「非常線の女」

kenboutei2004-07-31

DVDで、小津の「非常線の女」を観る。昭和8年の作品。もちろんサイレント。冒頭、横縞のセーターを着た田中絹代が何ともチャーミング。ところが、彼女はギャングの娼婦で、自分のことをズベ公と言ってしまうような女の役。全然イメージと違うのがかえって面白かった。三井秀男(弘次)の学生ボクサーは、猿顔で、ナイナイの岡村隆史に似ていた。その姉役の水久保澄子という女優が、とても可愛く、絵に描いたような薄倖の女性役にぴったりだった。目の下のふくらみ加減が往年の麻丘めぐみを思い出させた。後期の小津からは想像できない、無国籍風映画。全盛期の日活映画の原点とも言えそう。そういえば、以前京橋のフィルムセンターで、似たような無国籍風のつくりの「争闘」(「闘争」だったかも)という奇妙な映画を観たことがあった。あれも多分この映画と同じ頃の作品だったと思う。当時の流行だったのかも。手元にある「小津安二郎映画読本」という生誕90年の時に出版された雑誌の解説では、「小津安二郎、本来のアパートものである。」とあった。「アパートもの」って何だ?