沖縄の基地問題はパンドラの箱。県外移設は難しいが、県内移設も難しい。

 もともと沖縄の本土返還後の沖縄政策及び米軍基地政策には無理があり、いつか矛盾を取り繕えなくなる宿命だった。鳩山総理は出口がないままパンドラの箱を開けてしまったために慌てて右往左往しているが、米軍基地を県外に移設すべきという人にも、沖縄に基地を残すべきと言う人にも名案がある訳ではない。今は鳩山サンドバックを両側から打ち合って時間稼ぎをしているが、このサンドバックはそろそろ壊れるので、ガチンコ勝負の準備をした方がいい。
 

日米安保はGive&Takeだが、沖縄にとっては負担過剰。

 80年代、アメリカによるジャパンバッシングが盛んだった頃、アメリカ国内で日本から安保料を取ろうという議論がよく為された。これはその後湾岸戦争などにより、在日米軍が日本のためにあるという意味かだけでなく世界の警察たる米軍のために必要であるという認識が為され、また日本の思いやり予算などによりトーンダウンした。
 それ以前から朝鮮戦争ベトナム戦争などで、在日米軍や返還前の沖縄駐留米軍はその最前線となった。日米安保はそもそも日本がアメリカに基地を提供し、その基地を使ってアジア太平洋広域の米軍の拠点として利用してもらう代わりに、日本の有事の際には守ってもらおうというGive&Takeの条約である。もし在日米軍が日本のためだけに存在するのであれば片務条約になり、そのために日本はアメリカに高額の安全保障料を支払う必要があるだろう。実際は在日米軍のミッションのうち、日本防衛はそのごく一部に過ぎないのだ。特に海兵隊は敵地上陸の作戦部隊であり、そもそも日本防衛のために配備されている組織でない。攻撃は最大の防御であるという安全保障論に照らして拡大解釈すれば、日本の安全保障の一部とも解釈できるが、これは解釈の問題で海兵隊本来の任務ではない。ただし、日本防衛のための組織以外も駐留させて始めてGive&Takeの関係が成り立っている。
 日本全土から見れば日米安全保障条約はGive&Takeの好都合な条約かも知れないが、基地が偏在する沖縄にしてみれば、負担ばかり多い条約とも言える。逆に沖縄に基地を集中させて、安全保障の恩恵だけ受けられる多くの本土人には、日米安保条約は素敵な条約なのかも知れない。たまに沖縄は地政学的に不安定な地域であり、沖縄のためにも在日米軍を沖縄に集中させる必要があったという意見も散見されるが、これは沖縄県民の負担を正当化するためのロジックで、そもそも沖縄という狭くて小さな地域を防衛するためだけならば極端に過剰な軍事力である。極東アジア全体の防衛に必要な軍事力が沖縄に集中していると考えるのが正解であろう。

沖縄問題に対しする保守政治の英知=騙し

 沖縄県に基地を集中させるという安全保障体制は、沖縄返還時後に日本による多大な投資という見返りの下黙認され、その状態が今に続いている。そもそも沖縄返還運動はアメリカの占領下で経済発展から取り残される焦りと、成長目覚しい日本本土との統合による発展への期待があった。
 その後、沖縄への経済的集中投資が安保への見返りのような形で黙認され、基地産業や見返り的な公共事業の恩恵を受ける人々を中心に沖縄の保守陣営がまとまり、反基地、反安保的な革新陣営と分断することで、沖縄の矛盾というものを表面化させないようにここまでやってきた。
 そして基地産業や見返り的な公共事業の恩恵を受ける人々が最大化するような振興策を放ち、時には革新自治体を兵糧攻めにするようなムチを使って、選挙で沖縄保守陣営を勝たせることによって、沖縄の民意は基地を容認しているという担保を取ることが戦後保守政治の沖縄統治の英知であった。民主党沖縄県に独自の基盤がほとんどなく、沖縄の革新陣営に頼る形で沖縄での影響力を維持してきたため、この保守の英知を敵視する側に立ってしまったため、政権交代とともにこの英知のよる統治は終わる運命にあったと言える。民主党内の保守派の中には、政権交代後のことを見越して選挙戦で沖縄の革新陣営と共闘することを疑問視する意見もあったが、もし民主党に保守政治の英知の継承を期待するのであれば、この時点から既にボタンがずれていたと言えよう。

