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2017-05-24 視聴覚室・ディジタル信号処理・立体音響

[][][]立体音響 01:44 立体音響を含むブックマーク 立体音響のブックマークコメント

立体音響、サラウンド技術は古くから研究されてきたテーマであり、ごく簡単な仕組みから超大規模なものまで様々なアプローチがある。

簡易サラウンド

L信号とR信号の差をとり元信号に付加すると、意外なほど音場が広がる効果がある。実は組み込み機器のエフェクトとして入っている「サラウンド」機能は、未だにこの程度の処理が主流である。

トランスオーラル再生

普通室でのステレオスピーカによる再生は、Lチャンネルスピーカの再生音が右耳にも入り、Rチャンネルスピーカの再生音は左耳に入る、いわゆるLRクロストークが発生する。LRスピーカからそれぞれ耳に至るまでの伝達関数が判明すれば、伝達関数連立方程式を解くことによりLRクロストークをキャンセルでき、LRのセパレーションが完全な優れた音場が形成される。これをトランスオーラル再生という。ステレオ再生においては究極の方法のようにも感じられるが、実際に適用するには視聴位置を完全に固定しないと計算が崩れてしまい、一般家庭では意図通りの再生ができない。椅子が固定されているなど、視聴位置を限定できるときに効果を発揮する。

マルチチャンネル再生

5.1chや7.1chなどと音源数を増やすことで音場を形成する手法であり、最も一般的な意味での「サラウンド」である。平面内に分布させる5.1chなどの数は、直感と現実に用意できるチャンネル数で決まっており、物理的な意味はない。しかし、NHK技研の研究によればマルチチャンネル再生は6chを下回ると急激に立体感が落ち込むという結果が出ており、結果的に5.1ch、7.1chといった数は妥当である。

市販の映画ソフトなどは、音源を製作する段階でマルチチャンネルスピーカでの聞こえ方をテストしており、サラウンド信号の再生とはその作り込みを味わう行為と言える。各チャンネルスピーカからの到達時間や特性を畳み込むことで、ステレオ音声から疑似的にサラウンド信号を作り出すドルビープロロジックなどの手法も存在する。なお、市販ソフトの5.1chや7.1ch音源は、あくまで二次元平面内(前後左右方向)であり、正確には立体音場とはいえない。NHKスーパーハイビジョン規格における22.2chサラウンドは、上下方向の情報が入っているので立体音場と呼んでもよい。

バイノーラル再生

ダミーヘッドや人間が耳に装着したマイクを使用し、収録段階でHRTFを畳み込んだ信号をヘッドホンで再生する方法をバイノーラル再生という。他の手法よりもリアルな立体的な音場が得られるが、通常のHRTFの議論と同じく、収録条件と再生条件の頭の形が同じでないと、やはり誤差が生じて前方定位が得られず、不完全な結果になる。

境界要素法による音場再現

大量のマイク、スピーカを使用し、収録側の伝達関数、再生側の伝達関数を計測して逆特性で補正しつつ、境界要素法という手法で受聴者のまわりの音場を計算して再現する方法が試みられている(「音響樽」など)が、高周波の完全な再現は難しく実際に再現できているのは2kHz程度までである。きわめて大掛かりな設備が必要なので、人間国宝の演奏の収録と再現など、適用範囲はきわめて限定される。

各チャンネルに必要な帯域

最も普及しているサラウンド手法マルチチャンネル再生において、各チャンネルの信号の帯域を調査した。DVDハウルの動く城」5.1ch信号を先頭から30分間録音し、FFTアナライザのピークホールド機能で結果を表示した。計測時期が2007年頃と古いので簡易な手法を用いたが、現在ならスペクトログラムで時間周波数解析をするべきである。

フロント2ch(LR)

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マルチチャンネル再生においても、最も重要なのはフロントのLR2chスピーカである。30分間のスペクトラムをリアルタイムで観測したところ、広い範囲にパワースペクトルが分布する機会は多かった。

センタースピーカ(C)

