恐怖のゴキタクシー


12時30分、昼一の打ち合わせのために、営業のS、K、ADのMとともに堂島からタクシーに乗る。
配置はKが助手席、後部座席奥からS、M、私。


12時25分、車は順調に一号線から新御堂を左折。


12時26分、Mが私になにかささやく。
M「ゴキ…です」
私「なに?」
Mの視線の先には、体長約6センチの茶羽ゴキブリ。
車内の明るい日差しに照らされて、その目、頭部、羽の色の違いまでくっきりと判別できた。
Mは冷静にも、カンプの入ったB3用封筒でかろうじてこちらへの道を防いでいる。
私「なんで?」
M「でかいです」
私「つぶせ」
M「無理です…」
一瞬、車から降りようかと窓の外を見るが、
車はするすると新御堂の高架へと進んでいく途中。
…無理か。
そこで、Mの持つ封筒でとりあえずこちらへの道を完全にブロック。
そこでSも気がつく。
S「あ、Kの方に言った」
M「やばいですね」
S「とりあえず、Kには知らせずにおこう。パニックになると危ない」
M「運転手さんがパニくられても困りますしね」
私「足元にいれば、一気に叩けたが…手袋持ってないよね?」
M「どうするんですか?」
私「始末する」
M「やめてください。しくじって、飛んだらどうするんですか」
S「それだけはだめだ」
私「屈するのか!」
S「パニックになる」


12時40分、車は新大阪を過ぎ、神崎川の手前を何事もなかっかのように?進む。
M「いなくなりましたね」
S「Kのポケットにいたりして」
M「おそろしいことを言いますね」
私「いた! いや、来た…」
助手席のドア側隙間から、こちらにのそのそと歩いてくる。
おそらくはKの背中を沿って来たに違いない。
M「でかい…!」
Mの持つ封筒を奪い、とりあえずブロック。
ええっい、Kの元に帰れ!(Kのペットでもないんだけど)
M「窓から出ないですかね」
なるほど。が、その間に電動スイッチの上に移動している。
…うーん。
再び、封筒で追いやる。飛んだらそこまでだ。勝負してやる。
すると、封筒をのそのそと登りはじめた。
M「登ってます…!」
チャーンス!
とっさにスイッチを押し、窓を開ける。
次の瞬間、カンプの入った封筒を窓の外に。
M「ああっ! カンプがっ」
私「うるさいっ」
走る車の外、突風に吹かれ、折れ曲がる封筒。
私「行ったか?」
M「わかりません」
窓の外から見る限り、封筒にはなにもいない。
折れ曲がった封筒を車内に引き戻し、Mに渡す。
M「いませんね」
私「死んだか?」
M「見えませんでした。それにしても、無茶しますね」
私「カンプの変わりなんぞ、なんとでもなる」
M「折れてますよ…」
私「大丈夫」
(現に中は無事で、クライアントにちゃんとOKももらえたんだけど)
S「K、いまだから言うが、さっきまで君の背中に大きなゴキブリがいた」
K「ええっ」
S「われわれの英断により、知らせないことで、パニックを無事防いだ。安心しろ」
K「…」


12時45分、タクシーを降りるとすぐに、とりあえず服やかばんをバタバタさせる。
いない。助かった。
しかし、タクシーの運転手からは、この事件に対して、なんのコメントもなかった。
もしかしたら、ペットだったのではないかと、被害者Kは語っている。


大阪近辺の皆さん、ゴキタクシーにはご注意ください。