プライベートとパブリック 2004.10.24

透ける空間

建築家西澤文隆氏は「透ける」という言葉で日本建築のよさを語りました。それはプライベートとパブリックをいかに色分けするかにもかかわっています。西澤氏はこの点に関して次のように言っています。「適当に遮りながら完全には遮らず空気を流動させる透けた空間こそ、わが祖先が風土に根ざして獲得した快適な住まい方であった」ここには、日本人の生活の知恵に基づく良質な建築空間が、プライバシーを確保しながらうまく成立していたことを改めて思い出させてくれる視点がありますね。
西澤氏の考え方には、本来何も遮らないのがよい。ただ光に満ちた自然の中に浸っているのが理想だという姿勢があります。従って、仕切りは必要なプライバシーを確保するためにその度合いに応じてするべきで、厳密に囲い込んで汲々とするような西洋流を批判しています。そして、日本の伝統的な建物に見られる光や空気を通し、視線を通さない考えぬかれた仕掛けを、熱意をこめて多くの実例で紹介しています。
プライベートとパブリックは本来相反する事柄です。これをうまく共存させ、さらに風土に適応した建物のあり方を追求した結果生み出された、「透ける」という言葉で表せる良質な空間が日本建築にあるのですね。タブラ・ラサとしての自然、そこにプライバシーを確保するための装置を置いてスペースを昇華することができた時、「透けた」空間が現れるわけです。