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センタースピーカは、主に画面中央に位置する登場人物の台詞を担当することが多く、50Hz以下のような低周波再生は頻繁には必要ではない。センタースピーカの理想位置には一般にテレビやスクリーンなどのディスプレイがあるので、ディスプレイの上や下、あるいはセンター信号をLRに分けた合成センターといった配置となる。プロジェクターとサウンドスクリーンを使用し、スクリーンの裏側の正面に配置できれば理想的であるが、そこまで実行することは少ない。ヤマハTLFスピーカのようにスクリーンを静電型スピーカと一体化させることが可能であるが、テレビが正面にある場合はそのような手が使えないので、LR合成配置か下部スピーカ指向性補正が次善解となる。

リアスピーカー(LrRr)

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リア用信号も帯域はフルレンジであったが、リアスピーカはフロントに比べて相対的に音量が小さく、また音量が上がる頻度も小さい。リア信号は臨場感を高める上では重要であるが、同時にあまり音量を上げられない事情がある。人間には後ろからの物音には警戒する危険察知の本能があるので、後ろから大きな音がする音源はリラックスして視聴するのが難しく、市販のソフトもそのような作り込みを無意識に避ける傾向が見受けられる。

サブウーファー(Lfe)

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今回の結果では150Hzまでの信号が入っていた。サラウンド信号を余すところなく再生するには、150Hz程度までの再生が必要と解釈できる。サブウーファから150Hzまで出すと音像定位への影響が無視できないので、サブウーファはディスプレイの中心下部に配置するのが望ましい。ステレオ再生用に2.1chを用意すると、サブウーファの帯域を50Hz程度以下に絞ることが多く、サラウンド用との切り替えは面倒である。サラウンド専用にもサブウーファを用意すればそのような面倒はないが、そもそもフロント2chスピーカに十分な再生帯域があればサブウーファは1台で収まる。

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2017-05-23 視聴覚室・超低音再生

[][][]超低音再生 01:41 超低音再生を含むブックマーク 超低音再生のブックマークコメント

超低音はスピーカで最も再生しにくい帯域であるが、再生音の迫力感を担う重要な帯域でもある超低音専用のスピーカをサブウーファと言うが、その方式は様々である。ホーン型は高能率であるが、超低音用のホーンは数mのサイズになり、実用性がない。寸法が小さくて済む音響的共鳴を利用するのが効率的であるが、共鳴音は過渡特性が悪くなる。振動板からの直接音が得られれば最も簡便であるが、やはりサイズが大きくなり、小型スピーカでは実現するのは難しい。図体が大きくなればそれだけ材料費も嵩み、スピーカにおける永遠の課題と言われる。

超低音用コーンスピーカ

コーンスピーカで超低音を再生するには、振動系のf0が十分に低いことが第一となる。大型ウーファは自然と振動系が重くなり低いf0が実現できるが、やはりその分能率は落ちる。MFBとイコライザを使用して優れたサブウーファを構築することも可能であるが、振幅が大きくなるので歪みも大きくなるので、音質を追及すると結果としてサイズが大きくなる。

ヘルムホルツ共鳴

バスレフ構造は、 コーンスピーカによる背面音圧をバスレフポートのヘルムホルツ共鳴により増幅して輻射する。コーン背面からの音が共鳴により極性反転して出るので、コーンからの直接音と重ね合わせても音圧は減退しない。バスレフの共鳴周波数fbはスピーカーユニットのf0とは独立に設定できるので、f0より低い周波数に設定するのが一般的である。バスレフポートから出る音は、ヘルムホルツ共鳴の帯域から更に下では共鳴せず逆相の音波がそのまま出るので、直接音と打ち消し合う。fbはf0より10Hzほど低くして、音圧の減退を防ぐ程度に使用されることが多い。

気柱共鳴式スピーカ

BOSE AWCS-IIに代表される気柱共鳴式のサブウーファは効率がよいとはいえ、それでも20Hz〜30Hzを共鳴管式で出そうとすると全長4m程度の共鳴管が必要となる。管楽器のように屈曲させることもできるが、やはりサイズがネックとなる。共鳴管は塩ビ管で自作することもできるが、共鳴管式サブウーファは概して専用イコライザの併用を前提とするので、スピーカだけ組み上げても満足のいくものにはならないかもしれない。

サブウーファの実例

代表的なMFBを使用したサブウーファのヤマハYST-SW1000の測定結果と自作MFBサブウーファーYST-CP18Sの測定結果を以下に示す。どちらも電流正帰還アンプを使用している。

