時の経過 2004.12.06

Soane’s ruin

建築家ジョン・ソーンが「時の経過」に対して特別な思い入れがあったことをもの語るドローイングです。描いたのは彼のドラフトマンだったジョセフ・ガンディー。1798年頃のものです。
ジョン・ソーンは英国の建築家ですね。これはイングランド銀行のロトンダ部分です。ソーンはこの設計を1795年に行っていますから、設計したばかりの建物を廃墟として描き出したのは自虐的というかロマンティックというか、珍しいアイディアです。未来は廃墟。ソーンが「時の経過」に対して特別な思い入れを持っていたと考えられるのはこんな点からです。
さて、ソーンが活躍した18世紀末のこの時期、英国はフランスとナポレオン戦争を戦っていました。そしてイングランド銀行は英国の国家財政を支える重要な施設でした。ジョン・ソーンは建築界の第一人者としてこの重要施設の設計をまかされていたのです。こんなバックグランドを考えると、自分が設計した建築を廃墟として描くソーンの感性はやはり非常に特殊だったことがわかってきますね。国の大仕事なのに個人的な趣味に走っている。そんな風に解釈できてしまいます。
ソーンは自宅に膨大な量のアンティークコレクションを所有していました。エジプトやギリシアで集めたらしいレリーフや彫刻、油絵や神殿の模型、さらに頭蓋骨や宝石など雑多な収集品がコレクションされていました。中にはがらくた同然の古いオブジェもあります。こうしたマニアックな趣味はソーンの性格を知るよい材料ですね。「時の経過」が刻み込まれたアンティークコレクション。もしかするとソーンはこれらを設計資料として扱っていたのかも知れません。現在、このコレクションは一般に公開されています。彼の自宅だったアパートを美術館に改造し足の踏み場もないようなぎゅうづめの展示がされています。ミラーのトリックなど美術館の内部は興味深い空間になっています。