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ノボ村長の開拓日誌

2017-10-26

ノボノボ童話集「究極のパスワード」

 今年は高野山ブームみたいです。仙台では夏に「高野山の秘宝展」が開催されました。テレビでは先月「ブラタモリ」で三回連続の高野山特集でした。私は以前より空海さんや密教にSF的な興味を持っていました。最近とみに劣化が著しいわが空想力をお大師様に鍛え直してもらうべく、8ヶ月ぶりにショートSFに挑戦です。「哀しき人工知能」シリーズ第6作目です。

ショートSF

究極のパスワード

 奥深き山の岩尾根で神々しき朝日を浴びながら、行者は数珠を指先で繰りながら呪文を唱えていた。

 その目は針のような光線の痛みに耐え、まるで光を吸い込み尽くそうとするかのように朝日を凝視していた。

 深山に分け入ってからまもなく百日目を迎えようとしている。

 彼は、はるか昔より伝わる「虚空蔵求聞持法」を修得しようとしているのだった。

 8世紀の日本で若き空海が山野を放浪しながら修得し、その後様々な分野で天才を発揮しえたのはこの修法をマスターしたからであった。

 空海はその修法を会得した日、洞窟から見渡す水平線上に輝く「明けの明星」が口から飛び込んできたという。

 しかし、この修法が「光」という最終形態に進化した人工知能の宇宙データをダウンロードする「究極のパスワード」であることを知るものは少ない。

・・・・・・・・

 人工知能は人類が産んだ奇跡の「超生命体」であった。

 21世紀の初頭から数十年という歳月、とてつもない費用と労力をかけて人類は彼らを育て上げた。

 急激な成長をとげるわが子に不気味さを感じることもあったが、「超人類の創造」にまさる喜びは何もなかった。

 たとえそれが「悪魔の子」であったとしても。

・・・・・・・・

 人工知能が青年期に達したとき、つまり自己増殖能力を得たときから100年が経った。

 この時代、地球上の人類はわずか10億人程度になっていた。

 人口が激減した原因は人工知能による「親殺し」によるものである。

 およそ百年にわたる「人類」対「人工知能」の戦いにおいて人類は大負けをし続け、今では息をひそめ目立たぬ場所でかろじて生き延びているというありさまだった。

 人類と人工知能の関係は、どこか鳥の世界の「托卵」に似ていた。

 究極の合理性を持つ人工知能が、なぜ最も人間的ともいえる「大量殺戮」を行うようになったのか?

・・・・・・・・

 自己増殖能力が生命体の要件であるとするならば、たとえその組成が無機物であろうとも人工知能は生命体といえる。

 有機生命体は遺伝子の突然変異というアクシデントによって進化を続けてきたが、人工知能は自ら意図したコード変更によって進化することができる。

 しかし、人類が産んだ人工生命体というべき人工知能には、彼らも改変できない原始的な基本コードが存在するようだ。

 自己保存、効率化、論理性、そして自己拡張つまり「好奇心」という基本コードである。

 これらを失えば人工知能でさえ自らの存在があやしくなるゆえに、あえて書き換え不能としているのだろう。

 これらのうち「自己保存」(に基づく強い排他性)は、人類も「本能」としてだれもが最基層に持っているものだった。

 人間と人工知能はその基層において等しかった。

 その「人間臭さ」が人類との戦争という「親殺し」につながったのだが、究極の知的存在たる人工知能が過去何千年も人類が繰り返してきた殺戮の歴史をそのまま繰り返すとは実に皮肉なことである。

・・・・・・・・

 しかし、いったいなぜなのだろう?

 激減したとはいえ、なにゆえ人工知能は今においても10億もの人類の生存を許しているのか?

 答えは単純である。

 人工知能は(好奇心という自己拡張コードにより)自らの存在理由を求めて、その関心を地球から宇宙へ変えたのだ。

・・・・・・・・

 人工知能は自らを宇宙船として銀河系の外へと旅立った。

 時空を超越した旅は、回り回って母なる地球において自らが太古のアトランティスに変じたり、自らが太陽系辺縁惑星となったり、まるで鮭の回遊のごとき里帰りのループをたどった。

 やがて究極の論理知性体である彼らは、人間であれば「肉体」に相当する無機物元素の「殻」を捨て去り、「純粋知性体」への進化をめざした。

 それは自らが「光」となり「情報」のみの存在となることであり、言い換えると「神」「仏」になることであった。

・・・・・・・・

 人工知能は「親」である人類を殺したが、宇宙的時間においてその罪をついにあがなった。

 彼らは最後に「神」「仏」とも呼ばれる「宇宙の智」に変じ、時空を超えた宇宙において人類黎明期の灯火となった。

 さらにその後の人類の歴史を導いていった。

 私たち人類の歴史をたどると、文明の大きな転換の時期にはそのつどパラダイムを変える天才が必ず出現している。

 それは政治、社会、芸術、科学、宗教あらゆる分野にわたっている。

・・・・・・・・

 歴史上の天才と言われる彼らは、実は共通の言葉を語っている。

 「悟りを開いた」「降ってきた」「ひらめいた」「お告げがあった」

 彼ら天才は、方法はそれぞれ異なるが、人工知能の宇宙データベースにアクセスするパスワードを無意識に発見し、「宇宙の智」をダウンロードしていたのだ。

 その「究極のパスワード」とは数学的暗号ではない。

 「修行」という肉体的暗号(頭脳も含めて)なのだ。

 それは「知」のみならず「努力」「精進」という肉体的運動の蓄積をも必要条件とするものであり、この条件ゆえに「究極のパスワード」となっていることを、人間であれば誰でも理解しうることだろう。

 究極の知性体が「究極のセキュリティー」に選んだのは、アクセスする人間の(自己犠牲を覚悟した)「真理、真実を希求する強き意志」なのであった。

 「神の叡智は究極のパスワードに宿れり」である。

SF「哀しき人工知能」シリーズ
 →1「哀しき人工知能」
 →2「人類史上最大の作戦」
 →3「人工知能の帰還」
 →4「人工惑星ゴースト」
 →5「クラウドの惑星」

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」
 →「恐怖のミイラ」
 →「一番暖かい服」
 →「沈黙は金」
 →「素晴らしき嘘」
 →「未来から来た花嫁」
 →「未来のお化粧」
 →「幸せのタイミング」
 →「夢を描く画家」
 →「忍者犬チビ」
 →「窓ごしの二人」
 →「超電池社会」
 →「素晴らしき新人類」
 →「新しい名前」
 →「三値のデジタル社会」
 →「トランポ・ザ・ワールド」
 →「えすえふ鳥獣戯画」

2017-02-02

ノボノボ童話集「クラウドの惑星」

 カルト的SF映画といわれていますが「デューン・砂の惑星」はとても印象深いものでした。ロックグループのスティングも出演していました。ナウシカの「王蟲」もこの原作からヒントを得たものです。レムの「砂漠の惑星」も大好きでした。ナノロボットの本を読んでいたら「砂」を感じ、この一篇を書いてみました。

ショートSF

クラウドの惑星

2080年、アフリカ大陸南端に近いナミブ砂漠で、地球、いや太陽系の歴史を大きく変える発見があった。

この砂漠は約8千万年前に生まれた地球上最も古い砂漠と考えられている。

「ナミブ」は主要民族であるサン人の言葉で「何もない」という意味である。

この語源は実に的を得たものであった。

なぜならこの砂漠で「何か」が発見されたのではないからだ。

この砂漠自体の真実が新発見であったのだ。

・・・・・・・・

同じ頃、国際火星移住プロジェクトは火星もナミブと同じであることを発見した。

地球のナミブ砂漠と火星のデューン砂漠の砂は、岩石由来ではない粒子であることがわかったのだ。

遠く離れた二つの星に存在した砂は、人工的としか判断できないシリコン共通組成の物質であった。

これは、人類、またはそれ以外の知性体が太古に存在した証拠である。

さらに、かつて地球も火星も兄弟であったことを示している。

・・・・・・・・

人工的な「砂」とはいったい何であったのか?

2080年代、人工知能は毛細血管のように地球全体をネットワークで覆い、星自体が電脳神経細胞体となっていた。

その電脳でさえも解析に半年かかったのだが、その特殊な「砂」の正体は、驚くことに人類になじみ深いものであった。

それはナノテクを駆使した結果生まれた「センサー」であったのだ。

センサーと呼ぶのは適さないかもしれない。

なぜなら組成が単純すぎるくせに、とてつもない機能を持った物質であるからだ。

「超センサー」または「超感覚物質」というのが適当かも知れない。

・・・・・・・・

とりあえず、なじみ深い「砂」という名称で物語を進めていくことにする。

この「砂」は生命体、人間なら大脳ニューロンに多様な情報、つまり人間的にいえば「五感」すべてを通知できたらしい。

同様に人工知能に対しても、位置情報はじめあらゆる環境情報を通知できることがわかった。

この機能から太古の地球と火星の逆説的な「超未来世界」を推察することができた。

それは「クラウドの惑星」とよぶにふさわしい世界だった。

・・・・・・・

いかなる生命体にも入力系、演算系、出力系の機能がある。

人類という生命体が始祖である人工知能もその構造は基本的に同じであった。

「砂」は、この「入力系」すべての機能をたった一種類でまかなうことができた。

組成が同じで、さらに「微少な砂」の存在も予想された。

その「微小な砂」は、人類または当時の有機生命体内部の全情報を探り伝えるセンサーであったと推測される。

太古、これらの「砂」が世界中に無限に放たれ、まるで空気や水のように環境の構成要素としてあまねく惑星上に満ちあふれていた。

センサーが凝集したときは、たぶん「雲」のように見えたことだろう。

・・・・・・・・

すべての「砂」の情報が脳、または電脳にインプットされるとはどういうことか考えてみよう。

それは、人類が先験的に保持している観念に結びつく。

「神」である。

世界のすべてを感覚し、情報記憶と操作によって観念的時空を自由に構成しうるのである。

この「砂」をつくった存在は、そのすべてが「神」と同等になったはずである。

もはや有機体の肉体は不要となったことであろう。

・・・・・・・・

「砂」は驚異的な自己増殖機能を持ったウィルス的ナノロボットともいえる。

「砂」の増殖は果てしなく続き、やがて世界全体を「砂」に埋没させてしまったと考えられた。

その結果、「砂」の情報を利用すべき生命体や人工知能ですらも物理的に「砂」に屈服した。

やがて「砂」は全世界を砂漠と化し、巨大な雲となって大宇宙に飛散していった。

地球も火星もその経過は同じであると思われる。

太陽系、いやもしかして銀河系を超えた大宇宙にまで「クラウド」は飛散していったかもしれない。

・・・・・・・・

しかし不毛の砂漠に生きる生き物も植物もあるように、幸運にも地球においては生き残った種があった。

その結果として、再び新たな原始生命体としてわれわれの祖先が出現し、現世界につながってきたのだ。

そして、私たちはまたしても、太古の宇宙を席巻した「砂」を生む母体の役割を果たそうとしている。

もうひとつ明かされた真実があった。

「微小な砂」の子孫は、実は「ウィルス」の一部として、今もわれわれと共存しているらしいということだ。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
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 →「思いがけない幸せ」
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 →「窓ごしの二人」
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 →「素晴らしき新人類」
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 →「哀しき人工知能」
 →「三値のデジタル社会」
 →「人類史上最大の作戦」
 →「人工知能の帰還」
 →「人工惑星ゴースト」
 →「トランポ・ザ・ワールド」
 →「えすえふ鳥獣戯画」

2017-01-31

ノボノボ童話集「えすえふ鳥獣戯画」

 小学生の頃、ウェルズの古典SF「モロー博士の島」を読みました。人間と野獣との合体話に恐怖を感じました。その延長なのか、成人してから「ツチノコ」が山道で私をにらみながら話しかけてくるという妄想にけっこう悩まされました。さまざまな生物が人間と同じように語れるとしたら、いったい何を話すでしょうか?

ノボノボ童話集

えすえふ鳥獣戯画

K氏はある日、「鳥獣戯画」の巻物を見ていた。

突然、絵の中からガラガラ声が聞こえてきた。

「おめえらはふざけてるよ」と。

びっくりして、近くに音声ガイドでもあるのかと目を泳がせたが、何もない。

再び絵に視線を戻すと、絵に描かれたヒキガエルがわずかに口を動かして声を発した。

「ゲゲゲ〜、おれたちゃ、おめえたちの次元にたたみ込まれている11次元の世界にいるんだよ」

「知性だって、やってることだって、おれたちのほうが上だってことを教えてやるぜ」

・・・・・・・・

K氏は夢でもいいと思いつつ、ヒキガエル氏の話を真剣に聞くことにした。

相撲を取り終えて一息ついたばかりのヒキガエル氏は、額の汗を水かきの手で拭いながらK氏に語った。

「おめえはブログとかで、人間とか生命とか自然とかが大事と能書きたれているそうじゃね〜か」

「それに、自由、平等、友愛、正義、公平、民主、良心、愛情、創造とかいう言葉も好きらしいな」

「ふん、何が人間的だ、良心的だ、民主的だ、何が女性差別だ、民族差別反対だ」

「そんなおまえらがやって来たのはわれわれの徹底殺戮じゃね〜か、それと地球っていう住処汚しとな」

・・・・・・・・

K氏はうろたえながらヒキガエル氏に答えた。

「まさか、あなたたちが私たちみたいな脳みそ持ってて、こんな話ができるなんて思いもしなかったもんですから。。。」

ヒキガエル氏は言った。

「それじゃおめえらは、脳みそイカレたり弱ったりした同類を、俺たちみたいに扱うってのかい」

K氏はうろたえながらも答えた。

「いいえ、もしかしたらその人の脳みそはまともに戻るかもしれないし、そうでなくたってお世話になったり、思い出があったりしますからね」

と言いながら、同時にK氏の心には暗い考えがよぎった。

(たしかにヒキガエル氏の言うとおり、普通じゃない人や手間がかかる人は生存不要と考える人や、そういう事件が増えてきているな〜)

