二月テアトル・花形歌舞伎 通し

kenboutei2011-02-20

亀治郎染五郎による花形歌舞伎。
第一部
『お染の七役』
猿之助バージョンは初めて観るが、序幕の第一場「柳町妙見」で、七役全てを見せるというのが、原作以上の猿之助の工夫らしい。しかし、亀治郎が受け継いで演じる序幕の七役は、何だか精彩に欠け、どの役で出て来ても、わっと盛り上がらない。演出自体が、ただ早替わりを見せるだけという構造的限界もあるのだろうが、おそらくそれでも猿之助の時は客が沸いたということなら、それは役者自身の魅力の問題なのであろうと推測する。
亀治郎は、最初のお染にして、既に疲れた感じの表情で、華やかな娘役の雰囲気がなかった。顔がベテランの歌女之丞に似ているなあと、つい思ってしまったぐらいで、いかに「カメ」つながりだとしても、それではまずいだろう。
しかし、「莨屋」から二幕目の「油屋」に続く、土手のお六は、なかなか良い。染五郎の鬼門の喜兵衛とのバランスも良く、この二人での「浜松屋」なども、さぞ面白いだろうと思った。(日替わりで弁天と南郷を競演してほしい。)
門之助の久作は、実直そうな人柄が出ている。秀調の油屋太郎七、友右衛門の山家屋清兵衛。
大詰の道行は、亀鶴と笑也が船頭と女猿回しで付き合う。
第二部
女殺油地獄
染五郎の与兵衛、亀治郎のお吉。
上方の芝居を、(彦三郎の父親役を含めて)東京の役者が演じる違和感が、最後までつきまとう。関東以北出身の自分ですら、そう感じてしまうのは、おそらく上方役者である秀太郎の母親役が際立ってうまかったからだろう。秀太郎がいなければ、今日の芝居は、とても近松の作品とは思えなかった。
まあこの芝居は、無軌道な若者の殺人を描いている現代性に視点が行きがちであるから、上方の匂いに拘るのは少数派なのかもしれないが、やはりこのキャスティングでは、芝居のリアリティとしての限界はあったと思う。(但し、脇役による序幕一場の「野崎参り」の情景は、多少の雰囲気があって良かった。)
染五郎の与兵衛は、仁左衛門的愛嬌を意識し過ぎ。もっと自分の色を出してもよかったと思う。(障子を破って顔を突き出すのは面白かったが。)
亀治郎のお吉、受け身の役となると、無難過ぎて、とたんに魅力が薄れる。
歌舞伎では珍しく、殺しの場の後日譚が出る。「逮夜」は文楽で観たことがあるが、その前の「北の新地」は全く初めて観る。染五郎の与兵衛が、会場から出て来て、客をいじるという展開にはびっくりした。殺しの場の後だからだろうが、チャリ場のように明るい演出になっている。しかし、あの陰惨な場の後に、お気楽に遊び惚ける与兵衛を見るのは、かなり違和感があった。客サービスにしても、後味が悪い。