「柳書店」が結ぶ縁

朝7時起き。調子に乗って飲みすぎて、頭が痛い。出かけようとしたところに大雨が降ってくる。旅館で傘を借りて、古町モールまで歩く。喫茶店を探すがまだ開いていない。前回行った〈エトワール〉が8時オープンなので、前のベンチで待つ。あとで誰かが云っていたが、古町の喫茶店はなぜか二階にある店が多い。エトワールも同じだが、オープン直後からどんどん客が入ってくる。モーニングはトーストやサンドイッチなどがあるが、胃に優しいものをときのこ雑炊を選ぶ。雑炊というよりはリゾットぽくて、身体にしみいる。この店はコーヒーもウマいのだ。

バスで新潟駅へ。駅の南口まで歩く。毎回歩くためにこんな反バリアフリーな駅はないなと思う。いま工事しているが、すこしはマシになるのだろうか。本数が少ないのでバス停のベンチで待ち、9時20分のバスに乗る。15分ほど乗って、野球場科学館というバス停で降りる。変わった名前だと思ったら、もともと野球場があって、それとは別に科学館というのもあるのだった。県立図書館はさらに奥にあって、10分以上かかった。すでに汗だく。

県立図書館に来るのは初めて。館員のOさんに連絡しておいたので、出勤日じゃないのに来てくれていた。調べはじめているテーマについての資料をいくつか出してくれている。それから2時間ほど調べもの。ここは公開書庫といって、手続きすれば書庫の中に入れるのがいい。一区切りつき、受付でバスの時間を確かめたら、ついさっき出たところ。施設内のカフェでサンドイッチとコーヒーで時間をつぶす。

バス停まで歩き、そこで15分近く待ってバスに乗る。南口から万代口に出て、またバス停。ここもさっき出たところ。とことんタイミングが悪い。バスは東に向かって走り、沼垂を抜ける。「◎◎木戸」という名前のバス停が続き、下木戸で降りると、目の前が東区役所。そこのエントランスで開催されている「赤道古本市」を覗く。出店者は17,18組ほどで、学校町通の常連が多いが、最近どこにでも夫婦でやって来る「カメブックス」がココにも参加。新潟本を多く出している箱から、朝日新聞新潟支局編『越後の停車場』(朝日新聞社)を買う。県内の全路線、全駅の歴史が記されている本で、図書館で見たときからほしかったもの。

これから古町方面に戻るのに、一発で行けるバスがなく、また駅で乗り換えないとと云われ、ガクッと来る。バス好きだけど、この乗り換えの連続は疲れる。それを見て、主催の文旦さんが店番を抜けて、車で送ってくれる。ありがたい。これまで通ったことのない、工場の裏道を抜けるルートを通ってくれたのも面白かった。

塚田旅館に戻り、布団に寝転んで休憩。2時間ほど涼んだので、体力が回復した。5時半に出て、〈北書店〉。すでにお客さんが並んでいる。ドアには佐藤ジュンコ直筆のRYUTist×北書店「柳書店」のポスターが貼られている。中に入れてもらって、適当な位置に座る。そのあと、開場してどんどん席が埋まっていく。いつものトークイベントでは出たところ勝負の佐藤店長が、入念に段取りをチェックしているのがほほえましい。

6時に柳書店、開演。女学生らしく白シャツにスカートで、眼鏡をかけたメンバーが登場。鈴木恵withフレンズをバックに、本日初演の「虹」を歌う。絵本作家の中川ひろたか作曲で、いろんなミュージシャンがカバーしているそうだ。夏の夕方に聴くのにふさわしい曲だ。

そのあと、第1部のトークコーナー。佐藤店長の司会で、メンバーとのやり取りがあり、のんのが佐藤ジュンコの本が好きだという話から、ジュンちゃんが前に出て話す。次に、新潟の一箱古本市の話になり、私が前に呼び出される。一箱古本市をはじめたきっかけや、谷根千を案内したいこと、昨日ともちぃの取材をした話などする。最近トークで緊張することはなかったが、メンバーの真横に立たされうろたえ気味。佐藤さんに「オレのほうばっかり見ないで」と注意される。

