第42話 ズボンの虫食い穴

(天平の湯から涌谷国保病院をのぞむ) ズボンの虫食い穴 晴天の元旦もまもなく暮れようとする頃、高台にある地元の温泉施設に来た信雄は、駐車場で車を降りられずにいた。四十九日前に父が最期を迎えた公立病院を見下ろせる場所に、偶然車を駐めたからだっ…

第41話 坊ちゃん刈り最後の日

坊ちゃん刈り最後の日 小学校では「やろっ子」の髪型は二種類しかなかった。「坊主頭」か「坊ちゃん刈り」だ。私は「町の子」だったので「坊ちゃん刈り」だった。思い出アルバムを開いたら、白衣の床屋さんが写っていた。 小学校の卒業式が終わり、中学校の…

第40話 ミツバチと校長先生

(昭和46年高校卒業アルバムより) ミツバチと校長先生 「生物部」に入ってまもなく入部歓迎会があった。始まってすぐに直感した。「これはとんでもないクラブらしい・・・」学校の敷地内には「三四郎池」という小さな池があったが、そこには生物部で雷魚を…

第39話 便学の歴史

便学の歴史 ロダンの「考える人」はまさに人生の真実を表していると思う。あのスタイルこそ、まさに「勉学」とは「便学」そのものであることを象徴しているからだ。な〜んて思うのは、小さい頃から私の一番の勉強場所が「トイレ」だったからに他ならない。 …

第38話 あだ名のうらみ

あだ名のうらみ どんな人にも何かしら得意技がある。私の得意技は似ているものを見つけることだった。そのせいか小学校から高校まで「あだ名付け」がとても得意だった。だいたい学年に一人はあだ名付けの名人がいて、彼が同級生や先生たちほとんどの名付け親…

第37話 アル中先生

アル中先生 様々な先生たちから様々な影響を受けて免疫力を養ってきた私たち。と、私は心底思っている。ところが、そんなことなど覚えがないとでもいうように、悪口をのたまう同世代がいて嫌になる。「この国が誇りを失ったのは戦後教育のせいだ、日教組のせ…

第36話 いちばん古い思い出

いちばん古い思い出 幼児期の体験が人の一生を無意識に支配する、と心理学はいう。そうなのだろうか?私のいちばん古い記憶を探って、これまでの自分と重ね合わせてみたいと思っている。目をつむって記憶の洞窟、地下の水脈をたどって行く・・・小学校、幼稚…

第35話 幼稚園の相合い傘

幼稚園の相合い傘 昨夜のニュースで八十歳くらいの老老男女が初恋談義で盛り上がっているのを見た。つい、顔がほころんだ。みんなの顔がとても生き生きとしていたからだ。「おらだちのころはキッスなんてねかったのさ。好きなのいだんだけっども、二人してあ…

第34話 エル字の弁当

エル字の弁当 小学校は給食だった。親は「給食さまさま」だったことだろう。でも私たちはといえば、六年間もしょっぱくて硬いコッペパン(形だけ)と、鼻をつまんでしか飲めない脱脂粉乳の昼食に、もうへきえきしていた。パンは次の日になると、もう釘でも打…

第33話 やまうなぎの思い出

やまうなぎの思い出 高校三年生の春休み、同級生五人で「土方」をした。受験勉強で頭でっかち、鬱屈症状となっていた我々にとって、肉体労働は神聖なものに思えていた。親戚の建設会社に頼み、さっそくアルバイトとして使ってもらうことになった。 5人がま…