2012-01-23
ボットロ落とし
エッセイ | |
これ、僕は実に好きな作品集で、何度となく読み返したのだが、その中の「夜光虫」という一篇にボットロ落としに関する記述が出てくる。
ボットロ落としというのは要約すると「六角形円柱状の木製の缶詰のようなものをピラミッド上に積み上げ、ボールを投げてそれを崩す。崩した数によって景品が貰える。また、ボットロの崩れるガラガラという音が心地よい」という。射的と同じような避暑地などの遊びの一種であるようだ。
この「夜光虫」でのボットロ落としに関わるくだりが僕は殊の外好きで、見たことのないボットロ落としというものにずっと憧れを抱いていた。
*
昨年、妻と中国に旅行に行った。
ちょうどクリスマスの時期で、夜の町は大層な人出であった。
歩道から溢れ出した人が四車線の道路を塞ぎ、町の中心部は歩行者天国と化していた。
そして、その人波の仲に強引に場所を取って、ケバブや林檎*1やトウモロコシや雑貨を売る個人商人が商いをはじめる。
僕も妻もこの人ごみには閉口したが、その中で、なんと長年の憧れであったボットロ落としを見いだすことができた。
木製ではなく空き缶を用いてはいるが、紛れもなくそれはボットロ落としであった。
僕は興奮して、人ごみの中で「夜光虫」のボットロ落としのくだりがいかに素晴らしいか、そして自分がいかにそれに憧れていたかをまくしたてた。
妻は黙って聞いていたが、残念ながら、それは僕の積年の思いに感じ入っていたわけではなかった。
彼女の謂いて曰く。
「今でも熱海に行けば普通にあるよ」
*
熱海のボットロ落としはどうも、宗吉少年が遊んだのと同じ木製らしい。
是非、今年の夏は熱海に行ってボットロ落としに挑戦してみようと思う次第である。
それにしても、中国と日本で同じような遊びが行われていたわけだが、これはどちらが起源に近いのだろうか。
また、ボットロ落としの習慣はどのように分布しているのであるか。
もしも詳しい方がいらしたら、ご教授願いたし。
- 作者: 北杜夫
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