ナンダロウアヤシゲな日々

◎この日記は、ライター・編集者の南陀楼綾繁が書いています。
◎新刊『町を歩いて本のなかへ』(原書房)発売中です。
◎著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)、『路上派遊書日記』(右文書院)、『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『老舗の流儀 戦後六十年あの本の新聞広告』(とうこう・あい監修、幻冬舎メディアコンサルティング)、編著『チェコのマッチラベル』(ピエ・ブックス)、共著『ミニコミ魂』(晶文社)。
◎ご感想・ご連絡は南陀楼綾繁 まで。
◎「不忍ブックストリートの一箱古本市」は毎年春に開催します。
詳細は不忍ブックストリート公式ホームページもしくは、しのばずくん便りをご覧ください。
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2012-01-29 《もぐら横丁》の幸福

午前中は大谷晃一『織田作之助 生き、愛し、書いた。』(沖積舎)の残りを最後まで。織田作の作品と並行して読むことで、いろいろ判ったコトが多い。


関係ないけど、織田作を読んでいて初めての言葉を知った。『六白金星』に、主人公が「テンプラらしき大学生の男」にカツアゲされるシーンで「鮮やかなヒンブルであった」とある。まだ読んでないけど、長編『夜光虫』には以下の描写がある(青空文庫より引用)。


同じ仲間の「ヒンブルの加代」と異名のあるバラケツであった。

 バラケツとは大阪の人なら知っていよう。不良のことだ。

 しかし、ヒンブルの加代は掏摸はやらない。不器用で掏摸には向かないのだ。

 彼女の専門は、映画館やレヴュー小屋へ出入するおとなしそうな女学生中学生をつかまえて、ゆする一手だ。

 虫も殺さぬ顔をしているが、二の腕刺青があり、それを見れば、どんな中学生もふるえ上ってしまう。女学生は勿論である

 そこをすかさず、金をせびる。俗に「ヒンブルを掛ける」のだ。

 ヒンブルを掛ける、というのが面白いなあ。


3時に出かけて、〈フィルムセンター〉の新東宝特集へ。日曜だからか、作品が珍しいからか、満席に近い入り。清水宏監督《もぐら横丁》(1953)。尾崎一雄原作清水吉村公三郎が脚色。尾崎原作の《愛妻記》(1959)では、主人公の緒方一雄と芳枝夫妻をフランキー堺司葉子が演じていたが、この作品では佐野周二島崎雪子だ。体格も良く血色のよすぎるフランキーより、情けない感じの佐野のほうが適役だ。島崎雪子も明るくとぼけている若妻を好演。そこに、粘着質の大家(日守新一)や勝手佐野名前広告に使う売薬屋(森繁久彌)らのアクのつよいキャラクターからむ。全体的に、尾崎一雄の持ち味を生かそうとした映画になっていて、あくどすぎないユーモアが漂う。場内は冒頭から笑いが絶えなかった。子供出産にかこつけて病院に住みこんだり、そこから追い出され、まだ話の付いてない貸家に入り込んだりする、いまでは考えられない暢気さがよく描かれている。観終わって、ほのぼのと幸せな気分になった。


銀座線上野広小路に出て、〈珍満〉でビールタンメンを食べて帰る。映画の余韻がまだ残っていて、尾崎一雄全集を引っ張り出して、『もぐら横丁』を探す。映画はこの前の時代を描いた『なめくじ横丁』とを合わせ、一つの場所に設定している。映画に出てくる、伴克雄(檀一雄)の家は上落合二丁目で、尾崎曰くの「なめくじ横丁」。そのあとに引っ越し下落合四丁目が「もぐら横丁」だ。映画には友人の文士として、深見喬(浅見淵)、古井松武(古谷綱武)、早瀬稀美子(林芙美子)らが出てくるが、古谷が近所にいたのは「なめくじ」で、林芙美子のほうは「もぐら」である。なお、映画には尾崎志郎、丹羽文雄檀一雄特別出演しているらしいが、どれかは判らなかった。


映画では小事件が次々に起きるが、その大半は原作にあるエピソードを下敷きに、映画らしくつくっている。広告文に勝手名前を出されたのは原作にあり。ラジオがうるさくて仕事にならないのは、原作ではシェパードの鳴き声。林芙美子ラジオをあげると云ってくれたのに、見栄を張って持っていると云ったために古道具屋で買うはめになる件は、ラジオを炬燵に換えれば原作通り。芳枝が赤ん坊の鼻をつまんで乳首を離させたのを、古谷夫妻がまねて遊ぶ場面もほとんどそのまま。もっとも、芥川賞を受賞するのは、映画で描いた時期より3、4年のちのことだ。


尾崎最初映画化である島耕二監督《暢気眼鏡》(1940)については、杉狂児の演技が気に食わないと否定的だったが、本作はどう観たのだろうか? 全集にそういうことを書いた文章がないかとざっと見てみたが、見つからなかった。


ちなみに、萩原朔太郎の妻・稲子は、馬込文士村出会った若い男とできてしまい、離婚、その後、喫茶店ママになるのだが、『もぐら横丁』(小説の方)によれば、中井駅近くの〈ワゴン〉という店だったそうだ。

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2012-01-28 不忍ブックストリートweek、企画募集中

不忍ブックストリートの春の一箱古本市、今年は4月28日(土)、5月3日(木祝)に開催します。店主募集の告知は2月中、募集開始は3月上旬の予定です。出店される方は、「しのばずくん便り」をチェックしてください。


またそれに合わせて、4月20日(金)〜5月6日(日)を「不忍ブックストリートweek」とし、地域のお店や個人、グループなどの企画するイベントや、不忍実行委員会が企画するイベントを一緒に告知します。このweekへの参加企画を現在募集中です。締め切りは3月1日ですが、参加の意思だけでも早めにご連絡いただけると助かります。実行委員企画も鋭意準備中です。

http://d.hatena.ne.jp/shinobazukun/20120122


昨年の不忍ブックストリートweekにも参加してくれた犬山の五っ葉文庫・古沢和宏さんの『痕跡本のすすめ』(太田出版、1300円)が届く。ブックイベント界隈ではすでにおなじみの「痕跡本」についての最初の本ということになる。図版中心の本だと聞いていたので、ソフトカバーだと思い込んでいたら、ハードカバー。中もたしかに図版はたっぷり入っているが、五っ葉くんの文章もかなり多く、中身が詰まっている本という印象。太田出版が出すのならサブカル寄りという印象を裏切る、硬派な本だ。


