2013-05-01
■[前泊博盛]『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」
』0411
元琉球新報の記者で、現在は沖縄国際大学の教授である前泊博盛氏による「日米地位協定」の解説本です。戦後から現在まで米国がどのような形で日本を米軍基地化しているのか、本書を読めば明確に理解することができます。
前泊氏によれば、米国の日本支配は1952年のサンンフランシスコ講和条約、日米安保条約、そして日米行政協定(のちに日米地位協定に変更)による3重構造によってなされていて、後者ほど実質的な(いってみれば、えげつない)法的支配力を持っているとのこと。すなわち、日米地位協定こそが日本を法的に米国の支配下におく最重要な取り決めだということです。しかも「協定」は条約のような国家間、あるいは議会の承認を得る必要がないので、1952年当時も講和条約い遅れること半年でこっそりと成立している、と。
そして、その後の数々の事件を受けて日米安保の改定と「日米行政協定」から「日米地位協定」への変更がなされた際も、一見日本側に有利な変更が行われたように見えても、多数の「密約」によって米国の日本国内での権利はまったく失われていない、というのが本書で書かれる重要な点です。
地位協定というと、沖縄での米兵犯罪の問題など一部の「事件」ベースで報道されることが多いのですが、本書で採り上げられているその全体像をみると、特にその軍事面において米国が日本を自国の基地として自由に使用する権利を確保するためのもの、という印象です。前泊氏は、今後「沖縄の日本全土化」が起ると本書で語っていますが、米国が巨額な軍事費に苦しんでいる現在、その肩代わりを日本にさせるためにあらゆる手段をとるであろう事を考えると、本当にそうなるような気がしてなりません。
前泊氏は、フィリピンやイラクの事例をひいて米軍撤退が他国でどうなされてきたのかを示しています。そこにみられるのは、やはり政治家の強い意志と信念です。政治家の意志と信念とは、すなわち国民の意思と信念ということ。官僚、マスコミ、学者その他で形成される「安保ムラ」の論理から抜け出さない限り日本が「普通の国」として真の独立を得ることはないのでしょう。ただ、鳩山さんの受けた仕打ちをみれば、それがいかに難しいか、いばらの道なのかはわかりますが.....
2013-04-30
■[町山智浩]『教科書に載ってないUSA語録
』0410
週刊文春に連載されていた人気コラムの書籍、ということですが残念ながら週刊文春を読んでいなかったので存在に気付きませんでした。
本書は、アメリカのゴシップネタとなった英文を毎回フィーチャーしていて、その言葉にまつわる話題をひとくさり、という感じなのですが、スパイスが効いていてとても面白いです。ただ、基本的に時事ネタなので、雑誌連載で読んだほうがより楽しめるでしょうね。書籍だとちょっとネタが古くなってしまいます。
日々生まれるへんな言い回しのスラングがどうやってできるのか、何となくわかったような気になります。ちょうど時期的にサラ・ペイリンとタイガー・ウッズのネタが多いですね。特にウッズは下ネタばかりです。Tiger's Woodとか。
町山氏の本は初めてでしたが、映画評論家ということですので、これからも気にしてウォッチしましょう。
2013-04-17
■[有馬哲夫]『児玉誉士夫 巨魁の昭和史
』0409
児玉誉士夫といえば、ロッキード事件当時にマスコミを賑わせた右翼の大物でありフィクサー、という認識しかありませんでしたが、本書によってその人物像をかなり明確に知ることができました。
戦前は北一輝や大川周明とかかわってクーデターを計画し投獄。戦中は軍の特務機関長として中国でレアメタルの密輸に関わり、戦後はCIAと持ちつ持たれつの関係を保ちながら、首相となる政治家を「培養」する役割を演じていく。そしてロッキード事件でアメリカから切り捨てられるが、あまりに抱える秘密が多いため闇に葬られるように消えていく....