YST-SW1000は、30cmウーファーユニット、高重量キャビネット(48kg)、ASTシステム(YSTシステムの前身)搭載、出力120Wと、市販サブウーファの中ではかなり強力な製品をしている。搭載されているスピーカユニットのf0は70Hz程度である。1990年頃の「無線と実験」誌における、 長岡鉄男氏によるYST-SW1000の実測結果を引用して示す。 スピーカ正面の距離1mで計測し、LPFのcut-offは下限値の30Hzである。 入力信号レベル、dB値の基準などは不明であった。

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40Hzから20Hzで8dB落ちと減衰は小さく、充実した超低音再生が期待できる。この結果は30Hz cut-offなのに40Hz cut-offのように見えるが、間違いではない。この結果は内蔵イコライザスピーカの周波数特性、放射インピーダンスの組み合わせにより生じている。周波数特性を参照するに、YST-SW1000がしっかり出せるのは35Hz程度までと考えられる。

自作MFBサブウーファーYST-CP18Sは、classic pro CP-18Sに電流正帰還アンプを組み合わせたバスレフ型サブウーファである。 46cmウーファー搭載、高重量キャビネット(53kg)、塩ビパイプを用いたポート再設計(30Hz)、電流正帰還アンプを安定帰還量ギリギリまでチューニングした。周波数特性補正用のイコライザは導入していない。元がPA用のサブウーファーなのでf0が高いが、MFBと低い周波数のLPFによりYST-SW1000を陵駕する超低音再生が可能である。なおYST-SW1000は定価15万円、自作サブウーファは原価3万円ほどである。ここで示す結果は、測定位置がポート直前、カットオフ周波数50Hzとしたが、kazimaの測定技術が低かった頃の結果なので、あくまで参考として示す。

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25Hz程度までフラットな音圧が得られ、20Hzで-10dB落ちと、YST-SW1000を超える十分な性能である。

サブウーファと音像定位

一般に超低音では音像定位がなくなり、配置を選ばないと言われる。確かに超低音のみが再生できればその通りであるが、実際には高調波歪みを含めて100Hz以上の周波数が出ているので、音像定位への影響は無視できない。YST-SW1000の測定結果によれば、 カットオフ周波数を最低の30Hzに設定しても、70Hzあたりで-10dB落ち程度である。このような問題を解消するには、サブウーファであっても左右2つ用意するか、高次LPFを採用して高周波を急峻にカットする必要がある。大型サブウーファは2台置くスペースは確保しにくいので、サブウーファーの上にウーファーボックスを置くとスペースの問題がなくなる。

日本でサブウーファがは普及しない理由

日本のオーディオマニアは、伝統的にサブウーファを使うを邪道とする傾向があった。逆に海外ではウーファを追加する方が一般的である。現在はスピーカ製品の小型化に伴い2.1ch構成の製品が充実してきている。また、5.1ch以上のマルチチャンネルサラウンドでは サブウーファは当たり前に導入されるので、映画用には広く使われている。

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2017-05-22 スピーカー(4)音像定位

[][][](4)音像定位 01:11 (4)音像定位を含むブックマーク (4)音像定位のブックマークコメント

音が聞こえてくる方向の感覚を音像定位感、音場感と呼び、モノラル再生による単純音質とは異なる意味で音質を決定する。

スピーカ距離

ステレオスピーカは、左右の距離を離すことで初めてステレオ効果を得る。定位感は配置によって変化するが、家庭内での再生では位置の正解はない。ステレオ録音をそのまま再生する状況を考えると、ステレオマイクのLRの位置関係と再生スピーカの位置関係は極力合わせる必要があることになるが、マイクの位置関係が未知であれば実行不可能であり、また加工されている音源では正しい位置が存在しない。強いていえば、マスタリングにおいてモニタースピーカを置いていた距離が適正と考えられるが、部屋のレイアウトの制限の中で好みで決めるしかない要素といえる。