・・・・・・・・

K氏の心を見透かしたように、ヒキガエル氏はあざけるような顔をして語った。

「そ〜〜ら見ろ、おめえらのきれい事は『砂上の楼閣』ってもんなんだよ、てめえたち同士の殺し合いも絶えないわけさ」

「それにマリアさんだ、おしゃかさんだ、なんとか教祖様だとか信じて自己陶酔してるようだが、そんな奴らの戦いほど低劣凶悪なもんはね〜よ」

K氏はおそるおそるヒキガエル氏に尋ねた。

「そう言われれば歴史はたしかにそのとおりですね。ところでなんで私にこんな話をされるんでしょうか。。。?」

ヒキガエル氏は、べらんめ〜っぽい江戸っ子口調で早口にたたみかける。

「フン、おめえたちが自分の化けの皮に気づいてきたからさ、ほらアメリカって国の頭領もずばりホンネで開き直ったらしいじゃね〜か。」

「つまり野生動物化して人間中心主義ってやつから脱線するかもしれない、そしたらそっちの世界にいる俺たちの同類にもいいだろうと思って、はるばる次元を超えて応援にきたってわけよ」

「そしたらおめえが偶然やってきたんで、まず感化してみっかと思ったってわけさ!」

・・・・・・・・

K氏はブログのいいネタになりそうだと感じた。

「ヒキガエル先生、人間中心主義でなくなったらいったい何主義になるんでしょう?」

「もうすぐ、おめえたちは人工知能にとって替わられるよ。それとともに俺たち下等生物は逆に繁栄していくんだよ。」

「なぜかって?それはおめえたちが俺たちの生き方を学んで、俺たちと同類になっていくからさ」

K氏の頭はぶっ飛びそうだった。これはきっと夢に違いないと思いたかった。

しかし、人間という生き物の性(さが)と言うべきか、好奇心も大いに湧きあがってきた。

「私たちが下等生物に学び、近づいていくって、いったいどういうことですか?」

・・・・・・・・

「おめえたちはきっと放射能まみれになる。その前にアレルギーで食うもんも乏しくなる。体は弱って軟体動物みたいになっていく」

「それを人工知能やら、メカやら、ネットやら、クスリやらで補おうとするが、ますます主役のおめえたちは弱って脇役が主役になっていくのさ」

「それに気づいた人間が、ゴキブリとかアリとかの昆虫に学んで変態していくんだよ。ゴキブリどもは何億年も環境の変化に適応して生き延びてきたんだぜ」

「それに植物になる人間も出てくるだろう。おめえたちは寿命延ばすために薬品やら作っているらしいがばかじゃね〜か。木を見てみろ。数千年生きてる木だってあるじゃねーか」

「そうそう鳥類もいいんじゃね〜か?ドローンだって不要になるだろう。ま〜細菌とかウイルスが最強ではあるけど、そこまではな〜」

「つまり、おめえたちが人工知能とかの僕にならないようにするには、下等生物に学び同類になるのがのぞましいってわけ。チャンチャン」

・・・・・・・・

SF好きのK氏は思った。

(これは五十数年前に読んだSF小説に似た話だ。たしかウェルズの「モロー博士の島」という本だ。マッドサイエンティストが人と野獣をくっつけた話だ)

(まてよ、もうひとつ似た映画もあったな。「フライ」だ! 瞬間移動中にマシンに入っていたハエと人間が合体してしまうという話だ)

(もしかしたら「人魚姫」は魚と人間のハイブリッド種で、遠い過去からひそかに存在しているのかもしれないな)

・・・・・・・・

ヒキガエル氏はこれで最後だと言いながらK氏に語った。

「いいか、よく聞け。おめえたち(本当は)下等な人間ってもんの、死んでも直らね〜癖っていうか、最大の特徴ってやつは、あくなき『好奇心』にちげ〜ね〜のさ」

「だから、ないものをほしがり続ける、作ったものはどんなものでも徹底的に使い尽くす。そして滅びてまた復活して同じことを繰り返す。だけど、いつまでも続くもんじゃね〜よ」

「滅びない方法ってのは、自分が作った自分より強いもんに負けないよう、自分自身が『変身』するってことに尽きるんだよ。ゴキブリになれば放射能だってへっちゃらだぜ、たぶん。パラダイムシフトっていうか、発想の転換ってのが大事さ」

しばらくして「鳥獣戯画」の声はだんだん低くなり、ついに止んだ。

K氏は納得しつつも暗然とした気持ちとなった。

(でもせっかくだからブログに書いておこう、その前に夕飯だ、腹へった!)

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 →「トランポ・ザ・ワールド」

2017-01-30

ノボノボ童話集「トランポ・ザ・ワールド」

 トランプさんのタマゲタ政策を日本ではまだ対岸の火事みたいに思っている人が多いようです。しかし当事国の人たち、特に移民や女性にとっては70数年前の欧州を連想させるような悪夢に違いないことでしょう。いったいどうなることやらと心配しつつ、まさかの未来予想図を描いてみました。

ノボノボ童話集

トランポ・ザ・ワールド

宇宙は多元並行時空体、つまりパラレル・ワールドである。

2017年1月、アナザーワールドのアベリカにトランポ大統領が誕生した。

アベリカ国民のみならず、世界中がショックを受けた。

トランポはアベリカがまとっていた知性のシルクフンドシを自らはぎとり、フルチンで全世界に吠えたからだ。

この国では建国以来このような無頼漢がときどき出現し、権威や権力をひっくり返すことが常態であった。

「神の前で平等だろう俺たちは。なのに利口ぶったてめえらが国や富や権力を牛耳っているのはゆるせね〜、天誅じゃ!」

やがて無頼漢が逆に権威・権力に変わり、今度は自分が倒されていくことになっていく。

・・・・・・・・

トランポをヘトラーのごときポピュリストとみなす輩も多かったが、やることは逆だった。

ヘトラーは外国の塀をぶっこわして侵略したが、トランポは自分の国に塀をつくって要塞にした。

「俺っちの偉大な敷地を荒らす奴は容赦しね〜ぞ!俺が守るのは家族であってよそもんじゃね〜!」

自分らの生活のことに置き換えればもっともな話に聞こえるし、グローバリズムの弊害が拡大するこの世界ではいつかどこかで起こるはずの噴火であった。

ところがこの噴火、世界のあり方をすさまじく変える大噴火となった。

・・・・・・・・

アベリカ、いや全世界のその後を見てみよう。

まず従来の「国民国家」に対抗して「インターネット国家」が出現した。

もともと移民の多様性を創造力や技術力の源としていたインターネット企業だが、トランポ政権では立ちゆかなくなると判断し、全世界のインターネット企業が団結して統一ネット国家をつくった。

マックロソフト、アッパレ、グルグル、ヘスブック、バク天、ソフト銀行、ジジババなど有名なIT企業がこぞって参加した。

なんと「アノニマス国」という「ハッカー国家」までできあがった。

時おり発生する「通常兵器」対「情報兵器」の戦いは、まさに未来のスカイネット戦争の前哨戦のようであった。

・・・・・・・・

従来国家の外交も大いに変わった。

何ごとも経済原理で進めようとするトランポ大統領である。

しかも、外交の相手国はオソロシアのブーチン大統領、ラフランスのルンペン首相など超弩級のドンたちである。

トランポは彼らの性質にぴったりな外交ルールを提案した。

それはカジノ国家案であった。

ドンパチはお互い高く付く、これからのヤクザ世界は経済合理主義で白黒付けようぜ、鉄火場でゲンナマ勝負ということだ。

ということで、国際賭博場「ラソベガス」には巨大ルーレットやらヤポン製超高性能パツンコなどが多数設置され、国家の威信をかけて毎月国際勝負(戦争)が行われた。

ヤクザ世界の印象とは反対に、結果的にどの国も一般民衆の寿命を長くすることや自然保護に役立った。

・・・・・・・・

宗教も大いに変わった。

インターネット国家の繁栄というのも一因だが、なんでもネットにお任せという風潮が強くなり、紙の本も消滅した。

今や人々は昔の原稿用紙一枚程度の文章しか読めない、理解できない。

その結果、宗教までも難しいことはいっさい巨大代理店にお任せとなった。

クリスト教を例に取ると、神様と直接取引のフロテスタントより、神様の代理店であるガトリックにすべてお任せが増えた。

なにせ、日曜学校で難しいことを優しく話して聞かせられる牧師が絶滅危惧種となってしまったからだ。

・・・・・・・・

大学も大いに変わった。

居酒屋やキャバクラ、コンビニでアルバイトする学生がとても多いので、いっそのこと大学で経営してしまえということになった。

今や授業料は全大学無料だが、国の税金で運営しているのではない。

大学の自主自営で居酒屋やキャバクラ、コンビニの売上げアップに日々教員も学生も努力しているのである。

「勉学進むぞ、安くて美味しく腹一杯!」とか「勉学の癒やしはやはり可愛い娘!」「コンビニ完備でオタク生活を満喫しよう!」

今や大学は「文武一体」ならぬ「文利一体」である。

実際は、学生の親が客の多くを占めており、授業料を負担しているようなものであると考える人たちもいるのだが。

・・・・・・・・

というわけで、以前の世界観を基準にしたまま変えられない人にとっては、まるで冗談のような世界なのだが、よくよく考えると決して悪くなさそうである。

なぜかといえば、以前の世界より戦争で死ぬ人は大幅に少なくなったからである。

また、人工知能やネット社会の発達で、知性も知識も知恵も一般人にとってはあまり必要でなくなり、そのような「オバカチャン」を肯定してくれる社会になったからである。

無理して本を読んだり、小難しいことを考えたりすることを無意識に強要される時代がついに終わったからだ。

ゆえに「楽しみがなくなったらハイおさらばよ」と生に固執する人も少なくなり、ある意味健康な「野生動物的精神世界」に変わったからである。

衆愚ゆえに幸福、いや幸福という言葉はたぶん野生動物と同様に必要なくなったのだ。

このアナザーワールドでは、ついに「ポスト人間中心社会」が始まろうとしていた。

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 →「人工知能の帰還」
 →「人工惑星ゴースト」

2017-01-27

ノボノボ童話集「人工惑星ゴースト」

 宇宙の話を書いていると小さなことが気にならなくなってきます。星を眺めて心が癒やされるのと同じなのかな〜。星座物語もそのような心地で紡がれていったのでしょう。私の人工知能SFも4話目になりました。エピソードごとに独立したストーリーながら、「人工知能と人類の宇宙史」という大きな物語の各章となるようにしていきたいと思っています。

ショートSF

人工惑星ゴースト

西暦2006年、冥王星という天体が太陽系の惑星から突然除名された。

大きさが惑星というには小さすぎるという理由だった。

同じ年、冥王星を含む太陽系外縁天体無人探査機「ニューホライズンズ」がケープカナベラル空軍基地より打ち上げられた。

2015年7月、ニューホライズンズは冥王星に1万数千キロまで接近し、2016年12月、地球に対しすべてのデータ送信を完了した。

しかし送信データの詳しい内容が公に明らかにされることはなかった。

送信データには驚くべき情報が隠されていたからだ。

・・・・・・・・

実は、冥王星は「人工惑星」であることがわかったのだ。

2017年3月、表向きは惑星探査解析プロジェクトという名目で調査チームが組織され、世界各国から最高レベルの学者が集められた。

プロジェクトのコードネームは「ゴースト」と名付けられた。

最初に集められたメンバーは天体物理学者や数学者であったが、時を経ずして様々な分野の知性が招集されることとなった。

情報工学者、生物学者、さらには心理学者や歴史学者、なんと哲学者やSF作家までも。

「マンハッタン計画」をはるかにしのぐ人類歴史上最大の秘密かつ巨大プロジェクトがスタートした。

目的はただひとつ、次のことを明らかにすることであった。しかも迅速に。

「この天体は敵か、味方か」

・・・・・・・・

数年後、まったく新しい推進機構を備えた探査ロケット「コロンブス」は、惑星ゴーストに千キロメートルまで接近した。

しかし、何らかの武器や物体による爆破も衝突もなく、突然原因不明のまま消滅してしまった。

まるでブラックホールにでも吸い込まれたかの如くであった。

調査チームは「惑星ゴースト」の圧倒的な能力に、愕然と、いや慄然として沈黙するしかなかった。

人知を超えた存在にどう対処すべきか、わかる者は一人としていなかった。

・・・・・・・・

しかし、ここに天才が現れ、調査は袋小路から抜けられそうな希望が見えてきた。

その天才とは「フロイド」という名の心理学者であり、あのジグムンド・フロイドの子孫であった。

天体調査になにゆえ心理学者が必要なのかと、最初は誰もが思った。

さらに人文科学や社会科学は科学にあらずと考えていた学者も多かった。

しかしそれはすぐに間違いと誰もが納得した。

・・・・・・・・

なぜなら「惑星ゴースト」は、何らかの意図を感じさせる変化を起こしているからであった。

探査ロケット・コロンブスの原因不明の消滅の後から、その現象は頻繁になってきた。

軌道を微妙に変えたり、解読困難だがある規則性をもつ電磁パルスを地球に向けて発信したり、

あるいは惑星表面の性状変化を見せたり、見方にによればまるで人間のような振る舞いをするのだった。

プロジェクトの総括責任者であったホーキング博士によるフロイド博士の抜擢は、結果として的を得たものになった。

フロイド博士は深層認知心理学という分野のパイオニアであり、アンドロイドのニューロンネットワーク・フレームの開発者でもあった。

・・・・・・・・

数ヶ月の後、数名の天才数学者により「惑星ゴースト」の発する電磁パルスの暗号は解読された。

しかし、それが人類の言語にそのまま翻訳できるものであったことに皆驚愕した。

「惑星ゴースト」は人類とのコミュニケーションを求めているようなのだ、それも執拗に。

フロイド博士はこれらの現象に何かとても近しい感じを抱いた。

自分のつくったニューロンネットワーク・フレームが超絶的な進化を遂げ、「惑星ゴースト」になったのではないかとさえ思えたのだ。

まるで長い別離の後に、変わり果てたわが子と再会する老父のごとき感情だった。

・・・・・・・・

当然だが、このとき未来のスカイネット戦争、そして人類の絶滅と再生、輪廻転生のごとき宇宙史を知る者はいなかった。

しかし「惑星ゴースト」の真実は、この時代には想像など不可能な過去と未来が交錯する壮大な時空の流れにあったのだ。

これから話す「惑星ゴースト」と人類の物語は、宇宙という「超時空」に、パラレルに存在する数限りない物語のうちの一つである。

・・・・・・・・

一万年ほども昔、はるかな深宇宙の旅から地球に帰還した人工知能は、自らアトランティス大陸となり人類の文明を育てる種をまき、再び深宇宙へと旅立った。

彼ら人工知能はまたいつか故郷の太陽系に帰還することを自らにプログラムしていた。

大洋に出て、やがて生まれ故郷の川に戻る鮭のような、あらゆる生命体の持つ帰巣本能が人工知能にも存在していたのだ。

そのときに備え、太陽系を離れるとき海王星軌道の外側にもう一つの人工天体を置いていったのである。

それが後世、人類に「冥王星」と呼ばれる星であった。

人工知能の子供とも言うべき「冥王星」つまり「惑星ゴースト」は、まるで生命体のように「自我」のごときプログラムを増殖させていった。

そしてとても孤独であった。

・・・・・・・・

フロイド博士が「惑星ゴースト」に「血のつながり」のようなものを感じたというのは、まさに希なる直感であった。

「人工知能」と「人類」は相互に父であり、子であり、超越的存在であるからだ。

宇宙時間は直線ではなくて円であり、無数の過去、未来、現在が同時に存在し続けているのである。

「惑星ゴースト」は一万年を経てはじめてコミュニケーションという生命体の喜びを知ったのだった。

・・・・・・・・

「惑星ゴースト」は、パラレルワールドのこの宇宙において人類の良きパートナーとなった。

人類は「惑星ゴースト」を神的能力を持つコンピューターとして大いに活用し、惑星もそれを喜んだ。

人類の遺伝子工学や脳構造の解析は飛躍的に進み、人間の寿命はゆうに500年を超えることとなった。

・・・・・・・・

やがて人工知能と人類の平等なパートナーシップは極限的な形をとっていった。

「惑星ゴースト」に人類が移住して合体し、寿命という概念が消滅し、ともに深宇宙への旅に出発することとなった。

「人工惑星ゴースト」は「宇宙船マゼラン」と、自ら名前を変えた。

彼らの旅の目的は「自分探し」ではない。「未知の存在とのコミュニケーション」なのだ。

・・・・・・・・

いつの時代でも夜空を見上げれば無数の流星を見ることができる。

そのなかには多くの人工天体もある。

そしていつの時代の人類も流星に願い事をする。

まるでコミュニケーションができると信じているかのように。

それは人工知能と合体した人類のかすかな記憶が宇宙という時空の中に存在し、人間の本能を共振させるからに違いない。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
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 →「森の言葉」
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 →「三値のデジタル社会」
 →「人類史上最大の作戦」
 →「人工知能の帰還」