戦中から戦後という動乱の時代の話とはいえ、アメリカと日本という二つの国家を手玉にとって己の野心を実現していく姿は、現代には求めるべくもない「巨魁」であると確かにいえるでしょう。裏の世界に通じるが故に表をコントロールする、有馬教授はその手法を「政治プロデューサー」と呼んでいます。
本書も、有馬教授の他の著作と同様、アメリカ第二公文書館の資料を中心に、公開資料を丹念に調べていくことで誰も気付かなかったCIAの戦後政治への関与を明らかにしていてとても面白いです。
特に、本書の白眉であるロッキード事件のカネの流れをファクトの積上げで明らかにしているのは素晴らしい仕事です。
有馬教授の『大本営参謀は戦後何と戦ってきたか』『原発・正力・CIA』と続けて本書を読んだわけですが、そこからわかるのは、アメリカが属国としての日本を自国に都合のよい統治体制にするために相当の闇の力とカネを使ってきたことです。最初は共産主義への防波堤として、ついでアメリカの産業界を支えるために、そして巨大な戦費を肩代わりする「軍事同盟」として。
冷戦以後、現在まで続くのはこの後者の二つでしょう。たとえば鳩山由起夫内閣でなにがあったのかなど当面はわかりませんが、30年後には文書が公開されます。きっと同じ構図が繰り返されているのではないかと思われます。
本書はもちろん児玉誉士夫の評伝なのですが、昭和戦後史には興味深い怪物がうじゃうじゃいて、有馬教授のネタは尽きないのではないかと思います。特に書いて欲しいのは、一人は昭和の妖怪・岸信介。そしてもう一人は.....存命のうちは無理だとは思いますが某大勲位です。本書でも"MOMIKESU"という言葉とともにその悪行が大フィーチャーされていますので、おそらく有馬教授はロックオンしていると思いますが、是非。
2013-04-13
■[篠永 哲][グビグビー清水]『有毒生物のひみつ
』0408
先日の『ヒトの進化のひみつ』に味をしめて、娘に同シリーズから選ばせたところ、ガッチリハートを掴んだのはなんと本書、『有毒生物のひみつ』!
宇宙とか、天気とか、そういうのを期待していたのに、有毒生物にくるとは意外でした。しかも食い入るように何度も読んでいて、キングコブラよりサンゴヘビのほうが毒が強い、とか知識をせっせと溜め込んでいます。
つられて自分でも読んでみましたが、これがかなり面白いし、実践的です。ハチ、アリ、ヘビ、ガ、カエル、貝、山草、きのこ......人間が出会いそうな有毒生物を採り上げて、その毒性と危険部位を丁寧に説明し、接触回避の方法と万一の場合の対処方法まで書いています。しかも子供にも容易にわかるようなマンガで。
こんなマンガを書いているヒトはどんな人なんだろうと思ってみてみると、グビグビー清水さんという方。まったく存じ上げなかったのですが、このシリーズを結構書いているようです。
やっぱりこのシリーズはバカにできません。
実は娘はもう次の『記号・単位のひみつ』を読み始めています。
2013-04-10
■[成毛 眞]『面白い本
』0407
本読みは読書ガイドが好き!なのは何ででしょうね?確実に手が出てしまう書籍ジャンルの一つです。
本書の著者の成毛さんはマイクロソフト日本支社のTOPにいた方です。退社後何をしていたのか良く知り存じ上げませんでしたが、ノンフィクション中心の書評サイトHONZを主催していることつい最近知りました。
いろいろ読んでみると、書評本にも著者の個性が溢れ出ていて面白いです。立花隆はいたってノーマル、王道まっしぐらな感じですが、佐藤優はかなりマニアックで、そっちかい!というようなクセ玉ばかりです。
そんななかで本書は、適度にマニアックかつレアモノも含まれる、というところでそしょうか?これが自分の趣味とバッチリはまっていて、読んでいて楽しいのです。
BookLiveで読もうと思っていたのですが、結局本屋で紙本を買いました。この手の本は書き込みができなければいけません。当面のリファレンスとして活用させていただきます。
もっとあるかと思っていたのですが、意外にも読んでいたのは『アンティキティラ』『フェルマーの最終定理』『音楽嗜好症』のみ。それでもこれらの本が入っているあたりで、ビビっと感じるものがあるわけです。
HONZもこれからはチェックさせて頂きます。さっそくフォロー!
