2008-10-18
圧倒的に生産性の高い人(サイエンティスト)の研究スタイル
Leica M7, 90mm Tele-Elmarit F2.8, PN400N @Santa Monica, CA
アメリカで研究するようになって最も驚いたことの一つは、日本では考えられないほど生産性の高い研究者が存在することだ。
たとえば僕がローテーションして、最後までそこでdissertation work(博士論文のための研究、活動)をすることにするか迷っていたあるラボ。そこはポスドク、テクニシャンを含めて(註:undergraduate=学部生は殆どアメリカの研究室には居ない)たった5人でやっているにもかかわらず、毎年5-6本ぐらいはペーパーを出し、ほぼ全て一流紙。多いときは年に2本ネイチャーに出し,一本は表紙になったりしていた(#)。
しかも良く日本では見かける深夜も土日も働いて、朝はどちらかというと崩れ気味、みたいな重労働系の生活ではなく、普通に朝来て、「うーん今日は狂ったように仕事をしたな」とかいって七時半ぐらいに帰る。遅くても9時ぐらいかな。週末は飼っている細胞にえさをやりに来たり、続き上必要なミニマムなしごとをするぐらい。
日本でこのようなラボは僕が知りうる限り見たことも聞いたこともない。良くある話は、教授がいわゆる実力者で、ERATOかなんかの大きなファンドをとってきて、数十人規模の巨大なラボで腕力系の仕事をして、とにかく年に一本でもいいからNature/Science/Cell/Neuronあたりの本当のトップジャーナルに流し込む、という話。こういうラボは、アメリカにもいわゆる大御所系のところで、なくはないけれど、むしろ注目を集めているラボはこじんまりとしていて、こうやって楽しみながらがんがんやっているところが多い。大体若くて、駆け上がるフェーズのPI(principal investigator: ラボのヘッドのこと)のラボだ。
この辺、いったい何がどう違うんだろう?と思って見てみると、これがもうびっくり。ほとんど僕が長い間つとめてきた経営コンサルティングファームで行われている仕事のやり方とほとんど同じなのだ。(なお、このファームはこの業界の最老舗の一つで、分析的な課題の整理の仕方、問題解決のアプローチなど、意識している、していないに関わらず、現在多くのコンサルティングファームや大会社の経営企画で行われている根源的な手法論のかなりの部分を生み出している。)
特徴的なところを挙げてみる。
1. まずイシューありき
自分の考える世界観があり、そのパースペクティブ、ビューポイントに基づいてこういうことが言えるはずだ、あるいはこういうことを言えば意味(インパクト)があるというメッセージがまずある。これはぶわっとした話ではなく、もう論文のタイトルと言って良いレベルで決まっている。
つまり何に白黒つけたら良いのか、自分は何にケリをつけるのか(=issue)、というのが非常に最初の段階でクリアにあるのだ。そしてこれが次に述べる通り、そのサブサポートのレベルでも続く。
ちなみにこの白黒を付けるという姿勢がどの程度あるか、どのようなことに白黒つけようとするのかで、経営課題の場合、problem solverとしての質はほぼ規定される。何となく面白そうだから、でやるような人が大きなことにケリをつける、とどめを刺す可能性は非常に低い。
2. 仮説ドリブン
次に驚くのは、このような研究の構想を思いついた段階で、そのトップラインのメッセージ(=仮論文タイトル)がどのようなサポートとなるメッセージがあると言えるのか、明確に腑分けされており、その一つ一つがどのようなデータによってサポートされるべきか、ものすごく明確にデザインされていることだ。決して開けてみないと分からないよね、みたいなバカなことは言わない。あえてスタンスをとる。
(ちなみに、これは「イシューアナリシス」と呼ばれるコンサルティング現場では秘宝のように鍵とされている方法論で、体系的にトレーニングをしても、実際には日々の実践で身につける以外の方法はない。基礎レベルであっても身に付くのはそれなりの時間がかかるし、その課題についてのセンスがあるほど、そして経験を積むほど、レベルが上がる。その書いてあるものを見ただけで、老練な人ならすぐにproblem solverとしての質が分かるぐらいの大切なものでもある。ちなみにこの辺りはコンサルティングをドロップアウトしたような人の本には説明しても分からないと思うためか、うまく説明できないと思っているせいか、あるいは極意すぎて書きたくないと思うせいか、ロジックツリー以上のことは殆ど書いてない。)