献本がもう一冊、山根貞男日本映画時評集成2000-2010』(国書刊行会、4200円)。460ページの分厚さ。索引付き。ぼくはゼロ年代邦画新作をほぼスルーしてきたので、改めて観はじめるための教科書になるだろう。現在、〈新文芸坐〉で本書刊行記念の特集が上映中。


昨日は昼に〈神保町シアター〉で、千葉泰樹監督《がめつい奴》(1960)。釜ヶ崎舞台にした映画はいくつもあるが、この作品での釜ヶ崎は思い切って汚く、住人もこすくて自分勝手な奴らばかり。だけど、愛嬌がある。簡易旅館経営者三益愛子とその息子・高島忠夫、みなしごから拾われた娘・中山千夏トリオがいい。


今日は午前中に〈不思議〉へ。2月中閉店ということでセールをやっていた。前からここに来るたびに眺めていた高梨豊写真集『人像』(深夜叢書)を、かなり割引してもらって買う。つげ義春植草甚一深沢七郎半村良らが被写体になっている。そのあと、千駄木倉庫へ。根津にあった貸本屋なかよし文庫〉の蔵書がここに収まっているのだ。それを見学した後、一箱本送り隊の集積所へ。本の受け入れと発送を3時頃まで。今日は〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉で大村彦次郎さんのトークがあり、予約していたのだが、重なってしまい行けず。


一度ウチに帰り、有楽町へ。〈ビックカメラ〉上のゆうらくちょうホールで、ミズタマさん、どすこいフェスティバルSさん根岸さんと待ち合わせ。落語会に誘ってもらったのだ。落語は読んだり聴いたりするのは好きだが、観たことはあんまりない。なので、ほかの3人にいろいろ教えてもらう。前座の後、春風亭一之輔、桃月庵白酒、中入り後は春風亭百栄柳家喬太郎という4人。この組み合わせはなかなか豪華だそうだ。前座ですでにいびきをかいて寝ている人が近くにいて、自分もそうなるかと不安だったが、途中でちょっとだけ寝たほかは、面白く観た。喬太郎の「按摩の炬燵」は知らなかったが、酒を飲む描写がうまく、途中でホロっとさせるところもあった。


終わって、有楽町駅前の〈中園亭〉へ。2階に上がったが、すぐに満員になる。ひとりでは頼む機会のない一品料理が食べられてよかった。あれこれ話しているうちに11時近くになった。

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2012-01-26 《風流温泉日記》の白浜

この2、3日の朝晩の冷え込みはひどい。ひょっとしたら、この冬は上京してから一番の寒さなのかもしれない。


昨日の午前中は、根津の〈珈琲館〉でデザイナーのHさんと会ったあと、本郷図書館で資料を読む。いもづる式に目を通しておきたい本が出てくる。


今日書評原稿を2本書く。『COMIC Mate』では鈴木智彦『ヤクザ原発』(文藝春秋)を紹介するが、その前に同じ著者の『潜入ルポ ヤクザ修羅場』(文春新書)を読んだら、これがめっぽう面白い新宿歌舞伎町の「ヤクザマンション」を仕事場にしていたときのエピソードがすごかった。


夜は神保町へ。〈三省堂書店〉で、小沼丹『更紗の絵』(講談社文芸文庫)と唐沢なをき『まんが極道』第6巻(エンターブレイン)を買って、〈神保町シアター〉。入場するとき塩山芳明さんに声をかけられる。松林宗惠監督風流温泉日記》(1958)を観る。一昨日にフィルムセンターで観た《風流交番日記》と同じく小林桂樹警官約で出演しているが、べつにシリーズではない。紀州白浜温泉旅館に住みこんでいる女中たちをめぐるエピソードが同時並行で描かれる。脚本がしっかりしているし、団令子をはじめ俳優もみんなうまいので安心して観ていられる。上原謙中北千枝子のラブシーンという珍しいものもあった。三益愛子里子に出した娘である司葉子が、宝田明結婚して、この旅館にやってくるという設定があるが、司と宝田は汽車の中で予定を変えて白浜に立ち寄らなくなる。そのため、この二人が出てくるのは合計3分ぐらい。撮影スケジュールに何か問題あったのかと思える、不自然さだ。その代わりにやってくる新婚夫婦の妻が水野久美だとは、観終わってから気づいた。


終わってから、これから富岡に帰る塩山さんと途中まで一緒に。以前なら仕事場に泊まりこむ日は、映画を観たあと、ときどき一緒に飲んだものだが。

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2012-01-24 日比谷図書文化館に行く

先週は3日間かけて、雑誌特集の原稿をまとめる。6本のインタビューを合計で50枚以上でまとめたので疲れたけど、これぐらいの量を任せてもらえると全体像が把握できていい。


週末に神保町に行き、〈神保町シアター〉で中村登監督三婆》(1974)を観る。原作有吉佐和子旦那がなくなった後の家に本妻(三益愛子)、妾(小暮実千代)、旦那の妹(田中絹代)が同居するハナシ。田中絹代が意地の悪くて利己的な老婆を好演。原作では、敷地内にそれぞれの建物をつくったため、じつにあやしい、グロテスク屋敷になっているのだが、映画ではひとつの家での同居になっている。あと、時代原作では戦時中から始まってるんじゃなかったかな。ともあれ、三人の女の意地の張り合いだけで十分楽しめた。


古本ねこ〉さんより古書目録第4号をいただく。ヨーロッパへの買い出し旅行がそのまま目録につながっていて、読ませる。ベルギー在住のエリザベス・イワノフスキーの絵本長新太漫画イラストを描いた『週刊東日』、堀内誠一が関わった『ロッコール』などが気になった。なお、2月3日(金)、4日(土)の2日間、古書会館で、海ねこさんと西秋書店さんによる「2階の古書市」が開かれるそうです。3日にはたむらしげるさんとトムズボックス土井章史さんのトークあり。また、2月17日(金)には千代田図書館で、「古書目録作りの最先端」というトークショーがあり、海ねこさん、日月堂さん、大屋書房さんが出演されるとのこと。


読了したもの徳田一穂『秋聲と東京回顧』(日本古書通信社)、鈴木智彦『ヤクザ原発』(文藝春秋)、阿野冠『花丸リンネ推理』(角川書店)、森浩一『僕は考古学に鍛えられた』(ちくま文庫)など。『僕は考古学に鍛えられた』は少年期に出会った考古学一生の仕事にした著者の、苦難が多くても幸福だった青春期の記録。これは名著。先月出ていたら、〈往来堂書店〉のD坂文庫で紹介したかった。


昨夜は夕方から雪が降り、朝起きるとけっこう積もっていた。午前中に1本原稿を書いてから外へ。コンビニメール便で発送するものと、切手貼付済みでポストに投函するものとが1通ずつあったが、なんかボーっとしていたのか、郵便の方をメール便に出してしまう。それに気づかず、西日暮里駅の近くで昼飯食って、ポストに投函しようとしてはじめて気づきコンビニまで戻ってシールを貼り替えてもらう。こちらが悪いんだが、店員も切手貼ってあるのに気付かなかったのか?


