昨日のコメントを受けた追伸、、、若さは才能


Leica M3, 50mm Summicron F2.0, S-800 @お台場、東京


昨日のエントリのコメントを見ていて少し追伸。(まだご覧になっていない人は、文脈が理解できないと思うので、そちらをまずご覧ください。)


まず、以下のエントリはかなり密接に関係したトピックなので、初めてこのブログにいらした人はご覧になって頂ければと思います。

ここではそもそも大学院教育の質として日米でどうちがうのかについて考察しています。、、、正直、欧米(特に米国)の先進的なプログラムを体験もせずに日本でも戦える、ノーベル賞も出ただろ、というのは、なんというか戦前、ニューヨークも見ずに*1鬼畜米英と叫んでいたのとあまり変わりません。戦前であっても北里先生であるとか、高峰譲吉先生であるとか、真に世界的な研究者はいました*2。そういう話ではないのです。


少なくともアメリカは1957年10月のスプートニクショック以降(今をさかのぼること51年あまり前)、国を挙げて国力増強のための科学研究、研究者育成の競争力強化、グローバルな人材取り込みに取り組んできました。日本は言語的にハンデがあるだけでなく、人材育成の仕組みもかなり遅れているのはファクトベースで認めないといけない(→学生のファンディングすら出来ていないのに、この認識がほとんどないのがそもそもの問題)。変に最近ノーベル賞が多かったりして、この改革の機運がむしろ下がっているようにすら感じます。


この数十年のノーベル賞の大半が、受賞者の国籍に関係なくアメリカがらみであったことを良く考えてみれば、結果としてのこのあたりの国家的な研究、研究者育成に関する生産性の違いは自明です。在住人口比で見れば、考えられないほどの差が生まれています。終戦から暫くするまでヨーロッパ勢が主たる勢力であったサイエンスは、60年代以降おどろくほど急速にアメリカに中心が移っていきました。


このリストを見て頂ければ分かる通り、アメリカの生み出した309人(!)のノーベル賞受賞者のうち、分野は混交ですが、237人までが1960年以降の受賞です*3ノーベル賞の単独受賞がほとんどなくなりつつあるとはいえ、この賞が20世紀の開始とともに、1901年に始まっていることを考えれば、戦後、アメリカの生産性が劇的に上がったことはほぼ明らか。本来の出自的には世界の寄せ集めのアメリカとこれだけコンスタントに差がついていることは、かなり何か本質的な「仕組み」の差があると考えるべきでしょう(これが最終的にはスプートニクショックの本質である国力の差につながる)。


その上で次のエントリ

を読んで頂ければ、なぜ欧米で教育を受けた人が何人か日本に帰ってきたぐらいで、教育の仕組みがそう簡単に変わらないのか、ある程度分かって頂けると思います。(私は希望は捨てていませんが、膠 [にかわ] のように固まった『システム』というのは、そう簡単に変わるものではありません。これは日本の大学システムに比べればまだ歴史の浅い、GMの変革の苦労などを見ていれば分かる通りです。)


実際にはチェンジマネジメント(マネジメントの仕組みの変革)にがっぷりと関わった経験がないとこの変革の困難については腑には落ちないと思いますが(正直、自分の過去を振り返っても、特に20代で理解することはかなり難しいと思う)、それに多少関連するのは次のエントリです。それほど浅い話ではありません。

この国の高等教育、研究システムの改革は、十分によい体験を積んだ人の数が高まること、抜本的な変革に向けた危機感が高まること、更にチェンジマネジメントの経験が深い人がある程度そろうこと、の三つがないと恐らく難しい、と僕は踏んでいます。



ということで、才能のある人は、こんな社会システム的な化け物と戦うのはやめて、さっさと利根川先生のように外に出た方が良いのでは、というのが昨日のanonymousなご相談に対するお答えでした。いずれにしても、一本立ちしたときに戦う相手は、そのアメリカを中心とした海外にいるのですから。そしてネットワーク、英語力も含めた研究の基礎体力は若い時ほど身につけやすいことはいうまでもありません。、、、若さは才能ですから。


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*1:今マンハッタンで立っている主たるビルの半分以上は、The Empire State Buildingはもちろん、世界恐慌直後に立ったロックフェラーセンターなども含め戦前から建っている

*2:とは言うものの、この二人とも欧米で研究!

*3:ちなみに日本は同期間中に15人です。実数にして15.8倍。人口差はせいぜい2.4倍なので、人口比6.6倍。