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ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Being between Neuroscience and Marketing このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

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2008-06-26

脳科学、大脳生理学とニューロサイエンス

f:id:kaz_ataka:20081031001101j:image

Contax T2, 38mm Sonnar F2.8 @New Haven, CT


ニューロサイエンスについて一言も触れないままここまで来てしまった。少しこの辺りで整理しておいたほうがよいと思うので残させていただきたい。

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ニューロサイエンス(neuroscience)という学術分野はどうもこの国では少なからず誤解されている。


まず言葉がかなり変だ。例えば「脳科学」という言葉があるが、私の知る限りBrain Scienceというのは英語の世界では、一般人の会話ならともかく出版物ではまず使われない結構トンでも語系の言葉である。せいぜいその辺のタブロイドには出てくるかも、という感じである。僕が子供のころさんざん聞いた「大脳生理学」という言葉もそう。かなりヘンな言葉である。Neurophysiologyというのは一大分野であるが、これはどう訳しても大脳生理学にはならない。無理して大脳生理学を直訳するとtelencephalon (or cerebrum) physiologyとなるが、通じなくはないけれど、これがワンワードだと聞くと少なくとも世界各地で研究する私の友人たちは仰天するだろう。なお、最近、日本橋丸善に立ち寄る機会があり、日本におけるこの分野の祖とも言うべき伊藤正男先生の本を見ると、やはり「脳神経科学」と呼ばれているようでありほっとした。


また、内容的にもかなり根深いところで誤解されているように見える。例えばニューロサイエンスは、米国脳神経科学学会の公式見解では主に次の三つの課題を取り扱う分野である。(http://www.sfn.org/

  1. (最終的には人間の) 脳が通常どのように働いているのか表現し、明らかにする
  2. 神経系が、どのように生まれ、発達し、生涯を通じどのように維持されるのか解明する(神経系=脳、脊髄を含む中枢神経系末梢神経系のすべて)
  3. 神経のあるいは精神的な異常を予防し、治す手法を探し、発展させる

いずれも実際の研究においては激しく相互につながりあっているが、ご案内の通り、日本での一般的な理解と言葉のコンテキストは恐ろしく1のしかも心理学寄りのところに寄っている。しかしこれはcognitive neuroscience(認知科学、あるいは認知神経科学)の一分野に過ぎない。なお、米国では日本人が考えるような従来の(古典的な)心理学のほとんどは滅び、大半の大学の心理学部(dept. of psychology)は認知科学、行動神経科学、と臨床心理学の三つに分化している。


また、どうもニューロサイエンスをやっているというとほとんどの人がヒトか、せいぜいサルで研究していると考えられるようだが、ほぼすべての研究はラット、マウス、あるいはアメフラシ、ハエ、時に線虫などで行われている。最も研究が進んでいる分野の一つである視覚の場合、ネコやサルを使っている人が多いが、特にサルの場合、実験するための規制があまりにも厳しく(=金も設備も立ち上げの時間も膨大にかかる)、また個々の研究に途方もない時間がかかるので、相対的には研究者は非常に少ない。霊長類を使う必要がある高次機能を研究するほど難しいテーマに行く前のテーマで問題があまりにも山積みだということもある。


手法的にも誤解が多い。手法で言うと、どこにどんな神経がどのように配置されているという解剖学(neuroanatomy)と神経や筋肉など興奮性の膜について理解する電気生理学(electrophysiology)の二分野を基礎としつつ、上述の脳神経系の電気的な活動そのものを調べる生理学的なアプローチ(physiological)、DNAや分子のレベルで調べる分子細胞生物学的なアプローチ(cellular and molecular)、動物に実際に学習させる行動レベルでのアプローチ(behavioral)の三つに大きく分かれる。カハールというニューロサイエンスの神のような人がいるが(確か第6回目1906年ノーベル賞を受賞)、彼の時代からつい20-30年前までは解剖学と電気生理学が研究のほとんどであった。


現在は真ん中の分子細胞生物学的な手法を中心に多少生理学、あるいは行動的なフレーバーを付け足す程度の研究者が大半であるが(分子生物学、あるいは心理学から流れてきた人が多いことと、生理学を行うための手法と数学を学ぶことが困難なために自然とこうなる)、上のような誤解があるため、どうも生理学的アプローチぎりぎりぐらいのところ、例えば研究されている割には結構きわ物のfMRIPETなどの辺りを中心に想定されているようだ。この原因の一つには、日本には未だに完全な1セットを持つニューロサイエンス系の大学院教育がないこと、したがって解剖学、生理学の基礎を含めた体系的なトレーニングを受けた人がほとんどいないこともあるだろう。ちなみに上述の伊藤先生や森憲作先生などの日本を代表するニューロサイエンティストたちはほぼ欧米のトップサイエンティストから直接の教育を受けている。


