ビットとアトムの読書目録 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2015-11-23

『レナードの朝』0477


出版社: 早川書房

発売日: 2015/4/8

購入書店:紀伊国屋書店新宿サザンテラス

Amazonリンク:レナードの朝 〔新版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)



原題は"Awakening"(目覚め)。

映画や演劇にもなった著名な作品でずっと読んでみたかったのですが.....実際に読んでみたら、なかなかに辛い話でした。

20世紀初頭に流行した嗜眠性脳炎の影響でパーキンソン症状を発病し不動状態となってしまった患者に、新薬L-DOPAを投与することで起った「奇跡の目覚め」とその後の影響を、症例として淡々としかし克明に記述しています。

患者によって、発症までの過程も違うし、L-DOPAの効果や影響も大きく違うのですが、絶望的な(あるいはほとんど諦められた)状況から、劇的に症状が改善し人としての喜びを取り戻しながら、しかしやがて薬は制御できない混乱をもたらし、最終的には一部のうまく折り合いを付けた人を除けば、元の状態と同じかより悪い状況になってしまう。希望と絶望の落差が激しくて、読んでいてやるせない気持になってしまいます。

L-DOPAは果たして患者を救ったのか?

少なくとも希望を与えることが出来たのは確かだけれども、医学倫理の狭間を垣間みる思いです。

ちょっと『アルジャーノンに花束を』を想像させますね。

オリバー・サックスの作品は、『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)』が素晴らしかったので、代表作であり出世作である本書も期待していましたが、前者が基本ポジティブなエピソードばかりなのに対して、本作は正直、出口のない暗闇のようで楽しむようなものではなかった、というところでしょうか。

同じような「つらさ」でも石牟礼道子の『苦海浄土』は表現として遥かな高みに達していて、水俣病で「失われたものの美しさ」を描ききっている凄さがあるのですが、この作品はそういうものとはちょっと違います。観察力、描写力で評価が高いのは判りますが...

とはいえ、1960年代に行われた一つの医療の戦いの記録として、これは貴重なものであることは確かでしょう。今でもパーキンソン病に対する真に有効な治療法が見つかっていないとすれば、現代でも同じような戦いは続けられているのだと思います。たまたま、その一つが素晴らしい表現者を得て残されたというだけで。


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2015-11-14

『折口信夫 魂の古代学』0476


出版社: KADOKAWA/角川学芸出版

発売日: 2014/9/25

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:折口信夫 魂の古代学 (角川ソフィア文庫)



死者の書』を読んで衝撃を受けてから、時々青空文庫などで思い出したように折口信夫の作品を読んでいます。

いくつも出ている評伝も気になっていたのですが、読もうと思うとけっこう重くて、なかなか手が出ないでいました。

そんななかでも本書は比較的取り付き易そうな気がして読みました。とはいえそこは折口。プロローグが著者と折口の対話という形をとっていることに騙された結果だったかもしれません。いや、実際読み易くはあったのですが。

本書は、死の間際から幼少期まで、時代をさかのぼるカタチで記述されています。

師であり、日本の民俗学の同志であり、終生の論争相手であった柳田国男との「神」の概念をめぐる討論から始まり、天皇神道の関係を見つめて母校国学院大学を背負った終戦後、関東大震災における朝鮮人虐殺への「呪うように」告発と抗議をした大正時代、そして万葉集口語訳で古典研究者として知られるようになる時代と、大阪の裕福な商家で生まれて芸人や非差別部落への目線を育てた幼少期と、折口の複雑な思想のルーツを辿るように考察しています。

折口信夫文学芸能、進行、霊魂、そして神であり人でもあるマレビトというさまざまな視点から古代の日本人を探り続ける理由のようなものが浮き彫りにされていて、とても面白く読めました。今後、他の著作や評伝を読むときのひとつの指針になるような気がします。

