プラットホームホルダー対コンテンツ屋さん百年戦争
どうもコンテンツプラットホームホルダーとコンテンツ屋さんとの関係をきちんと理解していないひとが多いようなのでちょっと書きます。
いいたいことは、自分で自分の戦う土俵をつくれないひとは、しょせん成功なんてできるわけがないってことです。
そしてコンテンツ屋はプラットホームホルダーと戦わなければならないのは必然だということです。
ぼくは、以前のエントリで、アップルは”神様”でもなければ”お上”でもないと書きましたが、shi3z氏のエントリによるとやっぱり”お上”だそうです。
JRAに勝とうと思って馬券を買う人は居ないだろう。
つまり、胴元に勝つことを前提に戦略を組み立てることはできない。
しかし、JRAがルールを変更するとしたら、それは大きな影響がある。
そしてAppleが胴元だとしたら、胴元の気に入るようなものを作るしかない。
与えられた土俵の中での最適解を見つけるなんてゲームは、ある程度の頭脳があるひとたちが参戦している戦いであれば、それこそレッドオーシャンにしかなりません。
ゲームの枠組みを変えることは、大変なこと、不可能のように見えるかもしれませんが、実は成功への一番の近道なのです。枠組みの中で考えて解がないことは、やっぱり解はないんでしょう。だったら、問題文の解釈の範囲を広げましょう。
shi3z氏はコンテンツプラットフォームとしてのニコニコ動画とiPhoneアプリにおいて
kawangoさんのブログは、「その森には葡萄はない、あるとしても酸っぱくてとても食べられたものじゃない」
と書いていますが、ぼくが把握している流れはむしろ↓みたいなかんじです。
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kawango「この森には葡萄すくねーし、葡萄があっても酸っぱいのは、こうこうこういう理由です」
shi3z「確かに酸っぱいですけど、いま酸っぱい葡萄しかないからこそ、これから甘くなるんです。iモードの森だってそうだったじゃないですか。外野から口をはさむな」
appbank「iモードの森より酸っぱいなんて話は、聞き飽きました。酸っぱい葡萄のほうが健全なので好きです」
kawango「いや、土壌改良して、葡萄の品種変えないと酸っぱい葡萄は甘くはなりませんよ。だいたいその葡萄は食用じゃないけど、森の持ち主が植え変える気もなさそう」
shi3z「そもそも熾烈な競争で酸っぱい葡萄しか食べられないのはアメリカ的な競争原理だ。甘い葡萄をほしがるのは、日本的な馴れ合い文化であって、アメリカ人には理解できない」
appbank「この葡萄がたべられないなんて理由なんてどうでもいい。自分の中でこの対話まったく進んでないんですよ。こんなにこの森を愛しているひとがいるんだから、きっと、この葡萄は食べられるはずです。難しいけど、なんとかしてたべる方法について話しましょうよ」
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ぼくは、酸っぱいぶどうしかない森に、甘い葡萄をさがしにいくのはおかしいんじゃないのっていっているだけです。後ろ向きなことをいっているつもりでは全然無くて、むしろぼくは酸っぱいぶどうは酸っぱくないように変えるべきといっている。そのためにはアップルと勝負して土壌改良なり品種改良をしなきゃだめといっているのです。
shi3z氏の場合は”お上”にさからえるわけないだろうと諦めています。appbank氏は自分のやることじゃないけど、成功して立場が強くなったら文句をいってみるそうです。でも他人がアップルの仕組みに文句をいうのは、もっと楽しい話をしようと邪魔をします。
たぶん、ふたりとも選挙にもいかないひとたちなのかもしれません。
コンテンツプラットホームホルダーとコンテンツ屋との関係は、個人の趣味でやっているのでなければ、商取引のひとつにしかすぎません。そして圧倒的にプラットホームホルダーのほうが強い。ほっといたら、なにもしなければ、どんどんプラットホームホルダー側が有利な条件に変わっていってあたりまえなのです。しかも、iPhoneアプリの市場が大きくなればなるほど、アップルの立場は強くなる。いま、文句がいえなくて、いつ、いうのか?アップルがなにも考えてない?んなわけねーだろ。すくなくとも成功したときのコンテンツ屋とのパワーバランスがアップル側に有利になっているように設計はしている。意図的ですらなく当然のようにやっている。あとはそれほど、なにも考えてないのは本当かもしれない。だって彼らにとって重要じゃないから。