なお、fMRIはfunctional MRIの略で、脳の活動部位を原子や分子の持つ核磁気による信号の差異で見る手法である。PETは原理は全く異なるが、同様に活動部位を見るために使われる手法である。活性化していると思われる部位に赤などを付けた、画処理をかけた結果ばかりを我々は見ることが多いので、誤解があるのだが、実際には活動による信号の差は通常せいぜい1%、あるいは0.5%程度でこれが生理学的に有意なのか、またその信号の差は何を意味しているのか、という議論は10年ほど前の勃興期以来、何度ともなく起こっている。また実際には千分の一秒単位の我々の神経活動に対し、〜10秒程度と時間的な解像度が1000倍以上低い結果であるのも(しょうがないことではあるが)課題。つまりレコーディングの結果は、長い間の活動の平均値でしかない。


この場を借りて、いま世界の各地で最先端の研究を行うニューロサイエンティストのためにこれらを書いておきたいと思う。



(関連エントリ)


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Neuroscienceの基本図書をいくつかご紹介。いずれも名著です。

Neurobiology

Neurobiology

From Neuron to Brain

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deepbluedragondeepbluedragon 2008/06/28 16:17 どうも、はじめまして

私は認知科学に関するブログ(http://d.hatena.ne.jp/deepbluedragon/)を書いてるのですが、日本での認知科学や神経科学への理解の低さは驚くべきところがあります。「研究されている割には結構きわ物のfMRI、PET」ってのは(大きな声では言いにくいですが)ちょっと納得してしまいます。私自身は心理学出身なので、行動レベルの研究が生理学的研究や分子生物学的研究と安易に一緒にされるとうんざりしてしまいます。認知科学と神経科学との関係はいろいろと微妙でややこしいところが多くあります。アメリカは反進化論などが問題のようですが、そもそも日本は科学音痴が多くてどうしようもないところがあります。

正直言うと、私自身はニューロマーケティングに対しては懐疑的なのですが(心理学レベルで十分じゃないのか?)、徹底的な探求によって発見であれ限界であれ分かるのであればそれで構わないかなと思っています。ともかく可能性を徹底して追求していくのが大事なのですが、その前に正しい科学的知識を身に着けてほしいと思うことが日本では多いですねぇ。

atakaataka 2008/06/28 21:33 蒼龍さん、コメントありがとうございます!いま、さっそくブログ拝見してきました。ものすごいハードコアな内容に圧倒されましたが、また時折拝見しつつ勉強させてください。あと、せっかくアドレスを頂いたのでリンク集に入れましたが、もしご迷惑であればお知らせください。:)

私、このブログを始めるまで不勉強だったのですが、確かに「ニューロマーケティング」という風に言って何かを仕掛けている人がいるようですね(この言葉自体がめちゃめちゃうさん臭いですね!)。例えば、次のサイトに先週気付いたのですが(英文)、

http://www.neurosciencemarketing.com/blog/

かなりハードコアな結果を出さないと意味のない世界で長年飯を食ってきたマーケターとして拝見すると、これでは何のことやらという印象です。このレベルであれば、蒼龍さんのおっしゃる通りかなり不要ですね。ということでことこの言葉については日本だけの問題ではないかもしれません。むしろ必要なのは、ニューロサイエンス的な視点で、迷信を取り除くことだと思っています。(仕掛かりですが、徐々に取り組む予定)

正直がっかりというより、このようなあと付け的な説明しかしないのであれば、この本来、知覚をとりまく楕円の二焦点のような両分野にとって、お互いまずいと思いました。おそらくマーケティングもニューロサイエンスも部分的にしかかじったことがないのでしょう。特に経営の最先端の部分では日進月歩のマーケティングがわから見ると「なめんなよ」ぐらいに私は思いますが(笑)、まあこういう人も雑誌や新聞に記事を書くためには必要なのかなと思いつつあります。

あまり人が来てくれないのでちょっと意気消沈気味でしたが、こんなしっかりした方に見てもらっていることが分かり、少し元気になりました。ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします!