霞が関で降りて日比谷公園へ。入口のところで、タクシーに乗り込もうとする東京新聞Mさんとばったり。公園に入るとまだ雪が残っている。昨年11月に開館した日比谷図書文化館へ。以前は都立日比谷図書館だったが、千代田区図書館になった。まず1階で特別展示室で「文化都市千代田」を見る。江戸から明治への変化を示す文書が展示されていたが、「文化都市」という視点があんまりなかったような気が。内田嘉吉文庫のところに展示されていた、息子の内田誠の著書『父へ』の外函のデザインが素晴らしかった。


そのあと、2階、3階の書棚を見て回る。蔵書数が少なくなった分、特集的なコーナーを増やしている。日比谷図書館歴史の小展示が面白かった。昭和24年の『東京都立図書館要覧』に載っている都立図書館の開館時間の一覧があったが、他が朝から夕方までなのに、荒川図書館だけはなぜか14〜21時になっていた(本郷図書館は13〜20時)。この違いはナニに由来するのか? あと「閲覧料8円」とあるのにも驚く。この時期、区立ではなく都立だったことも知らなかった。2階には東京関係の本のコーナーがあり、落語だけを独立させたり、東京舞台になった小説を並べたりと頑張っている。


ただ、図書フロアにはスペースごとに名前が付いていて、経済とか社会学とかは「まちづくり情報交流」となっているのだが、本の並べ方自体は10進分類法で、とくにまちづくりについての本が充実しているとも思えない。日比谷図書館時代に比べると、蔵書数が少ないので、読んでみたいと思う本も見つからなかった。近隣に通勤している人には便利かもしれないが、わざわざ足を運ぶ立場としては、正直、どういう用途で利用すればいいのか判らない。なんか中途半端な感じがした。結局、手持ちの文庫本を読み進める。閲覧席がほうぼうにあるので座りやすいのはいい。


丸ノ内線銀座へ。マガジンハウスの近くにある〈共楽〉に久しぶりに入り、ラーメンを食べる。かつおだしであっさりしてて、チャーシューが柔らかい。大盛りで750円。京橋の〈フィルムセンター〉へ。特集「よみがえる日本映画 新東宝篇」に来るのは今日が初めて。松林宗惠監督風流交番日記》(1955)は、新橋らしい駅前の交番に勤務する巡査の哀歓を描くもの小林桂樹が主演だが、先輩巡査志村喬がいい。冒頭に東京駅が出てくるし、新橋銀座風景がふんだんに出てくる。シーンごとにどこを撮ってるか分かったら、もっと面白く観られると思う。川本三郎『銀幕の銀座』(中公新書)あたりで取り上げてないかと思って、あとでめくってみたが載ってなかった。帰りに、閉店間際の〈八重洲ブックセンター〉に寄り、書評用の本を2冊買って帰る。


間が空いてしまうと、紹介したかった情報も、ちゃんと書きとめておこうと思ってたこともダイジェストになってしまうのでダメですね。少しずつでも更新するようにしないと。

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2012-01-17 たいがいのことは今和次郎がやっていた

今日は朝からベランダ倉庫の撤去があるので、早めに出かける。JR新橋駅で降り、SL広場の近くにあった立ち食いの牛丼屋に寄ろうとしたら、ない。そういえば、数年前になくなったのだった。烏森口のさぬきうどんぶっかけうどん


汐留方面に歩き、〈パナソニック汐留ミュージアム〉(http://panasonic.co.jp/es/museum/)へ。入口はずいぶん贅沢なショールームである。4階でやっている「今和次郎 採集講義」展を見る。「農村調査、民家研究仕事」「関東大震災都市崩壊再生、そして考現学誕生」「建築家デザイナーとしての活動」「教育普及活動ドローイングのめざしたもの」の4部構成。今和次郎展覧会は今まで何度かあったが、どうしても考現学への比重が大きかった。しかし、この展覧会では各ブロックの展示物・キャプションが充実しており、他の仕事との比較の中で考現学がどういう位置を占めるかが、おぼろげに見えるように構成されている。いろいろ発見があったが、今の考現学最初の労作といえる「東京銀座風俗記録」(1925)の調査メンバーに、歴史家服部之総、のちに『銀座』を書く安藤更生(ミイラ研究家でもある)、そして掲載誌『婦人公論』の編集長・嶋中勇作の名前を見つけたのには、なんだかワクワクした。


それにしても、こうやってみると、考現学戦後雑誌ジャーナリズム(とくにグラフィックルポ)やアートを先取りしている。ある家の家財を全部記録する「悉皆調査」などは、1990年代にやっていた、韓国家族の持ち物を全部美術館で公開するという展覧会を思い出す。凡人が面白いと思いつくたいがいのことは、すでに今和次郎がやっていたのではないか、とさえ思える。


じっくり見ていたら、たちまち1時間過ぎていた。後半に展示替えがあるというから、そのときにもう一度見たいほどだ。図録として青幻舎から刊行された『今和次郎 採集講義』を読んでから、また来ようかな。ショップ絵はがき数枚と一筆筅を買う。「考現学」と書かれたバッジもなかなかいいセンスだったが、どう使えばいいのか判らず見送った。


新橋に戻り、青山一丁目経由で神保町へ。〈東京堂書店〉を覗いたら、1階のレイアウトが変わっている。位置口の左側が入れないようになっているが、ココにエレベーターを設置するのだろうか。〈神保町シアター〉へ、特集「川口家の人々」。で観たのは、清水宏監督人情馬鹿》(1956)。原作川口松太郎わずか70分とは思えない、濃いストーリーだった。


ウチに帰ると、ベランダが完全にすっからかんになっている。すっきりしたけれど、やっぱり、どことなく寂しい。仕事の合間に、〈古書ほうろう〉へ。往来座の「しねみち」こと「のむみち」さん制作の『名画座かんぺ』をいただく。都内6館の名画座の上映情報をヨコ並びにまとめたもの。折りたたむと手帳に挟まるサイズ。各館のパンフレットをいつもカバンに入れているヒトには、まずコレを見ればいいので便利。瀬戸さんのイラストもいい。奥でpow-wowZineZineZine!」展が開催中。イラストレーション塾の卒業生が、それぞれzineをつくって展示するもの。中身よりも、製本の仕方や紙の使い方を見るのが面白い。その横に並べてあった『趣味と実益』第3号を買う。第2号は秋の六角橋一箱古本市で買ったのだが、いいペースで出ている。