振動板の大きさと指向性

音波の指向性は、波長と振動板の大きさによって変化する。振動板が大きくなるほど正面に音波を伝える力が強くなり、裏を返せば正面以外では音圧が得られなくなる。概して振動板の大きさが波長と等しくなると指向性が得られ、それ以下であれば指向性は十分に広い。ウーファでは100Hzにおける波長が3.4mにも及び、現実的に振動板の大きさは指向性には影響しない。ツィータでは10kHzにおける波長は3.4cmと、振動板のサイズと比較して無視できない比率となるので、以下に述べるディフューザーを使用するか、半円型の曲面振動板を採用するなど、指向性を考慮した設計をする必要がある。

線音源(ラインアレイスピーカ

振動板は、コーン型、ドーム型、逆ドーム型、平面型のいずれであっても、一般には丸い形状をしている。円形により、振動板面内の位相は円周方向に対して均一にできるからである。それに対し、野外ステージなどで多用される線音源は、スピーカを縦方向に並べることで波面を平面に近づけ、上下方向の指向性を狭めて音波を遠くまで届かせるのに使用される。業務用の巨大なセットでなく家庭用でも、この構造は効果を発揮する。視聴環境において上下方向に視聴位置がずれることはあまりないが、部屋の中を移動することは多く、左右方向にはより広いサービスエリアを確保しながら、上下方向には必要な空間にのみサービスするという方法が可能になる。静電型、圧電型など前面駆動スピーカであればさらに望ましい。動電型スピーカでも細長いユニットを並べることで実現可能であるが、どうしても単一ユニットよりもコストがかかり、家庭用にはあまり実現していない。

音響ディフューザー、音響レンズ

音波の反射を利用して拡散をつけるものを音響ディフューザーといい、音波の回折を利用して指向性をつけるものを音響レンズという。ディフューザーは主に、能率を重視して大きくしたツィータの正面に反射体を設け、指向性を和らげる用途に使用される。音響レンズは音道を制御して音波を拡散させる羽根のような形状をしている。音響レンズはかつてジャズ喫茶などに大量に採用されたJBL 4344に採用されたことで有名になった。喫茶店など、一般家庭よりも広い範囲に高音を届けるのに適していた面はあるが、視聴距離が高々数mの一般家庭では音響レンズを使用する必要があるほどの広い指向性は必要なく、せいぜいディフューザーで十分である。

曲面振動

静電型やマルチセル型スピーカを使用して曲面の振動板を用意すると、放射される音波の波面も曲面となり、その焦点に音圧を集中する効果がある。視聴エリアが限定されていれば効率的な方法となるが、拡声用、家庭用ともに特定位置のみサービスすればよい状況はあまりなく、形状で焦点を決めているので視聴位置に追従することもできない。フルレンジ再生における曲面振動実用になるのは、美術館におけるスポット再生のような特殊用途に限定的となる。なお、ドームスピーカなども振動板が曲面になっているが、並行振動するだけなのでこのような効果はない。

時間波面制御

複数の振動板を並べ、再生信号に0.1msオーダーの時間差をつけることで、合成される波面を曲げることができる。遅い信号から早い信号の方向に波面が曲がるので、中心から外に向かうにつれ信号時間を遅くすると凸面、逆にすると凹面の波面を形成することもできる。超音波スピーカアレイに時間差をつけ、目標の一点に音圧を集中するといった用途に使われる他、カーオーディオ用スピーカではLRスピーカに時間差をつけ、スピーカからの距離が偏っている運転席での到達時間を補正するのにも使用される。リビングにおけるテレビにこのような仕組みのスピーカを内蔵し、テレビに内蔵したカメラ画像で認識した視聴者を追尾するような方法も容易に考えられるが、得られる効果の割に膨大なコストがかかるので、なかなか実現しない。むしろ、視聴位置が変わっても近い音質が得られる線音源の方が優れている。視聴者は一方向にいるとは限らないからである。

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2017-05-20 視聴覚室・スピーカー(3)内部損失

[][][](3)内部損失 00:56 (3)内部損失を含むブックマーク (3)内部損失のブックマークコメント

スピーカーの、主に振動板の特性に音質に関わる要素をスピーカー(2)で洗い出した。(3)では、スピーカーにおける振動板の電気特性以外の、箱や振動板の形状や構造、材質による影響について述べる。