ShaxShax 2008/07/04 20:53 はじめまして。蒼龍さんのところから辿ってまいりました。このエントリの主題からはズレるかもしれませんが、「大脳生理学」や「脳科学」があまりタームとして受けいれられていないというのは、驚きでした。たしかに研究者から「大脳生理学」という言葉は聞いたことがありません。

Gehirnphysiologieやphysiologie cérébraleで調べてみると、前者はジャック・レーブの論文のタイトルが目をひきました。後者はCNRSとパリ大の共同ラボ「大脳生理学ラボラトワール」があるようです。ただ、新しいと思うので、あまり日本人には影響していなさそう。Großgehirnphysiologieで調べると、見事にフォン・ブリュッケ(フロイトの先生なのは本人ではなく祖父)の著作のタイトルしかヒットせず。

大脳生理学という言い方は認知科学のブーム以前からありそうなので、レーブやそのあたりの人のドイツ語著作から来ているのでは、といろいろ考えられて楽しいですね。

kaz_atakakaz_ataka 2008/07/05 12:55 Shaxさん、こんにちは!来訪およびハイブラウなコメントありがとうございます!何気なく書いたアーティクルが思いのほか反応を呼びウェブのパワーに驚いています。:)またこうやってご紹介して頂いた蒼龍さんには大感謝です。

大脳生理学は僕が子供の頃(30年ぐらい前)にはかなり確立した言葉だったので、当時そういう本を良く書かれていた日医大の品川先生あたりの本から広まったのではないかと思っていましたが、確かにそういうドイツ語文化圏から来たのかもしれませんね。(自分がこの分野の教育を受けた英語圏しか目に入っておらず勉強になりました!)

大脳生理学というと??ですがcerebral cortex physiologyであればなるほど!という感じはしますね。じゃあお前は実際には多くの研究の要になっているlimbic system(読者注:hippocampus海馬, amygdalaなどを含むヘリの領域)とかthalamus(同:大脳皮質に通じるゲートキーパー的な部位)についてどう考えるのか、とか言われそうですが。(笑)

またいろいろ教えてください。今後ともよろしくお願いします。

quartaquarta 2008/08/03 15:43 はじめまして。私も蒼龍氏のブログでの紹介から、何度か興味深く拝見させて頂い
ております。

よろしかったら脳の定義についてご意見を伺いたいと思います。

最近、酒井邦嘉著「言語の脳科学」を読んだのですが、その中に「脳は臓器ではない」という見出し項目があり、その説明として脳は漢方の五臓六腑に含まれないこと、臓器移植が出来ないことを挙げ、仮に脳を移植したとすれば、「脳がなくなれば体が残ってもその人はなくなり、脳を提供したドナーの人になってしまう。脳は『個』そのものなのである。」と書かれています。

ここで「個」そのものとはその個人の人格そのものということでしょう。脳が人格そのものであるというのは、私には自己矛盾であるか、あるいは著者が証明したいと考えている結論の先取りであるかのどちらかだと思うのですが。

著者が漢方医学の定義に触れながら現代医学での脳の定義について触れていないのも変だと思いますが、この点、どう思われるでしょうか。

kaz_atakakaz_ataka 2008/08/03 20:48 quartaさん、

こちらこそはじめまして!ようこそいらっしゃいました。今後ともよろしくお願いします。

米国旅行中、コメントはしないつもりでしたが(昨夜到着)、ときたま受けるなかなかのご質問ではあるので、ちょっとだけ。(時差で眠れなくなって起きてしまったということもあります。笑)

ちょっと内容がでかいのでスレ?を立てますね。

kaz_atakakaz_ataka 2008/08/03 21:06 quartaさん、せっかくのご縁なので、リンクをさせて頂きました。もしご迷惑であればお知らせください!それでは!

quartaquarta 2008/08/04 13:13 ご旅行中のところ、早々にご返事頂き有り難うございます。リンクもして頂き光栄です。

私は酒井邦嘉氏の定義に対して疑問を持っておりましたので、お説を伺い、安心しました。ただ、酒井氏のような認識は多くの脳科学者にかなり共通する認識であり、それらの脳科学の内容にも関わってきている問題と考えています。
また新しいスレでコメントさせて頂きます。

kaz_atakakaz_ataka 2008/08/05 08:27 quartaさんこんにちは。ちょっと移動で空きができたので書いています。今、eastern timeの月曜の夕方です。