その後、『柳都芸妓』の中ジャケに新潟の古地図を提供した野内隆裕さんが登場。新潟の街歩きの活動をしつつ、私も昨日行ったカフェ〈日和山五合目〉を経営している。「好きな小路」を語り出すと止まらないところは、古本界隈にもこういう人いるいるという感じで親しみやすい。野内さんはテレビ番組がきっかけで会った安部プロデューサーが、古町の歴史について何度も尋ねてくる様子に「こいつは本気だ」と感じたそうだ。

新潟に来る前に、Facebookで安部さんが野内さんに協力してもらったことを書いていて、そこにこんなことを書いていた。

「まだまだわからない事が沢山ありますが、古町を見る目が変わったのは間違いなく、『歴史の上を歩いている』。小さなカケラを見つけて、それを調べ結びつけ。今もそれを続けています」

これを読んだとき、私も自分なりに「本」で同じことをやってきたんだよなあと、共感したのだった。そして、野内さんも「街歩き」を突きつめてきたからこそ、安部さんの本気さをすぐに判ったわけだ。分野は違えど、熱量の高さは伝わるのだ。嬉しくなって、トークが終わったあと、野内さんとあれこれ話す。

第2部はライブ。鈴木恵withフレンズの生演奏と、音源を使った曲が半々ぐらいだったか。『柳都芸妓』からも前のアルバムからもやり、「家族の風景」(ハナレグミの曲だとあとで知った)などのカバーもやる。先週の渋谷〈eggman〉のライブでは、大音量でダンスしながらのパフォーマンスだったが、今日はスタンドマイクでじっくりと歌声を聴かせてくれた。左端に座っていたので、むうたんの顔が真正面にある。歌っていない時にもいつもニコニコしている。アンコールも入れて10曲以上やってくれた。


鈴木恵さんは普段はトリオで活動している。今日は演奏しつつ、カフェも出していた。青木宏美さんのドラムも快調なビートを刻んでいた。「サンディー」の冒頭に泣かせるギターを弾いた遠山幸生さんはThe Laundriesというバンドもやっていて、あとでCDをいただく。

終わると、奥で物販コーナーがオープンし、長蛇の列が。その一方で、トークでジュンちゃんと私の本を紹介してくれたので、買ってサインを求めてくれる人がいた。何人かのファンと話すが、明日の東京のイベントにも参加する人が多い。一番すごかったのは、他県に住んでいるが、ライブに通うために新潟に部屋を借りたというひとだった。

RYUTistにはまりはじめたとき、自分はグッズには手を出さないだろうという確信があったのだが、今日のイベントに合わせて佐藤ジュンコイラストのトートバッグが発売されており、もろくも列に並ぶ。トートと持ってなかったCD『フレ!フレ!フレ!』を買うと、握手券を2枚くれた。それを持って、メンバーとひとりひとり握手。マネージャーさんに「2枚あるからもう一回並べますよ」と云われたけど、さすがにそれはしなかった。

物販が終わり、ファンが退出したのち、メンバーとスタッフの打ち上げ。佐藤店長が張り切ってたこ焼き器を持ち出し、メンバーがタコを切ってたこ焼きをつくってくれた。昨夜の飲み会で私が誘ったので初参加した亀貝さんも、すっかりRYUTistが好きになったようだ。メンバーともちょこちょこ話させてもらうが、みんな、とことんいい子なのであった。明日は東京で2公演もあって朝早く出発するのに、日付が変わる頃まで付き合ってくれた。

最後に残った人たちで片付け。あとは佐藤さんとジュンちゃんにまかせて、宿に帰る。風呂に入り、今夜のことを反芻しつつ床に入る。ニイガタブックライトの活動は2011年6月の「一箱古本市in現代市」からはじまっているが、のちにRYUTistとなるメンバーのオーディションもその前の月に開催されているのだ。新潟の一箱古本市RYUTistが同じ年にはじまっていることに、奇縁を感じる。