点駆動振動板の剛性と内部損失

(2)で説明したように、振動板の分割振動は音色には影響しないとはいえ、周波数特性には大きな影響を与える。効率よく音波を放射するには、分割振動による位相干渉を防ぐのが望ましい。そのために、振動板の剛性を上げて簡単に変形しない材質を目指し、アルミやチタンなどの金属板、アラミド繊維アモルファスダイヤモンド、ボロンカーバイトなどが提案されてきた。従来の材質では、剛性と内部損失は相反関係にあり、紙材などは内部損失は高いが剛性が低く、金属に近いほど内部損失が低いが剛性が高い。近年では三菱電機から二つの要素を両立するカーボンナノチューブ振動板が製品化されている。

この問題はもともと、コーンスピーカのような点駆動方式に原因がある。分割振動は、広い面積をもつ振動板の中心部のみを押して駆動するという構造により発生する。静電型、圧電型、リボン型、マルチセル型などの全面駆動スピーカにおいては、振動膜に張力をかけさえしなければ、そもそも分割振動の問題は存在せず、剛性は不要となる。しかし、残念ながら全面駆動スピーカは、駆動力の源となる磁束密度や表面電荷密度をあまり高くできず、能率が悪いという欠点がある。また、現在のところ材料費が高価で製造が難しく、高コストになりがちである。よって一般に「スピーカー」と呼ばれるものは今後もコーンスピーカであり続ける可能性が高いが、音質面ではコーンスピーカはあてにならず、帯域を分割して高音側(1kHz以上)では別の方式を採用することが多い。ウーファ用には大振幅が要求されることでコーンスピーカを使用することが多いが、46cmウーファなど大型のウーファユニットでは分割振動が起こる帯域も広く、家庭用途では必要な振幅も小さいので、コーン型ウーファが正解かは疑問である。

スピーカボックスの材質と内部損失

スピーカが空気を駆動する際には、作用反作用の法則にしたがい、フレーム、ボックス側はその反動を受ける。ボックスには、この反動を受け止めるだけの質量と、反動による付帯音をできるだけ熱に変換する内部損失が求められる。木製のスピーカボックスは内部損失を上げるのにほぼベストな材質であり、低コストで損失が高く均質なMDF材が好んで使用される。組み込みスピーカなど、ボックスがモールド材(プラスチック)であったり金属材であったりするとボックスによる損失は期待できず音質を損なうが、製品を作る上では回避不可能なので、取り付け構造を工夫してなるべく製品本体全体の剛性を活かすのが望ましい。

スピーカボックスの形状

縁の部分での急激なカーブによる音波の意図しない反射を嫌い、スピーカボックスのバッフル面の端はラウンド構造にすることが多い。卵型やツィータ部分の台座を制震構造にしているものもある。これらの工夫は、波長が短い中高音域では効果が得られるが、低音ではほとんど効果がない。ウーファでは、ボックス形状による反射状態よりもいかに前面に音圧を与えるかが重要なので、単にバッフル面が広いことを第一に考える。(2)では、ウーファを部屋の角に置くことで、壁をバッフルステップに利用することも説明した。

音響的共鳴

ボックスの隙間や、部屋の形状、家具の配置により音波は共鳴を起こし、無響室でもなければ完全に取り除くことはできない。中高音における共鳴は、有名な鳴き竜のように再生音を濁す元になるが、低周波の共鳴は元々不足しがちな低音の音圧を補う効果があり、スピーカの形状としてもバスレフボックス、共鳴管式スピーカヘルムホルツ共鳴器などに応用される。ただし、共鳴による音圧は過渡特性が悪く、制動が効かない尾を引いた低音になることが多い。スピーカボックス内部でも共鳴は起こりえるので、吸音材を詰めることで対策を施す。

スピーカー(4)に続く。

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2017-05-17 視聴覚室・周波数-音圧特性

[][][]周波数-音圧特性 22:29 周波数-音圧特性を含むブックマーク 周波数-音圧特性のブックマークコメント

スピーカ(1)にて、スピーカの能率について整理した。続いてスピーカの音質を決める要素を洗い出していく。やはり、現在最も普及している動電型コーンスピーカを基本として考える。

