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ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Being between Neuroscience and Marketing このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2017-03-04

 『第六の波』、、、大量絶滅からの回復はどの程度時間がかかるのか?

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Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDPIII, VT, USA


皆さんお元気ですか?だんだんと春めいてきましたね。


現在、知覚と知性についてのとあるまとまった論考を書いているのですが(まとまったところでまたお知らせします)、そのからみで古いメールをひっくり返していると、まだアメリカで研究していた当時(17年前)のサイエンス・ニュースが出てきて、これはこれで面白く今もrelevantだと思うので再掲したいと思います。ブログのなかった当時、こうやってメールで友人、知人に数百名程度、発信していました。なつかしいなぁ。また何かいまでも面白いもの、価値のありそうなものを発見したら載せますね。


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2000-03-22


春が来ました。辺りの木々が芽を出し、黄金色に輝くまであと少しです。


さて本題です。


地球上に我々や、辺りの草木の先祖である細胞核を持つ最初の生命が現れてから約六億年。その間、少なくとも五度、地球上の生命は大規模な絶滅の波に襲われてきた。 原因は依然よく分かっていないが、いずれもいわゆる天災であったことだけは間違いがない。例えば、六千万年前の恐竜の消滅は天体の衝突によるものだったというのが現在の定説である。そして今、第六の波が来ている。この波はホモ・サピエンスと呼ばれるただ一つの種が起こしている点で過去に例を見ない。


良いニュースは、地球上の生態系にはある種の自己回復能力があり、滅んだ種は二度と帰っては来ないものの、種の数 -- 多様性 -- 自体は、常に回復してきたことである。しかしながら現在、我々、ヒト、の存在のためにあらゆる種の絶滅が地球上の至る所で起こっている以上、この回復に一体どの程度の時間がかかるかは極めて重要な 問題である。


しかしながら、これまで絶滅の研究は多くされてきたものの、種の創造についての研究は殆どされておらず、この課題の検証はいわばないがしろにされてきた。尚、新しい種の創造は全滅のあとすぐに始まり、大体1~2百万年程度で回復が可能であるというのがこれまでの学説である。


このイシューにけりを付けるべく、BerkeleyのKirchnerはDukeのWeilと共に、種の絶滅率と種の生まれる率との相関を調べたところ、彼らは驚くべき、そして悲しい関係を発見した。種の創造は、絶滅のあとすぐには始まらず、絶滅を埋め合わせるピークはなんと一千万年後にならないと来ないというのだ。更に、この時間的な遅れは絶滅のスピードや規模にもよらないという。たとえ、人類が今後数百万年、生きながらえたとしても、我々の種の誰かが、今日の絶滅から多様性が回復するのを見ることは恐らくないのである。


子供の頃、あれだけ楽しんで読んだ動物、植物図鑑が、過去五十年で滅んだ動物、植物図鑑とならないことを祈らざるを得ない。


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Nature 404, 177 - 180 (09 March 2000) Macmillan Publishers Ltd.

Delayed biological recovery from extinctions throughout the fossil record

JAMES W. KIRCHNER* AND ANNE WEIL†

 * Department of Geology and Geophysics, University of California, Berkeley, California, 94720-4767, USA

 † Department of Biological Anthropology and Anatomy, Duke University, Durham, North Carolina 27708-0383, USA

Correspondence and requests for materials should be addressed to J.W.K. (e-mail: kirchner@seismo.berkeley.edu)

How quickly does biodiversity rebound after extinctions? Palaeobiologists have examined the temporal, taxonomic and geographic patterns of recovery following individual mass extinctions in detail, but have not analysed recoveries from extinctions throughout the fossil record as a whole. Here, we measure how fast biodiversity rebounds after extinctions in general, rather than after individual mass extinctions, by calculating the cross-correlation between extinction and origination rates across the entire Phanerozoic marine fossil record. Our results show that extinction rates are not significantly correlated with contemporaneous origination rates, but instead are correlated with origination rates roughly 10 million years later. This lagged correlation persists when we remove the 'Big Five' major mass extinctions, indicating that recovery times following mass extinctions and background extinctions are similar. Our results suggest that there are intrinsic limits to how quickly global biodiversity can recover after extinction events, regardless of their magnitude. They also imply that today's anthropogenic extinctions will diminish biodiversity for millions of years to come.

