「菅原克己」が広がってゆく

朝10時に出て、神保町の古書会館へ。今日は和洋会。時間がないのでグルリと一回り。森長英三郎『史談裁判』(日本評論社)300円。この著者の『山崎今朝彌』(紀伊国屋新書)は名著。平凡社ライブラリーあたりで復刻してほしい。今日買った本も、「出歯亀事件」「砂風呂お春殺し事件」「ギロチン社事件」「ピス健事件」など、近代の思想事件、猟奇事件の裁判を紹介している興味深い本。


書肆アクセス〉を覗くと、吉田勝栄さんが青木さんと話していた。青木さんに「不忍ブックストリート」の地図を見せると、「これは見やすいですねー」と云ってくれた。そのあと、「東京スムース友の会」の会場探し。「アンダーグランド・ブック・カフェ」のイベントが両日とも7時開始なので、それ以前に開いている店を見つける必要がある。前に食べに行った某店に飛び込み、店長に相談すると、なかなか好感触。来週か再来週には、この日記と林さんの「デイリー・スムース」で、募集を開始できると思う。


ウチにいったん帰り、荷物を持って出る。途中、『ぐるり』の五十嵐さんから電話が入り、慌てて千駄木へ。今日は、谷中の〈全生庵〉というお寺で開かれる「げんげ忌」に出席するのだ。亡くなった詩人の菅原克己を偲ぶ会で、今回で17回目。ぼくは幹事の小沢信男さんに誘われて、7、8年前から参加している。今回は、谷根千工房の山崎さんも来ていた。受付でお金を払うときに、出席者名簿に「山川直人」という名前があった。ふーん、山川直人ってマンガ家にも映画監督にもいるよなあ。そのヨコで、菅原克己の詩を題材にしたマンガを本にして売っている人たちがいて、何気なく手に取ったら、ぼくもよく知っている、あの山川直人の絵が目に飛び込んできた。思わず、目の前の人に「山川さんですか?」と聞いたら、ご本人だった。400円払って、一冊買う。あとでサインもいただいた。


今回のげんげ忌で、「若い人たち菅原克己についてのマンガを売る」と案内のハガキに書いてあったのだが、そのときは、学生がコピー誌でも売るんだろうと思って、期待せずにいた。ところが、山川さんのほか、内田かずひろ、保光敏将の二人が参加している、この『夜のもひとつ向うに 菅原克己の風景』は、わずか40ページの小冊子ながら、菅原克己の詩の世界を自分たちの絵として表そうとしている。ぼくは山川さんのファンで、『シアワセ行進曲』『コートと青空』などの自費出版本をタコシェで買っていたので、菅原克己をマンガにしてくれたコトがとても嬉しい。会場には、内田かずひろさん(http://www.h4.dion.ne.jp/~uka/index.top.html)もいらしていたが、旬公は『ロダンのココロ』の大ファンなので、さっそく話しかけていた。この冊子、近々タコシェに入荷するそうだし、山川さんのサイト(http://www5a.biglobe.ne.jp/~naoto-y/)でも販売しているので、ぜひ買ってください。


それと、もう一冊、菅原克己の本が出ていた。先年でた全詩集からのセレクトで、『陽気な引越し 菅原克己のちいさな詩集』(西田書店)という、新書判よりも一回り大きい、かわいいサイズの本。オビ以外は活版印刷で、編集とレイアウトを担当した「猫車配送所」がボール紙でつくった建物の写真を、詩のあいだに配置している。これが、とてもいいコラボレーションになってるんだな。小沢さんも云っていたが、菅原克己という著者にべったり付くのではなく、詩に敬意を払いながら、べつの要素を加えた、まったく新しい本になっている。その詩を読み、継承していく人たちによって、「菅原克己」は広がっていく。なお、会場では明かされていたが、「猫車配送所」は名前を挙げると誰でも知っている評論家のこと。この匿名性もいい。


ここ数年のげんげ忌は、ゲストの談話や、高田渡さんをはじめとした歌をあいだに挟むカタチで進行していたが、今回はもっとシンプルに、参加者がめいめい好きなことを話すという形式に戻していた。みんなハナシがうまいので、ゼンゼン退屈しない。ぼくも飛び入りで前に出て、小沢さんの聞き書きの載った『サンパン』の余りを配ったり、「不忍ブックストリート」の宣伝をした。4時ごろお開きになり、五十嵐さんと旬公で〈乱歩〉でコーヒーを飲む。そのあと、五十嵐さんと谷中墓地で行なわれている、げんげ忌の二次会に参加。今日は寒いし、桜はまだつぼみであったが、30人近くの参加者は元気に飲んでいた。〈ならまち文庫〉の宇多滋樹さんが参加している同人誌『黄色い潜水艦』の宮川芙美子さんなど、ぼくの知り合いとリンクする人たちが何人かいた。


6時ごろ先に失礼して、五十嵐さんと別れて、ウチに帰る。林さんの日記を見たら、岡崎さんが「はてなダイアリー」で「okatakeの日記」(http://d.hatena.ne.jp/okatake/)をはじめたとあり、ビックリして見に行った。ちゃんと使えているじゃないですか、岡崎さん。7時半頃、自転車で小沢さんのお宅へ。図版の資料を拝借し、聞き書きの今後の展開について少し相談する。帰って、ある本のゲラを読む。11時近くに旬公が帰り、出雲で買ったラーメンで晩飯。書かねばならない原稿に取り掛かることはできなかった(ゴメン)けど、今日はいろいろ得ること、考えることの多い一日でした。