周波数-音圧特性

スピーカの周波数-音圧特性(以下、周波数特性)は、スピーカの音質の最も基本的な指標である。それぞれの周波数(音の高さ)における音圧のバランスを決定する。周波数特性は、全音域においてフラット(平坦)であることが理想である。すなわち、低音から高音までどの周波数においても等しく音圧が得られるようなスピーカである。勿論、低音のブーストや声の帯域を強調した音質にすることで何らかの効果を得ることも可能であるが、周波数特性がフラットであれば収音したときの周波数特性をそのまま再現できる(無加工を前提とする)ので、マスキング効果を最小限にでき、結果として人間が受け取る情報量が最も高くなる。

各帯域の役割

低音から高音まで、音圧が得られたときの役割について説明する。

  • 20Hz-60Hz

可聴域の最も低い帯域である60Hz以下のいわゆる超低音は、低音の雰囲気、地響き感を担当する。パイプオルガンの最低音が16Hzなので、あらゆる音源に対応するにはこの帯域が再生できることが望ましい。実際には音源の段階で超低音を削除しているものも多く、いつでも必要な帯域ではないことには留意する必要がある。高額なフロアスピーカを購入しても、せいぜい30cmや38cmのウーファではこの帯域の充実した再生は期待できない。ごく一部、低能率化して帯域を下に伸ばした高額スピーカは存在するが、過渡特性が悪く肝心の音質を損なう。一般にはサブウーファを使用することでこの帯域を補う。なお、さらに大型なPA用サブウーファはf0が高く60Hz以下を再生するには向いていないので、MFBなどの工夫が必要である。また、超低音まで再生すると、超低音を再生しないときの音質と比較して60Hz-100Hzの影響が薄れ、若干音圧感が低減する。このことを音質が低下したと誤解しがちである。

  • 60Hz-100Hz

60Hzから100Hzの帯域は、音圧感、スケール感を担当する。組み込みスピーカなど、大型スピーカを用意できないときには、イコライザで低音を持ち上げてこの帯域の充実を目指す。数cmの小型スピーカであっても、スピーカ構造と極端なイコライジングによりこの帯域を出すことは可能であり、BOSE M3などはフロア型スピーカに負けないスケール感を達成している。しかし、極端にイコライザで持ち上げるとその分信号クリップの可能性が高くなり、製品の定格出力を満たしたときの音質が破綻するので、何も考えずこの帯域を持ち上げてはいけない。

  • 100Hz-4kHz

人間の声の帯域と一致するこの帯域は、音声によるコミュニケーションにおいて最も重要な帯域である。電話においても、4kHzまでの帯域を確保することが規格化されている。4kHzまでの音は、AMラジオで容易に体感できる。単品売りの動電型スピーカにおいては最も再生が容易な帯域であるが、組み込みスピーカで100Hzまで再生するのは難しく、エッジを柔らかくして振幅を取りやすくするなど、様々な設計上の工夫が必要になる。

  • 4kHz-10kHz

4kHzから10kHzの帯域は、再生音を現実の音色に近づけ、ステレオの定位感を与える。スピーカの歪みの影響を受けやすい帯域でもあり、音色の変化に直結しやすい。また、8kHzあたりの帯域は上下方向の音像定位感を左右し、この帯域を制御することで、スピーカの配置によって下がりがちな音像を持ち上げる効果がある。

  • 10kHz-20kHz

可聴域における10kHz以上の帯域は、音色の艶や輝き感を担当する。10kHzが出ていないとまったくつまらない音質となる。これと関連して、優れたバイオリンは10kHz以上まで倍音が出ていることが条件とされる。10kHz以上は歪みの影響を受けにくいので、固有振動を気にせず金属振動板を使用することもある。フルレンジスピーカでは10kHz以上の再生は難しく、イコライザで持ち上げる必要があることは多い。

  • 20kHz以上

先にスピーカの再生能力について述べる。20kHz以上のいわゆる超音波は、動電型スピーカではきわめて軽い振動系と強力な磁気回路が必要となり、音圧を得るのが難しい。しかし振幅はほとんど必要なく、圧電型スピーカ共振周波数を調整する方法などで所望の音圧が得られる。超音波は、エコー診断機をはじめとして距離センサや故障診断などの様々な分野で利用されている。オーディオ用の超音波用スピーカ(スーパーツィータ)は、確かに超音波の音圧を得ることはできるが、そのほとんどはきわめて歪み率が高い。歪み率の高い紺変調歪みを生じ、例えば30kHzと33kHzの超音波を出そうとすることで意図せずに3kHzの差音が生じ、可聴域を汚して音質を低下させる。何も考えずに歪みの多い超音波用スピーカを使用するよりも、20kHz以上をしっかりカットして可聴域の再生に集中する方が音質は良くなる。