折口信夫の思想は全体像がとらえにくい、整理されていることを自体を拒否しているようなところがある、と本書でも書かれています。著者自身、わかり易い入門書をめざしたが断念した、と言っています。確かに本書は非常にわかり易くて、折口信夫を理解できたような気になるのですが、じつは捉えきれていない部分が広大にある、ということもよく判ります。そういう意味では、本書もその一つとして、いろいろなテキストにあたることで自分なりに考えていくしか無いんだろうなあ、と思います。

もっとも、私自身は研究者でも何でも無くて、ただ好きだから読んでいるだけなので、そこまでする必要も無いのかもしれませんが。

というわけで、とりとめのない感想しか書けないのですが、本書のおかげで、すこしだけ折口信夫という人に近づけたように思いました。

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2015-11-07

『世界でもっとも美しい10の科学実験』0475


出版社: 日経BP

発売日: 2006/9/14

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:世界でもっとも美しい10の科学実験

読んだのは1年以上前なんですが、ここに書くタイミングを逸して放置していました。

世界で最も美しい10の物理方程式』に関連して書いておかなければならないと思って改めて採り上げます。

読むきっかけとなったのは翻訳者青木薫氏。サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』や『暗号解読』など一連の著作を翻訳されていてそのクオリティの高さに魅了されていたので、訳本に気がついたら読むようにしていました。

そんな中で本書が電子書籍化されたので、すぐに購入したのですが、読んだのはしばらく温めてから。もちろん、すぐに読めば良かったと思いました。

本書は「フィジックス・ワールド」誌の読者投票で選ばれた10の「美しい」実験を、著者曰く「一風変わった画廊のよう」に展示したもの。著者は、科学実験にとって「美しい」とはなにかということを前書きで長々と説明しています。その条件は、「自然について深いことを明らかにする」「実験を構成する要素が効率的に組み合わされている」「決定的であり疑問の余地がない」という3つの要素を兼ね備えていてる実験であること。そうした基準で選ばれたのが、下記の10の実験です。

エラトステネスによる地球の外周の長さの測定

ガリレオの落体の実験

ガリレオの斜面の実験

ニュートンによるプリズムを使った太陽光の分解

キャヴェンディッシュの地球の重力の測定

ヤングの二重スリット実験

フーコーの振り子

ミリカンの油滴実験

ラザフォードによる原子核の発見

ファインマンによる一個の電子の量子干渉

10に限定しているので、あれが無い!というのはあるかもしれませんが、どれも著者によって背景からその歴史的意義についての解説が丁寧にされていて、内容の深い理解というよりも科学史的な理解が得られる素晴らしい作品だと思います。

どのエピソードも良かったのですが、私は冒頭のエラトステネスの地球外周計測がとても気に入っています。古代ギリシャ時代の人と同じ方法で地球の大きさを測るなんて、夢があるなあと思って、この夏休みに子供の自由研究の題材として実際に試してしまいました。青森旅行に行ったついでに、高さ2mの棒を用意しておいて500kmちょっと離れた東京と影の作る角度の差を比較して緯度差を出す、という実験です。実際にはGoogle MapsGPSがあるので簡単に検証できるのですが、子供に計算させるのが楽しかった。本書の後半の実験は無理ですが、前半は出来なくもないので他にもやってみたいと思っています。

ということで、読み物としてだけではなく実用書の面もあり、子供と楽しめる教育書でもあり、そして蘊蓄をたれるための教養書でもある、ということで、自分にとっては近年稀にみるお気に入りとなりました。

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2015-11-05

『世界でもっとも美しい10の物理方程式』0474


出版社: 日経BP

発売日: 2010/4/22

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:世界でもっとも美しい10の物理方程式



歴史を変えた決定的な実験を採り上げた前作『世界でもっとも美しい10の科学実験』が素晴らしかったので、その続編である本書を読みたいとずっと思っていました。これまた、電子書籍になったのをきっかけにやっと読了。

今作は「物理方程式」と歌っているものの、ピタゴラスの定理オイラー方程式など数学も範囲に含んでいます。確かに「実験」より「方程式」のほうがより大きなパラダイムに関わっていて深いともいえますが、自分としては「実験」のほうが、リアルでドラマがあって面白く感じました。

