Hustleなど

現在、 American Hustle という映画が話題になっていますが、それとはあまり関係ない1975年のロバート・アルドリッチ監督の Hustle という映画を観ました。バート・レイノルズカトリーヌ・ドヌーヴが主役をつとめます。セックス産業、それに群がるマフィア、麻薬、不正など現代アメリカ社会の病理に対して、無力でいることしかできないにも関わらず、無力でいる自分を受け入れられない刑事をバート・レイノルズが演じます。『ダーティー・ハリー』シリーズなんかと同じような設定と言えるかもしれません。ただ、この映画では撮影はセットで行われ、その調度は安っぽく、照明はぶっきらぼうに登場人物たちを照らすばかりで、濃い陰は美しい陰影に富んだ画面を拒否し、素寒貧な現実を強調するばかりです。一方で、映画全体が様々な外的要素を取り込んでいます。例えば、冒頭部分シャルル・アズナブール Yesterday when I was young が二度ほどかかります。また、突然『男と女』のアヌーク・エーメが画面に登場したりもします。そのぶっきらぼうさ、唐突さがこの映画の不思議な魅力となっているように感じられます。
一ヶ月くらい前に、ロバート・アルトマン監督の Long Goodbye も観ました。似ているようでぜんぜん違うのですが、なんとも言えず同じ時代の空気が感じられます。あぁ七十年代!



ちなみに私はBlossom Dearieが唄うYesterday when I was youngを持ってますが、切なすぎる名演でただただ滂沱。

恋と愛の測り方

本日は休みをもらって引きこもってます。先日観た『危険なメソッド』に出演していたキーラ・ナイトレイ主演の『恋と愛の測り方』という映画が放映されていたので鑑賞しました。
『危険な〜』とは違って本作は現代劇。キーラ・ナイトレイの知的な美しさが際立ちます。倦怠期の夫婦に起きた一晩の出来事を淡々と描きます。フリーランスのライターの妻キーラ・ナイトレイは夫の出張中、思いがけず昔の恋人ギョーム・カネと再会し、長い一夜を過ごします。一方、夫サム・ワーシントンの出張には、ひそかに思いを寄せる同僚エヴァ・メンデスが同行しており、こちらも長い一夜を過ごします。物語は翌日、夫婦が再会するところで終わりますが、そこには感動もなければ教訓もありませんが、なんとも言えない憂鬱な気分を見事に描ききっているように見えます。
スタイリッシュな映像を撮るピーター・デミングは『ロスト・ハイウェイ』や『マルホランド・ドライブ』も撮影しているそうで、なるほど納得。ぼんやりした美しい音楽はクリント・マンセルという人が作っているそうです。この人は、ポップ・ウィル・イート・イットセルフというグループのボーカルをやっていたそうです。熱心に聴いた事はありませんが、大学の頃、黎明期のクラブミュージックを作っていたグループと記憶しています。
来週はキーラ・ナイトレイが主演を務める『アンナ・カレーニナ』が放映されるそうです。楽しみ。
日本版の予告編と、アメリカ?の予告編、両方を張っておきます。日本版のはちょっとひどいというか詐欺じゃあないかと。あの予告編を観たら甘酸っぱいラブストーリーを想像してしまいます。

『ロシュフォールの恋人たち』再見

『シェルブールの雨傘』に続いて、『ロシュフォールの恋人たち』を久しぶりに観直しました。シェルブール〜はすべての台詞にメロディーが付きますが、けっしてミュージカルではありません。一方、ロシュフォール〜はまぎれもないミュージカルです。実際のところ、アメリカから『雨に唄えば』のジーン・ケリーや『ウエスト・サイド物語』のジョージ・チャキリスが招かれ、踊り演じています。
それにしてもジーン・ケリーというのは素晴らしい俳優です。あの「何も考えていません・何も見ていません」という瞳でさっそうと画面に現れたかと思うと、彼の周りの重力は通常の人の半分しかないんじゃないかという軽やかさで不意に踊り出しては人々の目を釘付けにし、カーニバルが近づく街の興奮や、恋いこがれた恋人にやっと会えた喜びを、彼にしかできないやり方で表現してみせます。
ロシュフォール〜を観た後、『雨に唄えば』も観直しましたが、ちょっとあり得ないくらい面白かったです。自己言及的でありながら(トーキーが映画産業にもたらす変化が主題のひとつ)、なんだか意味もなく爆笑してしまうあの破壊力はすごいです(笑。マテリアルをより付けるためのスレッドのようなぼんやりした筋があって、あとは歌って踊って最後まで突っ走ります。



