「Roid-ロイド-」

kenkyukan2018-07-26

 先日、百合姫で半年ほど前から連載が始まっていた「Roid-ロイド-」のコミックス1巻が発売されました。百合姫の連載の中では珍しいアンドロイドもののSFとして、あるいは作者のしろし先生の活動を以前から知っていたことがあって、連載が始まった時から注目していましたがやはり期待通りの作品でした。
 アンドロイドが完全に一般化し、人とロボットが”共生”する世界。学校のロボ研で活動している双上唯は、後輩で天才AI開発者とされる一宮玲那と共にロボット制作に取り組む日々。しかし、唯が作ったロボットはあまりにも制御が複雑すぎてAIの製作が困難と突っぱねられます。とっておきの手段として、制作者である唯の意識をロボットに転送、もしくは意識を複製(コピー)しようと意気込みますが、それは危険で違法な行為だとやはり後輩からたしなめられます。
 しかし、不慮のトラブルでその玲那がさらわれ、玲那を助けるために違法だとされるコピーをいきなり実行。これで人間の唯とアンドロイドの唯、ふたりの唯が同時に存在することになりました。

 のちにアンドロイドは杏那と名づけられますが、人間だった頃のかつての記憶は不確かであり、自分が果たして唯なのかと考える。コピー元の唯の方も、自分よりも明らかに性能的に優れ自分に出来ない能力を持つ杏那を見て複雑な思いに捕らわれます。こうした人間とその複製であるロボットという複雑な関係、その葛藤がダイレクトに描かれていることにまず惹かれました。一方で、普段の日常は、もとはまったく同じとされる人格でありながら、意外なほど気兼ねない関係で共に暮らしている描写も面白いです。

 加えて、ロボットと人間の関係をさらに根源的に問うエピソードもあり、ロボットが人間に危害を加えられないようなセーフティがかけられている状態で、ゆえにロボットに八つ当たりをする人が絶えないという負の側面も描かれます。そんな中で何らかの理由でロボットが暴走して人を傷つける事件が発生。その状況で悪質な人間を自業自得として見殺しにしてもいいのか、それともやはり暴走するロボットを破壊するのが正しいのか、ひどく迷い逡巡するシーンも描かれていて、ここは非常に考えさせられました。

 こうしたロボットのアイデンティティを巡るSF的なテーマは、過去の作品でも幾度となく見られたものかもしれませんが、完全に自分の複製が実現してしまったシチュエーションにおける人間関係をダイレクトに描く内容は、やはりひどく惹きつけられるものがありました。
 百合姫連載の百合作品として考えると、百合的な要素(恋愛的な百合要素)はさほど多くないような気もしますが(コミックスあとがきによると「恋愛ではないけど関係性的には百合」)、こういうのも十分ありではないかと思いました。新しいタイプの百合作品としても期待したいですね。