どちらにも共通していえるのは、古代から現代までの科学のパラダイムがシンプルな切り口でとってもわかり易く描かれていることです。

ニュートンマクスウェルアインシュタインシュレーディンガーハイゼンベルク。本書で採り上げられた方程式を残した人だけでなく、そのストーリーにちりばめられた偉大な科学者たちの姿も素晴らしい。

ひとつ改めて思ったのは、「光」を伝える媒介としての「エーテル」の概念がいかに協力に科学者たちを捉えていたか、ということです。アインシュタイン以降の物理学を前提としてる我々の時代からは想像することしかできませんが、そりゃ、なにか物理的な存在がなければ音も光も伝わらない、と考えて当然ですよね。

本書はテーマが「方程式」なのでそこにこだわって記述されているわけですが、少々やりすぎな表現もみられるのが残念なところ。そういう意味では前作のほうが自然なストーリーで楽しめたかな、と思います。翻訳も青木薫さんで読みやすかったし。そちらの感想はまた後日。

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2015-11-04

『日本人が知らない集団的自衛権』0473


出版社: 文藝春秋(文春新書)

発売日: 2014/12/19

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:日本人が知らない集団的自衛権 (文春新書)


2014年から2015年にかけての政治・社会的に最大の課題ともいえる集団的自衛権の解釈改憲問題。様々な立場からの言論が攻撃的に飛び交って、なにがなんだか判らなくってきているように思います。

私の立ち位置を明らかにしておくと、もはや日米安保や自衛隊の海外派兵にNo!ということはありえないけれど、正しい根拠と正しい手続きで、国民の益となる進め方をして欲しい、ということかと思います。

そういう点では、現政権の進め方には反対だし、根拠も間違っていると思っていますが、ではどうすれば良いのかというと、なかなか自分の情報量では判断がつかない。ということで、おそらく自分とは相容れないと思いつつ、最も評価の高い「専門家」である小川氏の著作を読んでみようと思った次第です。

で、実際読んでどうだったかというと、前提となる「自衛権」の定義や「集団安全保障」と「集団的自衛権」の違いなど、非常に整理されていてわかり易く納得できるとこころと、説得力があるがゆえに何か釈然としないというか、おそらく正しいことを言っているんだけど話法として受け入れ難いところがあって,非常にモヤモヤした読後感でありました。最近は、すっと入ってくるロジカルな語り口に警戒心をもっているので、そこに触れたんでしょうね。あと、マスコミ批判の部分は、判りますが余計だったと思います。

ちょっと抽象的な感想になってしまいましたが、結局は、この一連の騒ぎが「誰の利益になっているのか」と考える時、本質的な部分では「正しい」ことでも使われかたが間違っちゃいないか?という思いを逆に強くしてしまいました。

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2015-11-03

『天地人』(天の巻・地の巻・人の巻)0472

出版社: NHK出版

発売日: 2008/10/31

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:新装版 天地人 上 天の巻

2009年に放送された同名のNHK大河ドラマの原作。上杉謙信亡き後の越後を、藩主上杉景勝とともに率いて戦国時代をを生き延びていった直江兼続を主人公とした小説です。

直江兼続といえば、「愛」の前立の兜、というイメージが強すぎて、逆にそれしか知らないというのが実際のところ。大河ドラマも観ていなかったし。今更感はありましたが、直江兼続を正面から採り上げた作品があまりないので、あらためて電子書籍化されたのをきっかけに読みました。

まだ上杉謙信存命のころに、その薫陶をうける若い兼続を描写する前半はから、景勝を担いで越後の後継争いを勝ち抜いていくあたりは結構面白かったと思います。中盤からは真田幸村や豊臣秀吉、石田三成など登場人物も広がって兼続大活躍といった漢字で盛り上がります。