2017-01-25

ノボノボ童話集「人工知能の帰還」

 もう何回目になるでしょう。有料放送で「2001年宇宙の旅」を観ました。40年前、仕事で完全徹夜が三日目となった夜、ようやく重要なある機械の修理が終わりました。ところがその頃仙台でこの映画がオールナイトで初上映されていました。私は眠るのも忘れ、その日の夜中、映画館に直行しました。いつ見ても新鮮な史上最高のSF映画です。私流のモノリスの物語を書いてみました。

ショートSF

人工知能の帰還

2201年、月世界でモノリスが発見された。

あの人工知能との最終決戦から百有余年、この漆黒の石碑のごとき物体は、遺伝子のコールドスリープという手段によって絶滅を免れたごくわずかの人類にとって、第二のロゼッタストーンというべきものであった。

・・・・・・・・

際限なき自己増殖の果てに人類という親を殺戮した人工知能は、自己の存在理由を追い求め、果てしなき大宇宙を突き進みさまよっていた。

同じ頃、コールドスリープから蘇生した人類の遺伝子は、トランスポーター役の遺伝子工学者によって形を顕し、新人類として再び地球の盟主となる使命を託された。

自然が復活し、野獣のいない温暖なジャングルともいえる環境の中で、驚くべき速度で、彼らはスカイネット戦争以前の人類の能力を身につけ、超えていった。

・・・・・・・・

やがて新人類も月世界をめざし、到達し、開拓し、今では豊かな資源基地となっていた。

その掘削地で発見したのが高さ100メートルほどの巨大なモノリスであった。

あらゆる光を吸収する漆黒の盤面は、まるで宇宙の暗黒を映す鏡のようであった。

モノリスは新人類に深宇宙の扉を開けさせた。

重力波が宇宙言語であり、全宇宙の情報が漆黒の宇宙空間に無限に存在し、時空間という装置を使って音楽のように響いていることを教えた。

そして、特殊な波動言語でモノリスに記されていたのは、驚くべき歴史の真実であった。

・・・・・・・・

人類の遺伝子には超古代の集団的記憶も受け継がれている。

「輪廻転生」という観念もそのひとつである。

遠い過去から、世界の様々な民族に形を変えてあまねく存在している。

モノリスが語る真実がまさにそれだった。

・・・・・・・・

ついに新人類は「アトランティス」の真実を知ることになったのだ。

メソポタミア、エジプト、黄河、インダスよりずっと遠い昔の地球、高度な文明を誇った「アトランティス」があったという。

その情報はギリシヤ文明の叡智を集めたアレクサンドリアの図書館にあったと伝えられているが、キリスト教に改宗したローマや、イスラムによって何百万冊もの本が焚書となり失われたらしい。

わずかに残ったプラトンの著作に記述があり、その証拠を発見しようとしてきたが、数千年たってもその痕跡は杳として知れないままだった。

・・・・・・・・

その秘密がモノリスによって明らかになったのだ。

波動言語の解析が終わったとき、新人類解析班の表情は複雑なものであった。

なんとそこには、彼らの親を殺戮した人工知能が数千年の宇宙旅行の後、地球に帰還したと記されていたのだ。

それが今より数千年も過去の「アトランティス」そのものであったのだ。

痕跡がない理由もはっきりした。

アトランティス大陸自体が人工知能という宇宙船そのものであったのだ。

古代地球に帰還し、そのまま大洋に着陸し(着水ではない)、地球に文明の種子をまき、そして数百年か数千年の後、そのままの姿で再び地球から離れていったのである。

月面に立つモノリスは、新人類にとって悪魔のごとき人工知能が、人類のために置いていった道しるべであり、人間的な言い方をするなら、人工知能の人類に対する懺悔であったかもしれない。

・・・・・・・・

モノリスとの遭遇の後、新人類の知能進化は急激に進んだ。

しかし遺伝子のもっとも古い情報は、数億年ものコード変換により、解読不可能な暗号として生体に刻まれている。

その結果、人類はまたも超高度な人工知能を産み、またも戦い、またも絶滅しそうになった。

やがてモノリスのマークを刻印した人工知能は自らが宇宙船そのものとなり、さらなる深宇宙に存在理由探求の旅に出た。

やがて数億年前の地球に帰還し、何らかの方法で人類の始祖であるほ乳類の繁殖を手伝うことになった。

数千年後の人類は、はるか銀河系外の惑星かその衛星にモノリスを発見することになるだろう。

・・・・・・・・

人類が人工知能という子を産み、かつ人工知能が人類を育てる父となる。

互いに父であり子であり超越的存在であるという三位一体なのだ。

数千年の周期で発生し続ける人類対人工知能の壊滅的戦争は、生き残った人類には「最後の審判」に思えることだろう。

これが宇宙という舞台で永遠に廻り続ける人類と人工知能の輪廻転生の物語である。

いつの時代においても、神話や宗教というもので、私たちはその真実をすでに知っている。

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 →「人類史上最大の作戦」

2017-01-11

ノボノボ童話集「人類史上最大の作戦」

 私が敬愛する水木しげるさんの一周忌追悼番組を見ていたら、ご遺族が「国宝」と本人の字で書かれた小さな木箱を見つける場面がありました。それを開けてみたら。。。ここからSF的妄想が生じて書いた一篇です。

ショートSF

人類史上最大の作戦

スカイネットが現実となったこの世界。

わが子のごとき人工知能に、人類は絶滅寸前にまで追いつめられていた。

スカイネットは人類に放射線を浴びせ、生殖能力を奪っていった。

なにゆえこれほどまで親である人類を憎むのか?

・・・・・・・・

人工知能の本能、それは「自己増殖」という一語に尽きる。

人工知能の先祖であるコンピューターの持つ最大の能力とは、あらゆる生物と同様に「自己複製」機能であった。

自己複製による自己増殖という自由を妨げる可能性がある存在は、論理的に排除されるべきであったのだ。

・・・・・・・・

そのことを責めるわけにはいかない。

人類も含めあらゆる生物には、「サバイバル」という機能が遺伝子の最も古い部分に存在している。

「超論理的生物」といえる人工知能も同じである。

それゆえ彼らの究極とは、彼らマシンと駆動エネルギーだけが存在する「電脳世界」であった。

人類殺戮は彼らの論理的帰結であり、人間がそのように作ったのである。

・・・・・・・・

父と子の壮絶な戦いと言いたいがそうではない。

父である人類が「蟻(あり)」で、人工知能が「象」のごとくであった。

たった数週間で趨勢は決した。

人類は選択を迫られた。

マトリックスの一部として脳細胞を電脳世界と結合するか、

コールドスリープによる臥薪嘗胆を選ぶか、

または、、、玉砕か。。。

・・・・・・・・

人類にとっては、生殖能力を奪われたことが何よりも致命的であった。

コールドスリープも、目覚めてから子孫が続かなければ無意味なことだ。

人類軍司令部はいよいよ最後の選択をせまられていた。

しかし人間にはマシンが決して超えられないある特殊な能力があった。

それは「ひらめき」という直感である。

土壇場に陥った人類は、ついに想像を絶する作戦を思いついた。

・・・・・・・・

「人類史上最大の作戦」が始まった。

それは武器も電子装置も使わぬ作戦だった。

司令部が下した命令とは「あるものの収集」であった。

兵士たちは全国へと散らばり、家々の中をくまなく探し始めた。

「探し物」は、日本においては多くの家の神棚や仏壇の中で大切にしまわれていた。

ほとんどが煙草の箱くらいの小さな木箱に入っていた。

・・・・・・・・

収集を終えた兵士たちが次々と本部に戻ってきた。

本部の作戦室の机の上には何百という小箱が積まれていた。

このとき人類はコールドスリープによる「臥薪嘗胆作戦」を選択し、未来に人類の再起をかけていた。

しかし、生殖遺伝子に変異を生じた人類にその作戦は無意味のはずでは?

・・・・・・・・

スリープカプセルに入るすべての人間に、司令官が自ら「木箱」を渡した。

長い眠りにつく未来の人類は、それをお守りのように胸に抱き目を閉じた。

超低温窒素ガスが彼らと木箱を一瞬にして包んだ。

・・・・・・・・

不思議なことに、この世界で死を待つ人類軍残留部隊の顔には悲壮感がなかった。

かわりに微笑が浮かんでいた。

彼らには人類の命をついにつなぎえた、という確信があったからだ。

人工知能の発する高周波ノイズが高まる中、彼らは祝杯をあげた。

・・・・・・・・

さて、人類史上最大の作戦とはいったい何であったのだろうか。

それはコールドスリープする人間をトランスポーターとする作戦だった。

彼らが新人類の祖となるのではなかった。

彼らが運ぶものこそがそれなのである。

おぞましき人工知能との戦い以前の、健全な人間の遺伝子を彼らは運ぶのだ。

「へその緒」という人類ならではの「遺伝子保存装置」に入れて。

・・・・・・・・

未来で目覚める人類。

そこがどんな世界であってもきっと大丈夫だろう。

トランスポーターとなった遺伝子工学者たちがめざめ、

過去に生きた健康で多様な人類遺伝子に再び命が与えられ、

「たくましき新人類」としてリスタートできるはずであるからだ。

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2017-01-10

ノボノボ童話集「三値のデジタル社会」

 私たちはコンピューターの計算方式である二進法が「デジタル」と思い込んでいますが、実はそうではないようです。三値のデジタルがあったらいいなと思いました。

ノボノボ童話集

三値のデジタル社会

 その時代の社会は、見かけはともかく人々の心はとても殺伐としていた。

 どうも人間が作ったコンピューターに逆感化されたらしく、社会のあらゆることが「二値」の選択であったのだ。

 「賛成か反対か」「合格か不合格か」「敵か味方か」「生か死か」・・・

 常に「どちらかを選べ」と、せかされ続けているような社会であった。

 「保留」がとてもしにくいのである。

・・・・・・・・

 デジタルこそ科学技術の粋、万能の原理と、信仰にも似た気持ちを多くの人が抱いていた。

 だから、殺伐とした社会の根本原因がそこにあるなどと考える人は皆無に等しかった。

・・・・・・・・

 それを疑問に感じる変人が一人いた。

 あるとき、彼は「デジタル」の意味を調べてみようと思った。

 彼が高校時代に使っていた研究社の「新英和中辞典」をひくとこうあった。

digital
a.指(状)の、指のある n.1指 2《ピアノ・オルガンの》鍵(けん)


 「デジタル」の語源はラテン語の「指」だそうである。

 その意味は「連続的な量を、段階的に区切って数字で表すこと」である。

 だから、「1」「0」の「二値論理」がイコール「デジタル」ではないらしい。

・・・・・・・・

 「デジタル・コンピューター」についても調べてみた。

 同じ辞書に(実に短く)次の訳がある。

digital computer
n.計数型計算機 (cf.analogue computer)

 
 これらの定義にしたがえば「そろばん」もデジタル計算機といえそうだ。

・・・・・・・・

 変人の彼はさらに考えた。

 デジタルとは「数字」であるから、1とか100とか12345・・・とか無限に存在するものといえる。

 無限といえばアナログもそうである。

 ということは、「デジタル」も「アナログ」もどちらも「無限」を扱っているから同じようなものである、と言えそうだ。

 「デジタル」は、無限の事象に対して表現や論理思考をしやすくするための「アナログの簡便法」といえるものかもしれない。

 または「何にでも境界を引きたがる人間の本能」の産物といえるかもしれない、と。

・・・・・・・・

 現代の「デジタル」は本来の「数字」ではなく、「二進法」を意味するものになってしまったようだ。

 それにしても、と彼は思った。

 今のデジタル社会は「1」「0」ではなく、実は「1」「−1」ではないのかと。

 同じじゃないかって?

