界だけだろうと思っていただけにショックは尚更大きかった。逆にいまこのタイミングで読まれるべきなのかもしれない。

作品としては可読性が高い社会派ミステリーという感じだろうが、彼がブログで書いてきた社会の欺瞞やそれに対する怒りがギュウギュウに押し込まれており、それが葉真中顕という作家の個性を形成しているようにも思えた。叙述トリックの使い方も鮮やかでキレイにダマされたし、何よりも悪を悪として描かずに正義は社会の後ろ盾になることはあまりないというメッセージも強く心に響いた。いや、もしかしたら書いてる本人はそういうつもりではないかもしれないけれど。

二作目の『絶叫』はこのスタイルをそのままにスケールを大きく広げ、社会の欺瞞と怒りを詰め込みながら、それをわりと冷静に眺めている————俯瞰しているという風に受け取った。

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ストーリーは鈴木陽子というひとりの女性がマンションの一室で孤独死しているところからはじまる。彼女の人生を同じような境遇の刑事が追い、それと平行して彼女の視点から過去が明らかになるという構成である。

読書メーターやAmazonレビューで『火車』や『嫌われ松子の一生』っぽいというのがそこそこ目についたが、ぼくも同様で、最初に読み終わったときに『火車』を関根彰子の視点から描いたような話だなと素直に思った。

他にもマンションの一室にいた人が……というのは同じ宮部みゆきの『理由』を彷彿とさせたし、普通の女がとあるきっかけから堕ちていくのは『グロテスク』で、20年以上の時をカルチャーや事件と共に一人のキャラクターとすすめていくのは『白夜行』や『幻夜』からの影響があるなと感じた。というか、この辺の本をたまさか最近読んでいたので感じたわけだが、言ってしまえば90年代〜2000年代のミステリーノワールに影響を受けた作品ということである*2

独自性でいうなら描写の容赦なさ。これは『ロスト・ケア』にもあったが、葉真中顕は現実にある悲惨な状況やよくあるようなこと————ノンフィクションな状況をこれでもかと詰め込み、そのリアリティラインでフィクションを構成していく。そして、それが野島伸司のように畳み掛けるわけではなく、真綿でゆっくり首を絞めるように読者を追い込んでいく。

ポエムのような心情描写が随所に差し込まれるため、どこか現実でありながらも現実ではない世界を構築。このスタンスは『コクーン』に持ち越されるのだが、長くなったので次の機会に。

二作目にして(というか一作目からそうだったけど)葉真中顕の刻印がバッチリ押された『絶叫』。まさに『火車』とか好きならおすすめ。今年中に文庫化すると確か言っていたので、解説が気になるところである。

ロスト・ケア (光文社文庫)

ロスト・ケア (光文社文庫)

絶叫

絶叫

*1:ちなみにTHE KAWASAKI CHAINSAW MASSACREのdoyさんもぼくのブログブレイクさせてくれたひとり

*2読書量が多くないため、大元のネタは他にあるのかもしれないが

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