成人の可聴域は20kHzまでとされ、歪みなく超音波を再生しても、音質にはほとんど影響しない。第一に市販の録音にほとんど超音波成分は含まれていない。ただし、幼稚園児など超音波が聞こえる聴覚をもつ年代では20kHz以上にも音として反応が見られる。また、しっかり裏付けられてはいないが、成人であっても目の下の皮膚の薄い部分で超音波を感じ取れるといった報告もある。自分自身でも、変調されていない40kHzパラメトリックスピーカの前に立つと頭を叩かれたような衝撃を受けるといった体験をしたこともあり、成人は超音波は感じ取れることがわかる。

一時期話題となった超音波を聞くと脳からα波が出て快楽を感じるというハイパーソニック効果は、原著論文の内容に致命的な欠陥があり、音響学会でもまったく支持されておらず、一部の研究者がその存在を信じて主張を繰り返しているに過ぎない。

また、最近のいわゆる「ハイレゾ」ではスピーカが40kHzまで再生できることが日本オーディオ協会により規格化されているが、「超音波まで出ているから、可聴域までしか出ていないCDなどより音質がよい」といった印象操作を狙ったものなので、万人がその恩恵を受けられるとは考えてはいけない。

放射インピーダンスの飽和

スピーカの放射インピーダンスは、周波数が上がるにつれ6dB/octで上昇するが、あるところで効果が飽和し、それ以上の帯域では上昇が見られなくなる。飽和帯域は、一般的な10cmオーダーのコーンスピーカであれば、数kHz以上になる。これ以上の帯域では、f0共振がなくても周波数特性がフラットになり、一般的にはこの帯域が広いことが望ましい。

最低共振周波数(f0)

f0は、一般的なコーンスピーカでは再生可能な最低周波数を決める。f0共振がなければ、スピーカの周波数特性は純粋に放射インピーダンスの周波数特性を反映し、飽和帯域から-6dB/octで低周波側に向かって低下する。f0は振動系の質量mとコンプライアンスk(ばね定数)の比率から、√(k/m)の関係によって決まり、振動板が重いほど、エッジやダンパー、ユニット背面の空気ばねが柔らかいほど低くなる。同時にf0共振のQが下がり、f0における音圧は低下する。逆にf0共振のQが高いとf0付近の帯域で得られる音圧は高くなるが、同時にいつまでも振動系が振れ続ける過渡特性の悪い状態となり、本来ボン、ボンといった低音がボヨン、ボヨンと制動の効かない締まりのない音質となる。

f0共振は、密閉型かつ無限大バッフルという条件で計算すると、Q=0.7のときに周波数特性が最大限フラットになる。振動系のQは0.5のときに臨界制動条件となり、最も高速に振動収束する理想的な状態となるが、一般にはフラットな周波数特性を優先し、Q=0.7を目標に設計する。振動系が臨界制動で理想動作しても、背面や床面による反射音により耳に入るときには臨界制動よりも収束時間は長くなることが多い。また小型スピーカでは低音が出ないので、もっとQを上げてf0付近の音圧を優先することも多い。

第一共振周波数(f1)

スピーカインピーダンス特性を計測すると、f0共振より高いところに共振峰が見られる周波数がある。放射インピーダンスが飽和した帯域で、振動系の最も低い共振モードであるf0に対し、そのひとつ上の共振モードを示す周波数をf1という。f1は理想振動する周波数特性の上限の目安となる。