今もう一度酒井さんの言葉の引用をもう一回読んでみたところ、ちょっと僕は深読みしすぎて誤解していたかもしれないなと思いました。

「脳がなくなれば体が残ってもその人はなくなり、脳を提供したドナーの人になってしまう。脳は『個』そのものなのである。」、、、というくだりは、まあ実は脳がないとその人ではなくなるという子供でも知っていることをただそのまま言っているのでは?この本をちゃんと前後の文脈の理解なしに解釈しているので間違っているのかもしれませんが。であれば、それほど目くじら立てる必要はないかもしれないなとちょっと思いました。ちょっと僕は単純に考えすぎでしょうか。

それともし僕の上の解釈どおり(つまり子供でも分かる程度の話)であれば、まあそれはそうだろうとも思います(僕も脳がなければその人がその人ではなくなるということについては反論のしようがない話だと思います)。quartaさんはこのいわば基本的な認識がどういう問題を起こしているとお考えでしょうか?

それはそれとして、「多くの脳科学者にかなり共通する認識であり、、、」ですが、まず自分のことを脳科学者、大脳生理学者だなんて思っているやからは既に本エントリの趣旨からして怪しい人間であり、そういう人の言うことはちょっと眉唾だと思っていたほうが良いのではないかと思います。(笑)こういう人ではないニューロサイエンティストが真に神経系、脳の働きを着実に解明していっていると思います。例えば海馬やthalamus(視床)、amygdalaは大脳皮質とは普通考えません。

僕が知る本物のシリアスなニューロサイエンティストは現実的な神経現象から脳の動きを理解したいと(最終的な認識、知覚だけでなく)かなり深く思考して、実験アプローチを考えるので、なんというか空虚な議論になる(もっと端的には実証することがほぼ不可能な)こういう心理学的、認知論的な議論をなるべく避け、現実的に地に足の着いた事実関係をクリアにしていくのが通常です。せいぜい味の項で書いたpsychophysicsと呼ばれる知覚の定量化程度です。

あと米国の場合、ピンカーのような心理系の学者であればまあ書くかもしれませんが、ほとんどのニューロサイエンティストはノーベル賞を取るような人も含めてほとんど教科書以外の本を書きません(書くのは科学ジャーナリストがほとんど)。書くにたるほど安易に話せる話がないと思っているからだと思いますし、本当の微妙な話は伝えることができない、一般人が関心を持つような分かりやすい話ができるほど研究は進んでいない、ということによると思います。比較的最近になってJoe LeDeux(NYUでfear conditioningという電気ショックによる恐怖系の記憶の研究者)が書いていますが、まあこれはLeDouxはもうある種上がりになったので、ということだと思います。

僕としては脳科学という言葉が死に絶えるのを願うのみです。そんな脳を全体として理解できるほど理解はできないです。今の我々の理解では。(笑)

ところで、不勉強のため、酒井さんについてはどういう人か知らなかったので、さっきちょっとググってしまいました。(笑)fMRIで文法処理する場所を見つけたということでしたが(本当のことであればとても面白い)、これどうやって他の活動を差し引きしたのか(subtractionという方法を使ったと思いますが)、どの程度のN数から言っているのか(言語ごとに、また言語数も含めて)、どの程度の信号の一貫性がある話なのか、原論文を見たいものだと思いました。

特にNatureやScienceについては、general publicが読む可能性のある特殊なjournalということもあり、比較的広めの読者に受けるかどうか(割と分かりやすいインパクト)を重視して、載せる傾向があるので(だから騒ぐ割にノーベル賞につながる論文が、所謂インパクトファクター、引用数、のわりにここで出ることが妙に少ない。むしろ有名になると載せやすい場所といったほうが良いかも。)、ちょっと上の辺りは、確認したいですね。

ちなみに、この研究は酒井氏がきっちりされていると思うので大丈夫だと思いますが、実は両紙ともEratumが載ったり、retractionが起こることも、通常のハードコア系ジャーナルに比べかなり多いことは一般読者の方のために書き残しておきます。

kaz_atakakaz_ataka 2008/08/05 23:49 脚注:

