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Cerebral secreta: 某科学史家の冒言録 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2012-02-18

[]David Kaiser, How the Hippies Saved Physics: science, Counterculture, and the Quantum Revival, New York and London: W. W. Norton & Company, 2011.

How the Hippies Saved Physics: Science, Counterculture, and the Quantum Revival

How the Hippies Saved Physics: Science, Counterculture, and the Quantum Revival

ディビッド・カイザーによる一般向け科学史の本。カイザーは現在MITの教授で、現代物理学史が専門。とくに、ファインマン・ダイアグラムについての本で知られている。ピーター・ギャリソンのところで私より数年前に学位を取っている。

この本は、専門的な科学史の本というよりは、幅広い読者が楽しめるように書かれた本である(と言っても、注やビブリオグラフィーはかなりしっかりしている)。

タイトルから、だいたいの内容は推測できるだろう。量子力学の解釈をめぐる問題は、物理学の中ではすぐに周縁的な扱いをされるようになってしまったわけだが、70年代にバークレーのFundamental Fysiks Group*1を中心として、カウンター・カルチャーにつよく影響された人たちによって取り上げられた。日本でもたとえばフリッチョ・カプラの本が翻訳され、この一端はいわゆる「ニューサイエンス」として喧伝された時期があったのを覚えている人もいるだろう。この中ではとくに量子力学における非局所性が強調され、しばしばそれが一種の神秘主義、それも東洋的神秘主義や、心霊現象、超常現象と結びつけられたりした。ところが、その議論の中から、量子情報理論が発展し、とくに量子暗号技術の出発点となった。

とくにかく面白い本である。70年代のヒッピーの文化と物理学の関係については、もちろん、すでに多くの人が知っていたことではあるが、これだけきちんと歴史的に記述したものはなかった。そして、何よりも、興味深いのは、そのような科学的な規範からはおそらく大幅に逸脱していたような活動が、結果として、きわめて重要な成果を生みだしてしまったという歴史的な皮肉である。

一応、量子力学の話題であり、物理学に踏み込んだ話も出てこないわけではないのだが、分かりやすく書かれているので、ある程度の科学ファンなら、読むのにそれほど困難はないだろう。物理学者や、物理学の学生ならば、まず楽しく読めることは保証できる。

カバーの裏に、Ken AlderとPeter Galisonの賞賛の言葉が書かれているが、カイザー自身が、一般向けの科学史の本というものをどう考えるかということを、AlderのThe Measure of All Thingsと、GalisonのEisntein's Clocks, Poincare's Mapsから学んだという意味のことを言っていたのを思い出す。そして、この本もそれらと並ぶ位置を占めるのではないかと思う。この本は是非とも翻訳を希望したい(Galisonの本も)。

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