図面と模型 2004.12.04

Las Meninas

この絵はベラスケスの「ラス・メニーナス」(侍女たち)です。1656年、スペインで描かれました。プラド美術館を代表する作品ですね。この絵画はご存知のように、興味深いトリックに満ちています。それは絵を見る立場と絵に描かれる立場が逆転するかのようなトリックです。
絵の中央にはマルガリータ姫ととりまきの侍女たちが描かれていますが、右側にパレットを持ってこちらを見ている画家がいます。横に大きなタブローが立て掛けられているので、絵を描いている所のようです。つまり、この絵を見ている我々の立場が、見られている立場だったことがわかりますね。そしてよく見ると、画面中央の奥に鏡があって、そこに写っているのはフェリペ4世と王妃とされる人物です。したがって画家がこちらを見ていることと合わせて考えると、我々は、フェリペ4世と王妃の立場にいることが判明します。そしてモデルとして、周囲から見られている。
このように、この絵を見ている我々は、同時にモデルとして絵に描かれている。その立場は王と王妃。鑑賞しているはずが、モデルになって観察されていた。これが「ラス・メニーナス」のトリックです。
フランスの哲学者フーコーは名著「言葉と物」のなかで「ラス・メニーナス」を取り上げ、表象について論じています。「見ることと見られること」という単純な構図から深い考察を行い、18世紀末に起きた「表象システム」の変貌を指摘しています。これが古典主義時代の終焉と、「人間」の誕生という大転換でした。
18世紀末フランスの幻視の建築家たちは、大自然という無限に広がってゆくイメージを、フーコー的にいえば有限な「人間」がどのようにしてとらえ見えるようにできるか。こんな観点であのようなスケールオーバー建築を夢想しました。
建築の分野では、表象ということで言えば、建築家の頭にあるまだかたちにならないイメージから、スケッチ、模型、図面を経て、実際に敷地に建設された建築物まで、それぞれの段階で「見ることと見られること」の意味はどうなっているのでしょうか。

過去の一覧

<その9> 建築のエッセンス再考


75 地

74 構造

73壁

72 テクノロジーと大自然

71 本当の外

70 様式の真理

69 エネルギーの塊

68 垂直線

67 未来に向かう意識

66 建築様式の時代性

65 様式の起源

64 命

63 最初の意志

62 時の経過

61 自然と大自然

60 図面と模型

59 睡眠

58 構築と重力

57 部分と全体

56 建物の住居表示とパブリックの意識

55 開口部

54 建物の重さ

53 湿度こそ決定的

52 スペースをわける床と壁

51 本と建築

50 距離と時間

49 人間のおもい

48 風土

47 祭り

46 意識の中の時間

45 空間とは

44 柱

43 様式の誕生

42 様式の寿命

41 自然発生したわけじゃない

40 豊かな空間

39 構築すること

38 「大自然」と都市

37 社会的サインとしての外観

36 すべて固有解

35 ものと形式

34 あらがうのが建築

33 水平と垂直

32 集まって住む

31 最後に残るのは寝る所

30 大自然

29 自重との戦い

28 寸法

27 象徴としての建築

26 建物の支配

25 メディアにのった「建築」

24 建築様式

23 太陽

22 一期一会の建物つくり

21 自分の居場所

20 ヒューマンスケール

19 プライベートとパブリック

18 まちなみ

17 床

16 芸術と工学の両立

15 「死」

14 記憶

13 窓

12 オリエンテーション

11 屋根

10 飛翔する時間

09 「生」

08 ゲニウス・ロキ

07 水平線

06 幾何学

05 用強美

04 抵抗の形式

03 人工と自然

02 動かない

01 住居