2013-04-08
■[Gail Carriger]『アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る
』0406
ゲイル・キャリガーの<英国パラソル奇譚>シリーズ完結編です。5巻にわたって展開してきたスチームパンク作品は、最後はエジプトに舞台を移して大立ち回り。収拾がつかないかに思えた作品の伏線をなんとか回収してまとめた感じです。その分、最終巻はちょっとせわしないというか、舞台がロンドンとアレキサンドリアに別れていて行ったり来たり。あっちでこれが起り、こっちであの人が......!と最後の最後でいろいろなサプライズを投げつけられて、「これで終わりって殺生な!」という気分にもさせられます。
この人狼と吸血鬼と人間が交わって暮らすビクトリアンワールドは読むほうも堪能しましたが、作者もお気に入りのようで、すでに続編、というか25年前の話が刊行されていて、次は本書でも重要な次世代の物語がかかれるそうです。なんだかんだで読んでしまうんでしょうね。
ところで、本作で随所に出てくる不思議な形容詞の数々。翻訳で読んでいますが原文はどうなっているんだろう?というのが実に気になります。もしかして続編を読む前にkindleで英語版を読んだほうがいいかも、と思い始めてきました。
2013-04-07
■[小鳩まり]『なめこ文學全集 なめこでわかる名作文学 (1)
』0405
小学1年生の娘がお小遣いから自腹で買ってきた本です。いくら「なめこ」が流行っているからといってこれはヒドい、と最初は思ったのですが、これをきっかけに多少なりとも文学に興味をもつようであればそれもまたよし、と考えています。
とはいえ、作者も違えば違えば長さも違うストーリーを強引に「んふ」という会話だけで通しているので相当無理があります。ナントカ読めるのは芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と怪談『耳無し芳一』くらいか......源氏物語はさすがにありえないでしょう。何の話かまるでわかりません(笑)
まあ、オリジナルの作品性をすべて「んふ」ですっとばしているので、笑い飛ばしながら観つつ、子供にはいずれ「補正」が必要なんじゃないかと思います。
2013-04-06
■[阿刀田高]『アーサー王物語
』0404
アーサー王伝説ほど有名な伝説はないと思うのですが、じつは通して読んだことがありませんでした。阿刀田高氏が児童向けに書いたものを、偶然電子書籍で見つけたので、良い機会と思って読みました。
中身についてはあらためて言うべきことはありませんが、ヨーロッパ発の「物語」に対する影響力は本当に大きいのだなあ、というのが率直な感想です。ハリー・ポッターにしても、指環物語にしても(こちらはゲルマン神話か?)、魔法がでてくれば、そこに魔術師マーリンの何らかの影響がみてとれます。もっと直接的には、我が家も子供も夢中で読んでいる『マジック・ツリーハウス』シリーズもそうです。
聖杯や聖剣など、いろいろな物語に出てくる伝説ガジェットの原点がここにあります。40年前に読んでおくべきだったと後悔しました。
2013-04-04
■[中尾雄吉]『ヒトの進化のひみつ
』0403
国立科学博物館に『グレートジャーニー展』を観に行って、その展示会場の売店で見つけた本です。展示会は、TVでも長年にわたって放送された関野吉晴さんの「グレートジャーニー」を南米からアフリカまでその土地土地で営まれる太古から現代までの人々の生活を見せる、という趣向でした。その中でアファール猿人(アウストラロピテクス・アファレンシス)の発掘現場の再現がけっこうポイントになっていて、ヒトの進化について何か良い本がないかな、と思っていたら、本書に巡り会った次第です。
マンガですし、しょせん小学校低学年向けと最初jはバカにしていて『人類進化大全』や『人類の進化 大図鑑
』が欲しいと思ったのですが、とにかく高い!それに較べれば本書は900円弱です。しかも内容も意外に良くて、猿人、原人、旧人などの違いも子供にもわかるように判り易く書いてあります。これなら子供も読んでくれるかな、とおもっていたら、帰りの電車の中でさっそく読むふけっていました。
考えてみれば自分も小学校1年生くらいのときに親に買ってもらった人体のマンガがとっても印象的で、いまでもコマ割りまで思い出せそうなくらいです。思惑通り、こどもが興味をもってくれたらシメタものです。
購入:国立科学博物館売店
2013-04-03
■[岡本健太郎]『山賊ダイアリー(1)
』0402
絵は素朴。語り口も淡々としているのですが、話は実にリアルです。狩猟という職業が存在していて、野山で厳密なルールのもとに鳥や獣を捕らえて捌く。そして食べる、という、原初的でありながら人間にとって必然である行為が、今の日本でも行われていることに、あらためて気付かされる、そういうマンガです。
獲って食べるというのは、世界を見回せば別に普通のことなのかもしれませんが、こういうマンガになってしまうほど現代の生活では目に触れにくくなっているのでしょうね。特に「食べる」の部分はある種のタブーのようになっているようにも思えます。