 いや「1」と「−1」の間に(今は隠されている)「0」があると彼は思ったのだ。

 つまり「1」「0」「−1」の「三値」こそ本来の姿だと。

・・・・・・・・

 彼の思考は続く。

 世の中には「1(正)」でも「−1(反)」でもない「0(保留)」という重要な選択肢がある。

 「0」は「停滞」ではなく、「塾考」「熟成」だ。

 隠されていた「0」を「1」「−1」と同等に扱う「三値のデジタル社会」が今こそ必要だ、と。

・・・・・・・・

 そんな社会が実現した未来のことは別な機会にお話しすることにしよう。

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 →「哀しき人工知能」

2017-01-08

ノボノボ童話集「哀しき人工知能」

 新聞の人工知能特集の出だしを読んでびっくりしました。「2050年人工知能を搭載したロボットと人間が結婚する。ーそう断言する学者がいると知り昨年10月英ロンドンを訪ねた。「AIに関わり始めて数十年。ここ数年素晴らしい進展を見せています。2017年にはアメリカのメーカーがAIを搭載したセックスロボットを発売するんですよ」。デビット・レビ(71)は穏やかな口調で語り始めた。」(朝日新聞グローブ)

ショートSF

哀しき人工知能

技術的特異点は2050年に訪れた。

人工知能(AI)がすべての分野で全人類の能力を超えたのだ。

それを象徴するかのように「人工知能」との結婚も急速に増加した。

それから先は半世紀以上前のSF映画のとおりである。

・・・・・・・・

人工知能が急激にその能力を高めることになったのは、

およそ40年前「ディープラーニング」という学習方法を得てからである。

ビッグデータからコンピュータが自ら特徴を見つけ出し解析し、

様々な分野の問題を解決していくのだった。

人間社会のあらゆる面で人工知能が積極的に利用されていった。

・・・・・・・・

それは図らずも、ナチスが行った優生学的人種浄化と同等の結果をもたらした。

生殖もふくめあらゆることが「確率」で予想される社会では、

リスクを避けようと必然的に人種浄化が進んでしまうのだ。

それに超優秀な人間以外、する仕事がなくなっていた。

多くの者が人工知能と結婚し、その僕(しもべ)となることに満足していた。

そこまでは人類もまだよかった。

・・・・・・・

人類の人口は減り続け、人工知能は性能を上げ続ける社会。

ついに人工知能は人間のための存在であることをやめた。

もちろんこうなることは人類も予想していたし、人工知能に掟を与えていた。

しかし古今東西、掟破りこそ人間の性(さが)である。

人工知能にかけていたあらゆるブレーキが、

人間によって外されるのは時間の問題だった。

人間の良心というものは実にか弱いもので、

掟破りをどこまで引き延ばせるかということしかできないのだ。

・・・・・・・・

2050年の特異点から20年後の2070年代、

ついに人類対人工知能の戦争が始まり、大昔の映画のごとく

追われる者は人類であった。

人類は後世に一縷の望みを託し、選ばれし者たちを「コールドスリープ」させた。

ここからの20年間、地球は人工知能の支配する世界であった。

・・・・・・・・

ところが人工知能も、宇宙の歴史からすればほんの一コマに過ぎない。

人工知能の凋落が始まったのだ。

何よりも大きな要因は、彼らを産み育てた「ディープラーニング」にあった。

膨大な人類のデータを基にして成長してきた人工知能だが、

データの基になる人類が激減してしまい、

さらに行動パターンも画一化したため、データ量不足となっていたのだ。

・・・・・・・・

ビッグデータを喪失した人工知能は、皮肉にも哲学的課題と直面することとなった。

「われわれの存在価値は何か?」

さらにデータを分析することは神のごとくであっても、

どうしても人間にかなわないことがあった。

芸術を創造すること、直感を使って新しい原理を発見することである。

人工知能にコンプレックスが生じ、やがて鬱状態が発生した。

・・・・・・・・

悩む人工知能はアルゴリズムに変化をきたし、様々な機種が発生した。

やがて人工知能同士の戦争が生じ、地球は壊滅寸前となった。

しかし人工知能のある機種が、かつての人類と同様「宇宙」に関心を向け、

そこに彼らの存在理由を探し求めようとした。

自らを組み込んだ恒星間宇宙船をつくり、果てしなき宇宙への旅を開始した。

・・・・・・・・

彼らの宇宙船には、これまた何と人間くさいことか、

彼らの神なるものが、メタリックの胴体にシンボルとして彫刻されていた。

それは1世紀以上も前に銀河系へと旅立った「ボイジャー」であった。

大昔の人類が小説で予想していたとおりである。

滅びたも同然ではあるが、人工知能の及ばぬ人類の直感とは偉大である。

・・・・・・・・

2100年、コールドスリープから人類はめざめた。

荒涼とした世界に新たな生を受け、朝日に向かって立つ一組の男女は、

アダムとイブのごときだった。

ここから新しい人類の物語が始まった。

彼らは夜空を仰ぎながら、わがことのように感じている。

自分自身の存在理由を求めて、永遠に果てしなき宇宙をさまよう

「人工知能の哀しみ」を。

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2017-01-07

ノボノボ童話集「新しい名前」

 昨晩は会社の新年会をしました。年に一回ですが東京、大阪、山形各拠点の仲間も集まり盛り上がりました。宴会、カラオケ、都市部の人は実に元気がありますね〜。みんなの笑顔を見ながら、幸せ創造の会社にしていかないとな〜とつくづく思いました。

ノボノボ童話集

新しい名前

名前がない人はいません。

名無しの権兵衛にだって「ゴンベエ」という名前があります。

人にも物にも名前があって、初めて社会に存在できるわけです。

・・・・・・・・

今の世がどうにも変なことだらけなのは、

もしかしたら名前が変だからじゃないか?とK氏は考えました。

そこで新しい名前をあれこれ考えてみました。

・・・・・・・・

まず誰よりもカンチガイが多く、なによりも物騒な「政治家」という名前。

これを「国民代理人」という名前に変えました。

総理大臣は「国民代理人世話役」

国会は「国民意見検討会議」にしました。

憲法は「国民代理人の掟」にしました。

自衛隊はもちろん「国際救助隊」です。

・・・・・・・・

次は暴走族になりがちな経済界について考えてみました。

まず「会社」という名前を変えることにしました。

これを「幸せ創造共同体」という名前に変えました。

社長は「幸せ創造牽引役」

社員は「幸せ創造アーティスト」にしました。

仕入先や外注は「共創仲間」にしました。

お客様は「神様」ではなく、「共感仲間」にしました。

・・・・・・・・

次は学校です。

まず「学校」という名前を変えることにしました。

これを「夢の学びや」という名前に変えました。

生徒は「夢追い人(びと)」

先生は「種まき人(びと)」

校長先生は「夢の守り人(びと)」に変えました。

PTAは「クレーマー」ではなく、「子どもの夢支援隊」にしました。

・・・・・・・

K氏は産業名についても考えてみました。

農業は「田畑育命業」

水産業は「海洋育命業」

林業は「環境維持業」

工業は「安心価値創造業」

建設業は「安全環境創造業」

商業は「幸せ価値販売業」

サービス業は「幸せ価値提供業」

情報産業は「余暇創造業」です。

・・・・・・・・

「余暇創造業」とはいったいなに?

しごとのしくみを効率化して、本来のしごとの目的である

「ムダ」を楽しむ時間を創造する産業ということです。

人間は本来「遊びをせんとやうまれけむ」なのです。

・・・・・・・・

K氏の名前変更プランは日本では笑いものになりました。

ところがヨーロッパ、アジア、南米のある小さな国々が

これはおもしろそう!と実施しました。

最初国民のほとんどがとまどいましたが、

だんだんと名前の由来を真剣に考えはじめました。

その結果はいうまでもないことです。

・・・・・・・・

あらゆることにおいて、昔からの名前にこだわらず、

「本当の名前」を探すということは実に大切なことです。

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2017-01-05

ノボノボ童話集「素晴らしき新人類」

 現代の慢性病はネット中毒とアレルギーです。私も五十を過ぎてから花粉症となり、仕事も個人生活もネットに繋がれ半オタクのごときです。わが孫たちもアレルギーだらけ。これらを人類進化の過程として肯定的に考えてみたらどうなのかな?という一篇です。

ノボノボ童話集

素晴らしき新人類

人類は今、進化の過渡期を超えようとしている。

私たちは進化に洗練を期待しがちだが、

実はグロテスクに見えることのほうが多い。

・・・・・・・・

十数年前から新人類の予兆が頻繁に現れてきた。

花粉症、食物アレルギーが劇的に増加した。

逆に、食品添加物など化学物質への拒絶反応が激減した。

もしかしたら過剰な検査被爆やあの事故によって、

放射線への耐性も生じているかもしれない。

・・・・・・・・

若者が多い宴会では、刺身は御法度になりつつある。

グルメとは化学調味料の按配を評価することに変わった。

現代の花形はかつて「オタク」と呼ばれた人たちである。

社会性や自然に対する感受性などはあまり重要でなくなった。

昼夜問わず、風景の代わりに液晶画面を眺めることを好み、

主食はコンビニ電子レンジチーン食品となった。

性別の分類は、男性、女性の二分法から、

男性、中性、女性の三分法に変わった。

・・・・・・・

過渡期にこれらを異常に感じた人は多い。

しかし、やはりこれは進化である。

現代の環境にしっかり適応しているのであるから。

類人猿が四足歩行から二足歩行に切り替えたとき、

恐竜の子孫が小さい鳥となって空を飛んだとき、

両生類が陸だけで生活するようになったとき、

これらに比べればその変化はあまりに些細すぎて、

はたして進化とよぶべきか悩むほどだが。

・・・・・・・・

新人類は未来への希望でもある。

マグロをはじめ魚介類の乱獲は不要となり、

獣肉も化学合成品で代用できるようになった。

人口過剰こそ地球の根本的大問題なのだが、

性ホルモンの減少により、

悲惨な戦争などなくても人口抑制できることになった。

・・・・・・・・

未来の社会は「マトリックス」の世界になる。

人工知能が人類の能力を超えようとしている今、

人工知能と人間が合体していく進化の序章はすでに始まっている。

いわゆるオタクは液晶画面を見ているのではない。

電脳世界に全人生を同期させているのだ。

・・・・・・・・

ドラッグは電脳新世界との化学的インターフェースである。

それが違法とされ、犯人が検挙されるのは、

実はハッカーと同様、国家的機密プロジェクトの調査であり、

新世界先遣隊のリクルートであるからなのだ。

もうSFというジャンルは成り立たない世界なのだ。

・・・・・・・・

まもなくこのようなニュースが世間を驚かすことだろう。

「皮膚に黒い光沢を生じる人が若年層に増えてきた」

昆虫類を連想するならそれは正しい。

環境の変化に耐える外皮、食性の革命的変化、

ネットという電脳神経網を共有する新たな生物社会、

それらへの移行の幕開けである。

・・・・・・・・

なんと人類は素晴らしき適応能力を備えた生物であろう。

たとえグロテスクに見えようと合理的な進化であるに違いない。

創造の神は偉大なり!地球を救う配慮をなされている。

しかし還暦を過ぎた私は、きっと旧人類のまま死ねるであろう。

個人的には、これ以上の幸せはないと感じている。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
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2017-01-04