2015-10-18

ヨーロッパは旧世界ではなく新世界だった

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Leica M7, F1.4, 50mm Summilux, RDPIII @Lake District, England, UK


昨夜、パラパラと見ているとNature発の目を疑うようなニュースが飛び込んできた。


”The earliest unequivocally modern humans in southern China” Nature (2015) doi:10.1038/nature15696


ヨーロッパには現生人類(ホモ・サピエンスクロマニヨン人)は4万5千年年前までいなかったことが知られているが、アジア(今の中国南部)には少なくとも8万年前、もしかすると12万年前にすでに疑いようもなく現生人類といいきれる人間たちががいたというのだ。


ではなぜヨーロッパにいなかったのかというと、ヨーロッパにはネアンデルタールたちが大量に住んでいて入れなかったのではないかという。


え”っ??じゃないだろうか。


そう我々現代人の先祖は長い間、はじめに生まれたアフリカだけにいたのではなく(ヨーロッパにはいろうとして失敗して諦めていただけでなく)、東に伸びるアジア、そして多分南北アメリカには、ヨーロッパ入植の何万年も昔からいたのだ*1。何万年というのは、キリストが生まれてから今までの期間の少なくとも20倍、4万年以上という話だ。


ヨーロッパ中心主義的な物の見方から始まった人類学はもうコペルニクス的な展開を今迫られている。僕のざっくりとした人類史の理解の変遷はこんな感じだ。


  1. 〜20世紀前半:人類は北アフリカ〜ヨーロッパかアジアの何処かで生まれた(同時並行的にに生まれた可能性もある)。4万年ぐらい前までは旧人(ネアンデルタール)がいて、そこから更に進化した新人(クロマニヨン)に置き換わっていった。なので文明もその辺を中心に生まれた
  2. 20世紀後半〜:現生人類は同時多発したのではなく、約15万年前にアフリカで生まれて他の大陸に広がった(出アフリカ)。ネアンデルタールはじめ、他にも10種類以上の人類がいたが、基本数万年前までに滅んだ。南北アメリカにも5万年前ぐらいには到着した。
  3. 21世紀初頭~:2の理解に修正。現生人類は純血ではなく、アフリカ以外の土地ではネアンデルタールの血が数%混じっている。特にアボリジニーではちょっと高め。デニソワ人の血も東南アジア周辺ではそれなりに入っている。インドネシアにも背が低い人類(フローレス人)がいたが1.3万年前ぐらいに滅んだ。
  4. 2015年10月(今ココ):アフリカを出た現生人類たちは一番近くのヨーロッパには入れなくて右(東側)に進路を取り、10万年ぐらい前にはアジアに到着した。一部は南北アメリカにも行った。主として現生人類はアフリカとアジアにしかおらず、ヨーロッパはネアンデルタールの国の時代が長く続いた。4万年ぐらい前に氷河期か何かのせいでネアンデルタールがほぼ消滅に近づいた頃(もしかしたらハイパー化した現生人類に滅ぼされた結果)、現生人類はヨーロッパにもまとまって住むようになった

もうほとんど100年ぐらい前とあべこべの世界観といえる。科学というのは本当に面白い。


こうであれば、なぜ僕が子供の頃(35年ぐらい前)は旧人(ネアンデルタール)と新人(クロマニヨン)というふうに教えられたのか、そのころ旧人の何処かから新人が生まれてきて置き換わった的な言説があったのかもよく分かる。そもそも人類学が始まった頃、ヨーロッパでは古い現生人類の化石が見つからなかったからだ。なので旧人から新人が進化したと考えざるを得なかったのだろう。


この辺の話は本当に不思議でわけがわからなかったが、僕がおとなになって今に至る過程の中で、実際には現生人類(ホモ・サピエンス)はネアンデルタールと平行して生きていたことがどんどん明らかになっていった。どうやって住み分けていたのかとかというのは、ずっとなんだかよくわからなくて不思議だったが、ようやく大筋で紐解けた感じがする。*2