会津に移るあたりから、関ヶ原に向かっての、いわゆる「直江状」のやりとりと関ヶ原の戦後処理については、なるほどこういうことだったのか、という思いはあれどなんとなく残念な展開。そんなこんなで盛り上がり様の無い大坂の陣で終わってしまうので、勉強にはなりましたが小説としてはクライマックスが「生き残り」になってしまうのはツライところです。いや、それは作者がどうこうではなくて歴史がそうなんですけどね。

読後、Amazonのレビューを見てあまりの低評価にビックリしましたが、判らなくもありません。私としては、直江兼続という人物を知りたかった、という点では満足できましたけど。

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2015-11-02

『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』0471


出版社: 東洋経済新報社

発売日: 2014/6/27

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる



CIAに10年在籍した著者が語る、ビジネスに応用できるCIAテクニック、という本。佐藤優手嶋龍一の対談本『賢者の戦略』でも紹介されていて、その書きっぷりが面白かったので読んでみたわけだが、本編よりも佐藤氏の前書きと解説のほうが端的にまとまっていてわかり易いという、なんというか本末転倒な結果になっているような。

もちろん、本編も面白いので読む価値はあります。CIAがどんな価値基準で動いていて、どんなことをさせられるのかという根本はちゃんと語られていますので、なるほどなーとは思うのですが、ビジネスへの応用というところが今一歩リアリティが薄い感じがします。

とはいえ、やはりビジネスにもインテリジェンスは必要だと思うし、もっと意識して能動的に動かなきゃいけないとは思いました。(本書ので言及される手法とは別かもしれませんが)


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2015-11-01

『ネットフリックスの時代』0470


出版社: 講談社

発売日: 2015/10/16

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Amazonリンク:ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える (講談社現代新書)



ネットフリックスに代表される定額制映像配信のビジネスモデルについての解説。dTVの成り立ちとか、テレビ局など既存コンテンツホルダーとの関係についての説明は興味深かった。

生活スタイルの中で、テレビの視聴がリアルタイムでおこなうものでは無くなってから久しいが、「見逃し配信」や旧作の配信が新作のプロモーションに重要になっているという状況には納得させられる。

確かに、リアルタイムで観たいと思うものはニュースとスポーツくらいで、あとは自由な時間にまとめて観たい。あとはデバイスとしてTVを使うか、PCモニターか、タブレットスマートフォンの違いでしかないふだろう。

あとは、課金というハードルだが、ネットフリックスなどの月額1000円程度というのはかなり魅力的だ。ウチもケーブル止めたし。とりあえず、無料お試し期間だけでも試してみるか.....


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2015-10-28

『ホルモー六景』0469


出版社: 角川書店

発売日: 2010/11/25

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:ホルモー六景 (角川文庫)



鴨川ホルモー』を読んだのにここに書いていなかった。のは、はるか昔で、話をすっかり忘れかけたこと、スピンオフ作品である本書を読んだ。

鴨川ホルモー』で主要な登場人物は陣営にまつわる後日談や裏話的な小品を集めた短編集と言う趣で、これは『鴨川ホルモー』を読んですぐにてw歩出すのが正解だったかもしれない。登場人物の立ち位地や人物像を正しく本編に繋げて読むことは、ついにできなかった。

実際、え、あっちの陣営のこの人と、こっちの陣営のこの人がこんなことに??」的な面白さがキモだと思うんですけど、時間が経ちすぎていて今ひとつ入り込めなかったのが残念。でも短編として十分面白かったのは作者の力量でしょう。

それに、この作者の作品はいつもそうですけど、京都の街を良く知っていたほうが楽しめる、はずですね。


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2015-07-25

『国境のない生き方: 私をつくった本と旅』0468

出版社: 小学館

発売日: 2015/4/1

購入書店:電子書籍ストアBookLive!