例えばこんな感じ、ある朝いつものようにラボにやってくると、Hey Kaz, I have an idea for a work, let's have a chat、みたいな感じでやってくる。行くと紙をペラッと持っていて、一番上にタイトル(メインメッセージ)、その下は左がサブメッセージが五つぐらい並び、その右に一つ一つデータ、実験結果のイメージ、見せ方が絵コンテのように入っている。要は紙芝居的なストーリーラインになっている。その一つ一つが大体非常に手堅い手法によって、どの程度のワークロードが発生するのか、誰にどう聞くとすぐに立ち上がるのか(註:同じラボの人とは限らない)が見えている。
また個々のサブ論点(sub-issue)でも、何がどういえるかどうかが勝負、という本当の見極めどころがものすごくクリアにある。
3. アウトプットドリブン
で、これに基づいてある種、その五つなら五つのパズルを埋めるように研究を進めていく。当然、この論理が崩れると、根底から見直しが必要という、issueの流れでいくと上流にある、かなり根源的な課題から取り組んでいく。
これは、こうやって聞くと当然のことのように思えるかもしれないが、殆どの問題解決者が出来ていない非常に重要なポイントだ。問題解決は常にここが崩れると話が崩壊するようなところから行わないといけない。例えば、恋人が出来ない人の問題解決であれば、会う人の数が足りていないのか、会ってからの成就の確率が低すぎるのか、がクリアにならなければ、問題解決は運頼みになってしまう。:)要は課題解決の論理のツリーがどこから始まると考えるべきか、ということでもある。
そして、アウトプットが出て論理に影響が出そうであれば、それに合わせて全体のストーリーライン、トップラインのメッセージを見直していく。したがって、当初の仮説の視点から見ると失敗しているのに、トップジャーナルに載ってしまうなんて言うことがいくらでもある。これはものすごいことだ。
また一つ一つのハコというか、サブ論点が、考えていた方法でらちがあきそうになかったら、すぐにその方法は捨てる。見極めは最大でも1-2週間程度。どんな方法でも良いから、その論点がサポートできれば良い。非常にプラクティカルだ。、、、ここもプロのコンサルタントの問題解決現場と同じ。いかなる手法を使ってもよいから論点にケリを最速でつけていく。
4. メッセージドリブン
こういう形で進めてきているので当然だが、テキストは非常に歯切れが良く、力強い。なぜそれが大切なのか、何をするために何をやったのか、その意味合いは何なのか、ここから入る。従って、投稿の通りも良く、掲載される確率も高い。
単に実験や研究結果からこれを実践するのがどれほど難しいかは、上の真逆なアプローチで何かやったことがある人であれば切実に分かるだろう。結果、テキストライティングのスキルは母国語だからということではなくて、非常に高い。曖昧さのかけらもない文章を織り込んでいく。
「ピラミッドストラクチャー」という僕が仕事を始めた頃には、私のいたファームでしか使われていなかった言葉(ジャーゴン)が広まって久しいのでこれを読まれている人にも聞いたことがあるかもしれないが、これは正しくは、表現方法というより、上のような課題整理の方法論として捉える方がむしろ正しい。解決してしまったものは、実際にはその聞く人に合わせて、柔軟に表現した方が実際には伝わる度合いは高まる。
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ちょっと長くなってしまったけれど、大体こんな感じ。ちょっと本でも書くことになったら書こうと思っていたことをアウトラインだけですがこんなところで書いてしまいました。: )
Hope it was of help!
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# 当時Assistant ProfessorだったそのPIのラボは、現在、世界的に有名になり、ファンドも集まり結構なサイズになっている。PIもかなり偉いポジションを持っている。、、、アメリカではfull professorにも格があるので。
関連エントリ
ps. このエントリに対し、沢山頂いたみなさまの声に少しでもお応えできればと思い、一冊の本をまとめました。(2010.11.24発売予定)知的生産について、本格的にご興味のある方は、どうぞ!
内容については、次のエントリをご覧頂ければと思います。
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