昨日の『田端抄』に続き、昨年、矢部登さんからいただいたが、少ししか読んでなかった『眩暈無限 結城信一頌』(私家版、制作・亀鳴屋)を通読結城信一がどのように本を読み、どのように原稿を書いていったか考察を通して、矢部さんが結城信一をどんなに丁寧に読んできたかが伝わる。池袋の〈高野書店〉で結城信一の旧蔵書に出会った時の描写は迫真だ。


なお、いま検索してみたら、同書の中核をなす「眩暈無限」のテキストが、日本ペンクラブの「e-文藝館=湖(umi)」に掲載されていることが分かった。

http://umi-no-hon.officeblue.jp/emag/data/yabe-noboru04.html

のむみちのむみち 2012/01/19 01:59 ナンダロウさま、
かんぺ、今後ともよろしくお願いいたします!
ありがとうございました。

ドンベーブックスSドンベーブックスS 2012/01/19 07:29 東京堂さんはエスカレーターが設置されるようですよ。各階にカフェができるという噂もあるのですが、さてどうなるのでしょう。

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2012-01-16 矢部登『田端抄』を読む

午前中、まだ読んでなかった資料数冊にざっと目を通す。そのあと原稿を書きはじめ、3時間ほどで完成。萩原朔太郎についての短文だが、昨年から全集や関連書をかなり読み、朔太郎が好きになりつつあるので、入れられないエピソードが多かったのが惜しい。関連書のなかでは、嶋岡晨『伝記 萩原朔太郎上下春秋社)がもっとも役に立った。文献を調べつくした上で、自分見方をしっかり打ちだした良い評伝の見本。こういう本をいつか書けたらな、と思う。


このところ、部屋にいても底冷えがするが、今日はまだ一段と寒い自転車で出かけて、本駒込図書館へ。休館日だったのでポストに本を返し、〈ときわ食堂〉でチューハイ定食。この店にしては珍しく客が少なかった。


矢部登さんから田端抄』(書肆なたや)をいただく。四六判20ページ、ホチキス綴じの小冊子。『日本古書通信』掲載の「根岸残香」に、「田端夢幻」「瀧野川中里」と2編を加えてまとめたもの田端で生まれ育った矢部さんが、家の周りを散歩しながら、数珠つなぎのようにして、地元ゆかりのある文人のことを綴っている。登場するのは、柴田宵曲芥川龍之介岩本素白正岡子規、徳田一穂、諏訪優中井英夫室生犀星ら。


もちろん田端に行ったことがない人でも読めるものだが、文中に出てくる通りや寺、神社などを知っているともっと楽しめる。たとえば、こんな記述


しかしここは、与楽寺坂を上りきった高台通りを左折し、桜並木を歩いて東台橋へ到る。その手前の路地を右に入り、田端駅のホームを見下ろす崖上に出ると、前方が大きく開ける。いまは表口の崖のかどを切り崩してビルが建つが、以前その崖上には喫茶店アンリイがあった。店内から展望はとてもよかった。


このアンリイのことは、冨田均エッセイで知ったが、矢部さんによると、徳田一穂『秋聲と東京回顧』(日本古書通信社)にも出てくるそうだ。また、別の個所に、与楽寺の脇に中井英夫が住んでいたともある。最近、与楽寺の前の家々が軒並み取り壊され、以前の風景がすっかり消えつつあることが、つくづく惜しまれる。


個人的には、ちょうど萩原朔太郎づいているので、これらの人名に朔太郎を付け加えたくなる。朔太郎は友人の室生犀星を追うようにして、1925年大正14)4月田端に住んだ(現在の谷田橋通り沿い)が、11月には鎌倉引っ越している。朔太郎は『移住日記』の中で、田端は「妙にじめじめして、お寺臭く、陰気で、俳人や茶人の住みそうな所」であるとし、「何もかも、すべて田端的風物の一切が嫌いであった」と切り捨てている。もっとも、『田端に居た頃』によると、田端の悪口を云う朔太郎を、犀星は「君はどこに居たって面白くない人間なのだ」とやりこめている。


それはともかく、矢部さんのこの本は薄い小冊子ではあるけど、そこに込められている内容は深い。奥付に「無用の小冊子なれば、数部を印行に供せんとす」とあり、矢部さんの謙虚性格から広く頒布するおつもりはないようだが、田端に興味のある人には見逃せないものだと思うので、せめて〈石英書房〉には置いてほしいもである

dozodozo 2012/01/17 13:00 アンリイとは懐かしい。向かいのビルのところには国鉄病院があって、駅の向かいには小さな土産物屋があり、田端大橋も付け替え前、駅は薄暗く、駅の看板には表口・裏口って書いてあって。。。と一気に45年前の光景が浮かびます。
矢部登さんの「田端抄」是非読ませていただきたいものです。石英書房さんにおいていただくと大変うれしいですねえ。

kawasusukawasusu 2012/01/17 23:27 アンリイ、行かれたことがあるんですね。ぼくがこの辺に住み始めたころはとっくになくなっていたのですが、なんだか気になる店です。「田端抄」の入手については、いま問い合わせ中です。決まったらお知らせします。

cloudy23cloudy23 2012/01/18 13:08 こんにちは。石英書房です。話題にしていただき光栄です。
上記の『田端抄』引用部分は、まさに当店前の道ですね。読みたいです!もし果たせるものならば、ぜひお店に置かせていただきたいとも思ってしまいます。
街の様子がどんどん変化していく中、昔の姿を知る機会も大切にしていきたいと切に感じます。

2012-01-15 やっぱりスサミ・ストリート

昨日の日記で訂正。数の子の塩が云々と書きましたが、アレは塩抜きして食べるものだとツイッターで教えていただきました。物知らずに赤面。これまで自分で買ったことがないので、そのまま食べられるもんだと思っていました。


午前中、原稿を書く。三分の一ぐらいできたところで、出かける時間になる。〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉で、豊田四郎監督《負ケラレマセン勝ツマデハ》(1958)を観る。坂口安吾エッセイをもとに、登場人物を新たに設定してつくったオリジナルストーリーだが、森繁久彌をはじめ、頭のねじが緩んでいるような奇矯な人物に仕立て上げたのは、脚本(八住利雄)の功績か。娘の野添ひとみがいつもローラースケートに乗ってるのなんか、まったく意味はないけど面白い。それにしても、昨日に続き、二日連続安吾がらみの映画を観るとは。