また、なぜ世界がこのような人口分布になっているのかもこれが背景であればもっとよく分かる。


僕が高校生の頃、学校でもらった地図帳を授業も聞かずに見ていて(笑)最も驚いたことの一つは1000年前も2000年前も、もっと前も人口の地理的な分布を見るとアジアとアフリカで半分を越していたということだった。何が起こってこんなにアフリカとアジアばかり人がいるんだろうとずっと思っていたが、これが背景であればもっとよく分かる。


『銃・病原菌・鉄』にあるような、植物種も含めた土地の豊かさの問題でこれが起きているとばかりずっと思っていたが(相変わらず大切な理由であることは間違いないが)、必ずしもそうばかりとはいえないということだ。



そしてこれを俯瞰してわかるのは、実はヨーロッパは旧世界でも何でもなくて、長い(現生)人類史で見ると、むしろ最後の最後に住んだ新世界であるということだ。そしてNative American以外にとっては(近代)アメリカがさらなる新世界であったといえる。本当の原点はアフリカ。旧世界はアフリカ、アジア、南北アメリカ。新世界がヨーロッパと中東*3。新世界2がヨーロッパ人が移住したあとのアメリカ。文字がない(?)時代に失われてしまった過去の歴史を誰かぜひ紐解いて欲しいと思う。


なんというかあまりにも愉快だ。そういう新しい土地に入っていったヨーロッパ人の先祖になった連中たちが、まるで今の企業におけるスタートアップのように過去のしがらみを捨てて、本来あるべき姿を追求した。そうするとナイルとか、メソポタミアのいわゆるヨーロッパ系の文明が生まれた。(おそらくインダス文明もそれの一つ)


古い慣習とか仕組みに縛られないアタッカーは強い。気がついたら、彼らは文化的な中心の一つとなり、China, Indiaで生まれた文明を追い越し、支配的な地位を確立。世界に出ていき、頑張ったら今のような力学図になった。そうとも捉えられるのではないだろうか。*4


なんてことをたくさん考えさせてくれて本当に楽しい週末の楽しみネタになった。


このような驚異的な発見をしてくれた中国、UK、スペイン、アメリカの共同チームの皆さんに感謝したい。


しかしなんでこれほど驚くほどの発見が我が国の主要ニュースにほぼ全く流れていないのだろう、、、不思議だ。*5




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★本エントリに関連する雑誌


デニソワ人発見の話がかなりこってり(オススメ)

南アフリカの洞窟で最近大量に見つかった頭は猿人で身体はホモ属にかなり近いという人類の話。謎だらけだけれどとても面白い。


(注:僕は人類学を正式に学んだ人間ではないので、多分に誤解、想像を含んでいます。以上はあくまで僕の執筆段階での理解であり、事実関連については何もかもを鵜呑みにされず、ご自分でお調べ、ご確認ください。あと、詳しい方がムキになるのはナシでおねがいします。そんな大人げない人はいくら何でもいないと思いますが、一応念のため。笑)

*1南米に5万年前に人がいたという話はブログを書き始めた頃の次のエントリ(オリジナルを書いたのは2000年の夏!)をご参照されたし。http://d.hatena.ne.jp/kaz_ataka/20080801/1217542375

*2:途中、シベリアの南西で見つかったデニソワ人とかまだ??なものもある。

*3:このNature論文で知ったがLevantというらしい

*4:実際には偶然とか色んな物が絡んでいて簡単には説明できないだろうが、頭の体操としては面白い。

*5:少なくともこの執筆段階でほぼ全くニュース的な話題にはなっていない。

2013-11-24

巨人サンガー逝去


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Leica M7, 50mm Summilux F1.4, RDPIII

Cambridge, UK


タンパク質のアミノ酸配列を世界で初めて決定し、DNAの配列決定法を発明、更にRNAの配列決定法も産み出したフレデリック・サンガー(Frederick Sanger)


ノーベル化学賞を二度受賞した唯一の人物。サイエンスをはじめた頃からずっと僕のヒーローの一人だった。


その彼が19日火曜、イギリスのケンブリッジで亡くなった。

享年95歳。


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彼がケンブリッジのラボの片隅で、テクニシャンとたった二人で10年間こつこつと仕事を行い、人類が世界で初めてタンパク質の配列を決定した仕事は現代の伝説であり、サイエンティストの目指す一つの夢だ。


