平成中村座 12月 昼・夜

kenboutei2011-12-18

昼の部
昼の部は「菅原」の半通しだが、無人の座組で配役も一貫しない試演会のような芝居で、どうも落ち着かなかった。
『車引』勘太郎の梅王、菊之助の桜丸、彌十郎の松王。
勘太郎の梅王は、カドカドの動きがキッパリしていて、とても気持ちの良い松王。元禄見得や石投げの見得で身体を精一杯低く沈め、力感溢れる。ただ、隈取りや声のトーンが、どことなく右近に似ているのが、(良い悪いというより)気になって仕方がなかった。
菊之助の桜丸は、案外平凡。この座組の中での違和感もあった。
彌十郎の松王は、柄は似合うのかもしれないが、やはりニンではない。出て来た時から、迫力に乏しく、座頭格の大きさもなく、ただの牛飼い舎人であった。
亀蔵が時平を務める。顔の奇怪さは、時平にぴったりではあるが、やはりニンではなかった。
虎之介の杉王丸は、よくできました。
『賀の祝』梅王の勘太郎、桜丸の菊之助は変わらないが、松王が亀蔵となり、彌十郎が白太夫に回る。
菊之助の桜丸、自分の手で暖簾を分けて入ってきたのにはびっくり。居酒屋を覗くのでもあるまいし。
亀蔵の松王。実は亀蔵の容貌は、錦絵に描かれる九代目にも似た立派な歌舞伎顔だと思っているので、秘かに期待していたのだが、彌十郎の松王同様、スケール感なく、面白くなかった。口をへの字に曲げているだけでは、荒事にはならない。
七之助の八重、松也の千代、新吾の春。七之助の八重はともかく、松也、新吾の女形は、見るに忍びない。
ウケ狙いが外れた天地会みたいな一幕だった。
寺子屋勘三郎の松王丸、菊之助の源蔵、七之助の戸浪、扇雀の千代。ようやく、まともな芝居になった感じ。
勘三郎の松王丸は、自然体。先月より体調も良さそうであった。
菊之助が源蔵。驚きのキャスティングだが、本人が希望していたとか。六代目のような兼ねる役者を目指しているのだろうか。先月の勝奴といい、立役姿も悪くはないけれど、個人的には祖父梅幸のような女形に進んで欲しいのだが。まあそれはともかく、菊之助の源蔵は、新鮮ではあった。台詞もしっかり、床の糸にもついていて、初役としてはまずまず。ただし花道の出で、ちょっと躓き、そこで寺子の一人を犠牲にできないかと思い付くような演出は、桜丸の暖簾と同様、余計なことだと思う。
扇雀の千代が、まずまず良い出来で、勘三郎とのバランスも良かった。
七之助の戸浪は神妙。
亀蔵の玄蕃がようやく本領発揮。
 
夜の部
『葛の葉』扇雀の葛の葉。扇雀の葛の葉を観るのは今日が初めてか。二役早替わりは、こういう小屋では良く受ける。しかし、芝居の中味自体は、不調。これが異種混交譚であることを想起させるような魅力に乏しく、ただの世話女房であった。松也の保名に、父親の面影あり。子役が可愛かった。
『関の扉』勘太郎の関兵衛、菊之助の墨染、七之助の小町姫、扇雀の宗貞。
これは、面白かった。今日の中では昼夜通じて一番。特に、勘太郎の関兵衛は、踊りにキレがあって、形も良い。「きやぼうすどん」のところなど、さらりと流すことなく、きっちりとした当て振りとなっていて、こんなにわかりやすい表現で見せてくれたのは、初めてのことだった。黒主になってからも、精一杯大きく、好感が持てた。
対する菊之助の墨染も艶やか。うす暗い照明の下、薄墨のように浮かび上がってくる菊之助の姿は、まさに水墨画、淡麗な美しさ。やはり菊之助は、真女形として進んで欲しいものだ。勘太郎菊之助が二人揃って花道に行くところなどは、これを改めて大劇場で観てみたいと思った。
七之助の小町姫は、花道での所作が良かった。
扇雀の宗貞も、品と風格があって、良い宗貞であった。
『松浦の太鼓』勘三郎の松浦候、菊之助の大高源吾、彌十郎の其角、七之助のお縫。
勘三郎の松浦候、いつも通り、グフフと笑い、バカ、バカと吐き捨てる。しかし、このいつも通りであったことが、勘三郎回復の証しとして、今日は嬉しかった。
菊之助の大高源吾は、スッキリし過ぎ。艱難辛苦の浪士には見えなかった。
彌十郎の其角が本役。体格は立派だが、やはり松王丸の人ではないのだ。
「玄関先」の途中から、何だか寒くなってきた。クーラーでも入れたのかと訝しく思っていると、舞台奥が開き、またスカイツリーを見せる演出だった。夜の中で点滅する胴体のライトしか見えない。雪でも降っていれば、舞台風景と連動するのだが、そうでなければただ寒いだけだった。(雪が降れば降ったでこれまた寒いが。)
来月もやるんだろうな。