阿佐ヶ谷駅前の〈富士そば〉で、とり天そば食って、西日暮里に戻り、原稿の続き。後半がうまくまとまらず、19時すぎてやっと完成。晩飯は鶏肉と白菜を鍋で煮て食べる。TBSテレビドラマ運命の人》第1回を観る。山崎豊子作品のなかで、もっと感情移入しにくい主人公を、本木雅弘が演じる。


しばらくサボっていたが、久しぶりに道灌山通りこと「スサミ・ストリート」最新ニュース。昨年秋以来、〈TSUTAYA〉の上の焼肉屋が〈養老の滝〉に、〈ポポー〉隣の居酒屋が別の店にと、入れ替わる。〈TSUTAYA〉の先の路地にあった居酒屋も閉店した。そして、JR高架下の交差点にあった中華料理屋の〈張珍楼〉も年末からずっと営業しておらず、なんの表示もないが、閉店した模様。この場所ではこれまで4、5回の入れ替わりを見ているが、その中ではまあ続いたほう。店の外に台を出して、ギョーザチャーハンなどを手ごろな価格で売っていたので、ときどき買っていた。昨年秋から、突然それがなくなった。少し道にはみ出しているので、苦情でも来たのかなあと思っていたら、そのひと月後の閉店だった。この場所では一体何をやれば、成功するんだろう?


さて、1月18日(水)は今年最初不忍ブックストリームです。ゲストはおなじみ、牧野伊三夫さんです。詳細はこちら。ぜひ見てください。

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2012-01-14 舞台挨拶のほうが面白い

12日は府中市美術館の「石子順造世界」展へ。何カ所かからの行き方があるが、府中駅からバスで行く。バス停名前を前違えて、気づいたら小金井市に入っていた。慌てて降りて、反対側のバスに乗って戻る。間違えたほうが悪いのだが、行きも戻りも、そのバス停で「美術館前」というコメントが一切ないのはひどい。展示は石子順造の目が届いた美術マンガキッチュ現物を展示するというものだが、うーん。作品を見せることが優先され、石子がそこにどう関わったかということがいまいち判りにくい。図録では非常に行き届いている、石子の履歴が展示ではほとんどカットされている。あと、キッチュのコーナーに関しては、仕方ないとはいえ、石子自身のコレクションはほとんどなく、石子が面白がったテーマを、学芸員コレクターなどから集めてきて並べたわけで、それって、石子の目がどこまで関わっているんだろう? という疑問を感じた。結局、もっともインパクトがあったのは、つげ義春ねじ式』の原画の全ページを展示した部屋だった。


この日の夕方と翌日、u-senくんに手伝ってもらい、ベランダ倉庫に入れていた本を仕分けする。部屋の中にはスペースがなく、ごく一部だけを中に入れて、あとは古本屋に売ることに。ちゃんと数えてないけど、2000冊以上はあったと思う。古書信天翁、古書ほうろう立石書店に運ばれていった本は、こんどは誰の手に渡るだろうか。


今日は午前に、ベランダにある廃品を業者が取りに来たのと、立石書店の岡島さんが本を運びにきた。思ったよりも早く、それらの作業が終わる。今日は一箱本送り隊の作業日だが、大量の自分の本を仕分けた後にはちょっときついので休む。その代わり、上野の〈上野オークラ劇場〉で上映される山崎邦紀監督の新作を観に行く。13時半に劇場に着くと、山崎監督らがロビーにいた。場内に入ると、前の作品がまだ途中。滝田洋二郎の30年ほど前の痴漢モノだが、ぬけぬけとバカバカしく面白く、場内大爆笑だった。最初から観たかった。


次に山崎監督の《人妻の恥臭 ぬめる股ぐら》。坂口安吾の『風博士』と『白痴』を翻案し、放射能から逃げている避難所に集まった奇妙な人々の関係を描くというものだが、例によって観念的で、いまいち話の持っていき方が判らない。風博士役の荒木太郎が消えたり現れたりするときのような、即物的な面白さがもっと入っているといいのだが。山崎さんの映画は何本か観ているが、フェティシズムが笑いに転嫁する場合には成功すると思う(それは薔薇族映画のほうが多い)。本作にはそれは感じなかった。客席からも、ときどき苦っぽい笑い声は漏れるものの、さっきの滝田作品の賑わいが嘘のようだった。


終わると客席の明りがつく。場内は満員で、立ち見の客も。かなり待たされたあと、舞台挨拶が始まる。監督、出演の5人が壇上に並ぶ。劇場支配人が司会するのだが、相当情報通らしく、いろいろ小ネタを出してから話を振るので面白かった。しかし、山崎監督への扱いはなかなかで、最初フルネームは間違えるし、最後一言しゃべらせずにシメようとしていた。山崎さんはこの劇場の前身の建物にあった薔薇族映画館の閉館と、大宮オークラの閉館時に、それぞれ監督作が上映されているという。エロマンガ編集者時代には、関わった雑誌が次々つぶれるので、「廃刊人生」なるコラムタイトル塩山芳明さんに付けられていたが、映画監督としてもそうだとは。でも、いまだに次々に監督脚本仕事があるのだから、じつにうらやましい人生だといえよう。まあしかし、作品そのものよりも舞台挨拶のほうが面白いというのは、モンダイだと思うのだが……。


塩山さんも観に来ていたので、二人で御徒町まで歩き、〈風月堂〉の喫茶コーナーへ。面と向かって話すのは久しぶり。相変わらず口は悪いが、最近落ち込み気味のこちらを気づかってか、新しい仕事をくれるあたり、ありがたし。別れてから、〈味の笛〉でちょっと飲み、〈吉池〉の魚コーナーで買い物して帰る。数の子が激安だったので買ってみたけど、塩が強すぎて食べられたもんじゃなかったです。

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2012-01-11 やっぱりスゴかった、《ブラック・サンデー》

朝9時すぎに出かけて、千代田線へ。事故があったようで、途中で何度も止まってしまい、思ったより時間がかかる。六本木ヒルズの〈TOHOシネマズ 六本木ヒルズ〉。ここに来るのは初めて。この数年、各所の映画館で「午前十時の映画祭」というのをやっていて、1本1000円で観られる。