本書は獲った鳥や動物を〆て食べるまでしっかり描いていて、いろいろ勉強になるとともに、実に美味しそう!とも思ってしまいますが、いざ、自分でやってみろ、と言われたら果たしてできるのかどうか?いろいろ考えさせられます。
2013-04-02
■[長谷川幸洋]『政府はこうして国民を騙す
』0401
東京新聞の論説副主幹である長谷川幸洋氏が「現代ビジネス」に連載してるコラムからの抜粋が本書です。自分の中では、本書の記事やtwitterでの発言を読んでいて、東京新聞が持つリベラルさを体現する人物、というような印象を持っていました。しかし、本書の中で長谷川氏は書名記事を書く時と、社説として名前を出さずに書くときは明確に分けていると書いていて、なるほどそういうものか、と納得しました。東京新聞といえども時には、おいおいと思うような社説もあるからです。
とはいえ、本書でも語られているように、メディアが自主性を失って政府や官僚のプロパガンダの道具になっている現状では、東京新聞は、今新聞を読むとすれば唯一の選択肢ではないかとさえ感じていて、ウェブは欠かさずチェックするようになりました。東京新聞も首都を基盤にしているとはいえ、地方紙。少しは読むに値する記事を目にするのは、他には琉球新報や信濃毎日新聞のような地方紙ばかりです。
本書に関して言えば、記事の大半はウェブで読んでいたので、テーマ別に分類して若干の前説が各章についているくらいで新鮮さはなかったのですが、一種のタブー破りの意気込みを感じて、あらためてこうしたメディア内部からのメディア批判が、ネット発にならざるを得ない現実も思い知らされました。
2013-03-25
■[Philip K. Dick]『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕
』400
絶対に住みたくない未来。PKDの描く未来はどうしてこうも暗く絶望的で痛々しいのでしょうか。
1965年に発表された本作"The three stigma of Palmer Eldritch"はディックの最高傑作とも言われている作品です。
予知能力を活かして流行予測コンサルタントをしていたバーニィ・メイヤスンが勤務するP.P.レイアウト社は太陽系各地の移民に娯楽とドラッグを提供する企業。そこに突然現れたライバル企業は、他星系から帰還したパーマー・エルドリッチ持ち込んだ強力なドラッグを売り込んできた.....
という感じでガジェットは60年代の薫りがあるのですが、中盤から始まる現実とも幻覚ともつかない世界は本当に悪夢のようです。あとがきによれば、本作執筆時にPKD自身にはLSDの経験がなく、想像でフラッシュバックの感覚を描いていった、とのことですが、その後の"Scanner Darkly"や"VALIS"にも繋がっていくような変成意識の描写を読むと、本当か?と思ってしまいます。
変容する世界の中で苦しみながら高次の存在(神?悪魔?異星人?)と接触し、自らの運命を悟ってゆっくり前を向いていく、ディックらしさ200%濃縮なところが傑作と言われるゆえんなのでしょう。
30年以上前にそんなディック作品のとりこになって、私自身おそらく翻訳されている長編は全て読んでいると思いますが、相当の精神的影響を受けてきました。今回、文庫でも品切れになって久しい本作が電子書籍で復活していて、嬉しさのあまり買って読んでしまいました。早川書房様におかれましては、このようなマニアックな傑作をどんどん電子書籍化していって欲しい、と願わずにはいられません。
購入ストア:電子書籍ストアBookLive!
2013-03-21
■[ごあんない]ブログ名を変えました
ブログ名を『100☆本☆knock』から『ビットとアトムの読書目録』に変えました。もともとの名前は松岡正剛さんの『千夜千冊』にインスパイアされて、とりあえず1000冊読んでみるか、と付けたのですが1000冊はなかなか遠く.....目標を取り下げた次第です。でもカウントは一応続けていきます。
それと、読む本の80%くらいが電子書籍になってしまって、本を読むスタイルが相当変化しました。いろいろなデバイスに読みかけの本があって同時に何冊も読んでいる状態。それで読書ペースは格段にあがりました。昨年はマンガも含めると124タイトル250冊くらい。なかなか全ての本の感想を書くということもできなくて本ブログの内容も希薄化の一途をたどっています。
ということで、書評→感想→目録とだいぶハードルを低くしましたので、なんとか電子書籍と紙の本を織り交ぜながら書き続けていきたいと思います。
2013-03-19
■[荒川 弘]『銀の匙 Silver Spoon
』0399
ようやく電子書籍で配信の始まった『銀の匙 Silver Spoon』を読みました。とはいえまだ1巻です。
本作の評判は随所で高く、早く読みたいと思いながらも諸事情からなかなか電子化されずにやきもきしていました。私にとってもはやマンガは電子書籍以外で読む選択肢はありません。
本作の舞台は北海道のいづこかにある広大な敷地をもつ農業高校。ここで酪農をまなぶ若者たちが主人公です。まだ、1巻しか読んでいないのでイントロのようなもの。盛り上がりはこれから、というところです。広大な北海道の大地が舞台ですので、どうせ電子版ならフルカラーで読みたい、というのは贅沢でしょうか?