Eratum=データの間違い、再現性のなさのためにその投稿誌に不適切な記述の報告、修正が載ること

Retraction=上の状況がひどく、メッセージそのものが変わる、全く再現性がない、などのためにその論文そのものの投稿をなかったことにすること

いずれも、ある種、最大の恥ですが、再現性がないのにそのままにしている結構な数の論文よりはましです。そのようなうわさが広まる前に載せるのは、研究者としてのintegrityの問題ともいえます。

quartaquarta 2008/08/07 11:30 どうも、旅行中にも関わらず詳しいお話を有り難うございます。
私はニューロサイエンスはもちろん、言語学関連も全くの素人でろくに本も読んでいませんがが、酒井氏の本全体に関する素朴な感想を下記のブログで書いていますので、お時間のあるときにでも覗いて頂ければ幸甚です。
http://imimemo.blogspot.com/(意味の周辺)

ちなみに、BBCニュースやNYタイムズの科学欄では、MRI関連だけではないですが、脳の研究紹介記事は多い方だと思います。素人目には興味深く感じられる記事も多いことは確かです。海馬その他が大脳皮質でないのは解りますが、脳とかBrain はこれらすべてを合わせた概念のように見えます。専門的にはそういう概念にあまり意味がないのでしょうか。この辺、素人にはわかりづらいところです。海馬は可成り有名ですが、amygdala に関する記事もニュースにあったように記憶しています。それなりに素人にも解る部分があるような、興味深く感じられるようなものもあるような気はします。

kaz_atakakaz_ataka 2008/08/08 10:30 またまたありがとうございます。寝起きで書いています。

ブログのほう、ちょっと拝見しました。非常に濃いですね。またひまをみて読ませてください。酒井さんの話は読んでいないので、何ともコメントできませんが、非常にスマートな人のようですね。MECE的に言語の要素を分解するアプローチにはあまり違和感がありませんが、必ずしも脳はそのように動いているとは限らないので、その辺りが面白いところでしょう。(「セグメンテーションとMECEの誤謬」を参照ください。)

http://d.hatena.ne.jp/kaz_ataka/20080708/1215465749

脳については、機能的に定義するのは困難(そもそもどこまでが脳の機能なのかよく分からない)なので、あくまで発生生物学的に定義されていると思います。Neural tubeというものが最終的に中枢神経系になるわけですが、その先っちょにある膨らんだ部分が脳です。それ以上でも以下でもないと理解しています。

その脳と思っている部分が更に発生生物学的に、前の部分、真ん中の部分、後ろの部分という風に分けて考え、それぞれについて詳細に解剖学的に定義され、それぞれについてかなり研究が進んでいます。ちなみに大脳と日本語で呼ばれている部分が先っちょの部分(forebrain, telencephalon)です。

http://en.wikipedia.org/wiki/Image:EmbryonicBrain.svg

大脳があまりにも大きいので目が取られがちですが、thalamusやbrainstem, cerebellumなどのほうがかなり面白いですし、われわれの生命維持、一般生命現象にもかなり深く関わっています。筋の良い人はかなりこちらにも目を向けているのが普通です。

脳は昔も今も世界的にある程度以上に関心がある部分ですので(人間が人間たる最大の特徴の一つなので)、ニューヨークタイムズ(私も近隣に住んでいたので日常的に読んでいました)などの大手一般誌では専属のPh.D.ライターにより一般的な話題として大変すぐれた記事を載せています。例えばamygdalaは、前に引用したLeDouxのような専門家がNYUですし、Kandel、Axelなど大御所もColumbiaなのでニューロサイエンスネタは余計乗りやすいということもあります。

引き続き楽しまれるのが良いかと思います。お仕事など何らかの理由で、もっと知りたいと思われる向きには、何らかの教科書(G Shpherd Neurobiologyなど)を一冊読まれるのが良いと思われます。ただし当然のことながら、かなりの科学知識が必要です。それでは!(なお、この件はここまでにさせてください。)

deepbluedragondeepbluedragon 2008/08/22 01:32 池谷裕ニの本「ゆらぐ脳」ISBN:4163702504 を立ち読みしていたら、(終わりの辺りで)日本語の言葉「脳科学」の起源のような話が書いてありました。うろ覚えの記憶ですいませんが、どうも日本でそういう研究を推進しようみたいな政策的な話の文脈で出てきた言葉のようです(脳科学に当たる英語は使われないことも指摘されていましたが)。ちなみに、池谷さんのこの本は(神経科学での)分子生物学的手法の還元傾向への批判や科学に仮説は必要かみたいな正統派の科学者が読むとう〜ん?とうなってしまいそうな部分があります。言いたいことは何となく分かるのですが、一般の人には誤解を与えそうな気もして心配。

kaz_atakakaz_ataka 2008/08/23 21:05 蒼龍さん、いつもなるほど!コメントをありがとうございます。僕も見かけたら見てみます。

科学に仮説は必要か、というのはなかなかそのまま聞くと暴論ですが(笑)、すくなくともケリをつけるべきイシューが必要であることだけは間違いないと思います。池谷さんの本がそういう趣旨であれば良いのですが、、、。