ジョブズをなめるな
アップルの歴史をみればジョブズの性格が、win-winなんてものをまったく志向していないことがわかります。
立場が弱い相手に甘い条件をあたえるようなことはしません。
ジョブズにとってはアップルの周辺で稼いでいる第三者は、アップルが得るべき利益の簒奪者としかみなされません。
Mac互換機からのライセンス剥奪、Macの販売店、流通網を切り捨てて、AppleStoreを全世界に展開したやりかた。
最大のWin-Win関係でMacプラットホームの構築の大功労者であるAdobeとすらたびたびの抗争をくりかえしています。Adobeが完全に切り捨てられなかったのは、Macintoshプラットホーム以外で事業基盤をつくることに成功したからです。
なぜ、ジョブズに生殺与奪の権利をゆだねるようなかたちでビジネスを展開することに危険を感じないでいられるのかが僕にはわからない。もちろんそれってありなギャンブルですよ。でも、そこに緊張感は持ちましょう。
ジョブズはおいといても、そもそもコンテンツプラットホームホルダーとコンテンツ屋さんとの関係なんてそんなものです。
テレビ局と制作会社の関係なんて本当にテレビ局が強くて、制作会社はテレビ局の隷従関係にあるといっていい。芸能事務所とテレビ局の関係だって、本当はテレビ局のほうが全然強い。芸能事務所が多少なりとも交渉可能なのはタレントというブランドの権利を芸能事務所側がもっているからです。
そして、コンテンツ側が立場の強いジャンルというのは、権利者団体などをつくってコンテンツ側で団結しています。ネットでは権利者団体とかは評判悪いですが、彼らが理不尽に一見みえる行動をとることが多いのは、弱者の戦略として強者に対抗するには、団結してごねるのが一番彼らの意見を通しやすいからです。弱者の正論なんて強者=”お上”が耳を傾けてくれなければ意味がない。弱者はまず耳を傾けてもらえることからはじめないといけない。そういう意味では関係ない話になるが、ネットの炎上事件というのもネットにいるひとたち=弱者が世間に自分たちの意見をつたえる手段としてはとても正しい。
コンテンツ側がある程度強くて成功しているコンテンツプラットホームはゲーム業界だと思います。ゲーム業界にはCESAという団体があって、ゲーム会社が団結してプラットホームホルダーに依存しないプロモーション力をもたなければならないということで東京ゲームショーがはじまりました。ですから、プラットホームホルダーは当初CESAの正会員にはなれなかったし、いまだに任天堂は正会員ではなく特別賛助会員という特別枠です。
プラットホームホルダーとコンテンツ屋との間は、別に敵対者ではなく、協力していくパートナーではありますが、こういう緊張関係にあります。プラットホームホルダーに対して取引材料になる勝負のカードをどうやってつくるかを考えないと駄目です。
iPhoneにおいても本当に成功したいならアップルの決めた枠組みでやってたってしょうがない。
与えられた条件でどう考えても駄目なもんは駄目です。
そこでやってみなければ分からないと特攻するのは無謀です。
なにかの成算があるのであればべつです。
正面から突撃するのではなく、遠回りにみても成功するプロセスを逆算して一歩一歩進めていくのがいい。そのときに枠組みはどんなに大きくたっていいと思います。
appbankさんの場合でも、iPhoneアプリの勝手ポータルをつくるというのもそういう戦略のひとつだと思います。実際、iモードにおいてもモバゲーの登場で存在感がうすれましたが、アプリゲットというのはかなりの影響力を持つサイトになりました。
今後、たとえ小さくても、自分のプロモーション手段、自分のプラットホームをもたないコンテンツ屋はとても厳しくなるでしょう。それこそ個人が競争相手の世界です。