本と建築 2004.11.25

Four Book

「建築四書」の1ページです。自作の図面とその解説が書かれています。著者はアンドレア・パッラーディオ。16世紀イタリアの建築家ですね。内容は盛りだくさんです。「四書」というように四部構成で、「一書」は総論として5つのオーダーの解説をはじめ、材料や寸法、比例、装飾の取り扱い方などの記述。「二書」は住宅について「三書」は公共建築について「四書」は神殿建築について、それぞれ自分自身の作品と古代建築の実例を用いての解説となっています。「建築四書」全体として、設計や工事に関する専門的で詳細な説明、公共建築や宗教建築とは何かを論じた建築理論、パンテオンなどの古代建築物についての測量図や解説、そして自分自身の作品の図版とそれに対する解説などが一冊にまとめられたパッラーディオ渾身の大作ですね。
パッラーディオには一つの野心があったと伝えられています。それは建築家という職能を上流社会で世の中を動かしている人々に認めさせることでした。それには大工や石工よりランクが上の、教養ある文化人であることを示す必要があったのです。彼は「建築四書」を出版することによって建築家である自分の能力を世に示すことができました。当時の偉大な建築家は画家や彫刻家でもあって、その面の評価から芸術家であることができましたが、パッラーディオは石工出身で貴族と会話できるような教養も駆出しの頃は持っていなかったのです。
「建築四書」の特徴と言われている点が幾つかあります。一つは記述の仕方ですね。たんたんと箇条書きで文を書いています。そしてウィトルウィウスの著作をくり返し引用していること。簡潔に主張し、その裏付けを述べるというスタイルです。もう一つは本に載せた古代建築の図版についてです。彼自身が現地を訪れ実測調査したうえで、図面を描き起こした精巧なものです。当時においては考古学的見地からも見劣りしない非常にすぐれたものだったと言われています。図版にはローマのパンテオンなどが含まれています。最後に一つ。それは自作の図版についてです。実際には建設されていない部分も図面に描かれているのが大きな特徴です。「建築四書」に載せられた自作は、したがって理想の計画案です。これは自分の意図をより明確に述べるための大胆な試みです。しかし、後年の研究者はこれが逆にパッラーディオ本来の特徴である現場の状況に現実的に対処する実務家としての側面を覆い隠してしまったと指摘していますね。
この本が1570年に出版されて以来、本の前半部分である「一書」が最も多くの人に読まれました。簡便で最も信頼できる古典建築の実用書として、あるいは手引書としてベストセラーだったのですね。
「建築四書」は故郷のイタリアから離れ、時間と空間を超えて世界中に広がりました。アルプス山脈を超えてフランスやイギリスへ渡り、さらに大西洋を渡ってアメリカへ渡って行きました。同時に16世紀から21世紀の現代にまでその価値を失わず参照され続けているのです。