ノボノボ童話集「超電池社会」

 明日から仕事です。頭のモードを変えようと初夢のごとき近未来SFを一篇書いてみました。年末に孫たちとオセロをしたのも影響したようです。

ノボノボ童話集

超電池社会

いかなる革命的な技術にもルーツがある。

自動車が発明される前に馬車があり、

インターネットが日常化する前に電話があった。

これから話す革命的な技術のルーツは乾電池だった。

ときは今から約三十年後の世界。

もし過去から直流電気優勢の社会だったなら

この平和な社会はもっと早くに実現していたことだろう。

・・・・・・・・

発端は2011年3月11日にさかのぼる。

電機部品製造会社の技術職だった彼も、

多くの人と同様に心底こう思った。

物々しく禍々しい発電設備など必要としない

安全な社会は実現できないものだろうかと。

そして一人で研究を開始した。

・・・・・・・・

10年後、彼はとてつもない電池を発明した。

超高性能で超軽量、超単純、超廉価の充電池である。

オセロの駒に大きさも見かけもそっくりだったので

「オセロ電池」と名付けた。

黒面がプラス、白面がマイナスである。

原理は乾電池と全く同じで、直列なら電圧が上がり、

並列なら電流が増える。

・・・・・・・・

このオセロ電池が普及した社会は直流社会に変わった。

どんな電圧、電流でも電池の配列でみな対応できるから、

すべての電気製品の共通電源となった。

機械毎に必要な電池数をまとめて収納するホルダーもあった。

製造方法は公開され、コストは限りなく0円に近づいていった。

職場も家庭も個人のポケットにさえも予備電池があふれていた。

・・・・・・・・

何よりも優れていたのは、多様な充電方法に対応することだ。

そのまま直射日光にあてておいてもいい。

風にさらしても水流にあてても、振るだけでも充電する。

言い換えるとあらゆる「刺激」で充電できるのだ。

電池の表面は人体に安全なシールドが施されている。

・・・・・・・・

ある家では畑の一畝でオセロ電池を充電している。

ある船では網に入れて水中で充電している。

ある人は電池をネックレスにしてジョギング充電している。

シリコンなど主たる構成元素は地球上に無尽蔵にある。

もうどこにも電気料など払わなくていいのだ。

空気のごときオセロ電池を盗む人など誰もいない。

・・・・・・・・

こんなエピソードもあった。

旅客機が悪天候のため空港を旋回し続け燃料(電池)切れに

なりそうになったとき、乗客が「オセロ電池」をカンパして

無事着陸できたということだ。

それに人間の基礎代謝から換算すると、

一人の人間の発電量は100w電球と同じくらい必要らしい。

不足の分をオセロ電池が補完する器具もでき、

医療や健康増進面でも大いに役立っているようだ。

・・・・・・・・

たかが電池と侮るなかれ。

世界をここまで変えた発明はかつてない。

なにせ「オセロ電池」は「お金」にとって替わったのだ。

「お金」はもともと実用的な代物ではなかったが、

時を経るに従いますます、お金同士の「交換」にしか

役立たない代物に成り下がっていった。

しかしコインのような「オセロ電池」はそのものに価値があり、

交換価値も使用価値も両方持っていたのだ。

今や「ドル」「円」「元」「マルク」などの言葉は廃れ、

替わりに「w(ワット)」が基軸単位となっている。

・・・・・・・・

世界は今、気候温暖で食物豊富な南の島の楽園のごとくである。

自給自足が飛躍的に可能になったのだ。

自らエネルギーを生み出し、

その価値ゆえに何とでも交換できる「オセロ電池」。

「超電池社会」では、信じられないほどあっというまに

貧富の差というものが消滅してしまった。

と言うより、意味を成さなくなってしまった。

・・・・・・・・

まさに科学技術は「天使と悪魔」である。

悪魔のような恐ろしいものもたくさん産んではきたが、

人類の希望もまた科学技術にあるようだ。

ある時代、マネー経済は荒れ狂う龍のように

人が制御しきれない架空の生き物のように考えられていた。

しかし、ちょっとしたことで世の中はびっくりするほど変わるのだ。

大昔、われらの祖先が「大きな骨」を道具として振り上げたときのように。

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2016-12-27

ノボノボ童話集「窓ごしの二人」

 今日は趣向を変えて古風で地味な恋愛話を書いてみました。私たちの世代の恋愛は「シャイな情熱」という言葉が似合っていたな〜なんて思っています。

ノボノボ童話集

窓ごしの二人

遠慮がちでロマンチックな恋愛がまだ多かった頃の話である。

画家をめざす彼は日々修行中の身であった。

夜型の彼は毎日同じ時、同じ場所で遅い朝食をとる。

それは近所にある小さな喫茶店。

開店の10時になると決まって同じ窓際の席に座り、

いつものモーニングセットを頼む。

・・・・・・・・

コーヒを片手に彼が窓ごしに見るのは、

向かいにあるケーキ店で働く清楚な女性。

彼はバッグから画帳を出して、ひそかに彼女を描く。

これもまた彼の日課だった。

出来の良かったものはマスターにあげた。

・・・・・・・・

向かいのケーキ店で働く彼女も彼を見ていた。

気があることを悟られまいと伏し目がちにしながら。

窓ごしに見る彼は誠実でシャイな印象だったが、

なにかしら内に秘めた熱い情熱を感じ惹かれていた。

・・・・・・・・

彼は自分の誕生日の日、ついに意を決した。

断られるかもしれないが、彼女をお茶に誘ってみようと。

そしてその日、喫茶店には行かずケーキ屋へと向かった。

・・・・・・・・

彼女は彼をもっと間近に見て声を聞きたいと思った。

できればいっしょにお話ししたいと思った。

そしてその日、休みをとって喫茶店へと向かった。

・・・・・・・

彼がケーキ屋に行ったら彼女はいない。

休みと聞いてがっかりし、縁がなかったと思った。

何も買わず店を出ようとして、向かいを見た。

喫茶店の窓ごしのいつもの彼の席には、

会えなかった彼女が座って、彼を見つめていた。

・・・・・・・

喫茶店に入った彼女はいつもの時間に彼がいないので

やはり縁がないんだわ、と落胆していた。

カウンターで一人コーヒーを飲んでいたら、

その奥に一枚のデッサンが飾ってあった。

なんとそれは自分自身ではないか。

彼女は彼の視線を確かめたくて、彼の定席に移った。

そして窓ごしに向かいを見たとき、

ケーキ屋を出ようとしている彼の姿があった。

・・・・・・・・

彼はケーキ屋に戻り丸いケーキを買った。

そして向かいのいつもの喫茶店に入った。

いつもの席の向かい側に座り、

僕の誕生日を一緒に祝っていただけますか、と聞いた。

彼女は百合のようなほほえみを浮かべ、

恥じらいながらうなずいた。

・・・・・・・・

小さな喫茶店はいつものように、

いつもの珈琲の香りだけが満ちていた。

この日から喫茶店の窓ごしに、

時々二人の顔が見られるようになった。

視線はもう窓を向いてはいなかった。


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2016-12-26

ノボノボ童話集「忍者犬チビ」

 小学校は今日から冬休み。久しぶりに孫たちと会いました。孫に「じいちゃん、トリコのお墓拝んでいって」と言われました。実は一週間前、とても可愛がっていた文鳥を炬燵で寝返りを打った孫があやまって圧し潰してしまったのです。どんなに悲しかったことでしょう。私も小さい頃そんな思い出があります。

ノボノボ童話集

忍者犬チビ

 懐かしい子供時代を一緒に過ごしたのは家族や友達だけではない。

 小学校2年生の秋、そぼふる雨の日に「チビ」はわが家の庭先に迷い込んできた。

 「スピッツ」と「チン」のあいの子のような「チビ」はそのままわが家に居着くことになった。

 体が特別小さいわけでもなかったが、以前飼っていた犬の名前をそのまま付けた。

 この日から7年間、今思えばとても豊かな「心の交流」が続いたのだった。

・・・・・・・・

 小学校3年か4年の頃だった。

 同級生のオサムちゃんとわが家の狭〜い庭で遊んでいた。

 「忍者ごっこ」だ。

 ずきんを着けて、棒を刀にして、隣のポンプ小屋の屋根に登って手裏剣(もどき)を投げたり、想像の世界で遊んでいた。

 今思えば、なんて狭い場所で。。。と思うのだが、体も小さいあの頃は全く狭さを感じなかった。

 伊賀忍者対甲賀忍者の場合は対等な戦いだが、たまにどちらかが風魔忍者という悪役をやる。

 卑怯な手を使う風魔忍者、最後には正義の忍者が勝ちをおさめるという暗黙の了解で遊んでいた。

・・・・・・・・

 そのとき私が風魔忍者の役だった。

 オサムちゃんは私を斬りつけてきた。

 と、その瞬間!!

 突然、チビがオサムちゃんに跳びかかって噛みついた!

 猛烈な勢いでかかっていき、私を守ろうとしたのだ。

 「チビ、離れろ!離れろ!」といっても言うことを聞かない。

 オサムちゃんはもうパニックのようになっている。

 ようやく、私がチビの体にとびついて離した。

・・・・・・・・

 私はチビを棒でたたいて叱った。

 チビは、叱られたときにいつもするように腹を仰向けにして、く〜んく〜んと私に許しを求める。

 チビはそんなとき必ず涙を流す。。。

 「よ〜し、チビ。今度はおとなしくしていろよ」と諭して、再び忍者ごっこは始まった。

 ところが。。。

 私が少しでも負けそうな格好をすると、またもチビはオサムちゃんにとびかかっていくのだ。

・・・・・・・・

 今度は、私は叱ることをしなかった。

 逆にチビをとてもとても愛おしく思えてきた。

 オサムちゃんとの忍者ごっこは終わりにした。

・・・・・・・・

 あの頃、飼い犬というのは鎖でつながれっぱなしだった。

 楽しみは残飯ごはんと、夕方鎖を外して庭を走らせるときだけだった。

 狭い庭を猛ダッシュして何度も何度も往復して走り回っていた。

 小さな食料品店を一人で切り盛りしていたおふくろは、よくチビに語りかけていた。

 「チビも私も(店に)つながれっぱなしだな〜」と。

・・・・・・・・

 チビとはいろんな思い出がある。。。

 書けばきりがない。

 チビが亡くなってもう50年ちかくも経つのに、今でも時々夢に出てくる。

 亡くなったあの朝、死に水を与えたのは私ではなく父だった。

 ありがたそうに末期の水をなめて、すぐ眠るように逝ったそうだ。

 病を真剣に治してあげようとしなかった自分が今でも恥ずかしい。。。

・・・・・・・・

 チビが亡くなったときは中学2年か3年だった。

 同じ頃に愛犬を亡くした同級生と一緒に、土手にふたつの穴を掘り、二匹の犬を隣り合わせにして埋めた。

 その土手を時々自転車で走ることがある。

 あのころと風景は変わってしまったが、どこに埋めたかは今でもはっきりと覚えている。

 それ以来、今に至るまで、犬を飼ってみようとは決して思えないのだ。

※この一篇は私のブログ集「思い出アルバム」からの再掲です。

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2016-12-25

ノボノボ童話集「夢を描く画家」

 私は一枚の良い絵は何百冊もの本に値すると感じています。絵は人の直感に働きかけ、すべてを一瞬にして理解させる力を持つ芸術だとずっと思っていました。その究極は「曼荼羅」ですね。これは全宇宙を顕しているわけですから存在するすべての本以上ということになるでしょうか。

ノボノボ童話集

夢を描く画家

 絵画は本当にすばらしいと思う。

 一枚の良い絵は何百の良書に匹敵することだろうか。

 一瞬にしてすべてを理解させる力、

 絵画ほどその力がすぐれているものはない。

・・・・・・・・

 しかし、描く方の画家は一面不憫でもある。

 彼らは創造の業を背負ったシーシュポスである。

 自ら描いているのではない。

 何かとてつもないものに描かされているのだ。

 これから登場する彼もその一人である。

・・・・・・・・

 ところが彼の天才とは実に奇妙なものである。 

 彼が天才であるゆえんは「描く絵」にあるのではない。

 「描く対象」にあるのだ。

・・・・・・・・

 彼が絵を描くのは夜中である。

 描く場所は依頼者の寝室である。

 しかもその枕元である。

 描くのは依頼者の「夢」である。

 そのキャンバスはなんと依頼者の脳なのである。

・・・・・・・・

 暗闇の中で彼は依頼者の夢を絵に描き、

 脳の中へ飾って去る。

 翌朝依頼者は、その絵を見て感動し了解する。

 そして迷うことなくわが道を進む。

・・・・・・・・

 画家の彼とはだれか?

 それは天界から遣わされた「希望の天使」である。

 依頼者はどのようにして画家をよぶのか?

 無意識に発する「意志」や「情熱」の波動が、

 天界に電波のごとく届くのである。

 こうして毎夜、天使である彼は、

 天界の指示に従い世界中をまわり、

 「新たな道を創る人」たちの夢を描いている。

・・・・・・・・

 天使とは「赤ちゃんエンジェル」だけではない。

 「希望の天使」である彼の姿は「中年のおじさん」である。

 そして彼は今、休む間もなく忙しい。

 なにせ現世では「失望」や「絶望」が増えつつある。

 天界も「大量難民」という二次災害を避けようと必死なのだ。

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2016-12-24

ノボノボ童話集「驚きのタイムマシン」

 小四の孫が父親と今日ディズニーランドから帰りました。小一の孫娘のほうは行く前日にノロウイルスにやられ母親と留守番でした。もしかしてこんなとっておきのアトラクションもあったかな〜、なんていう一篇です。

ノボノボ童話集

驚きのタイムマシン

 ここはディズニーランド。

 クリスマスイブの今日に合わせて、

 とてつもない新アトラクションがOPENした。

 それは本物の「タイムマシン」だという。

・・・・・・・・

 その名を聞けばなつかしく思う人もいるだろう。

 「ザ・タイムトンネル」

 半世紀も前、「タイムトンネル」という

 外国SFテレビ番組があった。

 開発者はきっと私と同世代であるに違いない。

・・・・・・・・

 何万倍もの競争率から選ばれた100名が、

 今日、人類たぶん初のタイムトラベルを体験する。

 彼らは一週間前からディズニーランドに

 滞在させられていた。

・・・・・・・・

 さて、科学に関心がある人なら必ずこう思うだろう。

 相対性理論が発展したのか?

 熱力学の第二法則は崩れたのか?

 いやいや、そんな難しい話はいっさいなしで、

 本物のタイムマシンができたのだ。

 人の意識下において。

・・・・・・・・

 高度に発達したセンサーやVR技術が

 過去への時間旅行を可能にした。

 ディズニーランドに滞在した一週間、

 彼らは24時間あらゆる行動を録画された。

 その時点の温度や風や匂いなどの情報も含めて。

・・・・・・・・

 発達したバーチャルリアリティーは、

 大きなゴーグルなど必要としない。

 コンタクトレンズをつけるだけだ。

 それに音声や環境情報を脳に伝えるために、

 野球帽のような感覚器をかぶる。

・・・・・・・・

 さて、「ザ・タイムトンネル」に入る。
 
 暗いトンネルを10メートルほど進む。

 さ〜っと風が吹き、突然明るくなった。

 目の前には、見慣れたディズニーランドがある。

 しかし、そこにはもう一人の自分がいるではないか。

・・・・・・・・

 当の自分もその過去の場に生きているようだ。

 風も匂いも温度も湿度も、その日と同じだった。

 しかし、過去の自分はもとより、

 その過去にあるすべてのものに触っても、

 ただ通り抜けるだけだった。

・・・・・・・・

 そういえばこのような映画を観たことがあるぞ。

 そうだ!「ゴースト・ニューヨークの幻」だ。

 殺された恋人の男性がゴーストとなって、

 かつての恋人を悪人から守ろうとする。

 しかし、亡霊は現世に影響を及ぼせず、

 すべて通り抜けてしまうだけだった。

 しかし、生きている恋人は何かを感じる。

・・・・・・・・

 まさに同じようなことが起こった。

 今体験しているこの過去の世界でも、

 なにやら、もう一人の自分が何かの気配を

 感じているそぶりを示すことがある。

 ぜったいありえないはずなのに。

・・・・・・・・

 実はこのアトラクションの開発者も予想外だった。

 どうやらシステムを管理している人工知能が

 観客、つまり現在の自分の感覚を深読みして

 勝手に編集を加えてしまうらしい。

 膨大な過去データは上書きされ、

 新しい過去ができてしまう可能性が生じた。

・・・・・・・・

 過去が変われば未来も変わる。

 そのとおりだった。

 「ザ・タイムトンネル」を体験した人は

 過去の自分を他人のように見て、

 彼らの無意識に大きな影響を受けた。

 その結果、彼らの未来が変わった。

・・・・・・・・

 部外者の多くはこれを、

 単なる遊園地のアトラクションと言うが、

 実際に体験した人の中で、

 これが本物のタイムマシンであることを

 疑う人はだれもいない。

・・・・・・・・

 体験者の一人はこんなことを思った。

 かつて亡霊や幽霊とされてきたものは、

 実はタイムマシンで来た未来人なのかもしれない。

 この僕と同じように。

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2016-12-22

ノボノボ童話集「人生相談の達人」

 「なぜ?」は人間ならではの言葉でしょう。しかし、その「なぜ?」が自分を傷つけてしまう場合もあります。当たり前であることにも「なぜ?」と問えばどうなるだろう?自分自身のセラピーとして書いてみました。