今日観るのは、ジョン・フランケンハイマー監督の《ブラック・サンデー》(1977・米)。ビデオDVDで2度ほど観ているし、トマス・ハリス原作も読んでいるが、ぜひスクリーンで観たいと思っていた。昨年中から来年1月六本木でやることを知っており、待っていたのだ。席数が多く、ゆったり座れるが、朝10時にしてはけっこう入っていたかも。2時間20分ぐらいある長い映画だが、最初から引き込まれた。ラストカタストロフに至るまでの過程が、丹念かつ的確に描かれている。原作も大好きだが、小説とは違う語り口で成功している。出演者も、アラブの女テロリストも、イスラエル少佐ロバート・ショウ)もいいが、ブルース・ダーン演じる元アメリカ軍人のマイケル・J・ランダーの狂気は迫真だった。


観終わって外に出ると、ちょうど昼時で人通りが多い。資本主義国の繁栄への呪詛を描いた《ブラック・サンデー》のあとで、こんなところを歩いていると、テロにあってもおかしくないような気がしてくる。


神保町へ。腹が空いたので、〈キッチン南海〉に少し並び、カツカレー。そのあと〈神保町シアター〉でチケット買ってから、近くの〈ベローチェ〉で本を読む。〈三省堂書店〉で書評候補の新書数冊と、ドン・ウィンズロウ『歓喜の島』(角川文庫)、永井豪『激マン!』第5巻(日本文芸社)、ラズウェル細木『う』第2巻(講談社)を買う。


神保町シアター〉の無声映画特集。今日成瀬巳喜男監督の《腰辨頑張れ》(1931)と《夜ごとの夢》(1933)の二本立て。伴奏神崎えりさん。両方ともダメ夫が主人公だが、前者は陽性、後者は陰性だ。どちらも、貧しさを表すのに、革靴の底に開いた穴を紙でふさぐ描写がいい。どちらも、穴からイラストが見えるのがおかしい。あと、ラスト子ども事故に遭うというのも共通している。いろいろと発見の多い二本立てだった。


帰って、馳星周『暗闇で踊れ』(双葉社)の書評を書く。日曜の『赤旗』掲載予定のもの。早めに書きあげて図書館に行くつもりだったが、うまくまとまらず、完成すると閉館時間になってしまった。適当に晩飯をつくって食べる。


『旅手帖beppu』第3号が届く(http://beppu.asia/)。別府で発行されているフリーペーパー。今回の特集は「いいとこみつけた」。別府タワー、油屋熊八、通りの話など。写真やデザインもよく、読んで楽しく、別府に携えていって使える。また別府に行きたくなるなあ。

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2012-01-10 人生初優勝!

7日、8日はわめぞの「外市」。〈古書往来座〉での同イベントが、鬼子母神商店街のキクガレージに場所を移して復活。7日の3時半ごろに行ったが、思ったよりも規模が大きく、かなりの冊数が出ていたので一回りしたら終了時間に。岐阜の徒然舎さんが持ってきていたミニコミ『ギフノート』、『文藝別冊 幸田文』を買う。倉敷蟲文庫さん、犬山の五っ葉文庫くん、仙台佐藤ジュンコちゃんらのゲストや、不忍ブックストリートの有志など出店者が賑やか。しかし、寒い


ジュンちゃんと若生さんを誘って、キクガレージ前の喫茶店〈さむしんぐ〉でコーヒー。のんびりしていたら、ユースト「わめぞTV」の開始時間が過ぎていて、ジュンちゃんに連絡がつかないとみんなが慌てていた。5時から「盲本道合戦」。歴代の優勝者とゲスト参加者トーナメント形式。コーディネーターは往来座瀬戸さんだが、始まる前に酒を飲み過ぎて、途中で司会を強制解除させられていた。南陀楼にそっくりの「ナンシー」(ネブラスカ出身・別府経由・西日暮里在住の娼婦ストリッパー編集者)は、第一回戦で蟲文庫そっくりさん準決勝でジュンちゃんのそっくりさんと対戦して決勝戦に上がり、タラコマスクを下して優勝した。ナンシー南陀楼も、典型的文系のため勝ち負けを賭ける機会がほとんどなかったため、これまでの人生で「優勝」という称号を得たのはコレが初めてではないか。誰に自慢できる称号でもないけれど、そこはかとなく嬉しい。対戦中に日本酒を飲み、そのあとの〈アミ〉での打ち上げでもビール飲んだので、すっかり酔っぱらう。


翌日になって、酒が抜けてくると、あんなコトやって喜んでいる場合じゃないぞという、暗澹たる気持ちが強くなり、布団の中でドン・ウィンズロウ馳星周ノワール小説に逃避。しかも、その翌日も同じパターンで過ごしてしまう。ダメな気分のときには、まともじゃない人物がたくさん出てくる小説がたまらなく染みるけれど、ますますやる気がなくなる。まずいなあ。連休明けの今日はなんとか立ち直り、滞っていた連絡などを。午後に取材があり、そのあと特集のラフ打ち合わせ。夜はユーチューブラジオ聴きながら、晩飯つくって食う。


サンデー毎日1月22日号で、藤田洋三世間遺産放浪記 俗世間篇』(石風社)の書評を書きました。1冊目よりはややインパクトが弱めだが、その分、物件の幅は広くなっていると思う。


ジャイブから坂田靖子『サカタ食堂 おまかせ定食』(600円+税)。食べものをモチーフにした短篇アンソロジー、第二弾。「エッグノック」の出てくる『夕焼け通り』は、中学生の頃に読んでつよく記憶に残っている。

2012-01-06 神保町、三ノ輪

昨日はことしはじめて神保町へ。〈神保町シアター〉で溝口健二監督《折鶴お千》(1935)を観る。サウンド版(音楽入り)で製作されたものだが、今日のこの回は柳下美恵さんのピアノの生伴奏が入る。風が吹く音などの効果音も入っていたが、これはもともとのプリントにあったものだろうか。最初、話の構成が判りづらかったが、後半の盛り上がりが素晴らしい。山田五十鈴の表情の変化の豊かなこと。このとき17歳! 


