UFO大通り(島田荘司)

UFO大通り

UFO大通り

いやぁ、島荘がすごい精力的だなぁ。
もう、若いのには任せておけない! ということなんでしょうか?
というより、ここらで本格ミステリとは? というのを実作で示さなきゃいけない、という危機感の表れでしょうか?
拡散と空洞化が激しい現状で、島荘だとか、アリスだとかがいわゆる本格を発表するというのは、何かしらの符号があるんじゃないか、と。
そういうわけで、面白かったですよ。
まずは表題作。
UFOと宇宙人という発端から、奇妙な殺人状況。
そこから導き出される意外な殺人。
あー、もう、良いなぁ。
傘を折る女のほうは、アームチェアディテクティブという、表題作とはまた違った趣向。
ラジオと電話だけで、こんがらがった難問をさらりと解決してしまうのは、さすが当代一の名探偵。
いや、ほんと、今の日本ミステリ界で、御手洗以上に名探偵らしい名探偵というのは少ないんじゃないでしょうか。
名探偵、といえば、綾辻の島田潔、アリスの江神・火村、をはじめとして、いろいろと思い浮かぶわけですが、現在でも新作が発表されている中では、やっぱり御手洗が一番なんじゃないかと。
ともかく、月刊島田荘司、面白いよー。

ウロボロスの純正音律(竹本健治)

ウロボロスの純正音律

ウロボロスの純正音律

島荘が、表から本格のコアを固めようとしているのなら、竹本は裏からじんわりとしみ出させようとしているんじゃないか、と思います。
闇に燦然と輝く「黒死館殺人事件」。
日本ミステリ界では知らないものはいない──実際、世界で何千万部と売れているベストセラーよりも既読率は高そう──黒死館を彷彿とさせる館に、怪しげな使用人。
そして、それらよりも怪しげな登場人物!
……いや、実名小説なんで、怪しげ、というのはひどく失礼なんですが。
館の秘密に、謎の棋譜。隠された楽譜に、連続する見立て殺人!
もう、何もかもが本格ミステリ的がジェットに彩られているですよ。
さすがは、制作期間八年! いや、時間をかければいいと言うわけではないですが、これは良い。
この、連続する符号とか、闇の空気とか、快刀乱麻謎を切り裂く推理とか、やっぱり本格ミステリ以外じゃ味わえない快楽だよなぁ、と。
この快楽故に、ミステリというものは数々の異形を産み出してきたのだろう。


というわけで、一日で真逆のミステリを読んでみました。
全く違うけど、両方ともミステリ。
こういう作品を読むことができて、幸せです。


と、忘れるところでしたが、やはり純正音律では語らなければならないものがあるじゃないですか。
(作中で)福井健太喜国雅彦がその目を奪われた、玲瓏館のメイド、リエンヌ・オイデゲルグ。
ええ。メイドと聞いては言及せずにはいられません。
ここでメイドに触れなくて、いったい何のための日記なのか!
まずは一言。
やはりメイドは館にこそ似合う!
これは誰にも反論させない。
現代日本でメイドがみられる場所といえば、喫茶店が思い浮かびますが、メイドとは本来は館にいるべきもの。喫茶店にいるときとでは、輝きが違うですよ。
そういう点で行くと、ボクが知っている極めて狭い範囲ですが、一番メイドらしいお店、というのがシャッツキステになると思います。中のメイドさんは腐j……げふんげふん。
そして、もちろんメイドが単純な萌えに走っていないのも高ポイント。
やはり、メイドはこうでなくては。うん。
もし、あと数年あとを舞台にしていたなら、こうはならなかったろうなぁ、とか。
絶対にメイドさん萌えネタがはいってるよ。
と、唐突に気が付いたんですが、純正音律のメフィスト連載開始が1999年。
秋葉原で最初のメイド喫茶であるキュアができたのが2001年。
99年から、コスプレ喫茶というコンセプトのものはあったにしても、メイド、というものを全面に出したものではなかったのは確実。
それ以前だと、まほろさんとかはあったけど、こちらもそれほど一般的ではなかったはず。
そう考えると、ここでメイドというものを登場させた竹本健治は天才なんじゃなかろうか?
……いや、ミステリにメイドさんはつきものなので、実際のところそれほどのことでもないと思うんですけどね。ただ、書いてみたかっただけです。
しかし、個人的には挿絵に一言言っておきたい。
メイドさんのタイトスカートはそれほど好きじゃない!
リエンヌのイメージだと、ロングだ!
……あー、結局そういうことですよ?


で、続いてこんなことを書くのは微妙にアレなんですが、ちょっと気になったフレーズがあったのでちょっとだけ引用。

およそミステリがミステリにおいてどれほど過剰になり得るかの究極のかたちを体現した作品といえるだろう。

黒死館についてのフレーズです。
先だって、ライトノベル三大奇書というのを話題にしたときに、奇書の定義は? の考察に、ミステリ三大奇書を元にして、奇書の条件というものを考えてみました。
その時は、純化越境否定、と挙げてみたわけですが、純化というよりは過剰と言った方がしっくり来るのかなぁ、とか。
まぁ、アレですね。
三大奇書の話は、もう終わった話題なんですけどね。
ちょっと最近全く別口で考えたことに近いようなことが書いてあったので、ちらっと触れてみました。
……メイドの次に、奇書の話とは、相変わらずとりとめないなぁ。

[Today's tune]Music Like Escaping Gas/This Heat