Awodey『圏論』第9章(9.6節の途中)

さて、本節開始直後に
V\dashv F\dashv U\dashv R
なる随伴の系列が紹介されているが、実際のところV,F,Rについては本書では何も(定義すら)述べられていないようだ。いろいろ調べたところ、その答えはMac Lane本の4章2節の練習問題の中にあった。


F:Sets\to Cat:Setsの対象(集合)に対して、その集合の上の離散圏(射が恒等射しかない圏)を対応させる。

F\dashv Uを確認してみよう。図式は
\frac{F(S)\to C}{S \to U(C)}
である。上の写像は、Sの要素をCの対象に写像するため、下の写像を定義している。
逆に下の写像は上の写像を定義するが、それを関手にする(射の上にも対応を定義する)のは、F(S)が離散圏なので簡単である。


R:Sets\to Cat:Setsの対象(集合)に対して、その集合の要素を対象とし、それら対象間の射が唯一存在するような圏を対応させる。

U\dashv Rを確認してみよう。図式は
\frac{U(C)\to S}{C \to R(S)}
である。上の写像は、Cの対象をSの元に写像するため、下の写像(の対象間の対応)を定義している。それを関手にするにはC間の射に対して、それに対応するR(S)の対象間の唯一の射を対応させればよい。下から上は容易である。


V:Cat \to Sets:Catの対象に対して、その連結成分(対象a,bが連結しているとは、対象の有限列\{X_i\}X_1=aX_n=b、隣接する対象間のHom(X_i,X_{i+1})またはHom(X_{i+1},X_i)が空でないものが存在すること)を要素した集合を対象とした離散圏を対応させる。


V\dashv Fを確認してみよう。図式は
\frac{V(C)\to S}{C \to F(S)}
である。上の写像は、Cの対象をそれの属する連結成分に移した後にSの元に対応させるため、下の写像(の対象間の対応)を定義している。それが関手であるのはCの対象間に射があるとそれらは同じ連結成分に落ちるため、F(S)の同一の元に対応し、その間の恒等射を対応させればよいからである。下から上への対応では、V(C)の対象である連結成分を代表するCの対象の下の射での像を対応させればよい。これが代表元の取り方に依存しないのは、下の射は関手であり、F(S)が離散であることから成り立つ(連結成分は射で結ばれているため、すべて同一のF(S)の対象に写像されている)。


さて、本節のテーマはRAPLであるが、ある関手が極限を保つことを証明するのにそれが随伴を持つことを証明するのとどっちが楽なのかはちょっと判断しかねる。ただ、極限の保存の必然性というものが随伴の存在から来るというのはちょっと気持ちはいいかもしれない。しかし、命題9.16の証明は私個人的には微妙な点がいろいろある。任意のP\in Sets^{{\bf C}^{op}}に対して、\lim_{\vec{j\in J}}yC_jはあくまで同型を除いて一致するとされているに過ぎない(ように見える)ので、C_jには不定性がある点と、それのFの像の\varepsilon内での極限についても、やはり不定性がある点が非常に気持ちが悪いのである。(ここらへんの私のこだわりは、集合論的なところから来ている。実数の整列は可能だが、その順序は具体的に(手続き的に)構成することができないこと自体が証明されている。原理的に構成することができないモノがこっそりと混入する理論というのは精神衛生上よろしくないと思うのである。そういうワイルドなモノとは頑丈な囲いで区切って住み分けたいものである。)


まあ、この二番目の不定性についてはなにかうまいやりかたで指定されているとしよう。最初の不定性を解消するには、命題8.10でPから構成されたC_jを取ってくると考えなくてはならない。本文にはさらっと『標準余極限』(原文は canonical colimit)とあるのがその心である。本文の証明をこの標準構成からもうすこし具体的に実行してみようとしているのだが、いろいろひっかかっており、まだ完成していない。乞うご期待。