見聞読考録

進化生態学を志す研究者のブログ。

樹木,北海道...

北海道に分布する樹木について,いくつか調べたいことがあり,ネット空間を彷徨うことにしたのだが...


樹木,と検索した時点で表示された「樹木希林」の予測変換に目が止まる.
その下には「樹木希林 がん」の予測も.


樹木希林さん,癌なのか.知らなかった.
全身に転移しているということを,樹木希林さん自身が 2013 年に公表されていた.


テレビを持っていないせいか,世間の事情にとんと疎い生活を何年も送っている.そもそも芸能人がどうだとかスキャンダルがなんだとか,そういうものにまるで関心がないせいで,流行りというものに着いていけたためしがない.有名人だかなんだか知らないが,他人の私生活を喜々として放送しているのにはほとほと嫌気がさしている.そんなものどうだって良いではないか.誰と誰が付き合っているとか,誰と誰が不倫したとか,いったいどうしてあんなものに興味が湧くのだろう.さっぱり理解できない.ほっといてやれよ,迷惑だろう.


というわけで,遅ればせながらとても驚いたのだが,樹木希林さんは個人的に好きな女優さんである.樹木希林さんが出演する作品を一つも知らないで,好きとか嫌いとかいうのもおこがましいかもしれないが,僕にとって樹木希林さんといえば NHK スペシャル「脳と心」のプレゼンターなのである.あれだけで,十分なのである.


幼稚園生から小学生にかけて,僕が定期的に観るテレビ番組といえば,TBS の「どうぶつ奇想天外!」と NHK の「生き物地球紀行」の二つだけだった.毎週月曜日と土曜日の夜 8:00 がとても楽しみで,メモ帳と鉛筆を手に居間に正座をして,数分前から今か今かとワクワクしながら待っていた.とおそらく多くの人が幼少期に観たであろう「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」みたいなモノには一切興味関心を示さず,「なんとかレンジャー」とか「なんとかライダー」みたいな戦隊モノに至っては本気で怖がり,それに感化されて大仰なベルトをつけ「必殺!なんとかアタック!」みたいなことを叫びながらおもちゃの剣を振り回し切りつけてくる近所の子供にはいつも泣かされてばかりいた.小学生のとき流行っていた「ドラゴンボール Z」やら,えー,他には例えも思いつかないが,そういうものに至っては,それはもう大のつくほど嫌いであった.いつぞや友人の家で見せられたアニメ(おそらく,劇場版)では,金色の髪を逆立てたそれはそれは強そうなゴクウとベジータが,それでも敵にボッコボコに殴られ蹴られ,岩に叩きつけられただけでなくなんとその岩にめり込んでしまい,苦しそうに叫びながら血を吐いてもなお,何度も何度も果敢に挑みその度にぶっ飛ばされて怪我をするという強烈に痛そうな描写を前に,開始早々から友人宅の柱に隠れ,挙句 10 分と持たずに泣きべそをかきながら帰宅したことを今でもよく覚えている.「ヒュージョン!ハー!」などと叫びながら,なにやら奇っ怪な動きを繰り返す友人達に退屈し,「こんなことも知らねーのー!」と揶揄されいじめられることなど日常茶飯事だった.


話が逸れた.そう,それから,NHK スペシャルである.上述の「どうぶつ奇想天外!」と「生き物地球紀行」の他に,先の「脳と心」,それから何よりも一番好きだった「生命 46 億年はるかな旅」のビデオテープ(注釈:DVD が普及する以前の昔に使われていた記録媒体である)を擦り切れるまで観まくった(注釈:ビデオテープというものは DVD と違って耐久性が低く,何度も再生すると摩耗して画質が損なわれてしまう.ちなみにビデオテープというものにはチャプター再生という機能が備わっていないので,観たい場面だけを再生するということもできないのだが,「生命 46 億年はるかな旅」については僕は,どの場面がどの章のどのくらいの時間帯にあるかを全て把握していた).特に「生命 46 億年はるかな旅」の第二章,カンブリア紀の大爆発を扱った「進化の不思議な大爆発」は,それこそまともに映る場面がなくなるほど,観て観て観まくった.あとはジブリの「となりのトトロ」くらいか.これでほぼ全てであったと思う.これを小学生いっぱいずっとヘビーローテーションして,僕は育った.


そういうわけで,樹木希林さんはその頃からの僕のヒーローなのである.「どうぶつ奇想天外!」で世界最大の現生爬虫類であるコモドオオトカゲに挑んだ千石正一さん,「脳と心」で目の覚めるような美しいトンボの絵を描いた養老孟司さん,「生命 46 億年はるかな旅」でオパビニアを手のひらに泳がせた毛利衛さん,膨大な化石の保管庫から歴史的大発見の要になった化石を取り出したハリー・ウィッチントン博士,顕微鏡を覗きながら精密なスケッチを書き上げたコンウェイ・モリス博士に並ぶくらいの,それからネコバスにも並ぶくらいの,僕のヒーローなのである.


久々に調べてみると,すごいものを見つけた.
宝島社の新聞広告である.



以下,引用.

人は必ず死ぬというのに。
長生きを叶える技術ばかりが進歩して
なんとまあ死ににくい時代になったことでしょう。
死を疎むことなく、死を焦ることもなく。
ひとつひとつの欲を手放して、
身じまいをしていきたいと思うのです。
人は死ねば宇宙の塵芥。せめて美しく輝く塵になりたい。
それが、私の最後の欲なのです。


樹木希林さんはやっぱりすごかった.
今でもあなたは僕のヒーローです.


見聞読考録 2016/10/23