今日は夕方に近所の喫茶店で、近所にお住まい編集者Wさんと会う。初めて会うが、共通の話題があり、話が尽きない。あとの用事があるので、切り上げて別れる。その後、自転車三ノ輪へ。かなり久しぶりに〈中ざと〉へ。カウンターにはいつもの常連が座っているが、テーブルにはだれもおらず、半分照明を消している。そんな中でAさん、Wさんと飲む。どうしてもしょぼくれた話になるなあ。9時で終わりだというので、都電三ノ輪駅近くの〈弁慶〉へ。常連度が高いので、一人では入りにくい店。ここで1時間ぐらい飲んで、別れる。帰りに荒川図書館近くの〈麺新華〉でにら玉ラーメンボリュームすごい。


サンデー毎日1月15日号で、新井素子さんにインタビューしています。新刊『銀婚式物語』(中央公論新社)についてです。

なかじまなかじま 2012/01/12 23:04 光栄軒もすごいですよ。
http://r.tabelog.com/tokyo/A1324/A132401/13018599/

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2012-01-04 初夢版・風流夢譚

昨夜は西澤保彦スナッチ』(光文社文庫読了。この著者が得意とするSF的設定のミステリあとがきにもあるように、著者は高知在住だが地元色の強い作品は少ない(ブラスバンド小説黄金色の祈り』は高知舞台だったはずだが)が、これは高知県舞台1977年2008年の31年間の時の流れを、さまざまな場所を使って示している。地元の人には一発で判るモノが多いんだろう。


昼ごろ、自転車で出かける。道灌山下交差点年末オープンしたカフェに入ってみる。韓国系のチェーンらしく、店員も韓国人だ。コーヒーとパンのセットが300円。パンは大きくて、中が甘い。テーブルは3つしかなく、持ち帰りに力を入れているようだ。しばらくそこで本を読み、〈古書ほうろう〉へ。名古屋からこっちに帰る夜行列車に、線路に侵入した車がぶつかり3時間立ち往生した話を聴く。先頭車両にいたが、衝突の衝撃はほとんどなかったという。とにかく、脱線しなくてよかった。こことブックオフ小説を何冊か仕入れる。


往来堂書店〉では、恒例の「D坂文庫」フェアをやっている。今回は不忍ブックストリート以外の人も多く参加している(http://yanesen-urouro.bakyung.com/2011/12/post11122900.html#more)。ぼくが推薦したのは、嵐山光三郎『桃仙人 小説深沢七郎』(ランダムハウス講談社文庫)と長嶋有『ぼくは落ち着きがない』(光文社文庫)だが、前者は品切れということで、ちくま文庫の『深沢七郎コレクション』が並んでいる。少しは売れてくれるといいのだが。


もう一軒、カフェに入って本を読もうと、根津神社の辺りまでぐるぐる回ってみるが、どこにも入らず。思いついて、田端方面へ。谷田橋通りのちょっと入ったところにカフェができたことを思い出したからだ。〈La Yume〉という店。営業してるので入ろうとしたら、まさにその瞬間、男性客が入っていく。こういうとき、入らずに帰ってしまうことが多いのだが、今日は入ってみる。元は花屋だった場所で、奥にテーブルが一つ、カウンターが一つ。椅子の数はわずか4つ。先客とぼくで満員だ。店主は若い男性で、あとで聞いたらフレンチイタリアンレストランで働いて、昨年12月開業したという。入り口の台に、その修業した店の本と近藤富枝『田端文士村』が置かれていた。本人も田端から通っているそうだ。エビトマトソースパスタコーヒーを頼む。サービスで今朝焼いたというお菓子(有名なものだが、名前忘れた)を出してくれた。全体に上品な味だし、店の雰囲気もいい。ゆっくり本が読める店が増えるのは歓迎なので、ぜひ頑張ってほしい。


そのあとは本を読んだり、北千住まで出かけたり。夜、変な夢を見る。森の中を歩いていたら、海のようなところに出る。歩いて行けるところをたどっていったら、人の家の中に出る。そこは昭和天皇の家(普通住宅だった)で、天皇に手を貸してもらい引っ張り上げてもらう。シャワーを使わせてもらい、着替えも借りる。天皇の息子(平成天皇ではない青年)が、いろいろ話しかけてくる。「ブログ読んでますよ。ユーストリームも見ましたよ」。おお、皇太子不忍ブックストリームを、と思ったところで目が覚める。深沢七郎の『風流夢譚』のような出来事はナニも起こらない、ゆるい初夢(その前にも見てるんだろうけど、忘れてる)だった。そのあとも、谷根千を歩いていたら、路地の奥にでっかい家があって、そこで共同生活している人たちがいた、などの夢を断続的に見た。

YozakuraYozakura 2012/01/09 15:21 綾繁さま:謹賀新年
 今年はツイッター等は避け、従来通り「文章を考えて練り込めるブログに注力していきたい」との嬉しい宣言、歓迎です。平素よりずぼらな綾繁氏にしては珍しくも、ほぼ毎日皆勤の更新ペースに驚きつつ、楽しく拝読しております。別段、読了しても謝礼を差し上げられるものではありませんが、この調子で、お願いします。

 で、この日の記事ですが、「初夢・風流夢譚」の内容が面白いですね。ラーメン屋のの屋根で「昼寝しながらまどろんだ夢を題材に、代表作の漫画を描いた」と云う柘植義春の著名な逸話を思い出しました。
 今年は趣を変え、漫画の原作や小説・戯曲の執筆などの創作方面も手掛けてみられては如何ですか? お元気で。

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2012-01-03 町屋に正月なし

今日も朝から資料読み。その中の一冊に、高見順昭和文壇盛衰史』(文春文庫)がある。手持ちの本は十数年前に古本で買ったものだが、この当時は気になった箇所に鉛筆で線を引いている。再読してみると、いまだったらココに引くだろうなという箇所に引いていない。たとえば、同人誌への参加者藤澤清造名前があるが、初読のときはその名前すら認識していなかったはずだ。


パソコンウィルス対策ソフトインストールしようとするが、前に入っていたソフトアンインストールできず、何度やっても途中で止まってしまう。何度も再起動してすっかり嫌になる。気分を変えようと出かけて、町屋へ。改札に直結しているサンポップ町屋の〈ときわ〉はもう営業している。すごい。入りたいが並んでいるのでやめる。


地上に出て、古本屋文庫本を一冊。〈ときわ食堂〉のほうは休み京成ガード沿いの路上古本販売が、3日だというのに営業していてビックリ。いつもだと段ボール箱に本が投げ込んであるが、それも面倒なのか、紙袋に本を詰めている。一瞬ゴミしか見えないが、ぜんぶに値段付いていて、いつものことながら状態は悪いが激安。石ノ森章太郎トキワ荘の青春』(講談社文庫)を買う。路上椅子出して店番しているおじさんに訊くと、今日からやってるそうだ。その先の、年末年始もやっている飲み屋チューハイともつ焼き。常連客で埋まっていた。この三が日、西日暮里近辺はやってる店が少ないが、町屋は早くも日常に復帰しているようだ。