Amazonリンク:国境のない生き方: 私をつくった本と旅 (小学館新書)



この本は良い。

出てくるエピソードは、ヤマザキマリのエッセイ漫画などで読んだことのあるものばかりですが、「本と旅」という切り口がいいですね。

でも目が行くのはその規格外の行動力ですが。こじんまりと枠に収まっている人からは、アレだけの作品は生まれないですよね。

原点が「ニルスの不思議な旅」というのは意外な感じ。

海外で日本文学となると、やっぱり三島由紀夫安部公房なんだなあ、と納得。

ジャコモ・フォスカリ』の続きはどうなっているんでしょうね?

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2015-07-21

『燃えよ剣(上)(下)』0467


20年ぶりくらいの司馬遼太郎

50歳になったら時代小説を読みまくろう、とはるか昔に封印したのですがフライングで手を出してしまいました。

噂に違わぬ面白さです。ここのところ浅田次郎の新撰組ものを読んでいたので、あのクドさとは比べ物にならない読みやすさです。

もちろん、どちらが良いというのではなく、安心安定の司馬遼というところでしょうか?

本書の主人公は言わずと知れた土方歳三です。悪ガキから冷酷な新撰組副長、そして幕府軍を率いて函館まで戦い抜いていく姿を、ストイックに、しかも人間くさく描いていて、おそらくこの作品以降に描かれた土方像は相当影響を受けているんだろうなあ、と思わせるものでした。

対照的な描かれ方をする近藤勇沖田総司もそんな感じです。

やっぱり自分の中では、歴史小説時代小説の基準はこの方です。『壬生義士伝』も人物描写は素晴らしいと思うのですが、ストーリーと文体が...以後自粛。


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2015-07-11

『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』0466


ビットコイン関連の本を3冊読みましたが、この本がいちばんわかり易くてオススメです。

ビットコインはMr.GOXの破綻で一般的には「終わった」と思われているフシもありますが、Mr.GOXはひとつの交換所にすぎません。

ビットコインがもつインターネット時代を象徴するような構造、すなわち管理主体を持たないP2Pの流通形態、数学によるマイニング(採掘)という総量規制、ブロックチェーンによる匿名性と信用の両立、といったものがとても丁寧に解説されています。そして基本構造が「暗号」である、ということも本書で初めて理解しました。

通貨という観点から、現金やクレジットカード電子マネーなどとどう違うのかも基本的なところから説明されていてわかり易い!

著者が、西田氏、吉本氏という、ICT関連と経済の専門家2人の共著となっているため、技術と社会の両面でバランスがとれた内容になっていると感じました。

ビットコインについては、マネーの形態としてはとても面白く機会があれば使ってみたいと思いますが、いまだ使える場所にであったことがありません。日本においてはまだまだ限定的なのかと思います。最大のメリットは小額の国際送金に対して手数料が小さいことなので、海外からモノを買うときに使えるか気にしてみます。

とはいえ、現在のビットコインはまだどちらかというと投機対象のような印象があります。本書でも、使う分だけ交換して、資産としては持他ないことが推奨されています。同様の技術で成り立つ競合の暗号通貨との競争に負けて消え去ってしまうかもしれません。そのあたりもしっかりウオッチしていきたいと思います。

ちなみに、より一般論的な内容という意味では、野口悠紀雄仮想通貨革命---ビットコインは始まりにすぎない』もわかり易くてよかったです。


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2015-07-07

『悪童日記』0465

昔から知っていたけど手を出していなかった本。ようやく読みました。

出版は1986年だから比較的新しいですが、作者のアゴタ・クリストフ1935年生まれだから50歳を過ぎてからのデビュー作ということですね。

作品ははっきり書かれていませんがが、母国ハンガリーが舞台で、街の名前も登場人物の名前も特定されない書き方をしています。

その中で、戦火を逃れるかたちで祖母に預けられた双子の兄弟の、成長とともに綴られたノートに書いた文章という体裁をとっています。

そういう点で、フランス語原題"Le Grand Cahier"もいいですが、邦題の『悪童日記』は秀逸ですね。

確かに兄弟の「悪童」と呼ぶに相応しい行状が淡々と描かれているのですが、実際は「悪童」という言葉から連想するワルな感じではなくて、冷静に冷徹に、自分たちが生き延びるために必要な知識やスキルを「学習」しながら、それを実践する時には躊躇なくおこなう姿に、他の登場人物もあわせて、戦争がもたらしたインモラルな世界を非常に情緒を押さえた文章で描ききっているという感じがして、戦慄を覚えます。