分割振動第一共振周波数

f1からさらに周波数が上がると、逆共振によるディップ帯域が見られることがある。これを第一共振周波数といい、ボイスコイルを中心とした振動板の大部分と、エッジに近い部分が逆相で振動することで、出力音圧がキャンセルされ音圧が激減する。レーザードップラー振動計で逆共振周波数の振動板の状態を調べると、コーンの中ほどで見事に2つの領域に折れ曲がっていることがわかる。このように、コーンスピーカにおいて第一共振周波数より高い周波数では、振動板が均一に振動しない分割振動帯域に入り、周波数が上がるほど音圧が減少していく。圧電型スピーカや静電型スピーカFPSのようなマルチセルスピーカでは、振動板全面にかかる駆動力が均一に近く、明確な分割振動は起こさないこともある。分割振動は一点駆動のコーンスピーカの最大の弱点である。なお、分割振動は音波の干渉効果による音圧の減退なので、歪みによる付帯音は生じず、EQで補正すれれば音色の変化は起こさないことには留意する必要がある。分割振動を抑えるために振動板を硬くしたり、振動板内に補強リブを立てることがあるが、あくまでより高音まで音圧を得るのが目的であって、音色を改善する効果はない。

固有振動と高域共振

第一共振周波数よりさらに上の帯域では、様々な理由により振動板は部分共振を起こし、周波数特性に複雑なピークディップが生じる。また、全面駆動のスピーカでなければ、一点駆動のスピーカ振動板を叩いているのと同じことなので、例えば金属の振動板を使用すれば叩くとカンカンと金属音がするように、駆動により付帯音を生じて素材特有の音色を生じる。分割振動と異なり、固有振動スピーカの音色に影響を与える。振動板の素材として最も一般的なのは紙(セルロース)である。紙のような繊維質の振動板は、硬さは金属材にはまったく及ばず分割振動は盛大に起こるが、内部損失(摩擦による付帯音の熱エネルギーへの変換効率)が高いので叩いてもボソボソと特有の音色が目立たず、癖のない音質に仕上げやすい。f0共振が十分高い帯域にあるようなツィータでは、固有振動の効果が可聴域外になることが多く、剛性を重視した金属振動板も多用される。内部損失と剛性を両立する材料には、カーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブは、三菱電機によりカーボンナノチューブコンポジット材料を射出成型したNCVスピーカが製品化され、主にカーオーディオ用にダイヤトーンブランドで展開されている。

スピーカメーカーでは、用途によって優先すべき特性(能率、周波数特性、対候性など)を設計段階で吟味し、スピーカを製品化する。

周波数-位相特性

高域共振などの領域でなければ、スピーカ単体で位相特性が問題になることはほとんどない。また、モノラル再生における単純な位相歪みは感知できず、ステレオで鳴らしたときのみに影響する可能性がある。

アンプやチャンネルディバイダ込みで位相が反転するといった現象は無視できず、クロスオーバー帯域の位相マッチングを怠ると音場が不自然になる。しかし、基本的に位相歪みはあまり問題になることはなく、よほど低周波でなければディジタルフィルタで簡単に補正が可能である。

高調波歪み

スピーカのようなシステムは、非線型性を少なからず持っている。一般にコーンスピーカの振幅が大きくなると、ボイスコイルが磁気ギャップから飛び出してしまい、意図しない電磁力の低下を招く。基本波に対して高調波(倍音)が生じると、極端にいえば音割れとして知覚される。JIS規格では20kHzまでの10次高調波までを計測して歪み率を定義すると定められている。

高調波の歪み率はTHDではなくTHD+N単位で表示されることが多いのは、基本波の高調波レベルのみを正確に計測するのが難しいので、単純に計測結果をFFTにかけ、基本周波数のエネルギーに対して基本周波数を取り除いた残りの信号のエネルギーの比を取ることで算出される。普通室内の簡易計測などでSNRが低い計測結果では、高調波成分ではなくノイズ成分が支配的となり、正確に高調波の比率を計測したことにならないので、注意が必要である。

変調歪み

高調波歪みが音割れに近い音色と知覚されるのに対し、混変調歪みは音の濁りとして知覚される。非線型なシステムに二種類の周波数を同時に出力すると、その和と差の周波数成分が生じるのが混変調である。混変調の厄介なところは、イコライザなどで補正できないことである。スピーカ固有の音色とは、この混変調歪みの影響が強い。高調波歪みも混変調歪みも根源はスピーカの応答の非線型性にあるから、線形性の高いスピーカ、あるいは同じスピーカでも線形性が高い領域(概して振幅が小さい場合)では、歪みは抑圧される。

スピーカー(3)へ続く。

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