労働分配率の日米対比

 「労働分配率」は現役時代人事労務を主に担当してきた関係から関連が濃く、5大経営指標の一つとして重視してきた数値です。これはこの方面に詳しい方には釈迦に説法ですが、「人件費」が「付加価値(≒粗利即ち売上総利益)」に占める比率を言います。
 この数値は業種によって傾向に違いはありますが、企業単位では年度別にその推移を診て行くのは、経営上、妥当な人件費を設定する上で不可欠な指標です。それでは労働分配率理解のため、小規模企業(最小単位)をモデルに業績対比をしてみましょう。
               2010年度   2011年度
・売上高(年商)      8000万円   12000万円
・付加価値(粗利)    4000万円    4800万円
・付加価値率(粗利率)    50%       40%
・人件費          1500万円    2500万円
・従業員数           3名        5名
労働分配率        37.5%     52.1%
       ☆ 労働分配率=人件費/付加価値×100

上表から理解されるように、『前年度より売上を50%伸ばしたが、従業員を2名増やしたため人件費が上がり、付加価値は余り増えず、労働分配率は大きくアップし、経営内容は悪化した』事例です。
 近年、わが国の労働分配率バブル崩壊後数値は上がる一方で、現役時代の常識からはかけ離れたものになっていました。しかし労働分配率が高くなったからといって、企業が従業員に賃金を大判振舞をしているかと言えばそうではなく、利益の素となる付加価値の額が減っている結果と考えた方が正しいようです。それが証拠に、下図の歴年赤い線の日本の労働分配率曲線で診ると、賃金が最高に高かった年は1997年、最低の年は1987年頃(現在も最低線)ですが、曲線傾向と賃金の高低とは必ずしも一致していません。
 ここで本題の「労働分配率の日米対比」ですが、下図に見られるようにアメリカのものは数値は大きく変わらず横並びで安定しているのに比べ、日本のものはアップダウンが激しいのに驚かされます。この違いは、人件費が固定費的性格を持つか否かでの違いと言えます。
 日本では、人件費は固定費的で、付加価値の増減にあまり関係なく支払われるのに対して、アメリカでは、人件費は付加価値に連動する変動費的性格が強いからのようです。このことは、不況・景気後退期での人件費調節面でも、労働者の雇用はアメリカではそのリスクは大きい反面、日本でのリスク程度はアメリカに比してかなり小さいと言えましょう。
 このように労働分配率を考察します時に、付加価値の捉え方一つとっても各種方式がありますし、上述の解説だけでは十分言い尽くしているとは言えませんが、紙面の都合上、今回はこの辺でお赦しのほどお願いします。