鳩山案も辺野古埋め立ての現行案も県外移設と同じくらい困難。

 結論から言うと、鳩山総理の腹案も辺野古埋め立ての現行案に戻るのも難しいだろう。日経、読売、産経は現実論を説くが、県外移設が難しいと同じくらいに現行案も難しいという状況をよく理解していない気がする。その点自民党石破茂の方が現状をよく理解している。

 パンドラの箱が開いてしまった以上、鳩山総理が退陣しようが、再び自民党が政権に返り咲こうが、現行案を再度復活させるのは難しい。鳩山総理の思わせぶりな態度によって、仲井眞知事も中央が県外移設を言い出しているのに、県が県内移設容認のままでいる意味がなくなり、県外移設に賛成という立場を表明せざるを得なくなった。なにより中央に自民党がいなくなったことで、中央の言うことを聞けばお金が引き出せるということが存在の基盤であった沖縄の保守の存在基盤が失われたのである。
沖縄県民の利害を分断することによって、騙し騙し続けてきた沖縄基地集中体制は崩壊した。
 どうも読売、日経、産経を始め本土の保守派は沖縄県民はなんやかんや基地経済に依存していて、アメとムチで沖縄を蹂躙すれば態度が変わると期待しているような論調が多いが、そう簡単ではないと思う。仮に自民党政権が復活しても、基地を容認する代わりに中央からの公共投資を引き出して発展しようという昔の沖縄保守の考えに再び支持が集まるとは考えにくい。昔みたいに沖縄の革新自治体を予算で締め付けるなんてムチを使ったら、それこそ独立運動に発展しかねない。
 鳩山総理の失敗によって、本土側は安全保障重視の世論に傾く可能性があるが、沖縄は逆に脱基地の方向でまとまる。本土の保守&沖縄の保守VS本土の革新&沖縄の革新という分断した対立の時代は終わって、本土対沖縄という対立構造にシフトチェンジすることにより、この問題の解決はより困難になるが、騙し装置のからくりが明らかになったらこのような状況になるのは宿命だった。 

本当に辺野古は一歩前進で普天間が最悪なのか?

 鳩山総理の決断力のなさで、もっとも最悪な普天間基地の存続が現実的にというのが中央の論調だが、沖縄県民は普天間基地辺野古沖に移ることが少しは前身と理解しているのであろうか。ある程度知恵のある人なら、米軍基地の移設がそんなに簡単な問題ではなく、相当長期戦になることは理解している。本気で県外移設に拘るのであれば、拙速な普天間基地移設を支持すべきでない。
 沖縄県内で辺野古移転を容認していた保守陣営もあくまで15年の使用期限に拘っていた。その約束は難しいとアメリカ側が難色を示して膠着状態にあったのだが、埋め立ててしまったら恒久施設になることを覚悟しなければならないだろう。
 鳩山総理は最初から批判覚悟で最初から普天間基地使用継続を表明して、長期戦で県外移設への方法論を模索すべきではなかったか。普天間基地は市街地に隣接し非常に問題の多い基地ではあるが、普天間周辺の問題を片付ければいいという時限は既に超えている。

鳩山という名のサンドバックを除くと見えてくる

 稚拙な行動で両派から鳩山総理が批判される結果となったが、中央に鳩山というサンドバックがぶら下がっていることによって、この問題がわかりにくくなっている。辺野古派も県外移設派が両側から鳩山総理を叩いているだけで、この両者がまだガチンコで戦っていないので、問題が浮き彫りになっていないのだ。歴史的に見れば、鳩山総理は出口戦略がないままパンドラの扉を開いてしまった総理ということになるだろう。ただそれだけの存在だ。もちろん鳩山総理に県外移設でまとめる力もなければ、県内移設でまとめる力もなく、何れ辞めざるを得ない。そろそろ邪魔なサンドバックを除けて議論すべきだろう。
 ただ鳩山総理がパンドラの箱を開けたことそれ自体を批判するロジックに私は賛同しない。むしろ歴史的に見れば鳩山総理の数少ない成果かもしれない。ただ本当は中央政治の動向に触発される形でなく、米軍施設の県外移転に消極的な政権を沖縄側が突き動かす形でパンドラの箱が開かれるべきであった*1。 アメリカも沖縄県住民運動に手を付けられなくなったという状況であれば、沖縄以外の選択肢を考えざるを得なくなる。今の状態で県外移設の交渉に乗らない。正直、日本の民主党に手柄を与えたくないだろうから、国外移設の選択肢は検討できたとしてもできないフリをする。鳩山総理はその辺が理解できていなかったのが最大の敗因だろう。


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*1:つまり自公政権時代に沖縄が県外移設でまとまるべきだった。