回転寿司とビリンコ


『詩集ノボノボ』より

回転寿司とビリンコ

 人は食べ物によって育てられる

 いや、身体は言うまでもないんだが

 精神のほうまでそうらしい

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 おっぱいの味や、はじめてのごはん

 さすがにこれらは記憶にないが

 その後に体験した 通過儀礼のような食べ物たち

 酢のもの、納豆、ウニ、ほや、ナマコ・・・

 生ものや発酵食品は

 実は やろっ子たちには大の苦手

 精神的成熟が伴わないと食えないものだった

 (女の子はやろっ子とは違うようだ)

 それは 高い峰をひとつづつ征服するに等しいことだった

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 だったら寿司が苦手のはずなのに

 それが年に一度のごちそうだったのは

 海苔巻きや卵焼きが こどもにとって楽しみだったから

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 そんな寿司でびっくりした思い出がある

 中学校1年生の頃、仙台ではじめて外食をした

 友人数名と塾の先生に連れて行ったもらったのは

 駅前の小さな寿司屋

 「元禄寿司」という看板が出ていた

 初めて入った寿司屋さん

 びっくりした!

 カウンターで皿にのった寿司が回っているのだ

 今から50年くらい前 仙台ではじめて生まれたらしい

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 そして現代。。。

 回る寿司は 日本はおろか世界にまで広まっている

 私もたまに行き ガリをたくさん食べてくる

 女の人たちも多いな〜

 いつも感じることがある

 トロ、ウニ、エンガワ・・・

 女性は 実に脂っこいものが大好きだな〜と

 そして思い出した。。。

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 13年前、脳梗塞で赤子に戻ってしまったおふくろ

 ある日 お袋の妹であるおばさんが見舞いにきた

 持ってきたのは手料理

 「なめたがれいの煮付け」だった

 「たいちゃん(母の愛称) 大好物だから食べさせて」

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 言葉も表情もなくしたおふくろだったが

 そのとき反応した!

 食べさせてあげるときに 目や口の動きで

 なにやら部位を指示するようだった

 妹であるおばさんはさすがにわかった

 「やっぱり たいちゃん わかんだっちゃね〜

  なめたのビリンコ 好きだったからね〜」

 「ビリンコ」とは、つまり「エンガワ」である。

 いちばん脂がのっている部位である

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 その後のある日

 私はテレビで「熊の鮭取り」を見た

 産卵のため 石狩川を遡上する鮭の群れ

 熊の親子が おもしろいように鮭をつかまえる

 そして鮭を豪快に食べるのだが。。。

 ここでおふくろのことを思い出した

 熊がまっさきに、というか、そこしか食べないのは

 「鮭のビリンコ」だったのだ

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 その後しばらくして帰らぬ人となったおふくろだが

 この「ビリンコ」のことを思い出すたびに

 若い頃 とても元気で明るかった母のあれこれが

 好物や食事の様子とともに 思い出されてくるのだ

 だから おふくろの思い出は

 今になっても いくつになっても

 私には 実に鮮明なのだ