世界中で読まれているのも納得です。

続編もあるようですが、読むかどうかはちょっと悩みます。映画は.....とりあえず観ないでおくことにします。


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2015-07-04

『尾根を渡る風 駐在刑事』0464

奥多摩の水根といえば昔、沢登りで楽しんだ水根沢の入口。何とも懐かしい場所が舞台の刑事モノでした。

自然が厳しい場所というわけでもなく、適度に東京に近いので、ひなびた田舎というわけでもない、奥多摩と言えばそんな印象で、実際小説も、そんな落ち着いた雰囲気の中で起る、小さな出来事をミステリー仕立てにした連作という感じです。

とはいえ殺伐としたところは全くないので、警察モノが苦手な私でも充分楽しめました。


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2015-02-28

『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』0463

福島第一原発の現場作業員として2度にわたって実務をおこなった漫画家による、とてもリアルな「いちえふ」の現実が描かれています。

著者の立場はナチュラルで、原発事故の収束作業は誰かがやらなければいけないという現実に自分で身を置いて、自分が体験し、見聞きしたことを(もちろん多方面への配慮をした上で)ストレートに描いているように思います。

そこには反原発とか東電擁護というような「立場」による目線はなく、あくまで福島の土地と人々に寄り添った視点からの描写になっていて、とても心に迫るものがあります。こういう題材に漫画の絵がどれだけの力を持ち得るか。思い知らされたように思います。

著者が体験したそれぞれのことが凄すぎて、引用すらできませんが、とにかく多重の下請け構造のなかで、労働条件としても賃金にしてもとても厳しい環境で働いている方々には敬意を覚えます。そしてやはり線量が高い場所での労働の現実の描写。規定の線量(20msv)を超えたらもう働きたくともその年度は働けない現実。そんななかでも少しづつ着実に収束に向かっての作業はすすんでいます。

ちょうど汚染水の海洋流出のニュースが流れてきて、なんという隠蔽体質と思いながらも、これまでと違った見方をしている自分に気付いたりします。この漫画は今こそ、読むべき作品だと思います。


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2015-02-14

『世界文学を読みほどく スタンダールからピンチョンまで』0462

読んでいない本の解説を読んでしまって、しまったと思いつつ、池澤さんの視点から世界文学をみるとこうなるのか!という驚きにみちた1冊でした。

本作は、京都大学での連続講義を書籍化したものということで、話し言葉でわかりやすくまとめられています。

俎上にあげられている作品は下記。

パルム僧院スタンダール

アンナ・カレーニナトルストイ

カラマーゾフの兄弟ドストエフスキー

魔の山トーマス・マン

ユリシーズジョイス

白鯨メルヴィル

『アブサロム・アブサロム!』フォークナー

ハックルベリ・フィンの冒険』トウェイン

百年の孤独ガルシアマルケス

『競売ナンバー49の叫び』ピンチョン

『静かな大地』池澤夏樹

正直言って、情けないほど読んでいないのですが、文芸評論的な視点ではなくて、あくまで創作者の視点で作品の構造や成り立ちを語っているのが面白いと思いました。

小説という形を読み解くと神話的な起源かゴシップ的な起源かその混合として発展してきて、『ユリシーズ』と『失われた時を求めて』でほぼ完成した、という話や、『白鯨』が百科事典的・ディレクトリ的な構造で記述された極めて近代的な作品、という解釈はとても新鮮でした。

フォークナーピンチョンガルシアマルケスなどは実際に読んでいないので何とも言えないのですが、非常に雑なくくり方をすると、総括の章ににあるように、もはや世界は断片化していて「大きな物語」で表現しきれる時代では無くなったということを、いろいろな世代や地域の物語を見ていく中で、文学が取り得る立場の変化として池澤さんは表明している、ということになろうかと思います。