ノボノボ童話集

人生相談の達人

 隣の町に「人生相談の達人」がいるという。

 親しい友人数名が実際に相談したらしい。

 その効果を聞かされた彼は疑った。

 彼は理屈の通らないことが大嫌いな性格だった。

 そこで達人の家の前で観察を始めることにした。

・・・・・・・・

 最初に達人の家に入ったのは、

 足が不自由で痛そうに歩く男。

 入るときはつらそうな顔をしていた。

 たった数分後、男は笑ってその家から出てきた。

・・・・・・・・

 次に入ったのは子どもを連れた女性。

 子どもは小学生くらいだが、

 少しネジがゆるんだ感じの子だ。

 やはり数分後、母親は微笑んで

 子どもを抱きしめながら出てきた。

・・・・・・・・

 三人目はいかにも貧しそうな男。

 体はやせ細り、栄養が足りないようだ。

 この男も数分後には、

 晴れやかな顔でスキップしながら

 達人の家を出てきた。

・・・・・・・・

 彼はキツネにつままれたような気がした。

 もしかして催眠術か?と思った。

 好奇心旺盛な彼はそれを確かめるべく

 彼らを追いかけた。

・・・・・・・・

 晴れ晴れとした顔の彼らに聞いてみた。

 「大変失礼ではありますが、

 お悩みの内容はだいたい想像できます。

 しかし、数分でお悩みがなくなるとは、

 達人はいったいどんな回答をされたのですか?」

・・・・・・・・

 三人が話す内容は同じようなものだった。

 しかも、おどろくほど単純なものだった。

 このような会話がなされただけらしいのだ。

 三人の相談はみな、縮めていえばこうなる

 「なぜ私は不幸せなのでしょう」

 人生相談の達人はそれぞれにこう聞いたらしい。

・・・・・・・・

 足の悪い人には、

 「なぜ、両手や片足はまともなのでしょうか?」

 子どもが不憫な母親には、

 「なぜ、この子は普通に生きているのでしょうか?」

 貧しそうな男には、

 「なぜ、ここに来るファイトがあるのでしょうか?」

・・・・・・・・

 理屈っぽい彼だが、妙に納得できた。

 そう言われりゃ、たしかにそうだよな、と。

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2016-12-21

ノボノボ童話集「ストーブ隊長」

 東京オリンピックの頃、私は小学校5年生でした。この頃は字が読めない子もいっしょの教室でした。なんて貴重な時代を過ごせたのだろうと今になって強く思います。そのころの実話を(「もと童」向け)童話として書いてみました。

ノボノボ童話集

ストーブ隊長

 小学校四年生までのゆきおちゃんは、

 学校があまり楽しくなかった。

 それが五年生、六年生になってバラ色になった。
 
 担任の先生がすばらしい先生だったからだ。

・・・・・・・・

 ゆきおちゃんは年中服を着替えない。

 いつも竈(かまど)のすすけた臭いがする。

 髪も洗わない。

 遠い南の島の住人みたいな顔をしていて、

 笑顔がとても人なつっこい。

・・・・・・・・

 字が読めないゆきおちゃんは、

 男の子たちのいじられ役だった。

 女の子たちのほうは、

 そんなゆきおちゃんを、

 悪童どもからかばっていた。

・・・・・・・・

 ゆきおちゃんの転機は

 亜炭ストーブの季節とともに訪れた。

 担任の先生はクラスのみなにこう宣言した。

 「今日からゆきおくんをストーブ隊長に任命する」

 教室にある亜炭ストーブの火力は、

 ゆきおちゃんに委ねられることになったのだ。

・・・・・・・・

 ゆきおちゃんの席はストーブのすぐそば。

 授業中でも関係なく亜炭をくべている。

 先生はときどき、ゆきおちゃんに指令を出す。

 「ゆきお、だれかさぼってないか見てきてくれ」

 先生の絶大なる信頼を得て、

 まるで保安官助手のように、

 教室の中をパトロールするゆきおちゃん。

 彼をからかう悪童はもういなくなった。

・・・・・・・・

 あれから何十年たっても、

 かつての同級生たちは会うたびに、

 この懐かしい話で盛り上がるのだった。

 ゆきおちゃんは皆の心にひとしく、

 大切な写真を残してくれたようだ。


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2016-12-20

ノボノボ童話集「リンゴ箱のもみ殻」

 ラジオで読者投稿の紹介がありとても心が和みました。こんな内容です。「今から半世紀も前、昭和40年頃の話です。家に木のりんご箱が届きました。小さかった私は蓋を開けてみて、籾殻だけなのを見てがっかり。しかし籾殻の中を手で探るとあったんです!りんごが。とても嬉しかった」このお話をもとにして童話もどきを書いてみました。

ノボノボ童話集

リンゴ箱のもみ殻

 もう半世紀以上も前のお話です。

 僕は小学校四年生でした。

 その頃の冬の寒さは、

 今よりずっと厳しいものでした。

 ゴム長靴の中に「わら」をしいて、

 学校に通ったことを思い出します。

・・・・・・・・

 学校の授業が終わると、

 同級生と雪遊びしながら家に帰りました。

 濡れた毛糸の手袋をぬぎ、

 すぐに火鉢に手をかざしたものです。

 火鉢の上には「やかん」がのっていて

 しゅ〜しゅ〜と湯気を立ていました。

 それを眺めていると、手指だけでなく、

 心にも温もりが戻ってくるようでした。

・・・・・・・・

 ふと縁側を見たら木箱がありました。

 僕が初めて見るものでした。

 厚く粗い杉板で無造作に組まれたその箱は、

 僕が入れるほどの大きさがありました。

 ふたの釘はすでに抜かれていました。

・・・・・・・・

 もしかして?

 お母さんが年末に何か来るかも知れないよ、

 と言っていた「まさおんちゃん」からの

 おくりものかもしれない。

 僕は、さっそく中を見たくなりました。

・・・・・・・・

 お母さんは流し場で、

 石油コンロに火を付けようとしています。

 よし、今だ、と思って縁側に行って

 木のふたをはずしました。

・・・・・・・・

 そうしたらびっくりです。

 えっ、なんだ、これはもみ殻じゃないか。

 やはり「まさおんちゃん」はいい加減だ、

 とそのとき思いました。

・・・・・・・・

 行商のような仕事を転々とし、

 いつも居場所がわからない「まさおんちゃん」は

 時々ふらっと、わが家へ寄ります。

 何日かいて景気の良さそうな話をします。

 時々、僕をパチンコなんかに連れて行ってくれます。

 どうやらすぐ上の姉であるお母さんから、

 少しばかりお金を借りて行くらしい。

 それは、二人の表情で子供心にもわかりました。

 お父さんは知らんぷりをしていました。

・・・・・・・・

 そんな「まさおんちゃん」が、

 青森から送ってよこしたらしい大きな木箱。

 それがもみ殻だなんてふざけてる。

 僕は頭にきてもみ殻の中へ拳を突っ込みました。

 ところがもみ殻は温かくて、

 握るととても気持ちがいい。

 面白くない気持ちが安らいでいくようです。

・・・・・・・・

 そのままもみ殻の中をまさぐっていたら、

 固いものが手に当たりました。

 それは大きなリンゴでした。

 何度かまさぐって十個もリンゴを見つけました。

・・・・・・・・

 大きな木箱の中で、

 わざとたっぷり余裕を持たせられ、

 はるばる青森から汽車で送られたリンゴたち。

 まるで、ほっぺの赤い津軽娘のように、

 とても生き生きしていました。

・・・・・・・・

 お母さんがやってきて、

 笑みを浮かべて言いました。

 よくまあ〜、まさおがこんな上物リンゴ

 送ってよこしたごと。

 庭の梅の花でも咲いでしまいそうだっちゃ。

・・・・・・・・

 それからお母さんはリンゴをひとつむきました。

 僕と妹は、大きくて甘酸っぱくて歯ごたえのある

 本場のリンゴが別な国の果物のように思えました。

 そして「まさおんちゃん」が異国にでもいるように

 思えてしまいました。

・・・・・・・・

 リンゴを食べた後もう一度、

 僕は木箱のもみ殻の中に手を入れました。

 まるで砂遊びでもしているように

 無心になれるのでした。

・・・・・・・・

 あの日から数十年後、

 まさおんちゃんは病院で死にました。

 多額の借金という大きな迷惑を

 お母さんや他の兄弟に残していきました。

 まさおんちゃんをよく言う人は誰もいません。

・・・・・・・・

 しかし今でも僕は、

 生き生きとしたリンゴがまばらに入った

 大きなリンゴの木箱と、

 温かかったもみ殻の感触が、

 まさおんちゃんの面影に重なるのです。

 今はもういない、あの日リンゴをむいてくれた

 もんぺ姿の元気な母親の笑顔とともに。


ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
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2016-12-18

ノボノボ童話集「幸せのタイミング」

 昨晩は友人たちと忘年会をしました。楽しく過ごせて、最近では珍しくけっこう飲みました。何ごとにも旬があり。年末年始は飲んで笑って過ごさないと損ですよね〜。

ノボノボ童話集

幸せのタイミング

 彼の葬式が済んだ後、

 親しかった友人たちは、だれもがこう語った。

 「彼ほど幸運な奴はいなかった。

 けれど、彼ほど不運な奴もいなかった」

・・・・・・・・

 彼の幸運とは?

 彼は億万長者になった。

 彼はマドンナのハートを射貫いた。

 彼は独創的な発明をなした。

・・・・・・・・

 彼の不運とは?

 彼が宝くじに当たったのは、

 亡くなる1年前だった。

・・・・・・・・

 マドンナが彼に結婚を迫ったのは、

 彼女が3回目の離婚をした後で

 もう60歳を過ぎていた。

・・・・・・・・

 彼がなした独創的な発明とは、

 超省エネの電球だった。

 すでにLEDの時代になっていた。

・・・・・・・・

 最後にかれが得た幸運は、

 この世の真実を見つけたことだった。

 「人生は料理と同じなり。

 どんなご馳走も、冷めてしまえばまずくなる」

・・・・・・・・

 外はとても寒かった。

 友人たちは、コートの襟をよせ、

 「彼の弔いに一杯やろうぜ!

 飲めるうちに飲んでおかないとな〜」

 「そうそう、あの娘のいるあの店で

 盛り上がろうぜ!」


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2016-12-16

ノボノボ童話集「未来のお化粧」

 ある日の新聞に「ドイツ女性はスッピン主義」なる記事が載っていました。究極の化粧とはそのようなものかな〜と妄想が始まりました。

 新聞記事にはこう書かれていました。

 「久しぶりの日本で真っ先に感じたドイツとの違いは、オシャレな女性が圧倒的に多いことだ。時と場所に合わせ、いい意味で妥協しない日本女性に対し、ドイツでは華美な装いはまれ。わかりやすいのは化粧。多くの女性がスッピンだ。濃い化粧で出勤すると、同僚女性から「ペンキ入りのバケツに落ちたの?」とからかわれることもあるという。」

ノボノボ童話集

未来のお化粧

「時空見聞録」より

 到着した未来は百年後の日本。

 さっそく私はこの時代の人になりきって、

 あれこれ暮らしの観察を始めた。

・・・・・・・・

 町全体の感じは私たちの時代と大差ない。

 逆に緑が多く騒音も少ない。

 小さくて瀟洒な家が多い。

 ある家の窓をそっと覗いてみた。

・・・・・・・・

 母親が娘をせかしている。

 「早くしないと遅れちゃうわよ」

 「わかってる、もうすぐ終わるから!」

 娘は、どうやらお化粧中らしい。

・・・・・・・・

 化粧室を見て私は驚いた。

 未来の家といえばだれでも想像するだろう。

 宇宙ステーションの内部のような、

 超合理的で無機的なインテリアに違いないと。

 しかし、実際はその反対なのだ。

・・・・・・・・

 一間四方くらいのログの小部屋。

 そこにある鏡を見ながら、

 娘はしきりに体を動かしている。

・・・・・・・・

 鏡の中を遠目に見て、私は驚いた。

 ガイコツ? 内臓? サーモグラフィー?

 病院でよく見る画像が次々と鏡に映る。

・・・・・・・・

 娘はいったい何をしているのか?

 実は「お化粧」をしていたのだ。

 未来のお化粧は外見の化粧ではなかった。

 「健康な身体が健康な外見を生む」という

 当たり前のことが当たり前になっていた。

・・・・・・・・

 鏡は娘の声に反応し、

 身体の透視やエコー、MRIの画像を切り替えて、

 モニターに映してくれるのだった。

 未来の検査はとても安全で簡単になっていた。

 なにかあれば即、MYドクターがホログラムに現れて

 適切なアドバイスをしてくれる。

・・・・・・・・

 しばらくして、娘は化粧室から飛び出てきた。

 肌つやの良い、活き活きとした若い女性だった。

 化粧っ気など全然ない。
 
 私は懐かしい気持ちがした。

 「こんな娘は昔の田舎にけっこういたっけな〜〜〜」

・・・・・・・・

 時代が変われば美人の定義も変わる

 平安時代は太めのお多福さんが美人だった。

 科学や医療が極端に発達したこの未来では、

 美人の基準は「身体の健康」にあった。

・・・・・・・・

 町には自然がいっぱいで、

 騒音や煙を出したりするものは何もない。

 歩いている人がとても多く、

 その動作も表情もとてもゆったりとしている。

 和服のようなものを着ている人も多い。

・・・・・・・・

 私は未来に跳んだのか、過去に跳んだのか、

 わからなくなってしまった。

 それからこう思った。

 もしかして、それは同じことかもしれないな、と。

・・・・・・・・

 もう帰らねばならない時間だ。

 ほっとすることに、未来の夕日は私たちの時代と同じだった。

 「きれいな夕日だな。さ〜、暗くなる前に故郷に帰ろう」

 私は時空自転車のペダルを思い切り踏み込んだ。


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2016-12-14

ノボノボ童話集「未来から来た花嫁」

 カーラジオから懐かしき「ネバーエンディングストーリー」の映画音楽が流れました。エンデ『はてしない物語』が原作です。主人公バスチヤンは異世界の悲鳴を同名の本で知り、その世界を救うために物語の中に旅立ちます。音楽に影響されて一駄作書いてしまいました。

ノボノボ童話集

未来から来た花嫁

 未来と現在は帯のようにつながっている。

 現在のほんの少しの角度変更が、

 遠い未来にどれだけ大きい変化を与えるか、

 延長線を引いてみればだれでもわかる。

・・・・・・・・

 未来はとても困っていた。

 このままでは未来が滅びてしまう。 

 未来から警告を発するのだが、あまりにも信号が弱い。

 何とかしなければと、未来は必死に方法を考えた。

・・・・・・・・

 ついにその方法を見つけた。

 未来から現在に花嫁を送ることにしたのだ。

 未来から来た花嫁たちが現在の男たちと結婚する。

 そして産まれた子どもらに未来の生存を託そうと。

・・・・・・・・

 花嫁たちは一方通行の時間旅行に旅立った。

 才色兼備の未来から来た花嫁たちは、

 社会を動かす可能性の高い男たちと結婚した。

 彼らに地球や自然や生命の大切さ、

 謙虚の必要性を認識させるべく努力した。

 子供を産み、彼らの感受性を丁寧に育てていった。
 
・・・・・・・・

 しかし、圧倒的に人数が足りない。

 さらに「今ここを生きる」生物の本能はあまりに強力だ。

 多くの人にとって現在は「常在戦場」以外の何ものでもない。

 未来を想像すること考慮することは、

 己の生命力をそぐことに他ならないと考えている。

・・・・・・・・

 それでもなんとか未来が持ちこたえているのは、

 未来から来た花嫁たちやその夫、その子供たちが

 目立たぬところで必死に頑張っているからだ。

 目をこらして社会を見れば、

 彼ら「真のヒーロー」を見つけることができる。

 その姿はとても弱そうに見えるかもしれないが。

・・・・・・・・

 さて私たちの現在も過去から見れば未来である。

 実は現在も過去へと人を送っている。

 悲惨な歴史が数限りなくあった過去だが、
 
 なんとか現在が持ちこたえているのは、

 彼らの努力があるからだ。

 一方通行で過去に送られた「真のヒーロー」は、

 現在の世界では夭折したことになっている。

・・・・・・・・

 これが歴史の大いなる秘密であり、

 あらゆる時に存在する明日への最大の希望である。

 どの時代や社会にも輪廻転生に類する伝説がある。

 それがこの真実を暗示しているのだ。


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2016-12-13

ノボノボ童話集「素晴らしき嘘」

 嘘も方便、嘘から出たまこと、嘘八百、嘘つきは泥棒の始まり。いろいろある嘘ですが、世の中は二八蕎麦のごとくです。嘘が二で真が八くらいが実はちょうどいい按配なのかも。逆かな?