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2012-01-02 飲み屋で本を語る人

萩原朔太郎関連の資料読みを続ける。『萩原朔太郎研究会会報』合本は、前橋で活動している研究会会報で、講演の記録などが載っているが、この手の刊行物は会員の近況とか雑報とかがやたら面白い。3号に地元詩人東宮七男の「朔太郎と恭次郎」という文章が載っているが、そこに「大正九年に恭次郎は詩話会員になり、詩が『日本詩集』に選ばれた時、前橋榎町にあったポンチバーで祝賀会が開かれた」とある。この「ポンチバー」は、先日前橋に行ったときに昼飯を食べた弁天通り(だったかな?)の〈レストランポンチ〉と関係あるのだろうか。あの店も大正年間の創業だとあったが。


昼はご飯に焼いた餅を乗せた餅茶づけ。伊藤信吉『監獄裏の詩人たち』(新潮社)を読む。萩原朔太郎の生家の近くにあった前橋監獄を舞台に、塀の中と外に関わった人たちについて記す。一見接点のない人たちが、次第につながっていくスリリングなノンフィクション。塀に使われた煉瓦まで追求する著者の姿勢がすごい。本文中に出ていることもあって、寺島珠雄の『南天堂』を思い出した。続いて、同じ伊藤信吉の『ぎたる弾くひと 萩原朔太郎音楽生活』(麦書房)へ。版元の麦書房世田谷古本屋を営みつつ、出版もやっていた。店主の堀内達夫は萩原朔太郎研究会の維持会員(通常会員より会費が高い)で、資料の寄付なども行なっている。この本は図書館で借りたが、著者の署名入りだった。


4時すぎに出かけて、東西線九段下へ。千代田図書館のブックポストに、大変長らく借りっぱなしにしていた本を返却。また東西線に乗り、阿佐ヶ谷へ。〈ラピュタ阿佐ヶ谷〉で映画観るまで1時間あるので、近所で開いている居酒屋に入る。客は二組で、ひとりは黒づくめで口ひげを生やした男。その男ときどき自分の頬をピシャッと叩いているので何かと思う。ビールを飲みながら『ぎたる弾くひと』を読んでいたら、その男が「失礼ですが、その本はなんですか?」と話しかけてくる。飲み屋で読んでる本のことを訊かれたのは初めてだ。こういう本です、と説明すると、「それはどういうジャンルですか」と訊かれる。まあ、評論ですかねえ、と答えると、それには興味を失ったようで、自分が本好きで昔は哲学や思想の本を読みふけったが、いまでは民俗史(こう云っていた)に興味があるという意味の話を延々とする。そのあと、時代小説の話になり、武田信玄より勝頼が偉いなどとまたしても延々。相槌の打ちようがなく、しばらく付き合っていたが、注文してた焼鳥が来たのをしおに、本に目を戻す。悪い人じゃないんだけど、対話ができないタイプなので付き合いにくい。


そんなこともあり、目算よりも遅く店を出て、ラピュタに戻ると、開始3分前。豊田四郎監督東京夜話》(1961)。原作富田常雄渋谷のうらぶれたバーが舞台。出だしの雰囲気はよかったが、話がもたもたしていて眠くなる。これが初主演という山崎努と団令子のコンビミスマッチな感じだった。

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2012-01-01 暗闇の中での地震

あけましておめでとうございます。昨年はほとんどツイッターが中心になっていて、ブログには告知以外書くことが少なかったです。ただ、ツイッターに慣れてみると、毎分ごとに他の人のつぶやきが飛び込んでくるしくみというのがどうにもせわしなく、自分の書き込みもそれに流されてしまったような気がします。ぼくにはどうも、文章の長さも記事の頻度もコントロールできるブログの方が合っているみたいです。そこで、今年はなるべく毎日(は無理でも、2、3日に一度)はブログ更新するようにして、ツイッターは見るのも書くのもほどほどにするつもりです(スマートフォン買ったら、どうなるか判りませんけど)。よろしくお付き合いください。


昨夜4時頃まで本を読んでいたので、朝は10時起き。いい天気の元日だ。昼前に出て、日暮里まで歩く。夕焼けだんだん上の〈深セン〉が今日の昼は営業してるというので、行ってみる。煮豚丼(1000円)を頼んでみたら、丼の上に山盛りの煮豚が乗っていて、掘っても掘ってもご飯が出てこない。ウマいけど、あまりに濃密なので食べるのに時間がかかる。食べ終わるとぐったり、食欲は旺盛でも、体力がついていかなくなってるなあ。この店ではなるべくあっさりしたメニューにすることにしよう。店を出ると〈古書信天翁〉の2人が路上に本を並べていた。


間に合うかなと気にしながら、日暮里駅から山手線へ。渋谷で降りて、南口の〈シアターN〉へ。再映中のエミール・クストリッツァ監督アンダーグラウンド》(1995、仏・独・ハンガリー)を観る。なかなか観る機会のなかった作品。ナチス・ドイツ占領から1990年代内戦までユーゴスラヴィア歴史を背景に、地下で暮らす人々の奇妙な生態を描いたもの映像音楽の力に圧倒されて、ストーリーを飲みこむのに時間がかかった。ユーゴの歴史を知らないからでもあるが。ラスト20分はメッセージ食がつよすぎるとはいえ、素晴らしかった。しかし170分は長い。上映中にやや強い地震があり、暗闇の中だと怖い。ちょうど空襲のシーンだったので臨場感ありすぎだった。


しかし、この映画館スクリーンの位置があんまりよくない。前の座席どころか、2つ前の座席に座った人の頭がスクリーンの下部にかかってしまうのだ。これで、下部に字幕の出る映画は見づらい。ここ、前は〈ユーロスペース〉だったが、あの時からこんなんだったっけ?


帰ってから、昨日から読んでいたドン・ウィンズロウ『犬の力』上・下(角川文庫)を最後まで。全編血なまぐさくて、救いがない。そのあと、積ん読のままだった堀井憲一郎『いますぐ書け、の文章法』(ちくま新書)。いくつかのポイントには、とても説得力があった。実践できるかどうかは別だが……。

YozakuraYozakura 2012/01/02 12:27 綾繁さま:謹賀新年
 正月早々、早速の更新、拝見しました。朝から映画見物とは精力的ですね。
 御説の通り、ツィッターとは情報の伝達は速いのですが、これはもう、滅多矢鱈と忙しないものです。今年は、こちらのブログに注力して頂けるとの由、期待しております。暇を見つけて書き込んで下さい。

kawasusukawasusu 2012/01/03 13:58 こんにちは、ご無沙汰しています。またよろしくお願いします。

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