身体の最も大切な構成要素の一つであるタンパク質(protein)が、22のアミノ酸がチェーン状に組み合わさって出来ているものとしか分かっていなかった当時、この巨大分子の1次構造を本当に紐解けると考え、インシュリンを題材にやり遂げたのは彼一人だった。


しかも、それは巨大チームとはほど遠い、小さな小さなチームの放った大きな一撃だった。このアプローチがその後のいくつものタンパクの一次構造決定の引き金になる。この仕事がどれほど多くのインスピレーションを世界の科学者に与えてきたのか、その影響は計り知れない。


明らかに解くべき問題があり、それを解けると考え、人の判断に左右されずに自分のジャッジを基に、取り組みを行う、そのことの大切さをサンガーの人生は教えてくれる。


ちなみに、彼の最初のノーベル賞はこのたった5本の、しかし、人類にとって計り知れないほどの価値を持つ論文からなる仕事のわずか4年後に与えられた。どれほどのインパクトのある仕事だったか、この事実だけからも分かるだろう。


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最初のノーベルを40歳でとった後も、彼はラボからでることなく、コツコツと自分のベンチ(実験台)の前から離れることはなかった。「自分は人のために実験を考えることは得意じゃない、人を管理したり、教える才能がない」*1、彼はそう言って、自ら手を動かし続けた。


本当にサイエンスが、そして研究が好きな人にしか出来ないことだ。PI(principal investigator: ラボのヘッド)になったとたんにふんぞり返り、実験は若い学生、研究者に任せる、多くの研究者とは対照的だ。しかしそのほとんどの人は、サンガーには遥かに劣る衝撃しか世の中に与えない。


僕の知る限り、多くの実験科学者は、手を動かすことは労働ぐらいにしか思っていない。ただ、中にはほんの少し、それ自体に喜びと専門家としての矜持を持ち、その前後の中で多くのインスピレーションを得ていく人がいる。そのことの大切さをしみじみ感じさせてくれるのもサンガーだ。


静かな研究生活の中から、彼は、我々の遺伝情報を運ぶ物質の画期的な配列決定法を開発する。基本となる要素はわずか四つと、タンパクよりも格段に少ないが、タンパクとは比較できないほど長大で、手の付けられなかったDNAが相手だった。誰もが大切と分かっていながら手の付けようがなかった超巨大分子、DNAの配列決定。その後、サンガー法と呼ばれるようになる。これが彼の二つ目のノーベル賞となる。


同時期に産み出され、利根川さんののちのノーベル賞につながる免疫系の仕事で一緒に仕事をしたギルバートによる手法は、今はほぼ使われていない。高速な配列決定法(シークエンシングと呼ぶ)も現在は多く存在するが、その大半の原理的な部分はサンガー法だ。この事実上のデファクト的な手法によって、ヒトゲノムも配列が決定された。この世を根底まで揺さぶる仕事だ。


英国人で2つのノーベル賞を得た唯一の人物であるにも関わらず、サンガーはKnightの称号を受け取らなかった。Sirと呼ばれることを好まなかったからだという。*2


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研究をやめて久しくたった今も、彼の生き方を考えるたびに、僕は自分の生き方と意味を考える。


今、本当に自分は大切な問題に立ち向かっているのか、自分は今やっている仕事を心から楽しんでやっているのか、指先から立ち上る、そして分析の現場から生まれる、そんなひらめきと考えをちゃんと大切にしているのか、と。


遠い極東の片隅から、サンガー博士のご冥福を祈る。


CGCATTCCG

TTTCGCGAAGAT

AGCGCGAACGGCGAACGC *3

*1:I am not particularly adept at coming up with experiments for others to do and have little aptitude for administration or teaching

*2:サイエンスで二度受賞した人は、他に二人しかいない。キューリー婦人こと、Marie Curie (Physics in 1903 and Chemistry in 1911) とJohn Bardeen (Physics in 1956 and 1972) だ。

*3http://phenomena.nationalgeographic.com/2013/11/20/cgcattccgtttcgcgaagatagcgcgaacggcgaacgc/