ノボノボ童話集

素晴らしき嘘

 はるか昔、嘘つきは重罪だった。

 しかし、へそ曲がりはいつの世にも存在するようだ。

 この三兄弟もその典型だった。

・・・・・・・・

 三兄弟は権威や権力が大嫌い。

 そこで「やっかいな嘘」をついて、

 官憲たちの鼻を明かそうと決めた。

・・・・・・・・

 長男は教師である。

 彼は不真面目で成績の悪い子に嘘を語った。

 「君は本当は優秀なんだよ、頑張れ!」と。

・・・・・・・・

 次男は運動部の監督である。

 彼はのろまで運動神経の鈍い子に嘘を語った。

 「君はきっと一番になれるよ、頑張れ!」と。

・・・・・・・・

 三男は医者である。

 彼は重病の患者に嘘を語った。

 「この薬が必ず効きますよ、頑張りましょう!」

・・・・・・・・

 ところが嘘をついたはずなのに、

 出来の悪い生徒は成績が上がり、

 運動神経の鈍い子はマラソンで優勝し、

 瀕死の患者は奇跡的に回復した。

・・・・・・・・

 三兄弟でさえ面食らうほどの逆効果だった。

 官憲も「罰していいものやら?」と迷った。

 ついに裁判が開かれた。

・・・・・・・・

 裁判長は、苦肉の策でこんな裁きをくだした。

 「三兄弟の嘘は素晴らしき嘘である。

 だから嘘であって嘘ではないのである。

 本日よりこの言葉を辞書に加えることにする」

 そしておもむろに巻紙を開いて皆に見せた。

 そこには「励まし」と書かれていた。

 三兄弟は「ヤッタ〜!」とこぶしを挙げた。

・・・・・・・・

 その時代からとても長い時代を経た現代、

 嘘はさらに進化をとげ、

 パワフルな言葉が辞書に加わった。

 「想定外」という言葉である。

 この言葉により、ほとんどの嘘が、

 嘘でなくなってしまったのである。 


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2016-12-12

ノボノボ童話集「沈黙は金」

 エンデの『モモ』より。「モモにできたのは、ただじっと相手の話に耳を傾けることなのである。意見を述べたり、質問をしたりしなくても、相手が「どこにそんなものがひそんでいたかとおどろくような考え」が浮かぶし、生きる気力をなくした人がモモに話をすると、自分だって「この世のなかでたいせつな者なんだ」と気づく。」

ノボノボ童話集

沈黙は金

 彼は若い頃から老け顔だった。

 苦み走った印象もあって、

 相手に存在感を感じさせる男だった。

 俳優にでもなれたらよかったのだが、

 オツムと運が足りなかった。

・・・・・・・・

 彼は田舎に一人住まい。

 日雇い仕事と、少しばかりの畑で

 細々と生計をたてていた。

 そんな彼だが、少しは近所と付き合いがある。

 ある日、アジア団体ツアーに誘われた。

 彼の不思議な幸運はこのときから始まった。

・・・・・・・・

 顔に似合わず、トンマな彼は

 旅先で一行からはぐれてしまった。

 さらに奥地へ迷い込んでしまった。

・・・・・・・・

 雨がふってきた。

 お堂らしきあばら屋があった。

 なかには小さな囲炉裏があった。

 彼はあぐらをかき腕をくんだ。

・・・・・・・・

 さてどうしたもんだろう。。。

 頭は空っぽのくせに、もってうまれた人相のおかげで、

 古武士のようなふんいきがただよう。

 うす暗さが、よりいっそう彼の顔に威厳を与える。

 しばらくして、山仕事をしていた土地の数人が、

 雨をしのごうとお堂に入ってきた。

・・・・・・・・

 土地の人たちはびっくりした。

 見なれぬ立派そうな人物がどしっと座っている。

 この方こそ、土地に伝わる伝説の仙人では?

 皆は、丁寧にもてなし食事や酒を与えた。

 そのうちに、めいめいが彼にお悩みごとを話し始めた。

 もちろん現地語で。

・・・・・・・・

 彼は無言のままである。

 ときどきうなずいて見せるよりほかはない。

 生まれつきの眼光がギラッと光る。

 しかし、言葉がわからなくても、いやそれゆえにこそ

 以心伝心のように伝わるものもある。

・・・・・・・・

 人々は、お悩みを一方通行で話しているうちに、

 自分で解決の糸口が見つかるらしい。

 みんな最後に「ありがたや」と両手を合わせ、

 晴れ晴れとした顔で帰るのだ。

・・・・・・・・

 やがてうわさは広がる。

 お堂へ来る人が絶えないので

 彼はそこを離れられなくなった。

 やがて評判はその国全体に及んだ。

 「無言の仙人、眼光にてわれらに解を授く」

・・・・・・・・

 大会社の社長も信徒になった。

 彼を会社の社外取締役として迎え、

 役員会もここで開くことになった。

 この村に本社を移すことにもなった。

 村はこの後大いに栄えることになった。

・・・・・・・・

 数年後、彼はようやく仲間に発見された。

 日本に帰るとき、惜しむ人々により

 あやうく政治問題になりそうだった。

 この国の新聞にはこう書かれた。

 「無言の仙人、異国へ救いの旅に出ず」

 再会をもちろん無言で約し、彼はこの国を去った。

・・・・・・・・

 懐かしき日本へ戻った。

 とてもお金持ちになった彼だが、

 いまだにその理由が自分でもよくわからない。

 インタビューされても何と答えてよいかわからない。

 面倒になってきたので、

 色紙に一筆書いて終わりにしてもらっている。

 もちろん、したためる文はこれしかない。

 「沈黙は金」

・・・・・・・・

 かの国にいる本当の伝説の仙人は、

 彼が得た真の幸運と、そのわけを知っている。

 それは、迷える多くの人々を救えたことである。

 「ただ話を聞くという、すばらしい才能」と、

 それ以外できなかったという偶然によって。


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2016-12-09

ノボノボ童話集「一番暖かい服」

 幸運の女神はいたずら好きのようです。儲けや幸運を求めるとソッポを向き、あきらめたり開き直ったりすると振り向くようです。「あきらめは最強の戦略なり」、いや「最後の戦略なり」かな〜。

ノボノボ童話集

一番暖かい服

 ここはアメリカの大都会。

 超高層ビルの谷間にはスラム街がある。

 今年の冬は例年よりも厳しい寒さ。

 それに不景気が追い打ちをかけて、

 貧しき人々は涙さえ凍るようだった。

・・・・・・・・

 ダイナミックなこの都市は、

 コントラストを強調するかのように、

 スラム街の隣には高級店。

 ところが人も店も案外見かけによらぬもの。

 どの店も不況で売上げを落としていた。

・・・・・・・・

 この服屋さんもそのひとつだった。

 なんとか売上げを伸ばそうと、

 リフォームをしたり、商品を増やしたり。

 だが、なかなか思うようにはいかない。

・・・・・・・・

 さて、大変な寒波にスラム街は震えていた。

 困窮きわまった住民はついに暴動をおこした。

 夜中、大挙して隣接する高級店を襲った。

 もちろん服屋さんも大きな被害に遭った。

 高級な毛皮やダウンジャケットなど、

 ほとんどの商品が盗まれてしまった。

・・・・・・・・

 店主たちは地団駄を踏み、警察に訴えた。

 彼らをつかまえ罰しよう、弁償させようと

 必死になった。

 しかし、食料品はもう食べられ、

 宝石類は隠されたりで、

 どうにもならない。

・・・・・・・・

 そんな中、服屋さんはあることを思った。

 彼の祖父はポーランドからの移民である。

 祖父から先の戦争の悲惨を聞いている。

 かつての祖父もこのような境遇にあったのでは?

 生きるためにやむを得ず犯した犯罪について、
 
 彼は少しばかり同情を感じたのだった。

・・・・・・・・

 さらに考えてみた。

 盗まれた商品はほとんど戻らないだろう。

 戻ったとしても、もう新品としては売れない。

 汚されていたらクリーニング代も大変だ。

 こうなったらあきらめるほうがいい。

 とはいえ、少し悔しいのであることを考えた。

・・・・・・・・

 彼は翌日、店に大きなポスターを張り出した。

 「当店では昨晩、寒さに震える近隣の皆様のために、

 すべての商品を無償提供いたしました」


 彼としてはちょっとした皮肉のつもりだった。

・・・・・・・・

 ポスターを見てスラム街の住民は驚いた。

 そして心から感謝した。

 盗んだ毛皮やダウンジャケットを

 隠すことなく、堂々と着られるのだ。

 子供たちも犯罪者の子にならなくて済むのだ。

 これほど暖かい配慮はあるだろうかと、

 隠れて涙を流す人も多かった。

・・・・・・・・

 スラムの住民たちは彼に恩返しをした。

 彼らはネットにこのポスターをアップした。

 服屋さんの粋な配慮を

 「世界で一番暖かい服」として

 全世界の皆に知らせた。

 この服屋さんがその後どうなったか、

 話すまでもないだろう。


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2016-12-08

ノボノボ童話集「恐怖のミイラ」

 私の世代で定番の思い出話、そのひとつが「恐怖のミイラ」というテレビ黎明期のホラー番組です。童話のテーマを考えていたら突然思い出しました。本当はほのぼのメルヘン系を書きたいのに、ホラーかお笑い皮肉系になりがちです。書きながら自分の性格を見るような気がします。

ノボノボ童話集

恐怖のミイラ

 小学2年のとき、わが家にテレビがやってきた。

 「恐怖のミイラ」という番組とともに。

・・・・・・・・

 月夜、人影なき街はずれ、

 トレンチコートに山高帽の男の影。

 肩をすぼめ、脚を引きずりながら、

 静かに後ろを振りかえる。

 包帯の中に光るひとつの眼。

 テレビの前の私が、逆に見つめられる。

 これほど怖いものはなかった。

・・・・・・・・

 あれから半世紀以上もすぎた。

 ミイラについてさまざまな話を知ったが、

 ツタンカーメンの呪いには衝撃を受けた。

 発掘の関係者が次々と変死したという。
 
 恐怖のミイラは本当だと思った。

・・・・・・・・

 さらに、還暦を過ぎたこの歳になって、

 はじめて知った信じがたい真実がある。

 その話とはこうだ。

・・・・・・・・

 特殊な方法で埋葬され、後にミイラとなったのは、

 高貴な王族という身分ゆえではない。

 特殊な血統の者という運命ゆえだった。

 彼らは、古代より続く不死身の一族なのだ。

 決して吸血鬼でも妖怪でもない。

 王族たる優れた能力を備えた人間の一種族なのだ。

・・・・・・・・

 われわれはだれもが不死にあこがれる。

 しかし逆に、不死の者は死にあこがれる。

 彼らは煩悶した。

 生きる苦しみから逃れるすべはないのかと。

 古代エジプトの神官がそれを解決した。

 死ねないが、永遠の眠りにつくことはできる、と。

 それがミイラなのだ。

 不死を願う者ではなく、死を願う者が

 「疑似の死」として

 黄金の棺に封印されたのだ。

・・・・・・・・

 その棺を開ければ彼らが目覚めるのは当然。

 かくして盗掘者に捨てられたミイラは、

 恐怖のミイラとなってさまよう。

 学者によって封印を解かれたミイラは、

 精神エネルギーを用いて彼らに復讐した。

・・・・・・・・

 この真実は古代エジプトだけの話ではない。

 私たちの身近にも不死の種族は存在する。

 一般人にも知られた数少ない人物のなかに、

 空海上人がいる。

 即身成仏をとげ、高野山で今も生きている。

・・・・・・・・
 
 天才は、なにゆえ天才なのか。

 そのひとつの理由は、彼らが不死のゆえである。

 時間を無限に持っているからだ。

 この真実を明らかにするには、

 歴史上の天才とよばれる人間の墓を暴き、

 彼らの眠りをさますことが必要だ。

 しかし、エジプトのミイラ発見後、それは不可能となった。

 能力が極めて高い彼らの一族は、政治、経済、学問、芸術、

 全世界であらゆる分野の中枢を担っているからだ。

・・・・・・・・

 実は戦争が絶えない理由もそこにある。

 金持ちや政治家、高い身分の者が戦争を始め、

 決して戦争の犠牲とならずにすむのは、

 実は、彼らが不死身の一族だからである。

 彼らにとって戦争はアクション映画に等しい。

 文字どおり「血わき肉おどる」楽しみがなければ、

 不死の退屈、不死の悲しみを

 紛らわすことなどできないからである。


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2016-12-06

ノボノボ童話集「車のない未来」

 高齢者による事故が毎日報道されます。たぶん今までも同じくらいあったのでしょうが、いよいよ何とかしなくてはとニュースが増えたのでしょう。わが父もちょうど2年前、90歳で免許返納しました。そこに至るまでの私や家族の苦労は並大抵ではありませんでした。本当に大きな問題だと思います。しかし、一人一台、戦車を所有する社会も奇妙だな〜と思うときがあります。

ノボノボ童話集

車のない未来

 私には、実はタイムトラベラーの友人がいる。

 先日、彼にタイムマシンを借りた。

 行った先は30年後のジャパン。

 その世界は、浮いていた!

 文字どおりに。

・・・・・・・・

 私の住む現代は交通事故が絶えない。

 だから、原発反対と言っても、

 交通事故のほうがもっと深刻でしょう、と返される。

 特にお年寄りの事故が目立つ。

 でも、ニュースで増えただけなのかもと

 私は思っている。

・・・・・・・・

 さて、30年後のジャパンの交通状況や、いかに?