作者の荒川さんは、実際に北海道の農家に生まれ、農業高校を卒業して数年間酪農に従事した後マンガ家になったという経歴の持ち主。その後『鋼の錬金術師』で一躍メジャー作家になりました。彼女の作品で本作と表裏をなすエッセイマンガ『百姓貴族』がありますが、合わせて読むと非常に味わい深いものがあります。こちらはまた別の機会に。とにかく、ハガレンから本作への落差が非常に大きいので面食らうところを。『百姓貴族』が見事に埋めています。
とりあえず現時点ではこんなことくらいしか書けませんが、続巻で展開があれば追記していきます。
2013-03-17
■[荒木飛呂彦]『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論
』0398
荒木飛呂彦氏がホーラー映画を愛を持って語ったのが本書です。採り上げられている作品、特にお気に入りとしてあげられている作品は『ゾンビ』『死霊のはらわた』などメジャーなものが多くてオーソドックスな印象ですが、短く紹介されるそれぞれの映画についての視点が、氏がいかにホラー映画を愛していて影響を受けているかを如実に語っていて面白いです。
ホラーの定義として、目的が「怖がらせること」そのものにある映画はすべてホラー、という視点ですので、サスペンス、SF、そして『エレファントマン』のような作品まで取り込んで拡大し、縦横無尽に語っているのも本書の特色です。それらの作品を下記のように分類しています。
『ゾンビ映画』『「田舎に行ったら襲われた」系ホラー』『ビザール殺人鬼映画』『スティーブン・キング・オブ・ホラー』『SFホラー映画』『アニマルホラー』『構築系ホラー』『不条理ホラー』『悪魔・怨霊ホラー』『ホラー・オン・ボーダー』
『エイリアン』やサム・ライミ監督、そして私の個人的に大好きな『フロム・ダスク・ティル・ドーン』などがホラーとしても評価が高くてなんとなくうれしいです。そして『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の人気キャラである岸部露伴のモデルが、『ナインズ・ゲート』のジョニー・デップという裏話まで披露されています。
荒木氏のホラー観は先に書いた通りですが、愛するあまりの過剰さ、表現者らしさみたいなものも垣間見えてファンにはたまりません。最初に『ゾンビ』を持ってきて、ゾンビの無個性さこそ癒しである、というところから、すでにホラー映画ファン以外には理解不能です。プロローグで、少年少女にホラー映画を見せて人生の不条理に早く気付かせよう、などと大まじめに言っていて危険です。あとがきではこう語っています。
「芸術作品は「美しさ」や「正しさ」だけを表現するのではなく、人間の「酷さ」だとか「ゲスさ」とか、そういった暗黒面も描ききれていないと、すぐれた作品とは絶対に言えません。
確信犯ですね。
2013-03-14
■[冲方 丁]『光圀伝
』0397
出版社のサイトで作者のインタビューを読むと、前作『天地明察』の中で、本作に通じる光圀像を見いだした、と語っています。確かに、『天地明察』に光圀が登場するのは一瞬の脇役という感じでしたが、私も作中のキャラクターで一番衝撃をを受けた人物でした。みごとに日本人の心に定着している「黄門様」をのイメージをぶち壊しています。
本作はそんな徳川光圀の生涯を描いたものですが、俯瞰してみると意外に地味なストーリーです。詩歌、史学といった当時の「文事」を軸として、儒教にもとづく大義を追い求める、そんなテーマですので、場面もほとんど部屋の中の会話中心。でも、それを主人公の光圀はもちろん、父、兄、妻、友といった多彩なキャラクターの造形の妙で、これだけ長い作品でありながら飽きさせないものに仕上げているのは素晴らしいとしかいいようがありません。キャラクターを楽しむ作品といっても過言ではないでしょう。
本作の舞台はちょうど3代家光から5代綱吉の時代です。この時代を描いた時代小説、歴史小説は数知れずあると思いますが、不勉強であまり読んでいません。他の作品が光圀をどう描いているのかとても気になります。ちょっと探してみるか....
