土砂降りで出かけられず

病院に行く旬公につき合って7時起き。〈M〉のうどんを今日はぶっかけ(熱)で。これで今回頼んだ分はなくなった。洗濯をしてからまた布団に入り、藤野恵美『ハルさん』(東京創元社)を読了。東京創元社お得意の「殺人のないミステリ」の系列で、謎解きそのものにはさほど新味はないが、父と娘の関係がよく描けていて、ちょっとウルウルする。


鳥取祐生出会いの館〉の稲田セツ子さんから手紙。ほぼ孤軍奮闘でこの館を運営してきたが、この3月で常勤をお辞めになるとのこと。稲田さんがいなくなったら、あの膨大な板祐生の資料を維持できるのか……と不安に思い、電話してみたら、新しい職員が入ることになり、稲田さん自身もまだ関わるつもりだというので、ちょっと安心。稲田さん、長い間お疲れ様でした。電話を切ってネットのニュースを見たら、今朝、鳥取県南部町で地震があったという。南部町といえば〈祐生出会いの館〉がある場所だ。数年前の鳥取地震でも、かなりの被害が出ている。電話でナニも云ってなかったから、大丈夫だとは思うんだけど。


夕方まで机に向かって、書誌チェックの続き。今日は自宅にある本でやるのだが、気をつけて一箇所に集めておいたおかげで、肝心の本が見つからないというコトがなくて助かった。キリがついたら展覧会を見に出かけるつもりだったのだが、4時ごろからの土砂降りに出かける気が失せる。必要があって、電車で千駄木に出て、本郷図書館で調べ物。すっかり濡れてしまった。


みすず書房から、小沢信男さんの『通り過ぎた人々』(本体2400円)が届く。『みすず』の連載をまとめたもので、「通り過ぎた」のは以下の人々。井上光晴寺島珠雄向井孝菅原克己関根弘、古賀孝之、石田郁夫菊池章一、内田栄一、小野二郎藤森司郎久保田正文畔柳二美富士正晴秋山清藤田省三庄幸司郎、田所泉。連載はだいたい読んでいるが入手してない号もあり、ぜんぶ通して読むのが楽しみ。表紙カバーの句は、小沢さんが田所泉のことを詠んだもので、筆跡も小沢さんだ。4月7日の「げんげ忌」(菅原克己をしのぶ会)に間に合ってよかった。書店には4月9日配本とのこと。


げんげ忌といえば、菅原克己の詩をマンガ化したり、イラストをつけたり、という試みを、山川直人内田かずひろ・保光敏将の三人がやっている。2005年に『夜のもひとつ向こうに』が出たのだが、2冊目として『朝の挨拶 菅原克己の風景』(400円)ができた。前よりも取り上げた作品の数が多くなっていると思う。山川さんのマンガは、菅原克己の詩にぴったりと合っている。ご近所つながりで〈古書ほうろう〉にも置いてもらうコトになったので、ご近所の方はどうぞ。その他の情報は、山川さんのブログ(http://yamanao.exblog.jp/)で。


紹介ついでに、先日いただいていた本を。石塚公昭『Objectglass12』(風濤社、本体2000円)。石塚さんが10年前から続けてきた、文士人形写真シリーズから、12人の作家を選んだもの。12人とは、江戸川乱歩永井荷風稲垣足穂澁澤龍彦泉鏡花寺山修司、村山槐多、谷崎潤一郎中井英夫夢野久作三島由紀夫、ジャン・コクトー。その作品も、どういう表情、ポーズでどういう場所に置くかを考え抜いてつくられている。たとえば、泉鏡花の人形の背後には、和服の女性が亡霊のように写りこんでいる。その作家への偏愛ぶりを語った小文も良い。岐阜で陶磁器工場に勤めていたとき、東京からやってきた「あきらかに小悪魔テリブルタイプの娘」に澁澤の『エロティシズム』を差し出され、それを読んだのがきっかけで陶芸家の道から逸れてしまったという。


制作ノートに、「私の撮影は、左に人形を捧げ持ち、右にカメラの手持ち撮影である。その国定忠治のようなスタイルから『名月赤城山撮法』などと言っている」とあるが、ぼくはその現場に立ち会ったコトがある。『季刊・本とコンピュータ』第二期の子雑誌で、石塚さんの人形写真を表紙にしたときのことで、ぼくがリクエストした宮武外骨の人形をつくってきた石塚さんは、早大図書館の書庫でその人形を左手に持ち、右にカメラを持って撮影したのだ。三脚など使わないので、当然ピントはなかなか合わず、撮影にすごく時間がかかった。立ち会ったデザイナーは、あまりの効率の悪さに少々呆れていた。しかし、石塚さんも「そして間違いなく全てが写っている」と書くように、その非効率性の中で撮られた写真には、何か凄いものが乗り移っているのだ。


Object Glass12

Object Glass12


セドローくんの日記で、高田馬場BIG BOX古書市が5月で終わることを知る。建て替えで、コンコースでの催事がなくなるためだという。ヒトからそのうわさを聞いていて、それをセドローくんに確かめるつもりだったのだが、昨日会ったときには忘れていた。1974年から続いてきた古書市がなくなるのは残念だし、早稲田古書街にとっては大打撃だろう。せめて、あと2回は皆勤しよう。