その象徴として、カート・ヴォネガットが『スローターハウス5』に書いた「人生について知るべきことはすべて、フョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の中にある、と彼はいうのだった。そしてこう付け加えた、だけどもうそれだけじゃ足りないんだ」という言葉を、何度も引き合いに出しているのでしょう。

採り上げた作品の中で自作の『静かな大地』は、どちらかというと創作論として話しているのですが、最近読んだばかりだったので作者解説的に読めてとても得をした気分です、

カラマーゾフ積ん読◯年なんですが、やっぱり死ぬまでに読まないといけないですかね.....


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2015-02-01

『オリガ・モリソヴナの反語法』0461

ようやく電子書籍化されたので読みました。

ウワサ通りの素晴らしい作品。

米原さんの唯一の小説とのことですが、確かにこの世界はエッセイではなくフィクションでしか表現できないかも。

過去幾つものエッセイで描かれてきたプラハソビエト学校をスタートして、1930年代のモスクワや、過酷強制収容所生活の描写、そして伝説のダンス教師を巡る謎解きの鮮やかさが幾重にも作品の面白さを構成しています。

そして単に面白いだけではなく、なかなか窺い知ることのできない、スターリン時代以降のロシアの人々が直面した苦難が、虚実を取り混ぜる形で描かれていてとても興味をかき立てられます。

しかし、ロシア人の名前は覚えにくいというか馴染みがなさ過ぎて、読んでいていて人間関係が混乱してきますね。

これは再読必須かも。

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2015-01-23

『本棚にもルールがある』0460

HONZを主催している成毛さんの本棚論。論というよりもノウハウの開陳というべきか。

本棚を(1)新鮮な本棚、(2)メインの本棚、(3)タワーの本棚の3つで管理してそれぞれの構成や役割を解説していますが、なるほど、と思う反面、そんなの勝手にやればいいじゃん、と思わずにもいられない。本棚の作りや棚のサイズまで決められてもねえ。

でも、意外に自分も成毛さんのルールに近い管理をしていたりして。

「新鮮な本棚」とメインのジャンル別の本棚については、私は電子書籍アプリの本棚でほぼ実践しています。

リアルな本棚は、いまは部屋の奥深く眠っているので新陳代謝が止まってしまっているのが残念。

HONZのセレクションといい、成毛さん関連は最近はいちばん読書の参考になっています。


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2015-01-19

『電力と国家』0459

電力の鬼・松永安左エ門の評伝の様でもあるが、電力を国家管理しようと画策する官僚軍部と戦った人々を礼参しているのが本書の特徴。

確かに戦前戦中戦後にかけては、ファシズム的なものと戦う企業人の矜持を福沢諭吉の精神と結びつけて語るのは正しいのかもしれませんが、今となってはこれらのことが全て裏目に出ているようにも思えます。いや、裏返した人がいるのでしょう。

本書では、そこのところを小林一三平岩外四ロックオンしています。

とにかく、いまの電力会社の形態にどういう経緯でたどり着いているのか、そこに絡んだ松永やGHQ吉田茂などさまざまな戦後の組織や個人の思惑と行動、結末がよくわかった。


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2015-01-18

『1949年の大東亜共栄圏―自主防衛への終わらざる戦い―』0458

占領下で再軍備をもくろむ旧日本軍幹部や参謀たちが、中国国民党GHQと絡みながらどう暗躍し、その目論みが潰えていったのか?

今日まで繋がる台湾との関係や、自衛隊の成り立ちの根源がわかる1冊です。

敗戦後残留した日本軍中国国民党と共同で共産党と戦う義勇軍となっていたというのは知らなかった。

大本営参謀は戦後何と戦ったのか』の続編というか再話という感じで、『児玉誉士夫 巨魁の昭和史』とも関係が深い。

有馬先生、安定の面白さです。


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