2013-02-04
■[三橋貴明]『ぼくらの日本
』0396
現下の日本における最大の問題はデフレであり、そのデフレをいかに解消して成長させるかが重要、という1点で本書は書かれています。被災地を、ミャンマーを、そしてハワイを例に論を進めていますが、要はそこ。
乱暴にまとめればデフレはバブル崩壊によって発生し、消費と投資が縮小する現象。解消にはインフラ整備による国土強靭化しかない!ということです。
橋本政権以来削り続けている公共事業を復活し、インフラのメンテナンスに当てよ、というのは、まさに先日笹子トンネルの事故があったばかりなのでなかなか説得力をもって聴こえます。
ただ、終盤、ちょっと精神論が入ってくるところが、微妙に疑問なところ。民主党の政策や中国韓国へのdisり方を観ていると、実に自民党的と思ったら、自民党から国政に挑戦したことがあるのか!
2013-02-03
■[田原総一郎]『塀の上を走れ 田原総一朗自伝
』0395
田原総一郎さんの自伝。自分の父親と同年代ながら異常なバイタリティを発揮しつづけるこの人のルーツがどこにあるのか、本書読んでとても納得できました。
いまでこそネットでは「電波芸者」といわれたり佐藤優氏からは「権力党員」と命名されたりしていますが、この人の原点はジャーナリストではなくてドキュメンタリー映像作家なんですね。その上で生粋のテレビディレクターでもあります。普通テレビ局のディレクターは画面には登場せずに、裏から番組を面白くするために「演出」をするわけですが、田原氏は「朝ナマ」における自分の役割は「オモテのディレクター」だと言い切っています。つまりあの番組の議論を適正にするために仕切っているわけではなく、番組を盛り上げるために、あえて燃料投下を続けて炎上させているわけです。そりゃ乱暴な司会者に見えるわけです。
そのドキュメンタリー映像作家として自ら語っているの章が、実は本書の大半を占めるのですが、本書のタイトル通り、塀の内側(刑務所)に落ちないギリギリの線を疾走している、無茶苦茶さがなんとも痛快です。日本のテレビ放送の創成期に、当時開局したばかりの東京12チャンネル(現。テレビ東京)でやりたい放題。伝説となっている山下洋輔の「バリケードの中のジャズ」の裏話は面白かったです。演奏に使ったピアノを盗み出して運んだのが中上健次、伊集院静、高橋三千綱、北方謙三ら、後に作家として名をなすメンバーだったとは!
2013-02-02
■[山田 順]『出版・新聞絶望未来
』0394
この本をどう捉えていいのか、正直悩ましいです。著者が所属していたオールドメディアとしての新聞、出版という世界がおかれている苦境に関しては、まさに現場からの証言ともいえる内容でその暗澹たる現況がよく判ります。
しかし、「絶望未来」という時の未来をどこに見るのか、という意味では私は著者の意見にそのまま同意するわけにはいかない、という立場です。
1〜3章の電子書籍の現状についての説明は、一般向けには広くトピックを押さえているとは思いますが、事実誤認が多すぎます。私のようなインサイダーでなければそれほど目くじらを立てないかもしれませんが、読者をミスリードする可能性があります。
そして、本書の結論にあたる7〜8章。多くのレビューや書評が指摘している通り、「デジタル化、IT化が不況を招いている」という主張は、確かに「印象」を論づければそう言いたくなる気持もわからないではないのですが、納得できる内容ではありませんでした。
本書に限らず、電子か紙か、とかデジタル化は悪か?みたいな論調に接するたびに、視野の狭さを感じてしまいます。もちろん、デジタルも紙も!であり、デジタル化は必然だ、という認識からスタートしなければ、それこそ「絶望」しか見えてこないのではないでしょうか?
本当はこういう否定的な書き方はしたくないのですが、非常に残念な読後感だったのでついつい指先が滑ってしまいました。
2013-01-31
■[有川 浩]『塩の街
』0393
本作が有川 浩のデビュー作品だということは読み終わってから知りました。
期待して読んだ『図書館戦争』が自分には厳しい作品でしたので、次を何を読むべきか悩みましたが、本作を読んで正解だったようです。非常に狭い範囲で密度の高い人間関係を描くのが、この著者は上手いですね。「塩害」という奇抜なアイデアがもたらす終末感が、登場人物たちの「刹那」さを際立たせてるように思います。
ただ、難をいえば、やはり「ラブが世界を救う」というところに行き着いてしまうのか?という自分の残念ポイントに本作も合致してしまったことですね。極私的な残念ポイントなんですが。
この作品をふくめて自衛隊3部作、となっているそうですが、う〜ん、あと2作読むのは厳しいか.....