遺伝子が分かればそれが分かるみたいな話は僕も(元々、分子生物学者として訓練されていますが)かなりまずい考えだと思います。

遺伝子のクローニングは、その現象を物理化学的に理解するきっかけをつかんだにすぎないことを研究者自体は分かっていても、xxxに関連する遺伝子が見つかったということは、その現象について何も分かっていないことをあまり世の中の人は分かっていないのが大きなギャップではあります。

特に機能だけを手がかりとして特定の遺伝子を発見(クローン)する場合には、これはこれで大変な偉業ではありますが、、、。この辺の誤解か無理解をてこにしてお金(研究費)を集めているので、あまり言っても詮無いのかもしれませんが。

ふうちゃんふうちゃん 2008/09/20 23:53 こんばんは。
生物の知識は中学生程度しかもっていないので、質問するのも申し訳ないのですが、どうか許してください。
二児(三歳、一歳)の母ですが、育児においてテレビなどの映像を視聴することは前頭前野の健全な発達の妨げになると聞いたことがあります。何年も前に聞いたことで、情報元がわからないのですが、ニューロサイエンスのプロからみて、この情報は信頼できるものでしょうか?
ちなみに我が家ではニュースと天気予報は見ますが、子ども向けの番組やDVDは一切見せていません。発達も順調です。

kaz_atakakaz_ataka 2008/09/21 00:42 ふうちゃんさん、ご質問ありがとうございます。いえいえ、先ほど今日のエントリに書いた通り、本当はこういう専門外の人向けに始めたブログなので大歓迎です。

三歳と一歳のお子さんですか。それはめちゃめちゃかわいい盛りですね。僕の娘がこの間七つになり、今日七五三の申し込みにいってきましたが、ホント三つのときの無邪気さが懐かしいです。またそのようなときにそのような情報をお聞きされればそれは心配されるのは良く分かります。

で、本題に返りますが、テレビがprefrontal lobe(特に前の方)の発達に悪影響を及ぼすのかどうなのか、という話は直接的には神経の発生の専門ではないため、僕は残念ながら知りません。なのでここから先はあくまで僕の個人的な推測的な話ですので、そういうつもりでお読みください。

脳、とりわけ人間の脳の構造的(解剖学的と学者が言うものです)の発達は非常に入り組んでいることがこれまでの非常に限られた研究から分かっており(ラットやマウスですと生まれてから週単位で脳の正常な発達時の構造が解明されていますが、人間なので、開けて調べることが出来ないため概略以上は徹底的には良く分かっていません、、、)、なにがそうだ、といわれてもそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない、というのが恐らく本当のところです。

ただ、ある程度の推定は出来ます。脳には非常に可塑性が高く、将来的なベースの機能を生み出すcritical period(臨界期?)というものがあることが知られており、それが終わるまでの間は、例えば数日片方に眼帯をするだけでも非常に危険です。目の問題ではなく、脳の側の問題で一生その目の視力が落ちる可能性があります。成長の早い動物の実験では一日、片側の光を抑えるだけで将来、その目が悪くなることが知られています。これが人間の場合、恐らく生まれてから5−6歳ぐらいまでの間ではないかと思いますが(成長にとりわけ時間がかかる人間なのでもっと長い可能性はあり)、恐らく正確には(これも動物ではないため検証できず)よくわかっていないと思います。

ということでその期間に妙に偏った経験をする、妙に偏った感じ方をすると良くないことは脳の部位に関わらず(今の視力は殆ど脳の後ろの後頭葉の話です)、ほぼ断言できると思います。これは味覚においても、そうですし(神経があっても、脳が感知できなくなります)、縦横斜めの視覚の話でも、色の話でも、匂いの話でも、触覚の話でもそうです。ということで僕は別にTVが悪いとは思いませんが、そこから似たような情報ばかりは言ってくると言うことを幼少期に体験することは良くないだろうと言えると思います。一番直感的にやばそうなのはテレビゲームですね。刺激が極めて単調であり、異常に視覚と聴覚にのみ頼った入力です(しかも現実性のない架空の入力)。あと平面テレビに代表されるデジタル系の画面は色が狭く、現実世界とはかなりずれているためにこれも色覚に何らかの影響を及ぼすのではないかと僕は推測しています。(うまみの項で書いた味の素を何にでもかけて育つのと同じ)