引きこもり日記


先週末はずっと家に引きこもってWOWOWで映画ばかり見てました。土曜日はデンゼル・ワシントン特集がやっていて、『ジョンQ―最後の決断―』ニック・カサヴェテス監督)、『ラストゲームスパイク・リー監督)、『フライト』ロバート・ゼメキス監督)の3作品を鑑賞。
ジョンQ』はハリウッド映画的な過剰な演出はなく、単純なストーリーと演技で緊張を極限まで高め、グイグイ見させるタイプの作品。監督のニック・カサヴェテスジョン・カサヴェテスジーナ・ローランズの息子というからそれも納得です。
ラストゲーム』では、ニューヨークのアップタウンを舞台に、黒人を中心としたニューヨークの日常をリアルに描いた作品。特にコニーアイランドの遊園地が印象的でした。今まで見たことのないような役柄を演じるDワシントンが見ものです。
『フライト』はその日僕が見た3作品の中ではもっともゴージャスな映画でしたが、それでもいわゆるハリウッド映画とは異なる陰りというか濁りが奇妙な居心地の悪さを感じさせる作品でした。アルコール・薬物依存といったアメリカのダークサイドを赤裸々に描いていますが、その企図はいまいち判然としない気がしました。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』や『コンタクト』と同じ監督の作品とはとても思えませんでした。
日曜日もたくさん見ました。最初は『青の炎』蜷川幸雄監督、二宮和也ほか出演)秋吉久美子が美しかった…。続いて『プラチナデータ二宮和也豊川悦司ほか出演)。連続ドラマ『ごちそうさん』の杏に見慣れていたので、目の周りを隈どった大人の杏にちょっとどっきり。その次が『ボルケーノ』トミー・リー・ジョーンズ主演)。土曜日に見た『ジョンQ』にも出演していたアン・ヘッシュがこちらにも出演。この女優さん、中性的で知的な雰囲気が素敵で大好きになりました。ほかの出演作も見てみたいもんです。ちなみに僕と同い年だそうで。
次が『スピード』。キアヌ・リーブスサンドラ・ブロックデニス・ホッパー!という異色?の顔合わせ。いわゆるノンストップ・アクション映画。
次が『危険なメソッドデヴィッド・クローネンバーグ監督)ジークムント・フロイトカール・グスタフユングという20世紀の精神分析学の立役者を題材とした作品。ユングの患者であり、愛人でもあったザビーナ・シュピールラインとの関係、そしてフロイトユングの対立を軸に物語は進みます。フロイト×ユングの対立は僕もぼんやり知っているような話でありストーリーそのものはそれほど起伏があるものではありませんが、コスチューム・プレイ(衣装劇)としては見事でした。マイケル・ファスベンダー以前当ダイアリで取り上げた『シェイム』の主役)演じるユングヴィゴ・モーテンセン演じるフロイトとも極めて自然で、20世紀初頭の知的舞台を見事に再現しているように見えます。キーラ・ナイトレイの迫真の狂気の演技やエロティックな場面も見どころです。余談ですが、高原の湖畔のサナトリウム的な場面を見ていると、ニーチェを思い起こさずにはいられません。実際、ニーチェユングバーゼル大学つながりもありますし……。ストーリーに起伏は乏しいですが、この映画ではいくつかの対立が描かれています。科学×オカルト、アーリア人×ユダヤ人。この映画を見ていたら、きっとクローネンバーグユダヤ人なんだろうと思って、見終わったあと調べてみたらやはりユダヤ人でした。クローネンバーグ監督とヴィゴ・モーテンセン出演の『イースタン・プロミス』という映画もあるそうです。ぜひ見てみたいものです。
最後は『逃走車』という短めのカー・アクション。全編が車内に設置されたキャメラから撮影されているそうです。
映画って本当に素晴らしいですね。








シェルブールの雨傘

久しぶりに『シェルブールの雨傘』を観ました。すべての台詞に演奏と旋律がつくこの映画、普通にスルスルと観れてしまうのですが、どうやってタイミングを合わせているのだろうなんて考えると、作り手にとってみれば、演じたり編集したりする際の複雑さは想像を絶するものがあるんじゃないかと思います。でもそんなことを観客は意識する必要なんてありません。本当に面白いです。体中の水分が枯れてしまうのではないかと思うくらい泣きに泣きました。
ミシェル・ルグランの音楽の素晴らしさは言うまでもありませんが、カトリーヌ・ドヌーヴの危うい美しさ、泣ける物語……すべてが完璧です。兵役でアルジェリア戦争に駆り出され、引き裂かれた恋人たちの物語は、ポリティカルなメッセージでもあったそうです。映画って本当に素晴らしいですね。

人生の特等席

昨年公開された我らがクリント・イーストウッドが制作・主演をつとめる映画です。文句なしの面白さです。こういう映画を見ると、最近の映画は難しすぎたり、金をかけすぎたりしてるんじゃないかと改めて思います。映画はもっと単純でいいし、そんなにゴージャスである必要もありません。心温まる単純な物語があって、美しい映像さえあれば映画は成り立ちます。
そして、映像も美しいのですが、この映画の中で描かれるアメリカの風俗の魅力的なことといったら! 野球、モーテル、自動車、キャップ、チェックのネルシャツ、クーラーボックス、ピックアップ・トラック、酒場、ダイナー、摩天楼…、アメリカがアメリカであることの魅力が最大限描かれています。
ちなみに原題は、Trouble with the Curve。「カーブに難あり」「カーブが苦手」あるいはもう少し具体的に「カーブが打てない」ぐらいの意味なんでしょうか? たしかに直訳では集客力がなさそうですが、ずいぶん大胆な邦題をつけたものです。

rei harakami, “owari no kisetsu”


あけましておめでとうございます。
題は「終わりの季節」だし、歌詞も全然新年っぽくないのですが、「朝焼けが 燃えているので/窓から 招き入れると/笑いながら 入り込んできて」というフレーズに反応してしまいました(笑rei harakami細野晴臣の名曲をカバーしているわけですが、そのサウンド機械的かつ正確な静謐さがかえって原曲の情感を強く際立たせています。日本に住んでいる人なら誰でも見た事があるような景色を切り取ったPVは同じような異化作用を生んでいるようです。すなわり遣り切れない日常の延長でしかない景色が詩的に見えるのです。『TOKYO STYLE (京都書院アーツコレクション)』や『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』の都築響一大竹伸朗的な問題意識と表裏をなしているのかもしれません。
今朝の東京は好天に恵まれ、きれいな初日の出を見ることができました。

TOKYO STYLE (京都書院アーツコレクション)

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ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行

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