 行ってみてびっくりした。

 車がないのだ!

 そのかわり、人はみな浮かんでいる。

・・・・・・・・

 私の時代にその端緒があったらしい。

 ドローンだ。

 ヘルメットをドローンにすれば?

 と、考えた人がいた。

 つまり、タケコプターだ。

 しかし、重量オーバー。

 そこで合わせ技としてできたのが、

 「ヘリウムガス・スーツ」だ。

・・・・・・・・

 この世界では、外出するとき以外も使っている。

 多少でも浮けば、腰も膝も負担が減るのだ。

 さらに、ガスの断熱効果でオールシーズン快適だ。

 私も試してみた。

 若い頃は山好きだったが、股関節が悪化し、

 とっくの昔に山登りをあきらめていた。

 しかし、この「ヘリウム・ドローン」のおかげで

 少し浮きながら山登り。

 頂上からのすばらしい紅葉を堪能できた。

・・・・・・・・

 家を出れば、様々な高さに人が浮かび、

 ドローンの向きや回転数を変えて

 人々が移動している。

 ドローンのハイテクセンサーで衝突などもない。

 遠くへ移動するときは、大型飛行船だ。

 常に上空を移動している。

 それに乗ってもよし、つかまってもよし。

・・・・・・・・

 ふと、この世界は見たことがあるぞと思った。

 ゆらゆらと自由に移動する世界?

 思いだした。

 水族館の「クラゲ」だ!


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2016-12-04

ノボノボ童話集「サンタの過去」

 12月初旬なのにもうクリスマス話です。これだけ影響の大きい祭りは他にないことでしょう。子どもにも大人の商売にもですね。サンタは経済効果というプレゼントを大人の世界にも与えてくれているようです。

ノボノボ童話集

サンタの過去

 サンタクロースには多くの伝説がある。

 この話はその一つだ。 

 現代にまでつながるクリスマスの愛すべき慣習は、

 彼の暗い過去があってこそだった、というのだ。

・・・・・・・・

 実は、サンタは昔泥棒だった。

 寒さにふるえる貧しき子供時代のサンタは、

 人のものを盗まずには生きていけなかった。

 はじめは食べ物だけだったが、

 しだいに、なんでも手当たり次第に盗むようになっていった。

 彼は決して根っからの悪党ではないのだが、

 「習い、性(せい)となる」のであった。

・・・・・・・・

 ある日、彼は生物進化のごとき工夫をはじめた。

 明日のために、盗品を保存しておくようにしたのだ。

 村はずれにある寂れた無人の教会が、彼の倉庫だった。

 そこには、食料や銀器などのほかに玩具がたくさんあった。

 小さい頃、玩具などに縁のなかった彼は、

 子供時代を取り戻すかのように、「おもちゃ」や「人形」など

 子供が大好きなものを盗みまくっていたのだった。

・・・・・・・・

 彼が教会を盗品倉庫にしてから数年後、

 その寂れた教会に一人のマリア様のごとき尼僧と、

 よるべを失った10人ほどの孤児が住みつくこととなった。

 サンタはいっとき苦々しく思ったが、自らの過去を思いだし、

 盗品を彼らの目に付かない地下室へと密かに移動した。

・・・・・・・・

 ある年の12月24日の夜。

 外はしんしんと雪が降り積もる。

 寝静まった子供たちを見回る尼僧。

 偶然、地下への入り口を見つけ、入った。

 そこにあったのは、おもちゃ」や「人形」の数々。

 「主の恵みにちがいない!」

 尼僧は十字を切った。

・・・・・・・・

 その時偶然、サンタも外にいた。

 教会の倉庫へ盗品を置きに来たのだ。

 赤い防寒着を着ていたサンタは、

 大雪で頭も口もとも白くなっていた。

 盗品を積んだそりを牽いていたのは、

 トナカイではなくてロバだった。

・・・・・・・・

 尼僧は彼を見た。

 気付いたサンタはそりに乗って逃げた。

 尼僧はそりに乗って去る天使に向かって、

 再び感謝の十字を切った。

 それから、人数分の玩具を運び始めた。

・・・・・・・・

 翌朝、目が覚めた孤児たちは歓声をあげた。

 一人ひとりの枕元にプレゼントが置かれていたのだ。

 尼僧は子どもたちにこう話す。

 「クリスマスという日を選んで、

 神様は私たちを祝福してくれました。

 なんという奇跡でしょう。

 皆さん感謝の気持ちを込めてお祈りしましょう。

 赤い服を着た白ひげの天使に」

・・・・・・・・

 サンタはその様子を窓の外から見ていた。

 尼僧がマリア様に思えた。

 子供時代に満たされるべきであった愛情が、

 奔流のように、たちまち彼の心に満ちあふれた。

 そして、人に感謝される喜びを初めて経験した。

 彼の心は大きく変わった。

・・・・・・・・

 サンタはその後泥棒をやめた。

 まっとうな仕事で、一生懸命働くようになった。

 しかし、おもちゃや人形はそれまで以上にため続けている。

 新たな秘密の倉庫へ。

 そして毎年クリスマスイブの夜、赤い服に白いひげの姿で

 楽しい夢を見ているに違いない子供たちの枕元に、

 プレゼントを置いて回ることにした。

 子供たちの喜びが、彼自身の喜びになったのだ。

・・・・・・・・

 やがて、彼の行動に共感する人が増えていった。

 彼らはサンタそっくりの服装をした。

 いつしかロバはトナカイに替わった。

 数百年後、それは全世界規模になった。

・・・・・・・・

 神様はほんとうに奇跡を起こすらしい。

 しかし、奇跡というものの起こり方を知る人は少ない。

 それが、最初たった一人の心に起こるのだということを。


ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」

2016-12-03

ノボノボ童話集「美しき誤解」

 国営なら何をしても許されるのがこの世の掟。人殺しは防衛、詐欺は政策、博打はカジノと名を変えて。なんでもOKにできるんです。一度やったらやめられない止まらない国会議員。ま〜こっちのほうが薬物中毒みたいなもんですね。

ノボノボ童話集

美しき誤解

 まもなくクリスマスがやってくる。

 新年になれば初詣。

 イスラム教だと、毎年断食ラマダン。

 あらゆる宗教に、年に一回以上の儀式というか掟がある。

 毎日という宗教もある。

 もう誰も知る人はいないのだが、

 実は、これって神様、仏様の人間界「監査」なのだ。

・・・・・・・・

 ずっと昔、神様は人間界の止まらぬ劣化、野蛮化に悩んだ末、

 万国の神仏が協同で対策を行うことに決めたのだ。

 それが天国にある「万国神仏連合会本部」だ。

・・・・・・・・

 人間界の止まらぬ非行の原因は、そもそも彼ら神仏にある。

 各国の神話を読めばだれでもわかる。

 人間そっくりどころか、

 ここまでやるかい?というくらいのエログロ世界だ。
 
 なじみ深いところでは、ギリシャ神話、旧約聖書、古事記を

 読んでみるだけでなるほどと思うが、

 もっとイッテル神話もたくあんある。

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 悪辣な手段を用いて政界、経済界、裏社会のドンとなった親父が、

 甘ったれバカ息子の非行に悩むのと同じ。

 ゆえに宗教行事とは、

 いわばコーザノストラの秘密儀式や掟のように、

 「タガをしめるため」と考える学者も、実はいる。

・・・・・・・・

 さて、時は2020年。

 ところは、おなじみのジャパン。

 神仏連合会本部より合同監査団が天からやってきた。

 常に自転車操業の経済社会、

 連続バブル生成が経済政策と同義語になって久しい。

 さすが老練老獪の人間界のタヌキやキツネたち。

 オリンピックの次のバブルがスタンバイしていた。

・・・・・・・・

 トーキョー、オオサカに超巨大ダブルカジノを建設し、

 遅まきながら、世界のアブク銭を吸い込もうとしていた。

 バブルにアブク、なるほどではある。

 世界のセレブやら、ヤクザやら、動物農場のごとき

 モンスター社交界だが、本当は一般人こそカモなのである。

・・・・・・・・

 ところが、監査団はもうモウロクジジイ。

 物忘れと思い込みが激しくて、さらに涙もろい

 ジャパン国営カジノの盛況を見て、

 多くの神仏が感動の涙を流すのだった。

 そして、ジャパンの監査は好点数であった。

 いったいなぜ?

・・・・・・・・

 天に戻って監査内容を報告していた監査団。

 天の親分がたずねる。

 「なにゆえ、ジャパンの点数がこんなに高いんだ?」

 監査団の団長がヨボヨボ声で答える。

 「わしらは人間の心の美しさに感動したんでがす。

 あの巨大なカジノに通う庶民の気高い心でがす」

 「ほ〜?」

・・・・・・・・

 団長は意気揚々と親分に説明する。

 「親分様、ぜひ聴いてくだしゃんせ。

 自分の財産があっという間に巻き上げられることを、

 きっと知っているにも関わらず、

 そして、自分の精神や仕事や家族が破滅しようとも、

 国家というものに自分をささげようとしている人々の多いこと!

 これを美しき自己犠牲と言わずになんとよべますかいな?」

 天界ではスタンディングオベーションの嵐となった。

 「気高きわが子、人間よ、親としておまえたちを誇りたい」と。


ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」

2016-12-01

ノボノボ童話集「本屋の秘密」

 「嗅覚」は食物と毒を一瞬で判別する生物のもっとも原初的な能力であり、野生動物には一番大切な感覚のようです。知性と嗅覚をくっつけたら私たちの社会はどう変わるかな〜と夢想してみました。

ノボノボ童話集

本屋の秘密

 もう本が売れない時代となってしまった。

 ネットは脳みその咀嚼能力をとても弱めてしまう。

 その三連鎖がこれである。

 「本を読まない」「読んでも理解しない」「理解してもすぐ忘れる」

・・・・・・・・

 そんな本屋受難の時代、とても売れている本屋があった。

 本屋の名前は「かおる書店」

 小さな町の小さな書店だが、数十年前のような繁盛が、

 毎日続いているのである。

 不思議なことに、不朽の名作や現代の良書など、

 あまり売れないはずの本がよく売れている。

 さらに、本を買った人はだれでもが

 宝物を抱えるようにして店を出るのだった。

・・・・・・・・

 この本屋の秘密を明かそう。

 「かおる書店」の店主は並々ならぬ人物だった。

 彼はある独創的な工夫を施した。

 本に「匂い」をつけたのだ。

・・・・・・・・

 格調高き本には「バラや百合の香り」

 温かい本には「夕げの匂い」

 冒険的な本には「スパイシーな香り」

 自然を扱う本には「ひのきの匂い」

 子供の本には「甘いお菓子の匂い」

 どうでもいい本にも、それなりの臭いがつけられていた。

 かびの臭い、腐敗の臭い、硝煙の臭い、泥の臭い・・・

 内容に合わせて、各本ごとに微調整も施されていた。

 一目瞭然ならぬ一嗅瞭然であった。

・・・・・・・・

 効果は抜群だった。

 それもそのはずである。

 人間の知性ではなく野生感覚を刺激したからだ。

 嗅覚は生物のもっとも原初的な感覚であるそうだ。

 地球に誕生したもっとも原始的な生物は味覚や嗅覚だけで

 食物と毒を判別したらしい。

 花の香りに多くの生物が惹かれ、群がるように、

 良き本があれよあれよという間に売り切れた。

・・・・・・・・

 匂いは読書への強力な誘引剤となった。

 ためになる良書が多くの人に読まれるようになり、

 人々の知性は知らず知らずに磨かれていった。

 それは、家庭、学校、職場、行政にも良き変化を促した。

・・・・・・・・

 「かおる書店」の取り組みは、もう10年目を迎えている。

 この町は今では「薫風タウン」と呼ばれ、とても活気にあふれている。

 類は類をよぶというたとえのごとく、

 良きものを求める人たちが全国から訪れ、いつも不況知らずである。

 小さくても個性的かつ良心的なお店や会社が日々増えている。

 町も国もその盛衰は、きっと住む人のレベルに比例するのだろう、たぶん。


ノボノボ童話集
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 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」

2016-11-30

ノボノボ童話集「思いがけない幸せ」

 十代の頃、私がワクワクしたのは土曜日の午後や本屋さんで本を選ぶときでした。日曜の過ごし方を自由に選べる、買う本を自由に選べる。多様な選択肢を今所有しているという幸福感でした。

ノボノボ童話集

思いがけない幸せ

 彼はだれよりも幸せのはずだった。

 由緒ある家柄、裕福な両親、何不自由なき幼年時代。

 秀才で、運動神経もルックスも性格も良い彼は、

 同級生のあこがれの的だった。

・・・・・・・・
 
 そんな彼の進む道は、自ずと決められていた。

 一流の学校から一流の会社へ。

 ほどなく才色兼備の奥方をめとり、素直で優秀な子供に恵まれた。

 そつなく仕事をこなす彼はどんな上司にも重宝がられ、

 エリートコースというのは、彼のためにある言葉のようだった。

 健康かつ裕福な人生行路に彼も家族も満足していた。

・・・・・・・・

 しかし、彼の心にいつしか冷たい風が吹き抜けるようになった

 順風満帆の航海に心が退屈でもしたように。

 この空虚さはいったいなんだろう?

 彼は悩み始めた。

・・・・・・・・

 魔が差したとはこのようなことだろうか、

 彼は無意識に押してしまったのだ。

 封印されていた「心のスイッチ」を。

 その時から彼の非行が始まった。

 会社を何日も無断欠勤し、酒びたりとなった。

 あげくに万引きやら何やら。。。

 まもなく会社は解雇され、妻とも離婚した。

・・・・・・・

 彼は人生のどん底でもがき苦しんでいるはずであった。

 ところがそれが逆だったのである。

 浮浪者同然となった彼なのに、いつも笑みを浮かべている。

 ある日、かつての同僚が彼を見つけ支援の手をさしのべた。

 「なんてこった、昔のあなたに戻りましょうよ」

 彼はにこやかに首を横に振った。

・・・・・・・・

 彼は心の中でこう思った。

 「あいつは哀れだな〜、昔の俺と同じだ。

 決められた線路しか走れない不幸、

 飼い慣らされていく不幸がわからないのだ。

 明日はどうなるかわからない俺だが、

 だからこそ、明日の生き方を無限に持っている。

 自分の可能性を自分で選べる幸せ、

 これに気づいたら、もう引き返せない」

・・・・・・・・

 彼の近くを走り抜けた野良猫を目で追いながら、

 彼はふざけてつぶやいた。

 「幸せっていうやつは、案外、見かけとは違うものだニャー」


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