また、このブログのどこかで多分書いたと思いますが、知覚と理解、そして記憶の基本は二つ以上の情報がつながることですから、質問の受け答えややり取りのない画像や言語のみの情報の一方的な流し込みは、このような時期においては、基本的にテレビであろうが何であろうが非常に良くないことだろうとは言えると思います。

体験は基本的に視覚や言葉以外の五感(食感、匂いなど)を大切にしてつながった形で行うべきですし、複雑な感情や知性は確かにある年齢にならないと発達しないのですが(スピードは人によって違う)、とはいっても基礎的な感覚や考える力の上にそれらが育つ訳ですから、基礎的な体験や感じるところは決してないがしろにしてはいけないのではないかと思います。

答えになっているのかどうなのか分かりませんが、今僕の言えるのはこんな感じです。参考になれば良いのですが。

ふうちゃんふうちゃん 2008/09/22 02:16 お返事ありがとうございました。
実はわたくしはKaz_atakaさんの学部生のときからの知り合いですが、たまたまここに行き着いて、嬉しく思っていたところです。こんな時代ですからKaz_atakaさんがBlogを持っていたら嬉しいなと思い、ちょっと検索したら発見できて…お元気そうでなによりです。
昨日はこのことを告白できず、ごめんなさい。結婚して姓が変わり、まぁ今あだ名がつくなら「ふうちゃん」こんなところかなと思う苗字になりました。ここで本名は恥ずかしくて言えませんが。

昨日の質問に対するKaz_atakaさんのお返事ですが、大変納得しました。そして今までの方針のサポートをいただいた気がしました。
ここに投稿してから思い出しましたが、最初の情報源は日本小児科医会によるものでした。2004年2月ですから娘が生まれる約1年前です。
その後その年の後半にNHKの『地球大進化』という番組を見て、生まれてくる子どもも身体の大きさや脳の重さ、身体機能は昔でも現代でも変わらないだろうと思いました。テレビなどの、動くものを写す平面が生活に入り込んだのはヒトの歴史からみれば最近のことで、乳幼児期にそういうものを見るとどういう結果になるかまだわかっていないでしょうし、日本小児科医会の提言も記憶に新しかったので、子どもにテレビを見せないことをポリシーにしました。

娘が生まれてから知り合ったママ友には、わたしのようにテレビを見せない人はおらず、なんだか自分自身が絶滅危惧種のように感じたことがありましたが、テレビをよく見る(というかつけっぱなしの)家庭の子に言葉の遅れがみられるということは、わたしの狭い世界の中で本当にみられる傾向でした。
あぁやっぱり…と心の中で思ったりしていました(いやらしいですね)が、幼稚園にステージが移ると、言葉の遅れた子どもをおとなしくさせるために園がDVDなどを使用することがあり、家でもテレビ、園でもテレビといった環境の悪循環があることに気づきました。もちろん年が上がれば語彙も増えてきますが、幼稚園に入るような年齢は「言葉が出ればOK」という発達段階ではありません。ひょっとしたら現代の幼稚園の現状は、求められる社会性を求めれない子が多くなっているという現状なんだろうかと心配になり、これが小学校に上がったら…と思うと学力低下の原因の底辺をみているような気がしたのです。

心配のしすぎかもしれません。人間の脳はたくましいものだと思っていますが、こんなことを思っていたら脳の専門家とお話したくなったのです。で、Kaz_atakaさんを見つけちゃったという次第です。

きれいな写真も楽しめましたし、娘さんがいるという新情報を得て時間の流れを感じ、懐かしく思いました。相変わらずバリバリ働いてらっしゃるんでしょうね。大学院中退して学問に興味がなくなり、社会に戻るつてもないわたしと大きな差があるなぁと思いました。

これからもよろしくお願いします!
ではでは。

kaz_atakakaz_ataka 2008/09/25 02:36 ふうちゃんさん、ありがとうございました。そうでしたか。それは何とも懐かしい限りです。また何らかの参考にな多様で何よりです。今後ともよろしくおねがいします!

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