2018年にしてまさかの新刊「合本 異国迷路のクロワーゼ memoire」。

kenkyukan2018-01-11


 先日、あの「異国迷路のクロワーゼ」のコミックス新刊である「合本 異国迷路のクロワーゼ memoire」が発売されました。2巻が2009年に出てから8年以上。まさかここに来てあの「クロワーゼ」のコミックスが出てくるとは思いませんでした。かつて2巻まで出たコミックスの内容すべてに加えて、未収録のエピソードと追加ページを加えた完全版・愛蔵版とも言える貴重な一冊。作者の急逝という衝撃のニュースから1年。一周忌に合わせて出たこのコミックスは、かつての多くのファンにとって待ち望んだ一冊ではないかと思います。
 「異国迷路のクロワーゼ」は、2006年に「ドラゴンエイジPure」という当時富士見書房から出ていた季刊誌(のち隔月刊に移行)で始まった連載です。作者は武田日向。のちに同誌の休刊に伴って2009年より月刊ドラゴンエイジへと移籍されました。しかし、同年にコミックス2巻が出た後から休載が続くようになり、長い間まったく連載が中断した状態になっていました。作者の武田さんの体調不良が理由だったようですが、2017年になってその武田さんの急逝が告知され、これで完全に未完のままで連載が途絶える形となってしまいました。

 作者の武田さんにとっては「やえかのカルテ」に次ぐ2番目の連載で、連載当初から前作以上の非常な好評を得て、作者の代表作となりました。同じく武田さんの仕事としてこちらも大人気だったライトノベルGOSICK -ゴシック-」の挿絵イラストと合わせて、当時は熱心なファンはとても多かったと思います。彼女の繊細で美しいイラストに魅せられた人は数知れない。

 その「クロワーゼ」の内容ですが、19世紀のフランス・パリを舞台に、日本から来た少女・湯音(ゆね)とフランスで看板店を営む青年・クロードを中心に異国での異文化交流の姿を描いた作品と言えるでしょうか。突然祖父によって日本から連れてこられた黒髪の少女の姿に驚き、異国人である彼女の習慣に戸惑い時に反発しつつも、少しずつ彼女と交流を重ねて心を通じ合っていく。その切なくも愛おしいストーリーには本気で泣かされました。

 加えて、とにかく武田さんの作画が素晴らしいの一言に尽きました。先に「GOSICK」の挿絵イラストで知られていた武田さんですが、マンガでもその美麗なイラストそのままの作画のようで驚きました。パリのアーケード街の街並みの描写や、室内の調度品に代表される細部の描き込みがあまりに素晴らしい。カラーイラストもまさに絶品で、今でもコミックスの表紙が思い出されます。
 もちろんキャラクターの描写も素晴らしくて、とりわけ黒髪和服少女・湯音のかわいさにはほんとに参りました(笑)。この武田さんの絵に影響を受けた人は本当に多いようで、とりわけ深く愛された作家だったと思います。

 当初の連載が季刊の雑誌だったこともあり、連載のペースはそれほど速くなかったのですが、それでも毎回の連載を楽しみに待っていた作品で、ようやくコミックスが出たときにはとてもうれしかったものです。しかしそれも2巻までの刊行で途絶えて連載は中断、ついに作者の逝去で未完の作品となりました。それゆえに今回の新刊は心の底からうれしい。しかも6月には武田さんの画集まで出るとのこと。2018年にしてこの展開は、やはり彼女が多くの人に愛されたひとつの証だと思います。